第213話 〇〇になるわんちゃん

「ヒーハー!」


「ごっぶぶー!」


「ヒャッハー!」


「ガァァウッ!」


 俺達は・・・風になった!


 ・・・


 あ、どうも、怖くないけどエグイ人面犬の一狼です。

 え?何でレベルアップやダンジョン整備を頑張っていた筈なのに、いきなり意味不明な『風になった』宣言をしているのかって?

 それは勿論・・・疲れたからですよ!


 ・・・いや、正確には、『疲れたから、偶には休み入れようぜ』となったから、だな。


「ヒャッハー!偶には良いもんだな!自分で走るツーリングってのもよォ!」


「だろ!?折角体力速度激ヤバの魔物に転生したんだから、だだっ広い草原があったら走らなけりゃ損ってもんよ!」


「ガァガウッ!」


「チャーリーも『確かに!』だってよ!」


「ごぶ!我は相棒と風になってるごぶ!」


 マサシと会ってからというもの、俺達は毎日毎日戦いをするのみだった。

 勿論それは重要な事だ。だがしかし・・・俺やごぶ助の最終目標は、あくまでだ。

 これは即ち、『2人は仲間になり、この後もずっと一緒にいる』という事なのだが、俺達は毎日毎日戦うばかりでイマイチコミュニケーションが取れていなかった。・・・いや、全く取れていなかったという訳ではないのだが。

 兎も角だ、『仲間になるのならば、もっと親密な関係になりたい』、そう思った俺は疲れていた事も相まって休む事、そして一緒に遊ぶ事を提案したのだ。


「っかし、最初は渋っちまってわりぃな。こんなに爽快な気分になるとは思ってなかったわ」


「ん?まぁ仕方ないさ。転生してからというもの気が抜けなかったんだろ?遊ぼうぜって言われて素直に同意できなかったのも当然だと思うからな」


 因みにだが、最初マサシは休む事は了承しても、遊ぼうという誘いには了承してくれなかった。

 これは魔物になってから『休む=体を回復させる』となっていたのだと思うが・・・仮にも元は人間だったのだ、休みに遊ぶくらいの余裕は入れるべきだろう。なので俺は『ゴブリンだって遊ぶために休む事もなくはないんだぞ?』とゴブリンの意外な生態を交えつつ説得し、見事遊ぶ約束を取り付けたのだ。


「しかしあれだな、今回は一緒に走る事になったけど、次からは用意しとくわ」


「ぉ?あぁ、あんがとよ。っておめぇ、犬の癖にそんなん作ったり動かしたり出来んのかヨ?」


「まぁ、スキルでチョイチョイとな」


「ホォーン。あんまし意識した事ねぇけど、スキルってそんな事も出来んだナ」


 今回は急だったので何の用意もせずに出来る事を選んだわけだが、実は最初遊ぶと決まった時にマサシは『将棋盤とかねぇか?あったら将棋しようぜ』と提案して来た。

 超意外だったがマサシは祖父の影響で将棋が好きらしく、中学でグレルまではプロ棋士が夢だったそうだ。・・・人間、外見からは解らないものであると再認識した瞬間だった。


「そういやマサシ、中学でグレタって何かあったのか?」


「ぁ?んだぁ?いきなり」


 ふと、何となくだが気になった俺はマサシに尋ねてみた。

『仲間になるのだから仲良くなりたい』『仲良くなりたいのだからマサシの事を知りたい』なんて思ったのだが、流石にぶしつけ過ぎただろうか?


「すまん、いやなら別にいいんだ。何となく気になっただけなんだ、悪かった」


「ぁ?いや、別に全然いいけどヨ。今となっちゃ過去の話・・・ってか、前世の話になんのか・・・クハ・・・クハハッ!」


 ハッキリとマサシの前世の年齢は聞いていないのだが、どうやら過去の事を笑い飛ばせるくらいには大人だったらしい。・・・DQNだが!

 ともあれ、怒ってはいなさそうだし話してくれそうな雰囲気なので聞いてみようと思ったのだが・・・


「じゃあヨ、俺に走りで勝てたら話し手やんヨ」


「へ?」


「んじゃ、ヨーイ・・・ドンだ!」


「ちょ!おい!」


「ヒャッハー!行けチャーリー!」


「ガァァッ!」


 何故か変な条件を一方的に突き付け、走って行ってしまった。

 俺は突然の事にポカーンとなっていたのだが、直ぐに背中のごぶ助が『相棒追うごぶ!』と声を掛けてくれたので正気に戻り、俺は急いでマサシ&チャーリーを追いかけた。


「クハハハハッ!こっちだゼェ?」


「ガッガァッ!」


「っちょ、ま→て↑よぉ↓」


「ごっごぶー!」


「クハハハハッ!捕まえて見ろヨ!」


 途中で何故か『砂浜で戯れる恋人風』になんかなったりもしたが、俺達は大いに草原を駆けまわり、凄く楽しい時間を過ごした。


 ・

 ・

 ・


「なぁマサシ、家寄ってかないか?今日親いないんだ。まぁゴブリンやコボルトはいるんだが」


「ぁ?」


 俺達が遊んでいた場所はポンコダンジョンの入口もある『活性中』エリアだったので、丁度いいからとマサシをレモン空間へと招待する事にした。・・・いや、いつでもどこでも中間ダンジョンを作り招けるが、丁度イイのだ。多分。

