第194話 噛みしめるわんちゃん

 そいつは前に見た時と姿や体の大きさが変わっていて、全く知らない者からすると、『え?同一人物?』と言われてしまうかもしれない程の変化をしていた。

 しかしその顔には昔の愛嬌あった頃の面影も何処か残っており、目の前の者が俺の知っている者だと思わせる。


「・・・」


「・・・」


 何より俺が目の前にいるのがずっと会いたがっていたあいつだと確信できるのは、昔から偶に感じた、俺達の間にある奇妙な繋がりだった。

 面と向かうまでは朧げに感じる程度だったそれは今ならハッキリと感じられ、『引き寄せられていたように感じられたのはこれだったのか』と、納得出来てしまっていた。


「・・・」


「・・・」


 そしてそいつも俺に対して何かを感じているのだろう。体を少し震えさせながら、一歩、また一歩と俺に近づいて来た。


「・・・」


「・・・」


 それに対し、俺も一歩、また一歩とそいつへと近づく。

 やがて両者の距離が1m程まで近づいた時、漸く俺は声を出しそいつへと語りかけた。


「・・・待たせたな」


 声を掛けられたそいつは声を出さぬまま首を横に振ろうとしたようだったが途中で止め、更に縦に振ろうとしたのも止めた。

 そして結局そいつは無言で俺に近づき・・・そのまま抱きしめて来た。


「ようやく会えたな・・・ごぶ助」


「・・・ごぶ。無事にあえて良かったごぶ一狼」



 俺は抱きしめて来たごぶ助と言葉を交わし、暫くそのままの状態で、ようやく念願叶った再開を噛みしめた。


 ・

 ・

 ・


 どれくらいそうしていただろうか・・・短い様な長い様な抱擁を終え、ごぶ助は俺の体を放し、話しやすい位置まで下がり声を掛けて来た。


「ごぶ・・・色々聞きたい事とか話したい事はあるごぶ。でも相棒、先ずは一杯増えた仲間ごぶ?紹介してほしいごぶ」


「ああ、そうだな・・・詳しい紹介は後々他の面々もいる時にしようと思うから、軽くだけするな?」


「ごぶ」


 俺としても色々話したい事はあるのだが、こんな何もない草原で話し込むのもアレだと思い、先ずはごぶ助の言う通り簡単に紹介する事にした。


「えっと・・・出会った経緯とかは後で話すとして・・・って、そうすると名前を教えることになるんだが、全員に名前が無いんだよな・・・。まぁある奴だけ教えると・・・」


 普通人間同士だと『名前』と『関係性』又は『役職』何かを紹介すると思うのだが、魔物同士(1名だけエルフ)だと紹介が難しい。

 なので名前のある長老やごぶ蔵、エペシュだけを紹介し、それが終わると逆に長老達へとごぶ助の名前を紹介しておく。


「まぁ名前のないゴブリン達やウルフ達に関しては、ごぶ助の方が慣れていると思うからよろしくやってくれ」


「ごぶ。逆に名前がある方が珍しいごぶ」


「だよな。あ、後1人紹介する人・・・人じゃねぇか、犬?魔物?がいるわ。えっと・・・どこに・・・」


「うん?妾の事かえ?」


「・・・ごっ・・・ごぶっっ!?」


 ニアの事も紹介しなきゃなと思い彼女の事を探すと、いつも通りと言うか、『ニュッ』と何処からかいきなり姿を現したのだが、その瞬間ごぶ助が瞬時に臨戦態勢へと移行した。


「どっ・・・どうしたごぶ助っ!?」


「ご・・・ごぶぶぶ・・・」


「・・・あ」


 唸るごぶ助に何事かと思っていると、『ニア初見です。の奴はこうなるじゃないか』ということをハッと思い出し、ごぶ助へと大丈夫だと言い聞かせて宥めに掛かった。


「ごぶ?ごぶごぶ。よろしくごぶ」


「うむ。よろしく頼むのじゃ」


 ごぶ助は最初こそ物凄く警戒していたが、俺が大丈夫だと言うとコロッと態度を豹変させて挨拶をし始めた。・・・久しぶりに見たが、相変わらずのごぶ助クオリティーである。


「この怖いもの知らずと言うかなんというか・・・ごぶ助って感じだわ。っと、紹介も終わった事だし、先ずは移動をしたいんだが・・・」


 実家に帰って来たような安心感を感じたが、こんな草原のど真ん中が実家であっていいはずがない。

 俺はごぶ助へと『ポンコ』ダンジョンへと移動しようと提案をし、そちらで色々話をしようじゃないかと促した。


「ごぶ。確かにそうごぶ。食料もぼちぼち集まったし、帰るごぶ」


 ごぶ助はそれを了承し、俺達を率いて移動しようとした・・・のだが一旦それを引き留め、俺は少し離れた位置に待機させている者達を連れて来るから待ってくれと頼んだ。

 俺はそう言った後直ぐに待機していた面々を迎えに行き、ごぶ助の元へと戻ると待機した面々にもごぶ助の事を説明し、それを終えると移動を開始しようとした。


「よし、今度こそ移動を・・・ってごぶ助だけ徒歩になるけど大丈夫か?」


「ごぶ?多分大丈夫ごぶ」


 俺は勿論の事ながら、長老達が足にしているウルフ達はゴブリンよりも移動能力が優れている。

 なので良かったら俺の背中にエペシュと相乗りでもしてもらおうかと思ったのだが、ごぶ助は大丈夫だと言ってから『走るごぶ』と呟いたかと思うと・・・ごぶ助はロケットの如く凄いスピードでスタートをかました。


「ちょ!?はやっ!?」


「「「ごぶっ!?」」」


「「「グルッ!?」」」


 そのスピードに俺達は面食らい、慌ててごぶ助の後を追った。


「・・・ちょっとごぶ助、もうちょっとだけスピード落としてくれ」


「・・・ごぶ?あ、ごめんごぶ。気分が良いから足が良く動くごぶ」


 そしてごぶ助の後を追ったはいいが、俺以外は徐々にごぶ助から引き離されかけていた。なので俺はごぶ助へともう少しゆっくり走る様に頼み、それで漸くウルフ達が追いついて来た。


「すまんなごぶ助。・・・にしても、凄い速さだな」


「私より早いかも」


「ごぶ。まぁ?鍛えた成果ごぶ?」


 まとまって走り出してから俺達には余裕があった為、ごぶ助へと話しかけたのだが・・・鍛えられたというごぶ助はどや顔をかましてきた。

『そんなどや顔する程鍛えたのか』と俺は気になり、ごぶ助のステータスはどんなものなのかと確認してみる事にした。


「ごぶ助、ステータス見ていいか?」


「ごぶ!いいごぶ!」



 名前:ごぶ助

 種族:ゴブリンオリジン・覇種

 年齢:4

 レベル:18

 str:1519

 vit:1205

 agi:1282

 dex:1158

 int:863

 luk:1003

 スキル:パワーアタック 覇王剣術 アイテムボックス 一点集中 調合 武具同調 チャネリング 察知 精霊術 オーラブレード

 ユニークスキル:覇王

 称号:ダンジョン1階層突破 特殊進化体 世界樹の同調者 迷宮『ポンコ』の守護者 覇王(仮)



「ぶっふぉっ!?」



 俺はあまりにもぶっ飛んでいたそのステータスに、思いっきり咽てしまった。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ご・・・ご・・・ご・・・ごぶ助だぁぁぁ~!?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ助が てへぺろします。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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