第219話 最終フェーズに入ったボスとわんちゃん

 左手を目の前に突き出したかと思うと同時に、マサシは叫んでいた。


「魔剣!召喚!」


 すると左手へと虚空から光が集まり、それがそのまま剣?へと変化し、マサシはそれで迫って来ていた木の根の束を薙ぎ払った。


 俺はそれに感謝の声よりも驚きの声を上げてしまう。何故なら・・・


「はぁぁっ?!??2本目とか出せるのかよ!?」


 マサシは既に釘バット風の魔剣を持っているにもかかわらず、新しくもう一本鉄パイプ風の魔剣を召喚したのだが、そんな事が出来るとは一言も言っていなかったからだ。・・・まぁ奥の手として隠していたのかもしれないのだが。


「クハハハハッ!試しにやってみたが、出るじゃねぇか!っしゃぁ!ならもう一丁だっ!魔剣んんんんっ!召喚っっっ!」


「・・・は?」


 しかし、魔剣の同時召喚はどうやら初めてやった事らしかった。しかもだ、初めてやったと言っていたのに、マサシは更に『魔剣召喚』とスキルを唱えた。


「いやいや・・・流石に3本目は・・・って出るんかいっ!!!」


 流石にそれは無理だろうと思っていたのだが、そんな俺の考えは間違っていたらしい。先程同様何処からか光が集まって来て、魔剣が召喚される前兆を見せ始めたのだ。


 しかしだ、光が集まって来たもののマサシの両手は既にふさがっている。ならば新しい魔剣は一体どうするのか?


 答えは単純だった。


「モガァッ・・・」


「・・・海賊でも狩るのかな?」


 某剣士みたく口で咥えたのだ・・・チャーリーが。


「クハハハハッ!いいじゃねぇかチャーリー!イケンだろぉぅ!?」


「モガガ・・・モガァ・・・」


 しかし流石にチャーリーは剣を扱うのは無理らしく、首をプルプルと横に振っていた。

 まぁさもありなん。なんせチャーリーは元爬虫類だ、剣を使う事等出来ないのは当然であろう。

 その為3本目の魔剣は無用の長物になるかと思われたのだが、そこに待ったを掛ける者がいた。


「ごぶっ!」


 ごぶ助である。


「ごぶ!それ、我に貸せ無いごぶか!?」


 ごぶ助はマサシに魔剣のレンタルが出来ないものかと尋ねた。

 しかしマサシもそれは解らないらしく、『やってみればいいんじゃねぇか?』と言って3本目の魔剣を置き、再び迫りくる木の根や木のゴーレムモドキの対処をする為前へと出て行ってしまった。


「マサシから離れてもそのまま残ってるし、イケるんじゃないか?というか俺達もぼやぼやしてられねぇ!さっさとそれ持って援護に戻ろう!」


「ごぶ!」


 マサシがさっさと戦い出したので解ったと思うが、今はバリバリ戦闘真っ最中である。俺達も早く戦いに加わらねばならないのだ。

 なのでごぶ助は躊躇することなく置かれていた木刀風の魔剣を手に取り、俺はそれを確認するとマサシの援護をするため動き出した。


 そうするとだ・・・俺はマサシのユニークスキル『魔剣召喚』の本当の強さを知る事となってしまった。


「ごぶっ!ごぶっ!ごぶごぶぅ!この武器最高ごぶっ!我の武器に負けない位使えるごぶ!」


「お・・・おぉ・・・そうだな」


 借りた魔剣は切れ味が物凄いらしく、木の根をまるで豆腐の様にすぱすぱと切っていっていたのだ。

 つまりこれ、仲間がいるのならばその分魔剣を召喚・貸与する事により強武器を持った軍団が作れてしまうという事だ。


 更にだ・・・


「クハハハハッ!新しく召喚して成功だぜっ!手数2倍で攻撃力が2倍じゃねぇかっ!」


 マサシは2本の武器を扱える様なので戦闘力が爆上がりしていた。

 つまり『魔剣召喚』のユニークスキルは魔剣を複数召喚する事により自分を強化するのみならず、味方も強化できるという神スキルだったのだ。


「・・・絶対仲間に引き入れよ」


 何となくで仲間に引き入れようと思った者達だったが、彼が居れば俺達は更に強い群れになれるだろう。


 俺はマサシ達を仲間に引き入れる為、グラスランドドライアド討伐をやり遂げて見せると再度誓った。


 ・

 ・

 ・


 マサシが2本目、3本目の魔剣を召喚してからというモノ、形成は大分こちらに有利な方へと傾いていた。


「クハッ・・・クハハハハッ!どうしたどうしたぁっ!ドンドン回復が間に合わなくなってんぞぉ!?」


 それというのも2刀流になったマサシの攻撃の勢いが増し、グラスランドドライアドの再生能力を抜き始めていたから・・・というのもあるが、実はちょっとしたカラクリもあった。


「ごぶごぶぅっ!根こそぎ刈るごぶ!」


「おうよっ!」


 それは広場に広がる木の根を刈っていると、グラスランドドライアドの再生能力が少し落ちるという事に気付いたことだ。


「ごぶっ!2本剣があると、刈り取りが捗るごぶ!」


 これに気付いたのは偶然だったのだが、気づいてからは『しめた!』とばかりに、ごぶ助は借りた魔剣で木の根を刈りたくっていた。


(よしっ!これなら・・・)