 そんなこんなで『寄ってけよ』と説得した俺は、マサシ&チャーリーをレモン空間へと招くことにした。


「まぁ入口はここだけじゃないんだが、ここから入ろう。どうぞー」


「おう」


「ガァッ」


 ポンコダンジョンの入口の近くに作ったレモン空間への繋がる道を通り、俺達は皆が済む空間へと移動した。

 最初レモン空間の空等を見てビビッていたマサシ&チャーリーだったが、再び不意に出て来たニアに諭され平常心を取り戻したので、俺は一応この空間の説明をしておく。


「説明しておくの忘れたが、ここって俺のユニークスキルで作られてる空間なんだよ。だから普通のダンジョンともまた違うんだ。すまんすまん」


「お・・・おぉ・・・まぁいいけどヨ・・・。っかし、何で姐さんがオメェにくっ付いてるのが、何となく解った気がしたワ」


「といっても、完全に偶然の産物だけどな。ニアがいるのも、ここの空間も」


 説明が終わったところで、俺は食堂兼集会場兼自宅へとマサシ&チャリ―を招いた。ココの作りは比較的大きい俺やニアも通れているので、同じくらいデカイマサシ&チャーリーでも通れるだろう。


「ごぶ?おかえりごぶ。ご飯食べるごぶ?」


「ただいまごぶ蔵。ああ、頼むわ。えーっと・・・5人前、全部大盛で」


「うけたまわりーごぶ」


 食堂へと入るとごぶ蔵が居たのでご飯を注文し、俺達はそれを食べ始める。


「・・・ウメェ・・・」


「・・・ガ・・・ガァッ・・・」


「っふ。ウチのシェフ、料理の腕だけは最高だからな。他はイカレテルが」


 俺達は雑談を交えつつ料理に舌鼓を打つ。

 そうしていると長老が帰って来たようなので、一応紹介をしておく事にした。


「お帰り長老」


「ゴブ。ただいま戻りましたゴブ」


「長老、こちらマサシとチャーリー。マサシ、こちらは長老」


「ゴブ?よろしくお願いしますゴブ」


「ぉ?お・・・おぉ・・・宜しくッス・・・」


「ガァ」


 マサシは祖父が大好きだったのと硬派なオールドヤンキーだったのもあって老人には弱いみたいで、長老には礼儀正しかった。・・・といっても、見た目そこまで老けてないし、年齢もそこまでいっていないんだがな長老。

 それはさておきだ、俺は2人にもう少し詳しい紹介をしてみる。


「マサシとチャーリーは俺とごぶ助が最近一緒に狩りをしている奴らだ」


「ゴブ。話は聞いていましたゴブ。マサシとチャーリー、一狼様をお助け下さりありがとうゴブ」


「イイんスヨ。こっちも助かってますんで。それに・・・・」


 そうやって話していると、どうやらゴブリン達やコボルト達の帰宅の時間になっていた様で、食堂には続々とゴブリン達やコボルト達が入って来た。


「お腹減った・・・あ、一狼、ただいま」


「お、お帰りエペシュ」


 その中にはエペシュもいたので、彼女にも一応だがマサシ&チャーリーを紹介しておく。


「エペシュ、こちらマサシとチャーリー。名前は知ってるよな?」


「うん」


「マサシにチャーリー、こちらエペ・・・っは!?」


 俺はマサシ&チャーリーにエペシュを紹介したのだが、途中である事に気付いてしまった。


(不味い・・・エペシュたんは超絶ウルトラハイパー美少女の女神だ!マサシが惚れてしまうかもしれん!)


 皆が知っての通り、エペシュは女神である(by一狼の脳内調べ)。

 なのでそんな女神にマサシが惚れ、求婚して玉砕、自棄になって暴れるかもしれない。

 俺は最悪マサシの頭を冷やす為、このレモン空間にマサシ&チャーリーを隔離してしまおうかとも考えた。


 が・・・


「ぁ?エペ?」


「私はエペシュ。よろしく」


「おう。俺はマサシ。んでこっちはチャーリーだ。ヨロシクナお嬢ちゃん」


「ガァ!」


「うん」


(おろ・・・?)


