第224話 とある転生者達とわんちゃん

 魔法でうっすらとだけ照らされている暗い道を行く俺とごぶ助。


「・・・」


「ごぶごぶ・・・」


 そんな俺の意識は、何故か少し前から霧がかかる様な不明瞭さがあり、ぼぉ~っとしてしまっていた。

 だが不思議とそれに違和感は感じなかった。


「・・・」


 唯・・・唯少しだけ寂しく・・・そして悔しいと言う思いは何処か感じている・・・そんなが気がしていた。


「・・・ぁ」


「・・・ごぶ?」


「・・・いや、マサシとチャーリーは大丈夫かなって」


 だからだろうか、ポツリと俺の中にマサシとチャーリーの事が思い浮かんだ。


「・・・ごぶ」


「大丈夫なのじゃ。だからお主らは急ぎ進むのじゃ」


 しかし、ニアによってその疑問は溶ける様に解消し、俺達は再び進む。

 更にニアに急げと言われたからだろうか、先程までより俺達の移動スピードは上がり、気が付くとグラスランドドライアドの領域の境目・・・森の切れる位置まで辿り着いていた。


「・・・あれ?何時の間にこんなところまで?」


「ごぶ?ごぶ。でもまだ油断できないからさっさと帰るごぶ。マサシとチャーリーもそう言っていた・・・ごぶ?」


「そう・・・だな?まぁ・・・とりあえずさっさと帰ろうか。じゃないと奴に追いつかれる」


「ごぶ」


 何時辿り着いたかは不思議には思ったが、俺達はそんな事よりも早くダンジョンに帰らなくてはと外へと向かった。


「さぁ・・・さっさと離れて・・・ん?」


「ごぶ?あ、人間ごぶ」


 しかし森から外へと出た時、俺達の目に人間の姿が映る。しかもだ、その距離は案外と近く、俺達の姿は人間側からも見えたみたいで・・・


「・・・っ!?魔物だっ!用心しろっ!カマエル様が逃したのかもしれん!」


「・・・っ!」


「「「はいっ!」」」


 人間達は即座に戦闘態勢に入った。

 そうなるとぼんやりしていた意識が急に明瞭になった気がして、俺はごぶ助へと慌てて指示を飛ばす。


【ごぶ助!対人間フォーメーション1だ!】


【ごぶ!】


 ごぶ助も先程までとは違いキリッとしていた様で、俺が指示を飛ばすと即座に反応し動いて見せた。


「ごぶぶぶぶ!」


「・・・っ!エルフかっ!?左から来るぞっ!」


 俺が指示した対人間フォーメーション1は基本的に俺とごぶ助が別れて戦う戦法だ。動きとしては先ず、ごぶ助がやや右側へと突っ込み・・・


「アオォォォオオオン!!」


「「「・・・っ!?!?」」」


 続いて俺が『雄たけび』を上げた後に左側から突っ込むという感じだ。


「・・・っく!魔物不在が小癪な!慌てず対処しろっ!」


 この対人間フォーメーションは名前の通り人間に対する戦法だ。

 というのもだ、人間は魔物と違い大体が複数で動いているし、その数の利を生かそうと頭を使って来る。なのでそれを崩そうとすると、魔物相手の単純な力押しではどうしても戦いにくい。


【ごぶ助!魔法を使うから敵後方より攻めろっ!】


【ごぶっ!】


 だからこの様に俺とごぶ助が別れて動き、敵をかく乱しながら戦うのだ。


「なんだこいつらっ!?」


「変異種かっ!?妙な動きをっ!」


「や・・・やばいぞっ!どうするっ!?」


 因みに効果といえばだ、俺達を普通の魔物と侮っている相手にはこの様に効果が抜群となる。

 だがしかしだ、相手も頭を使って来るので、早くしなければ対処されてしまう危険性がある。


 なので・・・


【この中で指示を出している大将格は・・・あいつだな!ごぶ助っ!】


 一番厄介だと思われる、チームのリーダーを落とす事にした。


【他に厄介そうなのは・・・】


 更に他にも厄介そうな奴が居ると困るので、『鑑定』を使いさらりと人間達をチェックしていく。

 すると・・・


【・・・あいつもか?・・・って、んん!?】



 ・

 ・

 ・



 ≪ある転生者視点≫


 超越者が森の中へと入って行った後、僕達も大隊長の元、突入準備を進めていた。


「抜かりはないな!?カマエル様が先に入って行ったが何が起こるか解らんからな!些細な抜けも見逃すなよ!」


「「「点検ヨシ!行けます!」」」


「よし!では森へと近づく!隊列を乱すなよ!」


 そうして準備も終わり、いざ森の中へという所で・・・


「・・・っ!?魔物だっ!用心しろっ!カマエル様が逃したのかもしれん!」


「「「はいっ!」」」


 僕達の前にそいつらは現れた。


(なんだ・・・?エルフとウルフか?・・・エルフは初めて見たけど、魔物と一緒に行動するのか?)


