第217話 本体を見つけたわんちゃん
もの凄い音と風が周囲へ広がったと同時、辺りに漂っていた霧と香りもそれに引っ張られる様に周囲へと流されていく。
「おしっ!上手くいった!」
「ナイスだ一狼!よく見えんぜ!うらうらぁっ!残った雑魚を一掃ダァ!」
「ガァッ!」
そうなると先程までとは一転し、マサシが自由に動き回れるようになった。こうなると最初の様に快進撃が繰り広げられる・・・と思っていたのだが・・・
「うらぁっ!・・・ぁ?オイ一狼!霧が戻ってくんぞ!」
「なっ!?クソッ!」
そうは問屋が卸さないと言わんばかりに、吹き飛ばされた霧と香りが戻って来ていた。まだ完全には戻ってきていないので動けるが、再び周囲に霧と香りが満ちると動けなる事は目に見えていたので俺は焦る。
「っちぃ・・・けどさっきのを何回やっても駄目だろうし、流石に連発し過ぎると魔力が尽きてしまうはずだ」
先程の技は一時しのぎに過ぎなかったので打開策を練らなければと思うも、そう簡単に思いつくモノではない。
ならば先の様に最小限に力を使い霧と香りをシャットアウト、マサシとごぶ助にガードをしてもらっている間に策でも練るのもアリかもしれない。
「そうするしかないか・・・?」
他にパッと思いつく事が無かったので、それを実行するしかないと考え俺はマサシとごぶ助にそれを伝えようとした。
しかしそうしようとした時、ごぶ助が俺の背中からパッと飛び降り地に立った。
「ごぶ助?」
「ごぶ。相棒、我が良い作戦を考えたごぶ」
「なにっ!?どんなのだっ!?」
ごぶ助も俺と離れている間に成長したのだろう、脳筋プレイだけでなく策も寝れるようになっていた様で、俺にそれを伝えてきた。
それは『敵が居る方向を見つける』→『相棒がその方向に氷でトンネルを作る』という、シンプルながらいい策の様に思えるモノだった。これならば少しは霧と香りが防げるかもしれないし、一直線の道が出来ているのでマサシも迷わず進む事が出来るだろう。
「けどごぶ助、敵が居る方向を如何見つけるんだ?俺の『索敵』では未だ反応をとらえきれてないし、マサシの案内も超アバウトだぞ?」
だがこの作戦には致命的な問題があったので、それをどうするかを尋ねてみた。するとごぶ助は自信満々に胸を張り出した。
「ごぶごぶ」
「そんなにいい方法があるのか!?どうやるんだ?」
どんな方法なんだと期待する俺に、ごぶ助はニヤリと笑いながら武器を地面に突き刺し叫んだ。
「ごぶ!こうするごぶ!」
ごぶ助は突き刺した武器から手を離し、くるりとその場で一回転。その後両手を合わせて合掌し、勢いよく手を広げた。
するとごぶ助の持つ武器『ごぶ助カリバー』の秘められた力が解放・・・
「お・・・おぉぉぉお!・・・ぉぉお?」
という訳もなく、ごぶ助カリバーは唯々その場にコテンと倒れた。
「・・・?で?」
「ごぶ・・・あっちごぶ!」
「えっ!?」
ここからどうなるんだと尋ねると、ごぶ助はごぶ助カリバーが倒れた方向に向けて指をさしたのだが・・・もしかして棒を倒して方向を決めたのだろうか?いや、そんな筈は無かろう!
「ごぶごぶ。迷った時はこれをすれば全部正解だったごぶ。皆からも評判良かったごぶ」
いいや、そんな筈は有ったらしい。
だがこのごぶ助カリバーは『世界樹の枝』だ、なにやら隠れたご利益でもあるのだろうか正解率は100%らしい。
「まぁ・・・そうだな。そっちに行ってみるか」
今は他に信じられるものも無いし、ごぶ助カリバーはこれでもずっとごぶ助を助けて来た武器だ、信じてみてもいいだろう。
なので俺はごぶ助が指示した方向に『氷魔法』で5m程の幅があるトンネルを作った。
「マサシ!こっちだっ!このトンネルを進むぞっ!」
そしてマサシへとトンネルを進むように声を掛ける。
マサシは俺の声に反応し、戦っていた木のゴーレムモドキを一度全部吹き飛ばしこちらへとやって来た。
「ぁ?これを進むんか?」
「ああ!これなら霧がちょっと出ても迷う事は無い筈だからな!」
「成程な!頭いいじゃねぇか!」
「ごぶ」
マサシがトンネルを褒めると、ごぶ助はニヤリと笑った。それに気付いたのだろう、マサシはごぶ助へとサムズアップを決め、トンネルの中へと入って行った。
「よし!俺達も行くぞ!乗れ!ごぶ助!」
「ごぶ!」
そして俺達もトンネルの中へと入り、マサシの後を追う。
「っちぃ、樹が邪魔だな!なぎ倒しながら進んでもいいよナァ!?」
「いいぞっ!俺らもなんとかして進むから気にしないでくれ!」
トンネルの中へと入ると、マサシからこんな事を言われた。
このトンネルだが、取りあえずで作った事もあり進路上の樹等はそのまま取り込まれていたりする。なのでマサシが樹をなぎ倒しながら進み、俺達がそれを回収、若しくは避けながら進んでいると、前を行くマサシのスピードが少し落ちた。
「どうしたんだっ!?」
「あぁ、樹が動き出してな。まぁ、さっきまでの奴らとそう変わんねぇから問題ねぇ」
どうやら先程までの奴とは少し違うが、同じような感じで樹が動き出し襲ってきたらしい。
だが所詮は樹だし、トンネルの中に取り込まれているモノだけだからそう数は多くないので、そこまで障害にはならない様だった。
しかしだ・・・
「・・・やばいかも。トンネルが崩れそう」
多少なりとも戦闘が発生すると、周囲には余波として被害が出る。そうなると、トンネルの外側から未だ攻撃してくる先程の木のゴーレムモドキの攻撃と合わさり、トンネルの耐久度がガンガン落ちて壊れる気配がしてきた。
「マサシ!一旦ストップ!トンネルを作り直す!」
「解った!」
流石にこのままだと不味いことになりそうだったので、俺はトンネルに再び魔力を注いで作り直すことにした。
だがその時ごぶ助から待ったがかかる。
「ごぶ。一回調べ直すごぶ。・・・ごぶっ!」
何やらもう一度占い?直すという事らしく、再び謎の占いを始めた。その結果、微妙にだが方向が修正されたのだが・・・大体同じ方向が出るという事は、やはり当たっているということなのだろうか?