 特にマサシはエペシュに興味を示した様子はなさそうで、挨拶を終えるとエペシュから視線を外し、長老やごぶ助らと会話をし始めた。


(・・・遺憾である)


 宇宙一可愛いエペシュから直ぐに興味を無くすなんて大変遺憾である。・・・だが許そう。


(きっとマサシは特殊性癖なんだろう。トカゲ娘とかじゃないと駄目だとか、はたまた男が良いとか)


 人の性癖は千差万別である、その為意見するのはご法度なのである。

 違いが判る紳士の俺はマサシへと頷き、それ以上は追及しないようにしてからエペシュへと話しかけた。


「マサシ達は前から言ってた、あれだ。そのうち仲間になる筈の・・・」


「あ、この人たちがそうなんだ」


「ああ。・・・って、あ、そうだ」


「?」


 俺はエペシュと話し始めた際、ある事を思い出したので彼女へと頼むことにした。


「実はさ、木である物を作りたいんだけど後で相談に乗ってくれない?将棋盤と駒って言うんだけど・・・」


 エペシュへと頼みたい事とは将棋盤と駒の作成に関するアドバイスだ。

 これは後日マサシと遊ぶために作っておきたいのだが、俺は物は知っているとはいえ作った事等は無い。その点、エペシュは物は知らないだろうが、木で何かを作るのは得意な筈だ。


「どんなの?」


「えっと、簡単に言うと板と小さい長方形っぽいのなんだけど・・・」


 後でいいと言ったのだが、エペシュは早速俺から情報を聞き始めた。俺としても別に後じゃなきゃ駄目でもないので教え始める。


「将棋盤の方は出来るなら厚みを持たせて・・・・」


「ふんふん・・・」


「ぉ?将棋盤の事か?」


 俺達が話している内容が聞こえて興味をそそられたのか、マサシが話しかけてきた。正直俺よりもマサシの方が詳しそうなので、そのままマサシにも話に加わってもらい、話し始める。


「んでよ、駒の方は・・・・・」


「ふんふん・・・」


 そうして話しているとやはり気になったのだろう、マサシがどうやってその体で作るのかを尋ねて来た。

 別に勿体ぶって隠す事もないので、俺はその方法を教えてやることにする。


「ふっふっふ・・・実はなマサシ、俺・・・人面犬なんだ」


「ぁ?どうしたよ?頭打ったんか?」


「いやいや、ネタに聞こえるかもしれないけどマジなんだよ」


 俺が人面犬になった経緯などは長くなる為、後で時間がある時に話してやると約束して続きを話す。


「んでだ、この人面犬の種族特性って言うのかな?人に化けれるスキルがあるんだ。で、それを使って作るって訳よ」


「ホォーン・・・。なんかオメェ・・・色々とスゲェな・・・」


 レモン空間の事もあったからかマサシはどこか遠くを見るような目をしてこちらを見て来たが、俺からするとマサシも色々凄いので、俺はその一番すごいフランスパンみたいなを見ながら口を開いた。


「いや、お前も凄いと・・・っは!?」


「ぁ?」


 俺はついつい『いや、お前も凄いと思うよ。その頭』と言ってしまう所だったのをギリギリで踏みとどまった。

 しかしかなり不自然になってしまい、マサシは胡乱な目でこちらを見ていた。


「いや、あれだ。マジで凄いぜ変身、うん。見てみるか?」


「ぁ?・・・おお、見せてくれや」


 なので俺はそれを誤魔化す為、目の前で『シェイプシフト』を見せてやることにした。・・・とは言えだ、顔の皮を見せるとショッキングかもしれないので、俺は後ろを向き見えない様にこっそりと皮を出し装着する。


「いくぞー?」


「おう」


「『シェイプシフト』」


 俺がスキルを使用すると、頭の上に乗せた皮が俺の顔と同化し始める。


『・・・ニチィ・・・ギュゥモォォ・・・ギュゴゴゴ・・・』


「うっおっ・・・んだそりゃ・・・」


 同化した皮が、首へ・・・胸へ・・・と浸食する様に広がっていくのを見てマサシが声を漏らしたが、そんな事を言われてもどうしようもできない為そのまま待つ。


『・・・ギュゴゴ・・・ギチィィィッ・・・ギュゥゥゥ・・・』


「うぉぉ・・・」


「・・・」


 暫く待っていると変身が終わり、俺の姿は時々変身しているエルフのものへと変わった。

 俺は手を握ったり開いたりして調子を確かめ、問題が無かったのでマサシへと振り返った。


「ま、こんな感じなんだが・・・どうよ?」


「・・・」


 マサシに背中を見せて変身していたので彼の表情は見えていなかったが、恐らくあの感じからすると『予想以上にキモかった』等と言われるかも知れない。

 そうなるとちょっとショックだなーと思いつつマサシの顔を見ると、何故か彼は凄く真剣な顔つきをしていた。


「どうしたんだマサシ?」


「なぁ・・・おい・・・一狼・・・」


「ん?」


 マサシはその真剣な表情のまま俺にズズイと近寄ってくる。『一体何をそんなに・・・』なんて身構えていると・・・彼はとてつもない事を口走った。



「惚れた・・・俺の女になってくれ」


「・・・え?」



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「え?メスになるわんちゃん?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 一狼が 雄でありメスになります(意味深。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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