第231話 理想の村とわんちゃん

「レターユ」


「あー・・・はい、どうもー」


 そう、再開したある人とは3日程前に会った羊魔族のレターユだった。意外な所で突然再開してしまったので、俺もレターユも何と言っていいのか解らなくなっていると、その間にルキが入ってくれた。


「レータユ、この前言っていたのってこの子達でしょ?偶々出会ったから村に来ないか誘ってみたよー?」


「え?あ、うん。・・・うん?いや、姉さん何で・・・はぁ・・・まぁいいか」


「そうそう、イイって事だよ。直接話してみて悪い子達じゃなさそうってのも解ったしさ。だよね?一狼?」


「え?あ、おう。俺は悪い魔物じゃないぞ、うん」


「あー・・・そう・・・ですね?まぁ兎に角、いらっしゃい一狼さん、それにエペシュさんとごぶ蔵さん」


 ルキが入ってくれたおかげで俺とレターユはどうにか普通な感じになれたのだが、ルキはどうやら俺達の事をあらかじめ知っていたらしい。それなのにあんな感じに飄々としていたとは、どうやら彼女は中々つかめない性格の持ち主の様だ。

 そしてそれとは真逆っぽい、真面目そうな性格のレターユがある事に気付き尋ねて来る。


「あれ?今日はニアさんは居ないんですか?」


 レターユはあの時のメンバーに1人足りないと疑問に思ったらしい。

 しかしだ、俺の○タンド状態になっているニアが居ない筈もなく、彼女はレターユの真横にいつの間にか座っていた。


「ん?妾ならここに居るのじゃ」


「うひゃっ!?」


 そしてレターユへと声を掛けたのだが、いきなり現れたニアにレターユは驚き、腰を抜かしていた。


「まぁ、いきなり現れるとビビるよな」


「うんうん。ボクもビックリー」


 腰を抜かしているレターユに頷いていると、ルキが俺の横へ来て全然吃驚していなさそうな声を出しながらそんな事を言って来た。

 俺は『レターユからニアの存在も聞いていたんだろうな』と考えたのだが、それにしても最初いなかったのは不思議に思わなかったのかと思い尋ねてみた。


「吃驚してみる様には見えないんだが?っていうか、ニアの事もレターユから聞いてたのに、居ないのを不思議に思わなかったのか?」


「いや、多分いるなとは感じてたから」


「・・・そうか」


 ハッキリとは解らなかったらしいが、ルキはニアがいる事を感じていたらしい。俺でもニアが消えている場合は全く感知する事が出来ないのにそれを感じれたという事は、やはりルキはかなりの強者ということだろう。


「っていうか、レターユとの再会のインパクトがデカすぎてスルーしそうになっていたんだが・・・ルキってレターユの姉さんなのか?」


 そう考えた時、ふと俺はある事が気になったので聞いてみた。この質問の答えが肯定するモノならレターユより恐らく強いという事になるので、俺の疑問は確信へと変わってくるのだが・・・


「ん?本当の姉妹ではないけど・・・まぁお姉ちゃんかな?っていうか、ボクからニジミ出てる姉みで解らなかった?」


「そんなモノ一切感じんのだが・・・。っていうか、普通に子供だと思ってたわ」


「えっ!?やだなーもー!そんなに若く見えちゃったー?ま、若いんだけどね?うんうん」


 このルキの答えで俺は確信した。あの鑑定結果はもしかしたらスキルの所為かなとも思っていたのだが、このムーブからして間違いなくルキは強者の様だ。


(でも流石にニアよりは強くなさそうだな)


 ルキはニアの事を『何となく居る』と感じる程度だと言った。これはつまりニアの事を看破できていない証拠だ。

 ということはだ、ルキはニアよりは強くないという事が解る。


(まぁニアの隠れ身が凄いとか、ルキが感知が苦手だとかあるかも知れないがな。まぁ、俺にとってはルキも手が出せない強者っぽいな)


