第223話 残る者とワンチャン

『俺は残るから先にイケ』、そう言って来たマサシにポカンとしてしまい固まってしまったが、その後直ぐに『遊んでいるのか?』と思い怒鳴った。


【今はふざけてる場合でもねぇ!さっさと来い!】


 確かにこんな場面だと言いたくなるようなセリフだが、今はそんな事を言って遊んでいる場合ではないのだ。

 だから俺はサッサと来いとマサシを急かしたのだが、マサシは至極真面目な顔で俺に返答をしてきた。


【ぁ?つか、ふざけてこんな事は言わねっつーの】


【は?・・・あ】


 その返答を聞き、コイツは本気で言っているんだと俺は理解してしまった。

 だがしかしだ、おふざけでなく本気で言っているのならそれはそれで問題だ。


【馬鹿野郎!マサシもあいつのヤバさは感じたんだろう!?なら逃げるべきだ!】


【ああ、そうかもしれねぇな。敵対してるチームに追われたりだとか、ポリに追われたりなんかとはレベルが違うだろうからよ。けどな、だからこそ残るべきだと・・・俺はそう考えたんだよ】


【いやいや、なんでだよ!?】


【ぁ?んなのこのままだと全員が逃げれるって保証がねぇからだろ?だから俺とチャーリーがケツを持つつってんだよ】


【マサシ・・・チャーリー・・・】


 マサシとチャーリーは俺とごぶ助だけでも逃げられる可能性が少しでも上がるならと、そういう考えの元に残ると言ってきた様だ。

 だがしかし、俺等とマサシ達は出会って未だ数か月の関係だ。なのに一体何故そこまでしてくれるのだろう?俺は時間は無いと解りつつも尋ねてみた。


【マサシ、何でそこまでしてくれるんだ?仲間には誘ったが、正直俺達はまだそこまで深い仲でもないだろ?】


【ぁ?あ~・・・何かと思えば、んなこと聞くんかよ?】


【ああ】


【約束したじゃねぇか?あいつを倒したら仲間になってやるってよ】


【そ・・・そんなことでか!?】


【ぁ?十分だろ?】


 何とマサシは、前に交わしたたったあれだけの約束で俺達の事をもう仲間だと認定してくれたのだと言う。最初は変な奴だと思ったり、途中でもイカレてるなんて思ったが・・・どうやらこいつは本当にいかれちまってる様だ。


【マ・・・マサシ・・・】


 まぁ俺も、そんなマサシの義理のアツさにいかれちまったみたいだが。



【それにだ、惚れた女を守るためだ。ここで体はらなきゃ男じゃねぇだろ?】


【・・・いや、俺は男だが?】


【クハハハハッ!こまけぇこと気にスンなよ!】


【いや、気にするが?】



 いや、義理の厚さにいかれちまってるとは言ったが変な意味ではないのが?


【ま、っつーことでよ、さっさとイケや】


 と、何時もの馬鹿話テンションになりかけた時、マサシがもう話は終わりだとばかりの感じで打ち切り、俺達に行けと言って来た。

 しかしそんな事を言われてもすんなり『解った』とは言えず、何とかマサシも連れて行けないかと俺は考えてしまう。

 それを見てマサシは軽くため息をつき、誰もいないはずの周辺へと声を掛け始めると・・・


「姉御からも言ってやってほしいんすけど?どっかで見てるんっすよね?」


「うむ」


それにニアが答えた。

そして姿も現したニアにマサシが続ける。


「つかマジで見てるだけなんすね姉御」


「うむ、あくまで妾のは暇つぶしじゃからの」


「クハハッ!そりゃねぇっすよ姉御!」


 以前にニアは『傍観者だ』とは伝えてあり、マサシは今それを実感した筈なのに何故か笑い始め、ひとしきり笑ったかと思った後、マサシはいきなり頭を下げ始めた。


「姉御!無理を承知で頼んます!こいつらに行く様言ってやってほしいんす!」


「ふむ?」


 いきなり頭を下げられ言われた事に、ニアはあまり興味が無さそうだった。これは多分無理だろうと思われたのだが・・・


「勿論タダでとは言わねぇっす!後であのカマ野郎との戦いがどんなものだったかを面白おかしく語るんで、それで手を打ってほしいんす!文字通りの死力を尽くすんで、ちょっとばかしは面白くなると思うんす!どうかおねがいっしゃっす!」