 そいつらは一見すると小柄なエルフとちょっと変わったウルフだったのだが、それは直ぐに間違いだと気づいた。


「ごぶぶぶぶ!」


「・・・っ!エルフかっ!?左から来るぞっ!」


 最初は、『何処かで聞いた通り、エルフは好戦的な種族だな』なんて、そんな事を考えながら迎撃態勢をとっていたのだが・・・


「アオォォォオオオン!!」


「「「・・・っ!?!?」」」


「・・・っく!魔物不在が小癪な!慌てず対処しろっ!」


(なんだっこれっ!?うっ・・・体がすくむっっ!)


 丁度僕達がエルフの攻撃を受けるというタイミングで、ウルフの方が威圧感がある雄たけびをあげて出鼻をくじいて来たのだ。

 更に・・・


「なんだこいつらっ!?」


「変異種かっ!?妙な動きをっ!」


 普通ではしない様な動きをし、僕達の隊列を見事に乱してきたのだ。

 ここまで来るとこいつらは普通のエルフとウルフではなく、誰かが叫んだように『変異種』またはそれに準ずるものだという事が理解できた。


(早く対応しなきゃ!でもどうやって・・・あ)


 しかし理解したからといってどう対応していいのかが解らなかったし、それに・・・気づくのが遅すぎた。


「ぐぁあっ!」


「「「大隊長!?」」」


 僕はエルフの方の動きを目で追っていたのだが、奴は動きの質をそれまでと変えたかと思うと、一気に大隊長へと襲い掛かったのだ。


(不味い!大隊長が崩れると指揮がバラバラにっ!これは出し惜しみしている場合じゃ・・・!)


 この流れのまま戦闘が進むとこちらの被害は物凄いものになるだろう。ならば少々後が面倒くさくなりそうだが、ユニークスキルを出して流れを変えようと僕は決心した。


「晴天に座・・・うわぁぁぁあっ!?」


「っぎゃぁぁぁああっ!!」


「「「うわぁぁぁあっ!!」」」


 だがそれも判断が遅かった様で、詠唱を始めたと同時位に僕は吹き飛ばされてしまい、更に吹き飛ばされたのは僕だけでは無かった様で、複数人の悲鳴が聞こえて来た。


「っぐ・・・一体・・・う・・・うぁあ!」


 そうやって吹き飛ばされはしたものの意識は失わなかったので、僕は体が痛むのを無視し上体を起こして周りを確認したのだが・・・辺りは悲惨な状態だった。


「う・・・うぅ・・・」


「っく・・・ぁ・・・」


「あ・・・が・・・」


「・・・」


 僕の近くに居た者達は血だらけになりながら呻いていたのだ。しかも誰だかは確認できないが、明らかにもう息をしていないと解る様な者までいる始末だ。


「・・・っは!?ミラ!?ミラは!?」


 ここで僕は可愛い幼馴染の存在を思い出し、辺りを見回した。彼女は僕の近くにいた筈なので彼女も吹き飛ばされている可能性が高い。


(あ・・・あれ・・・あれはミラじゃないよねっ!?)


 最低な考えだろうが、僕は他のチームのよく知らない人より自分の幼馴染の方が大事だったのでそんな事を考えてしまう。そうやって神様仏様と祈りながら辺りを見回していると・・・


「あっ!」


 誰かにしっかりと抱えられているミラを見つける事が出来た。出来たのだが・・・


「・・・っっっ!!!ミラァァァアア!」


「ごぶ?」


 ミラを抱えていたのは僕達に敵対していたエルフだった。

 僕は叫びながら立ち上がり、ミラを返せとエルフに詰め寄ろうとした。


「行くぞ!しっかりと落とさない様に!んで盾にする様にするんだ!」


「ごぶ?」


「ガウ!ガガウガウ!ガウガァァウガァ!」


「ごぶ!」


 しかし悪辣なるエルフとウルフはミラを盾にすると宣言し、そして本当にその通りにして戦いの場から去って行った。

 一応ユニークスキルを使い攻撃する事は出来るだろうが、そうしてしまうと意識を失った状態のミラに当たってしまう恐れがあるので使う事も出来ず、僕は唯々奴らと彼女が去って行くのを見ていく事しか出来なかった。


「くっ・・・くっそぉぉおお!皆!大変だっ!1人攫われ・・・っく・・・」


 なので僕は周りの人の力を借りて奴らの魔の手からミラを奪還しようと考えたのだが、周りの人の状態を見て口を噤んでしまう。・・・壊滅状態だったのだ。



「クッ・・・クソォォォッ!ミラッ!ミラァァアッ!」



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ど・・・どういう展開なんだってばよ!?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 一狼が 人攫い犬になります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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