 ルキと戦うだとかは無いかもしれないが、俺は彼女の事をそう評価し、心の片隅に『要警戒』として置いておく。

 そしてそれが終わると、いい加減腰を抜かしたままのレターユを助けに行く事にした。


「おーい大丈夫か~?」


「は・・・はひ・・・」


「よいしょっと・・・ふむ・・・」


 俺はレターユへと近づき、鼻先を彼女の鳩尾辺りに潜りこませて掬い上げ、立たせた。そうなってくると、鎧を外したラフな服装だった彼女の豊かな胸が俺の鼻へと押し付けられた。

 俺はその感触を密かに楽しみつつ、彼女の足がまともになるまで支え続けた。


「あ・・・ありがとう一狼さん。もう大丈夫ですから」


「ああ。ありがとな」


 俺も助かった?ため礼を言い、レターユから離れた。

 そして村の入口で大分時間を使ってしまったが、そろそろ本題へと入らせてもらう事にした。


「んで、俺達が今日来たのはルキに買い物でもしていかないか?って誘われたからなんだ」


「あ、そうなんですね」


「あ、そうだったね!いこいこ!こっちだよー!」


 俺が本題を切り出すとそれを聞いて思い出したのか、ルキがこっちこっちと言いながら歩き始めた。

 ごぶ蔵とエペシュも『わーい』と言いながら付いて行ってしまったため、俺はレターユに『じゃ、また』とだけ言い、ルキ達の後を追って行った。


 村行く人に挨拶をしながら歩く事10分ほど、俺達は1件の大きな建物へと辿り着いた。


「ここだよー」


 ここが目的の雑貨屋らしくルキが扉を開けて中へと入っていったので、俺達もそれに続き建物の中へ。するとそこは雑貨屋というだけあり、食べ物から武器、服、椅子なんかが置いてあったりした。

 そしてそんな雑多とした店内には、1人の男がカウンターに座っていた。


「らっしゃい。お、ルキか」


「うん。こんにちはガイン」


 ガインと呼ばれた男は店内に入って来た俺達を見て挨拶をしてきた。彼はずんぐりとしつつもガッチリとした体形、そして豊かな髭を持っていたので恐らくは『ドワーフ』だろう。


(レターユが色々な種族が居るって言ってたが、本当に色々いるんだな)


 彼を見ても思ったのだが、この村にはレターユの様な羊魔族以外にも様々な種族がいる様に見えた。それは目の前のドワーフだったり、マサシみたいな馬の顔を持った種族、ミノタウロスみたいな種族や額に目がある種族なんかもいたりした。

 はたまた人間みたいな種族もいたので、ここは本当に色んな種族が暮らしている事が解った。


(良い所だな)


 俺はこの村の率直な感想を思い浮かべた。なんせ1つの種族だけでなく様々な種族が仲良く暮らしているのだ。同じ様にゴブリンやコボルト達と暮らしている俺としてはそう思って当然だろう。


(いずれ俺達もどこかに定住できそうな場所作れたらなー。今って正直、遊牧民とあんま変わらんし)


 今の生活に不満がある訳ではないが、ゆっくり生活できる場所があるのは良い事だ。なので俺はこの村の様な場所を何処かに作り、ゆくゆくはそこを拠点として、俺やレベルを上げる者だけをレモン空間を使い遠征へ・・・なんてことを妄想した。


「いいな・・・」


「え?・・・ならこの置き物買う?」


「ん?・・・あ、いや、いらんわ」


「そう」


 妄想していると口から言葉がぽろっと漏れたのだが、変な邪神像みたいなモノを見ていたエペシュに誤解を与えてしまった様だった。

 というか、俺が妄想している間にエペシュやごぶ蔵は店の中を見て回っていたので、俺も妄想している場合ではないと思い店の中を見て回る事にした。


「本当に色々あるな」


「村の人達が自分で作ったモノを売りに来たりするからねー。ここら辺なんかはあのガインが作ったモノだよー」


 ソコソコに広い建物内をウロウロしていると、近くにいたルキがそんな事を言って来たのでそちらを見ると、包丁やフライパン、剣や槍なんかが置いてあった。推定ドワーフであるガインが作ったという事なので鉄製品なのだろう。


