第222話 超越者とわんちゃん

 突如現れたは一見すると派手な見た目の男だが、俺はそれだけでないと体の何処か・・・もしかしたら魂とも呼ぶべき場所で感じていた。


「ふふっ」


 その男が何かしゃべる度・・・


『・・・ザッザッ・・・』


 動く度・・・


(うっ・・・うぅっ・・・)


 俺の全てが訴えていた・・・逃げろと・・・


 そしてそれは他の者も感じたみたいで、普段は超強気のマサシも迂闊に声も出せず固まり、ごぶ助にいたってはプルプルと震えていた。


「ご・・・ごぶぶっ・・・」


 しかしごぶ助は震えていただけではなく他の何かも感じていた様で、チラリと見た横顔には怯えの中に何か他の感情が垣間見えた。


【ど・・・どうしたごぶ助?あいつに何かあるのか?】


 俺は直前に指摘された事もあり、相手にバレナイ様『念話』を使いごぶ助と会話を試みる。


【念話のレベルが上がったからそっちの考えも解る様になってるから、声を出さずに思っている事を考えてくれ】


【ご・・・ごぶ・・・】


 そうやってごぶ助の並々ならぬ感情の真意を教えてもらったのだが・・・それはよく要領を得ない話で俺は困惑してしまった。


【よく解らないごぶ。唯、何故かあいつを見ていると怖いのと同時に怒りも沸いてくるごぶ】


 確かにごぶ助が人間に対して怒りを感じるのはおかしくはない事ではあるが、実際の所はゴブリン特有の考え方なのか、ごぶ助が人間を特別恨んでいたり怒っていたりという事は無かった。

 だがそれなのに突然現れた人間の男に対しては怒りを感じていると言うのだ・・・


【ふむ?】


 もしかしたらそれだけの何かがあの男にはあるのかと思い、俺は心当たりがないのかと尋ねてみる事にした。


【昔何かされたのか?俺が来る前とか・・・】


【ごぶ・・・そんなことはない・・・ごぶっ!?もしかして・・・】


 すると最初は心当たりがない様だったのだが、何かを思い出したのか、ハッという顔をした後に心当たりを話してくれたのだが・・・俺はそれを聞き更に困惑、そして怒る事となった。


【ごぶ。あいつ、我らの村を滅ぼした時に居た人間じゃないごぶ?】


【は・・・?いや、あんな奴いたら記憶に残るとは思うんだが、あんなのは居なかった筈だぞ?】


【ごぶ。よく思い出すごぶ。確かに姿は見ていなかったけど、気配は感じたことがあるはずごぶ】


【気配?・・・・・・っ!まさかっ!!】


【ごぶ。最後に感じた、ヤバイ気配ごぶ】


 ごぶ助の村が滅ぼされた事件、それは未だ俺の中に残る忌まわしい記憶だ。

 転生した後俺に優しくしてくれた村の皆を失い、ごぶ助まで失ったかと思ったそんな事件。

 ・・・あの時確かにやばい気配を感じ逃げる事となったのだが、それがあいつだと?


(いやまてよ・・・確かに言われてみれば・・・)


 ごぶ助に言われてみたら、確かにあの時感じた気配と似ているのかもしれない。しかも勘のいいごぶ助が言うのだ、恐らくは正解なのだろう。


(・・・ん?という事はもしかしたら、コイツがごぶ助を石化させ「さてさて・・・」・・・っ!?)


 と、昔の事を思いだそうとしていた時そいつが話しかけてきたので、俺は昔の事を考える事を止める。・・・なんせここから対応を間違うと即不味い事になるだろうから。


「ここでさっきまで戦ってたのはアナタ達ね?」


「・・・ああ、そうだ」


「あら可愛いわんちゃん。素直に答えてくれるのね~!嬉しいわぁ~!」


「・・・」


「うふふ」


 素直に答える俺に上機嫌風の男だが、俺には本当にそうだとは思えなかったので慎重に話す。

 というかだ、よくよく考えてみればこいつは最近見た人間達の一派かも知れないのだが、そうなると非常にまずいかもしれない。


(何か絶対魔物殺すマンぽかったし、俺達人間達もやっちゃったりしてるんだよな・・・交渉が云々とか考えるよりもさっさと逃げ出すか戦うべきか?)


