第230話 第2村人とわんちゃん
ごぶ蔵の言葉を聞いた俺は驚き、急いでごぶ蔵が見ている方向を見た。
「あ・・・見つかっちゃった」
するとそこには何と・・・魔族と思われる少女がいた。
「い・・・何時の間に・・・!っていうか、『索敵』にも反応なかったぞ!?」
「私は何かいるなとは思ってた」
「ごぶ」
何時の間にか居た少女に気付いていなかったのは俺だけだったらしく、エペシュとごぶ蔵は気づいていた様だ。というか、気づいていたのならもっと早く教えてほしかったのだが。
「で、ごぶはそこの人にこの辺でダンジョンを見たことがないか聞いたらいいと思うごぶ」
「あ、うん。でもごぶ蔵」
「ごぶ?」
「先ずはそれよりも、俺達が危険な魔物じゃないって教えて上げ様な?」
ごぶ蔵はマイペースに話を続け出したのだが、俺はそれよりも怯えて涙目になりながら震えている少女へと俺達の事を話してあげるのが先決だと言った。折角の中央大陸第2村人だ、友好的にしておいて損はないだろう。
「あーっと・・・ごほん」
俺は少女の方へと体を向けて自分達は人を襲う様な魔物じゃないという事を説明しようとしたのだが、頭の中にふとあるフレーズが浮かんできた。
(ふむ・・・そうだな・・・)
知ってる人は知っている懐かしき伝説のあのフレーズ、それはまさに今使うべきものだと俺は直感したので、僭越ながら拝借する事にした。
そう、あの伝説のフレーズ・・・『ボク 悪い魔物じゃないよ!』だ。
(まさか俺がこれを素で言える日がこようとは・・・!)
ある有名なゲームから始まり、凡庸性もある事からネタなんかにも使われることがあるこの伝説的フレーズだが、俺はまさか自分が素でこの言葉を使えることにちょっぴりだが感動していた。
まぁでもそれはそうだろう。なんせ自分が魔物になる何てことが起こり得る可能性など普通ならば0なのに、今それが現実に起こり得て言えているのだから。
(よし・・・それでは・・・)
感動するのはいいのだが怯える少女を放置しておくのは駄目だろう。という事で俺は早速言わせてもらう事にした。
「ごほん・・・わんわん!ボク 悪い魔物じゃないよ!」
「え?魔物に悪いも良いもないんじゃ?そもそも善悪なんて個々人の考え次第もあるじゃないかな?」
「・・・なんかめっちゃ予想と違う哲学者みたいな答えが返ってきたでござる。というかお前、意外と余裕だな?」
俺は会心の台詞を言えたと思っていたのだが、少女には一切通じず皮肉めいた言葉を返されてしまった。
俺は少し悲しい気持ちになってしまったが、少女が意外と大丈夫そうだと解ったので普通に話してみる事にした。
「まぁあれよ、俺達は積極的に人を襲うタイプの魔物じゃないから安心してくれってことだ。んで、良かったらちょっと聞きたい事もあるからお喋りしないか?」
「あ、うん。いいよー」
少女は先程まで震えていたのがウソの様にケロッとした感じで返してきた。
これは恐らく先程までのは演技だったのだろうが、そうなるとこの少女が強者である可能性があるという事だ。
(魔族だと見た目は当てにならないかもしれないな)
そんな事を思いつつ、俺は軽く喋りかける振りをしながら『鑑定』を掛けてみた。
名前:???
種族:???
年齢:??
レベル:??
str:???
vit:???
agi:???
dex:???
int:???
luk:???
スキル:???
ユニークスキル:???
称号:???
(んん?)
