第216話 序盤で苦戦するわんちゃん

「クハハハハッ!た~まや~!」


「ガァ?ガガァガッ!」


「ごぶごぶ。あったかそうごぶ」


 俺が放った開幕の一撃は見事決まり、グラスランドドライアドの手足でもある森は大炎上した。


「ふぅ・・・これで大分楽になるんじゃないか?」


「まぁちぃぃっとは楽になるだろうな」


「え?」


 俺が見る限り森は火の海だ。この様子ならば本体にもダメージが入っているのではないかとも思えるのだが、そうではないのだろうか?

 だから俺はマサシの言う事が信じれずにいたのだが・・・


「ほら、見て見ろ。焼けたっつってもあんなもんよ」


「ん?・・・ん!?」


 マサシの声に今だ燃え盛る森へと視線を移すと、燃え盛る樹のその奥に未だ延々と樹々が連なっていた。

 俺の想像では向こう側でも見えるのではないかと思っていたのだが、予想以上にこの森は広い様だ。


「しかもだ、コイツの厄介な所は色々手が込んでるトコなんだヨ。そのうち・・・っと、始まったぜ?」


「・・・魔法か」


 このまま放って置いたのなら徐々に燃え広がっていくだろうと考えていたのだが、その考えは甘すぎた様で、敵は魔法を使って大地を操作し、火に土を被せて消化を行い始めた。

 そして更に魔法を使ったのだろう、半焼け状態の樹や、すっかり燃えた跡の灰が積もっている地面から新芽がピョコピョコと生え始めた。・・・このまま放って置くと元に戻るかも知れない。


「元に戻される前に攻め込むか」


「オォ、それがイイと思うゼ?」


 再生する樹々は厄介だが、随時魔法で切っていけば問題は無いだろうと思い、俺達はさっさと攻め込むことに決めた。


「うし、んじゃあマサシ、先頭よろしく!俺達は後ろから援護しながら付いて行く!」


「おうよっ!特攻は俺の得意分野だ!任せろヤ!」


 そうして特攻のマサシに先頭を任し、俺達は森へと侵入したのだが、森へ入った瞬間敵からの激しい攻撃が・・・特になかった。


「なぁ・・・全然平和なんだが・・・」


 俺は『黒風』と『レモンの入れもん』の収納機能を使い、樹々を伐採・収納しながら前を行くマサシへと問いかけた。

 マサシは俺の問いかけに、周辺を警戒しつつ応えてきた。


「平和そうに見えるだけだとおもうぜ?すでに俺らは敵さんのテリトリーの中にいるからな。それにだ、オメェがバンバン樹ぃ切ってっから、その内我慢の限界にきてブチ切れてくんじゃねぇかな・・・っと、噂をすればダナ。気ぃつけろ」


「む・・・」


 マサシが警戒を促してきたと同時に『索敵』に反応が出た。いきなり現れるとはどんな敵なのだろうとそちらを見ると・・・そこには木で出来た何かがいた。

 その何かは人間や動物、魔物と様々な姿をしていたが、『鑑定』を掛けてみた所、それらは全てが同じモノだった。



『樹魔法製造物

 ・樹魔法で作られた造物。内側には眠り胞子、麻痺胞子が内包されている。』



 どうやらそれは木で作られたゴーレムの様なモノで、グラスランドドライアドが侵入者迎撃用に出したものらしかった。


「強さ自体はそうでもねぇから大丈夫だ。けど気ぃ付けろ、下手に壊すと粉撒いてくんぞ」


 しかしマサシはこいつらとの戦いを以前にも経験していたらしくアドバイスをしてきてくれた。

 確かに鑑定結果をよく見ると『眠り胞子、麻痺胞子が内包されている』と出ているので注意が必要かもしれないのだが・・・


「任せてくれ。中の胞子毎燃やすわ」


 俺には『火魔法』があるので障害になら無さそうだった。しかもだ、こいつらは放って置くといつまでもいつまでも止まらず付いて来るそうなので、出来ればそうして欲しいとの事だった。


「了解だ。片っ端から燃やしていく!ごぶ助!俺はガンガン燃やしていくから、近づいて来た奴の防御を頼む!」


「ごぶ!任せるごぶ!」


 後々でちょっかいを出されてはたまらないので、俺はごぶ助に防御を任せ、『火魔法』や『合魔』を使った合成魔法に意識を集中させて片っ端から燃やしていった。

 そしてその間にもマサシが道を切り開いて前進していくので、着々と奥へ奥へと歩を進めて行く事が出来ていた。


「クハハハハッ!こりゃいい!かなり楽だわ!」


「ガァッ!」


 そんな様子にマサシとチャーリーはご機嫌だった。なんせ面倒くさい雑魚の処理や近くに重なっていく木々の処理まで自動的に行われるからだ。


「クハッ!クハハハッ!イイ!イイぜ!このままなら直ぐに本体まで辿り着きそうだ!」


「ガァガァッ!」


 確かにこのまま進めばすぐにでも本体に辿り着くかもしれない。しかしだ、そうは甘くないだろう。


「むっ・・・」


「ぁあ?」


「ガァ?」


「ごぶ?霧ごぶ?」


 そう思っていると、早速敵の次の手であろう事象が起こった。・・・霧が出て来たのだ。

 その霧は異常な速度で濃くなると、あっという間に俺達の視界を奪ってきた。


「やばっ・・・マサシ!一旦その場で止まってくれ!」


「おぅよ!」


 マサシとはあまり離れていなかった為直ぐに合流する事が出来たが、少し離れていたのなら危なかったかもしれないレベルに霧は濃く掛かっており、具体的に言うならば10m先も見えないと、そんな具合だった。


「オイオイ、前はこんな事してこなかったのにヨ・・・やらしい真似してくんじゃねぇの」


「え?この状態は初めてなのか?」


「ああ。こんな霧を出してくるなんて、前は使ってこなかった」


「・・・?」


 恐らくこれはグラスランドドライアドのスキル『迷いの霧』だと思うのだが、マサシはこれを初見だと言う。更にだ、俺は10m程は見えているのだが、マサシは1m先も見えないほど霧がかかっている様に見えるのだと言う。これは一体なんなのだろう?