 俺達が草原で見た人間は基本俺達を見ると『ひゃっはー!まものだー!』と言って(言ってはいない)襲い掛かって来た。ということはつまり、コイツも話しかけて来てはいるが友好的にする気はさらさらないのかもしれないのだ。

 なので俺はごぶ助とマサシ、チャーリーへと『念話』を使い、『合図次第でいつでも戦闘、若しくは逃走が出来る様にしておいてくれ』と語りかけた。


 そうした事を裏でしているのを知ってか知らずか、男は会話の続きをして来る。


「なんか空に島みたいなのが浮いていたけれど、もう無いって事は戦闘は終わったのかしら?」


「・・・ああ」


「で、アナタ達が居るって事は、アナタ達が勝ったって事よね?」


「・・・ああ」


「アナタ達と戦っていたのはどんな奴だったの?」


「・・・何か強いドライアドだった」


 男は軽ーい感じで事情聴取というか、先程までの事を聞いて来たのだが、戦っていた奴と言う所で俺は『そういえば・・・』とある事に気付く。この男のステータスを確認していなかったのだ。


(・・・多分見えないだろうが・・・どれどれ・・・)



 名前:カマエル

 種族:ハイヒューマン

 年齢:??

 レベル:??

 str:???

 vit:???

 agi:???

 dex:???

 int:???

 luk:???

 スキル:???

 ユニークスキル:???

 称号:???



(・・・だよな)


 ステータスを確認したのだが男・・・カマエルは各上らしく、名前と種族だけしか確認が出来なかった。しかしそれが解っただけでも『鑑定』した甲斐があった、そう思う方がいいだろう。


 ・・・と思っていたのは俺だけだったらしく、『鑑定』を掛けられた方のカマエルはそれに反応を示した。


「・・・わんちゃん、アナタ今私に何かしたわね?」


「え?いや、何もしていないが?」


「・・・嘘ね。まぁいいわ。もう大体解ったし」


 しかしそれはきっかけに過ぎなかっただけみたいで、元よりカマエルは俺達を放っておくつもりもなかったみたいだった。


「さて、それじゃあ遊びましょうか?いやぁ~、それにしてもよかったわ。丁度暇だったからちょっと遊びたかったのよね~」


 カマエルは目と口を細めてニヤァっとした笑みを浮かべたかと思うと、アイテムボックスからでも取り出したのだろう、大きな鎌をその手に持った。


「「「・・・っ!」」」


「イかしてるでしょうこれ?よぉ~く切れるのよぉ?く・び・と・か・ね。うふっ」


 カマエルはそう言いながら、今から美味しい物でも食べますよと言った顔で俺達を見る。

 それを見て逃げねば不味いと感じたので、俺は合図を出し逃走準備にはいった。


【戦闘は無理だ!逃げるぞ!ごぶ助乗れ!マサシは兎に角走れ!俺達は奴の足止めで魔法を使いながら後に続く!】


 そう『念話』で指示を出すと共に俺は魔法を使い地面から砂埃を巻き上げ目くらましをかまし、続けて氷で壁を作る。

 そしてごぶ助が背中に乗りマサシが走り出したのを確認するとマサシの後ろへと続きながらごぶ助に追加で指示を出した。


【ごぶ助!『精霊術』を使って兎に角相手の動きを妨害してくれ!奴とまともに戦うと不味すぎる!】


【ごぶ!】


 ごぶ助は少し複雑な思いもあっただろうがそれを飲んでくれたのか、俺の指示に従って逃走の為に『精霊術』を使い壁や目くらましを使ってくれた。

 それは俺がしたモノより大分強力で、一面には霧が漂い樹々が動き天然の迷路を作り上げる。


【よし!俺はこのままごぶ助を落とさない様に注意して走るから、ごぶ助はそのまま妨害に力を入れてくれ!マサシ!全力で走っていいけどなるべく痕跡を残さない様に静かに頼む!】


