第218話 本体とたたかうわんちゃん

 グラスランドドライアドの叫びと共に動き出した広場に広がる木の根を食い止める為に俺は魔法を使う。


「氷の壁よ!・・・なっ!?」


 取りあえずの時間稼ぎに使った魔法だったのだが、これは時間稼ぎにもならなかったようで直ぐに砕かれてしまう。

『ならばもっと攻撃性の高い魔法で迎撃する!』、そう思って魔法を使おうとした時、マサシが叫んだ。


「根っこをチョロチョロ壊しても意味がねぇ!突っ込むぞっ!」


「あっ!?おいっ!」


 マサシは叫ぶと同時に飛び出してしまったので、俺は驚いて固まってしまった。だが直ぐにごぶ助が『追うごぶ!』と声を掛けてくれたので俺も慌てて飛び出す。


「ごぶ!近寄って来た奴は我が叩くごぶ!相棒は魔法を使ってマサシの周りの奴をどうにかするごぶ!」


「りょ・・・了解だっ!」


 俺はごぶ助の指示でマサシへと殺到する木の根を魔法で打ち払っていくのだが、この指示やマサシの判断は正しかった様だ。


「無限に押し寄せて来るな!」


「ごぶっ!叩ききっても直ぐに生えてきてるごぶ!」


 この広場に広がる木の根は森の樹とは違い再生スピードが尋常ではなく、ごぶ助の言った言葉が誇張ではないレベルだったのだ。

 そんな無限沸きに対抗するだけでも面倒だったのだが、敵はここぞとばかりに追撃の手を放って来る。


「・・・っ!霧と香りを放ってきたか!」


「ごぶっ!木の人形も出してきてるごぶ!」


 だがこれらはどれも一度見た手だ。霧こそ厄介だが、後は風で防御しながら対処すればいい。

 そう思った俺は、今から魔法を使う事をマサシと背中に乗っているごぶ助へと叫ぶ。


「マサシ!ごぶ助!今から風で防御壁を張る!木の人形はそれまで壊すな・・・っ!?伏せろぉぉぉぉおおっ!」


「・・・っ!?」


「ガァッッ!」


「ごぶっ!」


 その途中、全身がゾクリと来た俺は自分でも訳が解らないまま伏せろと叫んだ。その行為は明らかに隙になり悪手でしかないのだが、この時のそれは正に九死に一生を得る最善手であった。


『・・・ブォォォォォン・・・』


「うっ・・・!」


 伏せた俺達の上を凶悪な圧を放つ何かが凄い音を立てて飛んでいき、そのまま森の彼方へと飛んでいったのだ。


「ごぶっ!?」


「前に食らったアレカッ!?あっぶねぇ・・・ナイスだ一狼!」


「ガァガァッ!」


 マサシの口ぶりからするにあれが恐らく『エーテルブレード』なのだろうが、感じた圧力が尋常ではなく、転生してから受けた圧力の中で3位に入るほどだ。因みに1位はニアと出会った時、2位はゴブリン村で・・・


「ってそんなこと考えてる場合じゃねぇっ!」


「ごぶっ!早く立って動くごぶ!」


「ああ!・・・うっ、何だ!地面がっ!」


 悠長に考え事をしている暇はないみたいで、四方八方から木の根や霧等が押し寄せて来る上に今度は地面がぬかるみ足が引き込まれそうになる。恐らく『土魔法』を使い地面をぬかるみに変えているのだろうが、地味に効く攻撃だ。


「クハハハハッ!小賢しいなぁオィい!!知能レベルでもあげたんかぁぁっ!?クハハハハッ!」


 しかしマサシはそれをものともせず、木の根を足場にしながら全身を続けていた。

 それを見て賢いと思った俺はマサシに習い、木の根の足場にピョンピョンと移動し始めた。

 そうして再び敵の元へと進み始めたのだが、マサシが奴の居る方向と違う方へと向かっているのに気付き叫ぶ。


「見えてないのかマサシ!もっと右だ!」


「ぁ!?マジか!・・・クソッ!霧がウッゼェァ!」


 風で霧もある程度飛ばしている事もあり俺はうすぼんやりとだが敵の姿を捉えられていたのだが、マサシにはそうはいかなかったみたいで、霧で周囲が良く見えていないみたいだった。