「ほぉ・・・ふむ・・・まぁよいじゃろう」


 何かが琴線に触れたのか、ニアはマサシの頼みを了承してしまった。

 だがしかし、ニアに頼まれたからと言って俺がすんなり動くわけもない。そこをどうするのかと思っていると、ニアが此方をジッと見つめながら喋って来た。


「一狼、そしてごぶ助。こ奴らの事を真に思うならばさっさと行くのじゃ。それにこ奴は後で妾にどんな戦いをしたのかを語ると言う。だから大丈夫なのじゃ」


「・・・はい。大丈夫。だから行く。了解した」


「・・・ごぶ。大丈夫ごぶ。だから行くごぶ。了解したごぶ」


 後になって気づくのだが、恐らくこの時何かのスキルを使っていたのだろう。しかし俺達は全く気付かずに、『説得されてマサシにこの場を託して行く』ということが決定事項だと思い込んでしまった。


「・・・あざっす姉御」


「うむ。まぁ雄が本気で頼む、最後の頼みじゃからの。イイ雌としては汲んでやらねばな」


「・・・っす」


「最後に何か伝言もあれば聞いてやるのじゃが?なにかあるかや?」


「あ~・・・そうっすね・・・いつかリベンジかましてくれや、とでも言っといてほしいっすわ。いずれ最強になるんなら余裕だろう?とも」


「うむ。では頑張るのじゃ」


「っす」


 俺とごぶ助の意識が薄っすらしている間にこの様な会話がなされ、それが終わると俺達はニアに導かれる様に地下の道へと進み始めた。

 そしてその場には・・・マサシとチャーリーのみが残る事となった。


 ・

 ・

 ・


 ≪マサシ視点≫


「行ったか」


 最初はウザい獲物だと感じ、何時の間にか掛け替えのない存在になっていて、そして最後まで俺達も一緒に生き残る事を考えてくれたあいつ等を・・・この世界に来て新たに出来た仲間を、俺達は見送った。


「生き残れよ・・・」


 そんな者たちのために命を張れるのだ、悔いが無いと言ったらウソになるが、クソッタレな自分には良い最後なんだろう。

 しかしこれから良い最後を迎えるわけだが、1つだけどうしても考えてしまうことがある。


「・・・すまねぇなチャーリー。こんな事に付き合わせちまってよ」


 それはペットであり相棒でもあるチャーリーの事だ。正直一狼達を行かせ自分達が残る事を勝手に決めてしまった訳だが、怒っていないだろうか?


「ガァ、ガァァガァ。ガウガウガァ(いいのよ、アナタと最後を共にできるんだもの。それに、一狼達は私にとっても仲間だわ)」


 チャーリーに声を掛けてみたのだが全くと言っていいほど怒っていなかった。寧ろ、よくやったと褒めるような事を言われてしまった。この世界に来て初めて言葉を交わしたわけだが、チャーリーはイイ女であるとしみじみ感じてしまう。


「っは・・・あんがとよ」


「ガァ。・・・ガァッ(ええ。・・・来たわよ)」


 そうしてチャーリーと最後になるかも知れない語らいをしていると、一狼達が行って3分もしないくらいだろうか、俺達の前におっかないカマヤロウが姿を現した。


「あらなぁに?まってたのぉ?」


 天変地異の様な激しい事象が起こったにもかかわらずカマヤロウは無傷で、更に心地よい野原でも歩いているのかというほど軽い足取りでやって来る。


「ああ」


「あらぁ~、ありがとう!感謝しちゃうわ~」


「・・・」


 そして相変わらずの軽い口調で話しかけてきたのだが、やはりそいつからは死を連想させる様な雰囲気しか感じず、俺は返答を長く続けることが出来なかった。


「あらぁん?けどわんちゃんとエルフちゃんがいないわね?あ、まさか足止めのつもり?やだぁ~、かっこいいじゃな~い」


「黙れやダボが。足止めじゃなくて殺すつもりなんだよ」


「えぇ~?」


「気持ち悪い物を見っとよぉ・・・俺は潰したくなっちまうんだわ。だから待っててやったんだよ」


 しかしだ、コイツを少しでもここに引き止めるためには挑発をしなければならないので、俺はビビる心を押し殺し口を開いた。

 そしてその効果は少しだけだが確かにあったのだろう、カマヤロウはニヤァ~っと笑ったかと思うと、持っていた獲物をブンブンッと振り戦闘態勢へと入った。

 なので俺も武器を構え戦闘態勢を取る。


「んだぁ?やる気がゴルゥァ?」


「オホホホホ!直ぐに壊れるんじゃないわよぉ~!?」


「っせぇこのクソだらぁ!ミンチにしてやんよ!」


 こうして俺にとっての無謀な戦いは・・・幕を開けた。



(また体が千切れることになってもよぉ・・・時間稼ぐから・・・無事に逃げろよ!)



 大事な仲間の無事を願いながら。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「マサシッ!?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると チャーリーが 相棒からAIBOになります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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