第206話 草原の探索者達

 ≪ある転生者視点≫


「今日も頑張ろうぜシューヤ」


「ああ・・・けど勘弁してほしいよ、こんな場所へ派遣だなんて」


「まぁここいらって信仰が未熟らしいからな、布教には丁度イイってのは解るから、頑張ろうぜ?」


「・・・そうだね」


 僕は友達でもあるトマスの言葉に心にもない返答をした。

 だがそれも仕方がないと思う。なんせ僕はトマスの様に宗教がどうの、神様がこうのなんて考えはこれっぽっちもないからだ。


(はぁ・・・これさえなければまぁまぁいい生活なんだけどね・・・)


 周りにいるトマスや僕達と同じ様にこの草原へと派遣されて来た人達、これらの全員は宗教国家とも呼べるある国から派遣されて来た者だ。これらの人は宗教国家に属しているだけあり、1に神様、2に教え、3・4がなくて、5に上位役職とかなりイカレた思考の人々である。・・・1に何々だとか言うのは適当なので気にしないでくれると助かる。

 と、兎も角だ、いきなりこんな国に属さなければならなかった僕は、今だこの人たちに馴染めないでいた。


(本当に初期スポーンがガチャすぎる・・・)


 この様に、この人たちにとって異端な僕なのだが、実は転生者だったりする。

 その事を詳しい説明を省いて少々簡単に語ると・・・ある時突然死んだ僕達は神様にこの世界に転生させてもらった。その際生き延びるために少々の力と、いきなり現れた僕達が不審人物にならない様にこの世界での経歴を与えてもらったんだけど・・・これが全てランダムだった。

 このランダムでの経歴は神様曰く、『外れだと孤児だったりする。だけど奴隷何かはないから安心しろ』だそう。


(だからまぁ・・・僕の経歴は外れではないんだけどさ。でもいきなり宗教国家に放り出されて『神様って最高だよね?』とかいわれても・・・)


 前世でも僕は特に信心深い人間でもなく、転生時に神様に合った時だって『うわぁ・・・漫画みたい』くらいの感想しか抱かなかった人間なので、この状況は居心地が微妙だ。

 まぁでも、普通に接する分には皆良い人なので、そこだけは救いだったりする。


 それに・・・


「おはようシューヤ。今日も頑張ろうね?」


「おはようミラ。うん、頑張ろう」


「オイオイ、ミレイラさん、俺にはぁ?」


「え?ああ、うん。おはようトマス君」


「かぁ~・・・相変わらずシューヤとの扱いに差を感じるぜ!俺もこんな美少女幼馴染ほしかったわ~っ!」


「あ・・・扱いの差があるのはシューヤが部隊長でもあるからだよ。ねっ?シューヤ」


「え・・・そうなんだ・・・」


「え!?ちがっ・・・あっ!もう!」


 それにだ、何処を如何したらこんな美少女が幼馴染になるのかは全く不明だが、僕には幼馴染のミラという最高の当たりが付いていた。いや、一応与えられた経歴の記憶?みたいなものもインプットされたので解るのだが・・・解らない!


(前世では女の子にガッツリ行くなんて出来なかったのに!何で自分から仲良くしに行く事が出来ているんだ今世の僕っ!)


 他人事の様に今世の自分に突っ込んでいる訳だが、これには先程言った『経歴を与えられた』という事が関係してきたりする。

 これは本当に読んで字のごとくで、僕は死んだ時の年齢が17歳だったのだが、転生後も17歳だった。これを聞くと『あれ?転生じゃなくて転移?』と思うかもしれないが、僕は『17年間の経歴を与えられて』生まれ変わったのだ。

 ・・・ん?さっぱり解らない?ならもうちょっと解りやすく・・・なるのかは不明だが言い直すと、『歴史に17年間をねじ込み、それを与えられた』のだ。・・・神様すげぇ。

 とまぁこの様な訳で、僕は0~17歳の自分は何処か他人事のように思えてしまうのだ。


(まぁでも害はないからいいか。ラッキーだと思って享受しておこうっと)


「シューヤ!そろそろ出発しないと!大隊長に怒られちゃうよ!もう他のメンバーは揃ってるんだからっ!」


 色々ボケっと考えている間に、どうやら僕の部隊のメンバーは既に準備を終え集合していたらしく、ミラがそれを忠告して来た。

 僕としても大隊長にどやされるのは嫌だったので慌ててメンバーの元へと向かい、今日の探索を開始する事にした。


 ・

 ・

 ・


「・・・ふぅ、戦闘終了っと。各自被害状況や装備の損耗状態を報告してくれっ!」


「・・・片腕が折れてる。あと肋骨と右足の痛みが酷い」


「こっちは矢の損耗が酷いです!3分の1は使いました!」


「魔力は・・・・・」


 探索部隊に課せられた命令である『魔物の討伐』は、順調に進んでいた。


「トマス君、治すね」


「ありがと・・・ミレイラさん・・・あだだ!」


 この様に、トマスが片腕折れたとは言っているが、腕が千切れたとかでもなければ治せるので順調である。


「トマス以外は怪我も大丈夫そうだから、魔物の後処理をしよう。それが終わったら少し移動して休憩に入る」


「「「了解」」」


 サクサクと事を進めないと危険なので、動ける部隊のメンバーに指示をして魔物の使えそうな部位の採取を始める。少々面倒な作業だが、これが討伐の証・・・ひいては給料になってくるので採取は必須だ。