 ならば逐一方向を教えてあげればいいのだが、木の根や木のゴーレムモドキが襲ってくる状況ではそうもいかず、足が止まり気味になってしまう。


「ごぶ・・・ごぶっ!相棒!ちょっと場を任すごぶ!」


「んっ!?解った!」


 その状況を察しごぶ助も打開策を練っていたのだろう、何かを思いついたらしく動きを止め何かをやり出した。

 俺はごぶ助を信じ、何とか1人でマサシの援護と自分達の身を守る。そうして30秒程経った頃、ごぶ助がポツリと『つながったごぶ』と言葉を漏らした。


「ごぶ!もう大丈夫ごぶ!」


「おう!で、一体何をしたんだ!?」


「ごぶごぶ・・・アレを見るごぶ」


 何をしたのかと説明を求めると、見た方が解るとばかりにあっちを見ろと指示されたのだが、そこには機敏な動きで敵の攻撃に対処しつつ、敵の元へと向かっているマサシしかいなかった。


「・・・ん?何にも変わっ・・・んん?」


 何が変わっているのか全く分からなかったのでごぶ助に再度尋ねようと思ったのだが、そのときある事に気付いた。なんと、マサシが霧に惑わされず敵の元へと向かっていたのだ。

 しかしそれだけでは何が起こっているのか解らなかったので、結局は再度ごぶ助へと尋ねる事となった。


「ごぶ。我のスキル『チャネリング』ごぶ」


「ふむ・・・?」


 ごぶ助によると『チャネリング』というスキルを使ったらしく、これは相手と繋がることが出来るのだ言う。この繋がると言うのがまた不思議な事らしく、視界を共有出来たり、一部能力まで繋がれるとの事だった。

 これを聞くと、『超便利なスキルじゃん。何で使ってなかったんだ?』と言いたくなるが、どうもこのスキルは使い過ぎると自分と相手が混ざってしまい不味いことになるんだとか・・・


「ごぶごぶ。更に近しいとその分混ざりやすくなるみたいごぶ。だから相棒何かに使うと多分ヤバイごぶ」


「・・・うむ。それはヤバそうだ」


 強スキルなだけにデメリットも大きいという事だろう。なので現在スキルを使っているのは良いのだが、なるべく早く解除する様にしたいらしい。


「成程な・・・ごぶ助!マサシに伝えてくれ!今から後先考えずに力を使う!」


 そこで俺は全力を出す事にした。これは今まで手を抜いていたという訳ではなく、先を見据えてセーブ気味だった力を全開にすると言う意味だ。


「・・・っしゃぁぁぁ!イクゼオラァァア!」


 ごぶ助がそれを伝えてくれたのだろう、マサシが吠えたかと思うとそれまで以上の速度で敵の元へと向かい始めた。

 俺もそれを見て走り出し、同時に魔力を全開で練り始める。


 ・

 ・

 ・


 そうして俺達が後先考えずに力を出し始めると、木の根や木のゴーレムモドキでは俺達の障害にはならず、あっという間にグラスランドドライアドの元へと辿り着けた。


「クハハハハッ!」


「キェェァァアア!」


 奴へと接敵するとマサシは直ぐに自慢の魔剣を使い敵へと切りかかっていた。

 その対応のためだろうか、奴は行動パターンを少し変えた様で霧と香りを停止させ、代わりに口から胞子を吐き出し始めた。そうなるとintの低さが関係しているのか状態異常系に弱いマサシは一時敵に近づく事が出来なかった。