「んん?・・・あ・・・そうか。そういう事か」


 だが少し考えたところで直ぐに答えが解った。


「魔力・・・intの差か」


 思い出すと、このスキルは『魔力で出来ている』となっていた筈だ。その為、恐らくだが魔力の値や感知するスキル等によって効き目が変わってくるのだろう。

 ・・・と、タネは解ったモノの不味いかもしれない。


「・・・マサシ、俺の後に着いて来いって言ったら着いて来れるか?」


「当たりめぇだろ?・・・と言いたい所だが、相変わらず敵も襲って来る今の状態だともしかしたら逸れるかもしれねぇな」


「だよな・・・」


 不味いのはマサシの馬鹿さ具合だ。・・・いや、イイ方が悪かった。正しくはintの低さだ。

 それというのもだ、思いっきり推察だがこの霧はintが高ければ効きが悪くなるのだが、マサシのintは低すぎて思いっきり影響を受けてしまっている。それによりマサシは敵を迎撃する事は出来るのだが、動く事が困難な状況になってしまったのだ。

 それならば俺が先頭で進む、若しくはマサシに適当に進んでもらえばいいかもしれないのだが、俺が先頭で進んだのなら先程言った様に逸れるだろうし、マサシに適当に進んでもらったのなら延々と同じところを回ることになってしまうかも知れないので、どちらの方法もとれないのだ。


「紐かなんかで縛って付いて来てもらうか・・・?」


「それをすると多分俺が紐切っちまうから、流石に今の様に楽々と迎撃は出来なくなんぞ?」


「むぅ・・・じゃあ厳しいな」


 他の案として一番簡単なモノを提示してみるが、確かにマサシが言った様な結果になり得そうなのでボツとなった。

 ならばどうするかなのだが・・・


「・・・ん?何かめっちゃいい匂いしないか?」


「ぁ?」


 打開策を考えていると、突然俺の鼻に物凄くいい匂いが漂ってきた。


「・・・クンクン・・・っは!?こっ・・・これはっ!?」


 一体何の匂いだと良く嗅いでみたのだが、俺は気づいてしまった。これは・・・エペシュの匂いである。


「そ・・・ソンナバカナッ!・・・クンクン・・・いや!違う!これはニアの匂いっ!」


「・・・何言ってんだコイツ?」


「ごぶ?」


 もう一度嗅ぎ直してみるとニアの匂いだったのだが、何故か俺の中に『その匂いをずっと嗅いでいたい』という欲求が高まって来た。いや、理性ではそんな事をしている暇はないと思ってはいるのだが、本能が訴えかけているのか全てを置いてでも実行したいと考えてしまったのだ。


「う・・・うぉぉお!ニアの・・・メスの匂いぃぃっ!」


「ごぶっ!?」


「ぁ!?おい!」


 そして辛抱がたまらなくなり、俺は一目散に駆けだそうとしたのだが・・・


「何を言っておるのじゃこの助平はっ!3年程早いのじゃっ!」


 本物がひょっこり登場し、俺に尻尾びんたをかましてきた。


「おっふっ!」


 だが超絶加減をしてくれたのかその威力はやんわりとしたもので、俺は吹き飛ばされることもなくその場に止まる事が出来た。更に・・・


「・・・スンスン・・・キ・・・キクゥ・・・っは!?俺は一体何を!?」


 そのまま尻尾の匂いを嗅いだことで、正気を取り戻した。


「・・・そうかっ!『黒風』っ!」


 そして正気を取り戻した事で先程までの奇行の原因を理解したので、俺は咄嗟に周囲に風の幕を張った。

 それにより一安心となったので、俺の事を凄い目で見て来るニアやマサシに説明をする事にした。


「いや、違うんだ。俺は無実だ!」


「「・・・」」


 明らかに何かやった風な言い方だが、絶対無実なのである。というのも、これは恐らく敵のスキル『幻惑の香り』にかかった所為なのだ。


「スキル『幻惑の香り』は獲物を誘う甘美な香りがするらしいんだっ!だからだっ!俺はやってないっ!」


 俺はスキルの効果を話し、俺が犬だから匂い系のスキルには弱いんだとか、成長期だからだとかの理由を交えて必死に説明した。

 すると最後には何とかわかってもらえたので、俺は胸を撫で下ろした。そして同時に、俺に無実の罪を擦り付けようとして来た敵への怒り、それと同時に沸いてきた少し荒い方法でこの場を脱する事に決めたので、俺は皆へと注意をした。


「ごぶ助、マサシ、チャーリー、霧と香りのスキルが厄介だから、一気に吹き飛ばす!衝撃に備えてくれっ!」


 俺は皆の返事を待たず準備を始める。


「風よ集いて収束せよ・・・収束せよ・・・収束せよっ!」


「ごぶ?ごぶっ!」


「おぉ?なんかしらねぇが了解だ」


「ガァ!」


 そして返事が来たと同時に準備が整ったので、俺は集めた風の制御を



 すると集められ圧縮された風は一気に解き放たれ・・・



『・・・ッパァァァァァァアアアンッッ!!!』



 物凄い音と共に周囲へと広がった。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 ☆や♡をもらえると 一狼が 無実になります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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