第221話 決着と困惑のわんちゃん

 俺は今、犬生史上最大に間抜けな面をしている。

 それというのも、今まで見たことが無い不思議な光景を見ているからだった。


「やってみてくれとは言ったモノの・・・すげぇな・・・」


「ごぶ」


 その光景は、俺がごぶ助にある頼みごとをした事により起こった結果だったのだが・・・何というか予想以上の光景だった。


「っていうか、もうちょっと小さく出来なかったのか?あまりデカいと意味がないかもしれないんだけど・・・」


「ごぶ?ごぶごぶ・・・我も『精霊術』はあまり使ってこなかったから、勝手がよく解らないごぶ」


「そうか・・・」


 当初俺がごぶ助にしたお願いとは、『グラスランドドライアドを地面から引きはがしてほしい』だった。これはグラスランドドライアドがあれほどの再生能力を持つ理由が、ユニークスキル『地吸』が関係しているからと考えたからだ。



『ユニークスキル:地吸

 ・根付いた地面よりエーテルを吸収し、体力と魔力に変換できる。』



 この説明から見るに、奴は地面に接していると、地面が完璧に死なない限りは際限なく回復していくのだろう。だがそれは逆を言えば『根っこが地面に接していないのなら、エーテル吸収は出来ない』という事だ。

 だから俺は先程の様にごぶ助へとお願いをしたのだが、結果はというと、言ったと思うが予想以上で・・・確かにグラスランドドライアドの根っこは地面から引きはがされたのだが、それはだった。


 つまり・・・何十メートル規模の地面が浮き上がり、空にちっさな大地が浮き上がってしまったのだ。


「まぁでも、あの浮いてる地面分のエーテルを吸収したらそこで止まるだろうし、結果オーライか?」


 エーテルがどの様な形で存在し、どのように吸収されているか等は全く分からないが、少なくとも先程の様な回復は長くは続かないだろうと考え、俺は良しとした。

 そうなると唯ここでボーっと見ているだけではなく、次の行動を起こさなくてはいけないのだが、俺は1つだけ気になる事を聞いてみた。


「なぁごぶ助、あれってさ、どのくらいの間浮いているんだ?」


「・・・ごぶ?・・・ごぶごぶ。ごぶ。精霊さんは『程々?』って感じに言ってるごぶ」


「そ・・・そうか、なら急ごう!」


 戦ってる最中に地面に墜落したら嫌だし、そうなると浮かび上がらせたのが意味なくなるなと思い聞いたのだが、答えは超アバウトだった。

 なので俺は一旦下りていたごぶ助にさっさと背中に乗る様に言い、乗ったのを確認すると、魔法を使って空に浮いている小さな島へとジャンプした。


「マサシ!チャーリー!気づいてると思うが今ここいらは空に浮かんでる!だから多分そいつの回復力も落ちているだろうから攻め時だ!」


「んか変な感じがするなと思ったらそういう事かよ!解ったぜ!」


「ガァッ!ガァガァッ!」


 小さな島ではグラスランドドライアド毎浮き上がっていたマサシ達が変わらず戦っていたので、俺は今が攻め時だという事を教え自分も攻撃の準備を始める。・・・やはり近づいて戦うのは危険だろうから魔法でだが。


「取りあえず樹だから火、そして風か。ごぶ助もいけるか?」


 俺は奴へ『火魔法』と『黒風』を使い攻撃を仕掛けようとしたのだが、ごぶ助にも『精霊術』で火が使えるのかと尋ねてみる。

 すると火があればイケるとの事だったので、俺の『火魔法』の火を使えと言ったのだが、何故か魔法の火は駄目らしい。

 しかしだ、これまた不思議なのだが、魔法で一旦木にでも火を点ければそれは使えるらしい。・・・謎判定だ。


「なら・・・はい、コレ!松明だ!」


「ごぶ!」


 ならばこれでいいのだろうと深く考える事を止め、俺はごぶ助に松明を渡し火を点けるとさっさと攻撃に移った。


「最初は火単体で使ってから風で煽るか?いや、最初から混ぜて使った方が・・・どっちでもいいか!両方試してみよう!・・・火よ・・・・」


「ごぶ・・・ごぶごぶ、火の精霊さん、あのでかい樹の魔物に火を点けてほしいごぶ・・・・」


 俺が攻撃に移ると同時にごぶ助も攻撃をし始め、2人の火を使った攻撃がグラスランドドライアドを襲う。



 そうしてマサシの後ろから俺達も攻撃をし始めると、戦況は瞬く間に変わっていった。


「キィヤァア・・・!キィヤァァァア!・・・ギィェァ!?」


「クハハハハッ!どうしたどうした!ニョキニョキと手足を生やすのはやめたんかぁ!?そんなんじゃダルマになっちまうぞぉ!?」


「・・・燃やし尽くせっ!・・・うし、燃やした端から再生はしなくなったな」


「ごぶごぶ。精霊さんが『土の栄養はもうない』って言ってるごぶ」


 グラスランドドライアドの最大の強みは無尽蔵の再生によるタフネスだったのだが、それが無くなった様で、段々と弱っていっていたのだ。・・・どうやら俺の考えは当たっていたらしい。

 ならばこのままイケるかと思ったのだが・・・ごぶ助曰く『土の栄養が無いから精霊さんもやばいらしいごぶ。もうすぐこの島落ちるごぶ』との事だった。


 つまり・・・


「マサシ!もっと全力だ!振り絞れ!ごぶ助もだっ!後5分以内には片を付けるぞっ!」


 ラストスパートの掛けどころである。

 俺はマサシやごぶ助に叱咤を飛ばし、自分も全力で魔力を練り始めた。


(再生しない様に念入りに燃やした方が良いか?ならマサシに程よい切れ込みを入れてもらって、俺がそれに全力で魔法を使い燃やす。そして燃えたのなら『精霊術』で制御が掛かるだろうからごぶ助に・・・よし!)