兎も角だ、俺が微妙に方向を変えたトンネルを新たに作ると、俺達はそちらを進み始めた。
・
・
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そうやって暫くの間、敵や微妙に侵入してくる霧や香りと戦いながら『進む』→『トンネルを作り直す』→『進む』を繰り返していると、不意にトンネルの先っぽが打ち壊される様な音が響いた。
「なんだっ!?」
「まだ見えねぇから解んねぇな。けどま、多分だが・・・本体がちけぇんだろ」
「・・・っ!」
マサシの言葉に俺は少し緊張してしまう。
だがその緊張を解き解すかの如く、ごぶ助が鞍を叩きながら声を掛けて来た。
「ごぶ。安心するごぶ。相棒は我が守るごぶ」
「・・・ああ。頼んだ」
その声で俺の緊張が少し和らいだ時、マサシが叫ぶ。
「止まれっ!・・・やっぱりか。おし、ここからは一旦攻撃が止むはずだ。だから体勢を立て直すためにゆっくりと進むぞ」
少し前に聞こえた音はやはりトンネルが壊されていたらしく、マサシが止まった先は外の景色が見えていた。・・・そう、見えていた。何時の間にか霧、そして木のゴーレムやらが消えていたのだ。
しかしマサシ曰く、以前も本体近くへと来たら一旦敵の攻撃が止んだとの事だったので、俺達はゆっくりと進む事にした。
そうやってトンネルから出てゆっくり進むと、直ぐ先に開けた広場が現れた。
「広いな・・・」
「ああ。んであれだ、あの真ん中に居んのが本体な筈だ」
その開けた広場をざっと見ていると、マサシが中央を指さしたのでそちらを見てみる。すると中心辺りに、確かに何かがいた。
「あれ・・・か・・・」
そいつは思いのほか小さく、普通の人間ほどの大きさしかない様に見えた。と言うよりは、ほぼ人間の様に見えた。
「ごぶごぶ。ヒューマンの様にも見えるけど、確かに魔物ごぶな」
「ああ」
だがしかし、決定的に人間と違う特徴がそいつにはあった。なんと肌が緑で手足が樹の様なモノで出来ている様なのだ。
「・・・ふむ。間違いなさそうだ」
念の為に『鑑定』も掛けてみたのだが、前に見たステータスがそのまま出た。数値等も以前と変わりがなかったので、確実に同一個体だろう。
しかしそれにしてもだ・・・
「俺達に気付いているだろうに、動かないな?」
グラスランドドライアドは寝ているのかと思うほどに動かなかった。マサシに聞いてみると以前もこうで、広場に足を踏み入れた瞬間動いたのだとか。
更に広場には地面に木の根が一面に広がっているのだが、広場に入るとこれが動いて襲い掛かって来るのだそうだ。
(なるほどな・・・しかしこの木の根、繋がっている筈の樹本体が見えないな。これだけびっしりと生えてるって、どういう樹なんだ?)
「ふぅむ・・・む?」
そうやって観察していたのだが、ふとなにやら視線を感じた気がしたのでそちらを見る。
「あ」
「ぁ?どうしたよ?」
「・・・見られてる」
「ぁあ?うぉ!?マジだ!」
すると、動かないと思っていた筈のグラスランドドライアドが俺達の方をジッと見ていた。マサシの話では、広場に入らないと本体は行動しないとの話だったのだが・・・
「キェェェエエエエエァァアアア!」
だがそんな事は無いとばかりに奴は叫び、広場一面の木の根がうねり襲い掛かって来た。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。文章圧縮失敗。申し訳なし!
「面白い」「続きが気になる」「キェェェエイ!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると 文が 読みやすくなりま・・・す?
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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