「つか、フライパンとか鍋はいいかも。足らなかった筈だからなぁ」


 俺はごぶ蔵を呼び、鉄製調理器具の事を尋ねてみた。するとやはり足らないらしいので、俺達はそれらも買う事にした。

 そして一通り店内を見て回り、各自が必要そうなモノを選んだところで清算する事にした。


 しかしだ、ここに来て俺は気づく。


「あ・・・金なんて持ってないじゃん」


 そう、買い物をするにも俺達はお金なんて持っていなかった。エペシュが多少は持っているかも知れないが、それにしたって通貨が違うだろうしもう残っていないかもしれない。

 なので残念だが、俺はキラキラした目をしているエペシュとごぶ蔵に悲しい事実を伝えようとした。


「あ、物々交換でもいけるよ。村の人もそうしてる事もあるし」


「え?そうなん?」


「うん」


 が、俺がそれを言う前にルキが良い事を教えてくれた。どうやら村でお金も使ってはいるが、それはほしいモノがない時に代わりにもらう手形みたいに使っているらしく、基本は村の人も物々交換をしているのだそうだ。因みに、レターユみたいに仕事をしている人は物を用意する時間がないので、給金としてお金を貰っているみたいだ。


「あ、道中狩って来た奴らを出してもいいかも。というか、ボクも夕飯の材料買ってくから、それを使おうよ」


「了解だ」


 物々交換がイケると解ったのでこちらからは何を出そうかなと迷っていると、ルキが道中狩って来た魔物を出そうと提案して来た。俺としてもあれらはルキにも所有権があると思ったのでそれを了承し、ガインへと狩って来た魔物と選んだ商品を物々交換してほしいと伝えた。


「魔物か、解った。が、ルキの分は足りるとして、オメェ等の分だと結構いるぞ?」


「ふむ・・・ここいらで取れる奴以外でもよかったりするか?」


「ん?そりゃ勿論いいが・・・?」


 俺達が買おうとしている物は結構量があった為、狩って来た魔物だけでは足りないとの事だった。なので俺はレモン空間から備蓄してあった物を放出する事にした。


「これとかはどうだ?」


「お、収納持ちか。んーそうだな、これだと・・・」


 俺としてもどんなものにどんな価値がつくのか解らなかった為、適当にモノを取り出しガインへと尋ねていく。

 そうして少し長めの交渉の末、無事取引は完了する事となった。


「ありがとなガイン」


「おう。毎度」


 取引が終了した事で買い物は終了、ミッションコンプリートだ。なので俺は買った物をレモン空間へと仕舞いつつ、買い物が終わった事をエペシュ達に伝えようとすると、彼女らは掲示板の様なモノの前で何やら喋っていた。

 俺はその掲示板が気になった事もあり、そこへと近づきつつ声を掛けた。


「おーい、買い物終わったぞー」


「あ、うん」


「ごぶごぶ」


「おつかれー」


「何喋ってたんだ?」


「ああ、これだよこれ。村のお知らせとかが書いてある掲示板なんだけどね」


「ふむ・・・」


 どうやらそれは本当に掲示板だったらしく、『○○がほしい』とか『○日に○○の収穫があります。お手伝い募集中』等の事が書いてあった。雑貨屋に置いてあるだけあり、『ある商品が欲しい』とか『ある商品が欲しい方は言ってください』みたいなものが多かったが、その中にはお知らせというか・・・『それ、守備隊の所にあるべきものじゃね?』みたいなものがあった。

 恐らく彼女らが見ていたのはこれだったのだろうが、それというのがこれだった。



『急募:戦える人 報酬:後で決めます ・・・5日後にナババ村が戦争を吹っかけて来る可能性が高いので、戦える人を募集しています。一緒に村を守ろう!』



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ルキさん、まさかロリババア枠?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ蔵が 炉理になってくれます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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