【ごぶ!】


【っずかしい事いいやがるなおい!けど了解だ!あのカマヤロウ、感じがヤバ過ぎる!】


【よし!それじゃあ何とか逃げ出すぞ!】


「オホホホホ!追いかけっこかしらぁ!?いいわよぉ!得意なのよね私!」


 こうして俺達の楽しくない追いかけっこが始まった訳だが・・・


 ・

 ・

 ・


「なんだぁ・・・手ごたえが無いわねぇ?追いついちゃうわよ?ほらほらぁ!」


【っぜんぜん引き離せない!?】


 この追いかけっこはカマエルにも大して面白くなかったらしい。

 その為だろうか、奴は俺達の恐怖を煽るように声で威嚇し、ちょっとでも楽しもうと俺達を追い回し続けていた。


 しかしこれは俺達にとってはラッキーだ。なんせ未だ侮って遊んでくれているのだから。


【っちぃ・・・ごぶ助!準備できたか!】


【ごぶ!大量の精霊さんにお願いが完了したごぶ!いつでもいけるごぶ!】


【よし!マサシ!今からデカいのいくから気をつけろよ!】


【おう!】


 敵さんが遊んでくれているならと、俺は少し前からごぶ助に大規模な『精霊術』を使う様に頼んでいたのだ。


「そんなに遊ぶのが好きなら、好きなだけ遊んでろよ!ごぶ助!」


「ごぶ!精霊さん!頼むごぶ!」


「あら?あらあらぁ?」


 ごぶ助が『精霊術』を行使すると、『大規模に頼む!』と言ってあっただけあり引き起こされた現象は凄い規模だった。


『・・・ゴゴッ・・・ズゴゴゴゴゴッッ!!・・・』


 グラスランドドライアド戦の様に大地が浮かび上がる事こそなかったが、山が出来たかと思うと谷が出来、川が出来たかと思うと火が噴きあがる窪み、風が吹き荒れる裂けめ等が次々と出来上がる。


「っちょ!?やりす・・・いや!これでいいか!」


 天変地異みたいなこの状態を見て最初はやりすぎだと思ったが、これくらいはしなければカマエルは引き離せないと思い直したのでごぶ助にイイネを送る。


「いいかもしれねぇが!俺達のスピードも落ちんぞ!?」


「・・・あ」


 だがやりすぎの弊害か、俺達の進む道も大分困難になってしまった様でマサシが抗議の声を上げる。

 しかし以外にもその事を考えていたのか、ごぶ助が俺に告げて来る。


【ごぶ!相棒!あそこごぶ!地下に続く道を作ったごぶ!あれを使えばかなり離れたところに出られるごぶ!】


【・・・!ナイスだ!】


 ごぶ助が逃げ道を作ったと言うので俺はマサシにも伝え、その地下へと続く道とやらに入る。中に入ると暗かったが、気づかれない様に小規模に魔法を使って明るくすればいいだろう。


【よし!マサシ!行くぞ!】


【・・・】


 地下へは俺が先に入っていたので、マサシにも早く入る様に促したのだが・・・何故かマサシは中へと入ってこなかった。なので俺はマサシへと叫ぶ。


【閉所恐怖症とか暗闇が怖いのかもしれんが、今はそんな事言ってる場合じゃねぇ!逃げなきゃやられちまうぞ!】


 どうしても入りづらい理由があると思いそう叫んだのだが、マサシは首を振る。


 そして驚くべき事を告げてきた。



【俺は残る。先にイケ】



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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