『鑑定』を掛けてみたはいいのだが、その少女のステータスは全てが不明だった。普通ならばレベル差で確認は出来ない事があっても名前くらいは見えるモノなのだが、少女に置いてはそれすらも見えなかったのだ。
俺は少女に対する警戒度を更に上げ、敵対しない様に言葉を選びながら会話をする事にした。
「あー、先ず自己紹介からかな。俺は一狼だ。んでこっちが・・・」
「エペシュ」
「ごぶ蔵ごぶ!」
「ボクはルキだよー」
自己紹介した後は、俺達の事を軽くだけ教えておく。すると彼女の方も近くの村に住んでる事や、狩りに出て来ていた事等を教えてくれた。
そして両者共に自己紹介的な事は終わったので、俺は次にダンジョンのことを聞く事にした。
「ルキは狩りしてるって事はこの辺りには詳しいってことだよな?」
「ぼちぼち?」
「じゃあ、この辺りでダンジョンって有ったりするか?あ、あっちにある虫が出て来る奴以外で」
「んー・・・そうだねー・・・」
ルキは少し考えた後辺りを見回し、一本の枝を拾って来た。そしてその枝を使い地面に簡単な図を書いてくれた。
「えーっと、今いるのがこことして、一狼が今さっき言ったダンジョンがこことするよ?」
「おう」
「んでボクが知ってるのはここら辺に1個とここら辺に2個、後は・・・つい最近ここにも見つけたかな」
「お・・・おう。ありがとな」
「どういたしましてー」
ルキは俺の要望通りに知っているダンジョンの位置を教えてくれたのだが、そこには俺達のダンジョンも含まれていた。
もし彼女がダンジョンを攻略する事を楽しみにしている様な人物であるのならばかなり危険なので、情けない話だが俺は命乞い・・・ではないのだが、このダンジョンは俺達の住処だから何もしないでくれと頼んでおく。
「あーっと・・・ここのダンジョンは俺達が住んでる場所だから、出来れば何もしないでくれると助かる」
「え?あー・・・うん。大丈夫大丈夫、ボクはか弱い女の子だから、そんな事はしたくても出来ないからさ、うん」
ルキはキョロキョロしていて明らかに嘘っぽかったのだが、ダンジョンに興味があるという風ではなかったので少しホッとした。更に『ボクの村の者でも、明らかに有害なダンジョンでもない限りは手を出さないと思うよ』とも言ってくれたので、これは『そちらが何もしないならこちらも何もしない』という事なのだろう。
「ありがとなルキ」
その話が終わるともう話す事も無かったので、俺はここいらでお暇しようと降ろしていた腰を上げ、礼を告げた。
するとルキもしゃがんでいた体勢から立ち上がり、返答して来たのだが・・・
「どういたしましてー。あ、そうだ、もしよかったらこれからウチの村寄ってく?一応1軒だけだけどお店あるから、何かほしかったら買えるよ?」
「・・・え?」
なんとルキは自分の村へ来ないかと誘ってくれた。
俺はまさかそんな事を言って来ると思っていなかったので驚き、固まってしまった。だが直ぐに何か裏があるのではないかと思い至り、そのまま思考を巡らせる事にした。
(もしかして罠?ここで出会ったのも実は待ち伏せしていたとか?俺達のダンジョンを知っていたから有りえない話でも・・・・)
「行くごぶ!」
・・・のだが、色々考えている途中にごぶ蔵が勝手に答えてしまった。
「うん!歓迎するよ!こっちこっちー」
するとルキはニッコリと笑顔になり、ごぶ蔵の手を取って歩き出してしまった。
「ごぶごぶー」
「楽しみ」
「お・・・っちょ!・・・あー・・・まぁいいか」
更にエペシュもルキとごぶ蔵に続き、スタスタと歩き始めてしまう。
俺は止めようとしたが思い直し、そのまま続く事にした。何故ならルキに俺達を害する気があるのならばとっくにやっているだろうし、話している感じだと俺達を騙そうと言う様な不自然な感じも無かったからだ。・・・まぁ俺が節穴な可能性もあるのだが。
兎に角だ、ルキからは嫌な感じを受けなかったので、俺はそのままルキの後を付いて行く事にした。
「ボクはねー、ゴップルの実が好きなんだー。あ、おやつに乾燥させたの持ってるから、食べる?」
「食べるごぶ!」
「ほしい!」
ルキやごぶ蔵、エペシュは楽しく喋りながら歩き、俺は彼女らの後を付いて行った。偶に魔物も出てはきたが、ルキが『あ、あっちに魔物がいる』と察知し、エペシュが『任せて』と言って弓で仕留めてしまうため、俺は獲物収納機としてしか活躍する事は無かった。・・・まぁルキに『あ、凄く助かる!』と言われたが。
「収納系スキルって、そこまで持ってる人居ないんだよねー。ウチの村でも3人だけだし。しかもそこまでは入らないんだよねー」
「そうなのか」
そう言う雑談も交えつつ歩いたり、『あ、歩いてると日が暮れそう』と言われて走ったりして3時間ほど経った頃、俺達はルキが住む村へと辿り着いた。
「あ、あそこがボクの住む村だよ」
ルキは木で出来た壁と門が見えると、そこに居た門番に向かって『おーい、お客さんだよー』と言いながら手を振った。
すると少し警戒した風だった門番はその声を聴き安全だと判断したのか警戒を解き、『おかえりー』と声を返してきた。
俺達はそのままルキと一緒に門へと近づくと、門番の人に挨拶だけして村の中へと入ったのだが、その中である人と再会する事となった。
「あ、お帰り姉さん。それと・・・あ」
「あ」
その人とは・・・
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」「まぁあの人だよね」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると ごぶ蔵が 家に来てくれます。
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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