 この様に順調に戦いが進んで行っていたので、『このままいけばその内勝てる』と俺は希望を見たのだが・・・相手はそう甘くはなかった様だった。


「キャァァァアッ!」


「っだぁっ!?っっそがぁ!」


「ガァァッ!」


「あぶなっ!」


「ごぶっ!」


 グラスランドドライアドは大きく叫んだかと思うと、俺達を吹き飛ばす様に木の根を集中して展開し、俺達との距離を開けさせた。


「キェアァァッ!」


 そして展開した木の根を即座に自分の元へと集め、の様なモノを作り上げ籠り出した。

 その様子を見て、『防御を固めて、更に耐久戦を仕掛けるつもりか!?』と思ったのだが、次に起こった事でそれも違うのではないかと考えた。


「・・・え?ちょ!?まさか嘘だよなぁ!?」


 そのの様なモノは本当にだったのか、孵化でもするかの如く、グラスランドドライアドは姿を変容させて見せた。

 と言っても芋虫が蝶に変わると言った様な、劇的に容姿が変わるといったことは無かった。


 唯・・・


「ご・・・ごぶ・・・」


「おいおい・・・巨大化かヨ」


「ガァッ!?」


 唯々奴はデカくなっていた。

 そして劇的に容姿は変わっていなかったと言ったがそれは上半身の話で、下半身はデカい花へと変わっていた。


「けど、ステータス何かは変わってないみたいだな・・・」


『変身したのならステータスも変わっているかも』と確認してみたのだが、それは変わっていない様で、取りあえずは一安心だ。

 だが安心ばかりもしていられない、なんせデカイことはそれだけで強みなのだ。『質量=パワー』なのである。


「気をつけろよマサシ、チャーリー。攻撃範囲がデカくなったうえに当たるとヤバいぞ」


 なのでマサシとチャーリーに注意を飛ばすのだが・・・


「おうよ。・・・でもよ、要は当たらなきゃいいってことだろ?」


「え?」


「っしゃっ!行くぞチャーリー!こんなんでブルってちゃ愚理院怒羅魂グリーンドラゴンの名が泣くからなぁ!」


「ガァ?・・・ガァッ!」


「ッヒャッハー!」


 頭のネジが外れた男にはあまり意味がなかったらしく、叫びながら突っ込んで行ってしまった。


「っちょ!・・・ってまぁいいか。けど・・・」


「ごぶ?」


 マサシ達が突っ込んだのならば俺達も援護のために動かなければならないのだが、グラスランドドライアドが変容した影響か、周りの木の根や木のゴーレムモドキ等が全て消えると言った具合に状況が変わってしまった。

 その為、援護をするならグラスランドドライアド本体に向かわねばならないのだが・・・いかんせん近づくのは厳しいだろう。

 なので近づかず距離を保ったまま遠距離攻撃に専念して援護するべきかもしれない。


「まぁ俺はそれでもいいんだが、問題は・・・」


 俺の場合は元から魔法主体で戦っていたのでそれでよかったのだが、問題はごぶ助だ。

 なんせごぶ助の主な攻撃方法は『武器で殴る』だ。近づかなければどうにもならないだろう。

 だからごぶ助にも出来る援護があるといいのだが・・・


「あ、そうだ」


「ごぶ?」


 と、その時、俺はごぶ助のステータスに有った『あるスキル』の存在を思い出した。


「ごぶ助、そういや今まで聞いた事なかったけど、『精霊術』ってどうなんだ?字面からするに魔法だと思うんだけど、近づくのが危険な今、使うにはもってこいじゃないか?」


 他のスキルに関しては見たり聞いたりしたことはあったのだが、唯一ノータッチだった『精霊術』というモノがごぶ助にはあった。前世のゲームや漫画知識から行くと、自然界の『精霊』の力を借りて使う魔法みたいなモノな筈なのだが。


「ごぶ?・・・ごぶ!そう言えばそんなのもあったごぶ!」


 と、どうやらごぶ助、このスキルの存在を忘れていたらしく、『あぁ~!』という顔と共にそんな事を叫んでいた。


「ごぶごぶ。確かにこれで我も近づかず援護できるから相棒も安全ごぶ。これは相棒の言う通り魔法ごぶ。でも難しい魔法ごぶ」


 どんなスキルかは覚えていたらしく、それによるとどうやらこのスキルは精霊にお願いして使う魔法で、属性はその時身近にあるならば何でも使えるのだが効果がまちまちで安定しないらしい。


「ごぶ。強い時もあれば弱い時もあるごぶ。実際使ってみるごぶ・・・ごぶごぶ、土の精霊さん、土で硬い槍を作ってあのでかいのにぶつけるごぶ」


 ごぶ助が呪文を唱えると地面の土が盛り上がり、かなり大きい土の槍が目の前に出来上がったかと思うと・・・それは結構な勢いで飛んでいった。


「キェェァァアッ!?」


「おぉ~・・・」


 サラッと説明した後マサシの援護の為早速使ってくれたその『精霊術』だが、それは見た目通り威力もそこそこあったらしく、巨体のグラスランドドライアドが軽くグラつく様子を見せていた程だった。


「凄いじゃないか!もっとすごい感じのも出来るのか!?」


 俺はその威力に感動し、他にはどんなことが出来るのかと尋ねてみた。するとごぶ助曰く『精霊さんが頼みを聞いてくれたら、大体の事は出来るごぶ』との事だった。


「ふむ・・・」


 俺はそれを聞き考える。このごぶ助の言い方で行くと、よっぽどの無茶でない限り色々な事が出来るみたいなので、木の根を刈っていた時考えていた事、それがあっているかを試せるかもしれないのだ。


(もしそうなら、グラスランドドライアドはすんなり・・・とはいかないが、かなり楽に倒せるはずだが・・・よし)


「ならごぶ助、1つやってみてほしい事がある」



 なので俺はそれを実証する為、ごぶ助にあるお願いをしてみた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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