「マサシ!ごぶ助っ!」


 魔力を練りつつ、グラスランドドライアドの仕留め方を思索しているといい感じの方法が思い浮かんだので、俺はマサシとごぶ助へとそれを伝える。

 すると2人から了解の返事が返ってきたので、俺は魔法を使うタイミングを伺う。


「程よいっつーのがドンなんかわかんねぇが!全身切っときゃいけるだろ!っしゃぁぁおらぁぁああっ!」


「キィェェアアアッ!」


 そうしているとマサシがグラスランドドライアドの全身に切り込みを入れていったので、俺はマサシが離脱したのを見計らい練りに練った魔法をお見舞いする。


「もえろ・・・モエロ・・・燃えろっ!火よっ!その力を示し破壊を成せっ!」


「ギッ・・・ギョォォォオオオ!?」


 俺が放った火はグラスランドドライアドの全身を舐める様に広がっていく。普通だとあまり燃えないとは思うが、俺が放った火の温度が高いからか、奴の体の水分が瞬く間に蒸発し燃えているのだ。


「ごぶ・・・ごぶごぶ、精霊さん、奴の内部まで潜りこんでこんがり焼くごぶ。燃やし残しなしで全部灰にするごぶ」


 そして最後のダメ押しにごぶ助が『精霊術』を使い奴の体の隅々まで燃やしていく。


「・・・ッッッ・・・!!・・・~~~ッッ!!」


 そうなると敵は声も出せなくなり、唯のデカイたき火へと進化?した。


「クハハハハッ!キャンプファイアーだな!」


「だな・・・ってあぶねっ!暴れるキャンプファイアーってシャレになんねえ!」


「ごぶっ!!」


 デカいたき火へとなったモノの敵も大人しくは燃えていかない。その為俺達は迫る火の枝から逃げ回ることになった。

 しかしそれも少しの時間だけの事、逃げ回っている間もごぶ助は精霊に指示を出し続け、あっという間に敵を燃やし尽くしてしまった。


 そう、燃やし尽くしてしまったのだ。つまり・・・


「クハハッ!リベンジ完了だ。な、チャーリー」


「ガァ!」



 そう、俺達の勝ちだ。



「勝ち・・・勝った!勝ったんだ!っしゃぁぁぁあ!無事勝っ「ごぶごぶ・・・相棒、そろそろ落ちるらしいごぶ」たぞぉぉぉおお?え?」


 勝った事に狂喜乱舞しようかという時、ごぶ助の言葉と共に何やら足場が揺れ始めた。・・・浮いていた島が落ち始めたのだ。

 なので俺達は慌てて脱出、そして島が地面に激突するとかなり危険なので、再びごぶ助の『精霊術』により島を緩やかに着地させた。


 そうして地面へと降りると、再び俺は勝利した事を噛みしめ・・・はしゃぎ出してしまった。


「っしゃぁぁ!っし!っし!」


 ・

 ・

 ・


 その後、5分程はしゃぎ回った末に俺は落ち着いたのだが、そうなると疲れがどっと出て来たので地面に腰を下ろす事にした。

 辺りを見回すとマサシ達も疲れていたのか腰を下ろし談笑をしていたので、俺はマサシ達の元へと近づきその談笑の輪に加わる事にした。


「やったなおい!」


「おおよ。つか話してたんだがよ一狼、オメェ戦いの途中に指示を出すのはいいんだが、敵にも丸聞こえだから何とかした方がいいぞ?」


「え?マ?」


「ぁあ。最初俺と戦った時もだったしな。そのお陰でどんなイイ指示でもクソになり果てるから、気ぃ付けた方がイイゾ?」


「おけまる!サンクスだ!」


 いきなりダメ出しをされてしまったのだが、気分がハイな俺はありがたい言葉としてそれを受け取り礼を言った。

 その後も戦闘の反省会も兼ねたアレコレを話している内に、俺はとても大事な事を聞かなければいけないと思い出したのでそれを話す事にした。


「そんでだマサシ、これで約束は果たされた訳だが・・・いいんだよな?」


「おう、漢に二言はねぇ」


 俺は少しドキドキしながらそれを尋ねると、マサシは胸をどんと叩き言った。



「仲間になってやんよ」



「お・・・おぉぉ・・・」


 長く時間は掛かってしまったが、漸く俺はマサシからその言葉を聞く事が出来た。

 最初は何となくで『仲間にならないか?』とは言ったが、長く一緒に戦ううち、少々頭のネジは外れているがいい奴だと解ったので、今は『仲間になってくれないと寂しい』と思うようになっていた俺はその言葉を聞き感動してしまう。


「・・・ははっ。んじゃあマサシ、これからよろしく頼むぜ」


「あぁ。チャーリー共々、よろしく頼むワ」


「ガァッ!」


「ごぶごぶ!」


 新たな仲間が俺達の群れに加わる事になったので、これからもっと賑やかになる。だからもっと仲間達を守るためにも強く賢くならねば・・・と、そんな事を考え未来の明るい展望を考えていた・・・その時だった。


「あらあら・・・それなら私もよろしく頼むわね?」


「え?」


「ごぶ?・・・ごぶっ!!」


 俺達の前に・・・死の臭いを漂わせながら・・・


「・・・迷宮語って久しぶりに使ったけど、通じてるみたいで良かったわ。うふふっ」



 は現れた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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