 だがこれ、結局対処方法は他と変わらなかったので、俺が魔法を使いマサシを援護する事により問題は解決、再び接敵できるようになった。

 こうなるとマサシとグラスランドドライアドは再び接近戦で戦い始めた訳だが、木の根と木のゴーレムモドキは相変わらず延々と沸き続けていたので、俺は魔法でマサシを防御と援護、ごぶ助は物理で俺とマサシの援護と、役割を分担して動いていた。


 こうやって攻防激しく動いていたわけだが、これは強敵と戦うなら仕方がない事だろう。

 だがそれも、始めてから1時間が経過しても進展が見られないと焦りが出て来る訳で・・・


「オイマサシ!まだ倒せないのかっ!」


 俺はつい、マサシへと怒鳴る様に叫んでしまっていた。


「こっちもよぉっ!全力でやってんだがなぁ!」


「ごぶごぶ・・・殴った端から回復してるごぶ。そしてそろそろ繋げているのが限界な気がするから解くごぶ!」


 どうやら敵は予想以上にタフネスで、俺達が処理しているモノの比ではない位の再生速度を持っているらしく、決定打が与えられない様だ。流石にこのままだと俺達の方が先にガス欠を起こしてしまいそうなのだが、一体どうしたモノか・・・。


「っくぅ・・・なぁマサシ!何か奥の手とか隠していないのか!?あったならここが使い時だぞ!」


 この状況を打開するために策を練るも何も思いつかないので、俺は少し破れかぶれになりそう叫んでみる。だがそんなものが合ったのならば既に使っているだろう。


 しかしワンチャン持っていないだろうか・・・


「奥の手なんて・・・!・・・なくもないかもしれねぇ」


「そうだよな・・・ないよ・・・はっ!?あるのかよ!」


「ごぶっ!?ごぶごぶ!」


 人が悪い事にマサシは奥の手を隠していた様で、俺とごぶ助は抗議の声を上げてしまう。


(けど何で歯切れの悪い答えなんだ?かなりきつい制限でもあるのか?)


 抗議をしたもののそんな考えも浮かんできた所にマサシがバックステップで俺達の近くへと後退して来た。

 そしてそれと同時に叫ぶ。


「一狼にごぶ助!ちょっとだけ時間を稼いでくれや!チャーリー、俺はちょいと集中するからその間なんとか逃げてくれや!」


「奥の手を使うためか!解った!行くぞごぶ助!」


「ごぶっ!任せるごぶ!」


「ガァッ!」


 奥の手とやらは少しタメが必要なのだろう、マサシは俺達に時間稼ぎを依頼して来た。

 かなり能力差がある相手に立ち向かうのは少し怖いが、ここはビビっている場合でもないので俺はごぶ助と共にグラスランドドライアドの正面へと立つ。


「ごぶ助!あくまで時間稼ぎだ!攻撃より防御重視で行くぞ!」


「ごぶっ!」


 俺達の役目はマサシの準備が完了するまでの時間稼ぎなのでまともに戦う事もない。なので回避重視で攻撃を食らわない様に動くのだが・・・


「・・・っ!どっち見てんだコイツメッ!」


「こぶっ!こっちを見るごぶ!」


 俺達の考えを見透かしているのか、奴はマサシの方へと顔を向けた。

 俺達は奴の気を引く為慌てて攻撃を仕掛ける。・・・しかしそれも奴の狙い通りだった様だ。


「キィエエェェェッ!」


「ぐおっ!?」


 グラスランドドライアドは俺達が攻撃を仕掛けた瞬間こちらへと振り向き、周りの木の根を1つにまとめて俺達を薙ぎ払って来たのだ。


「ごぶっ!・・・ごぶぅっ!」


 ごぶ助が何とかごぶ助カリバーを差し込んで直撃を避けてくれたものの、俺達は大きく吹き飛ばされ、マサシの近くへと転がってしまった。

『不味い!』、そう思った時には再び木の根が束ねられたモノが此方へと迫っていた。


 だが・・・


「っしゃぁぁぁあ!いくぞおらぁぁああ!」


 マサシの準備が終わったのだろう。マサシは叫び声を上げていた。



 そして空いていた左手を目の前に突き出したかと思うと・・・



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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