 そしてそれを終えると丁度イイ時間だったので、僕達は魔物の死骸から離れた場所まで移動すると背を向けながら円陣を組んで腰を下ろす。


「15分ほど休憩!だけどちゃんと警戒はする様に!」


 僕は指示を出した後、部隊長に配られている魔法の収納袋から水筒や軽食を取り出し全員に配ると、それを食べ始めたのだが、その際僕の横に座っていたトマスが喋りかけて来た。


「なぁシューヤ」


「ん?」


 警戒を怠らなければ特にお喋りを咎める気もなかったので、僕は彼に返事をする。


「そういやさ、別の大陸からこっちへ派遣されていた方の事って見たことあるか?」


「あー・・・あの超越者だとかいう人?」


「ああ」


 トマスが言っているのは、僕がいる宗教国家で超越者と呼ばれる人物・・・らしい。正直『超越者ってなに!?中二なの!?』と突っ込みたい所だがどうやらかなり偉い人らしく、そんな事を言おうものならボコボコにされる事は確実だろう。


「見た事ないかな」


「実はさ、今回のこの探索に後から加わってくれるらしいぜ?」


「へぇ?・・・あれ?ウチの国にも超越者の人っていたよね?その人は?」


「ベンサム様か?ベンサム様は他国へと会議に出かけるらしいから来ないと思う」


 ウチの国とか、別の大陸とか言っていると思うが・・・どうやらウチの国は姉妹国とでもいうのだろうか?一緒の名前の国が5つの大陸に1つずつあるらしい。

 そして今回来た超越者の人というのが僕達の居る東大陸ではなく、西大陸から来た人だという話だったのだが、その人が何故今回の探索に・・・?


「何で今回の探索に超越者の人が来るんだろう?」


「そこまでは知らないなぁ」


「何の話?」


 そうやってトマスと喋っていると、彼と逆隣りに座っていたミラも僕達の会話に参加して来たので、トマスと喋っていた事を教えてあげる。

 するとミラは件の超越者の事を見たことがあったみたいで、どんな人かを話してきた。


「直接会話させては貰ってないんだけど、かなり気さくな方だったかな?それととても華やかな出で立ちをしていたの。ベンサム様とはまた違った感じのお方だったわ」


「へぇ・・・」


「まぁベンサム様は質実剛健って感じのお方だからな。しかし華やかな感じか・・・見てみたいな・・・」


「うん。とっても素敵なお方だったから、ぜひ帰る前に見ておいた方がいいかも。それにもしかしたら会話もしてくれるかも・・・」


 ミラはその超越者の事を、まるで推しのアイドルかの様にうっとりとしながら喋っていた。

 そんなミラの様子を見て、僕は少し気持ちがざわついてしまう。


 そんな僕の様子に気付いたのだろう、トマスは『そろそろ時間じゃないか?』と休憩の終わりを告げ、見事トリップ中のミラの妄想を阻止した。


「そうだね、そろそろ出発しようか。・・・休憩終わりっ!各自装備の再点検などを!」


 少しだけ早いかも知れないがミラがまた妄想してトリップしては堪らないと考えた僕はそれを了承し、皆へと出発前の点検を促す。

 そしてそれが終わると再び探索開始だ。


 そうして再び歩き始めた後、僕はトマスにこっそりと礼を言った。


「ありがとトマス」


「いいってことよ。まぁ相手が超越者様でも、意中の人が『素敵・・・』とか言ってるのは聞きたくないもんな」


「まぁ・・・うん」


 本当は超越者だろうが何だろうがどうでもいいのだが、それを言うとアレなので僕は頷いておく。

 するとトマスはうんうんと頷き返して来た・・・かと思ったら、周りをキョロキョロしつつ殊更声を潜めながら僕に囁いて来た。


「しかしシューヤ、マジでこの派遣が終わるまでに覚悟決めろよ?」


「う・・・うん。解ってるよ」


「ほんとかよ・・・」


 トマスはヒッソリと、かつオーバーにという謎の動きを持って僕に飽きれたとジェスチャーして来る。

 しかしそれも仕方がないのかもしれない。なんせ彼は僕が『告白するする詐欺』繰り返している事を知っているからだ。


「本当に今回は本気だから・・・。僕、この派遣が終わるまでにはミラに告白するから・・・」


「したら勝ち確なんだからさ・・・マジでがんばれよ?」


「うん・・・」


 恐らく相手も満更ではないと思うのだが、前世で全く女っ気が無かった僕は、17歳から2年経った現在まで幼馴染の美少女ミラに対しアプローチ出来ないでいた。ある意味恵まれた経歴を貰ってはいたのだが、こればかりはどうにもならないのだ。


(どうせなら恋人になったという経歴をつけていてほしかった・・・)


 女々しいかも知れないが、本当にこればかりは神様へと文句をつけたい所業である。


(はぁ・・・けど頑張ろ・・・。今世こそ彼女持ちになるんだっ!絶対この派遣が終わるまでに告白するっ!・・・っと!)


「警戒っ!」


 そんな風に少しピンク色の妄想をしていたのだが、僕は何かの気配を察知し、部隊へと警告の声を飛ばす。



 こうして僕の密かな野望を抱えた探索は続き、やがて・・・



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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