第193話 続々と出会うわんちゃん

 それはここに来てから続けている、方向を決めてひたすら真っ直ぐ進む探索をしている時の事だった。


「着いた初日と2日で3方向、んで今日で4方向目か。これで何もなけりゃどうするかなぁ・・・」


「そしたら何かあるまでひたすら進むしかないんじゃない?」


「それしかないか・・・ごぶ助達が解りやすい目印でも付けておいてくれたら良かったんだが・・・」


「でもそうすると、関係ないモノまで呼び寄せちゃって危ないだろうからやらないんじゃない?」


「デスヨネー」


 背中に乗っているエペシュと『明日からどうしよう』なんて話していた・・・その時だった。


「・・・ん?」


 スキル『索敵』に反応があったのだ。

 俺はそれを直ぐに周りにいる皆へと伝えて一度立ち止まり、現在位置と進んでいる方向を覚えておくため数組のゴブリンとウルフをその場に残し、残りの者を連れて反応がある方向へと向かった。


 そして少し進んだ後・・・ついに遭遇したのだ。



「お・・・お前は・・・!」



 そいつは草原に生える短い草へと紛れる様、ひっそりと佇んでいた。

 その姿は毛が全身を覆い、俺達から見たフォルムはまん丸だった。それは正に・・・



「・・・マリモ?」



 そう、それは一見するとマリモと言いたくなるような姿だった。



「・・・はぁ」


 俺はマリモを見てため息を吐いてしまったのだが、許してほしい。なんせごぶ助達がこの辺りに居ると解っていた中での生物の反応だったのだ。『まさか!』と思って期待してしまったのは悪くないだろう?


「で・・・お前は何なんだ?」


 だが違うと解ったのならその正体を探るべきだろうと思い、俺は警戒をしながらそいつへと問いかけてみる。

 しかし当然と言っていいのか、答えは帰ってこなかった。


「まぁそうだよな・・・。因みに長老かエペシュはこいつを見た事は?」


「ないですゴブ」


「ない。森にもこんなのが居たって言うのは聞いたことがない」


 もしかしてと思い長老とエペシュに聞いてみると、やはり知らないらしい。それどころか、森の中の事を良く知っているであろうエペシュが聞いたことがないと言うので、少なくとも森にいるようなモノではないのだろう。

 となるとだ、後は『鑑定』を掛けるか、それともニアにでも聞いてみるしかないのだが・・・


(まぁニアに聞くにしても、先ずは『鑑定』で見ておいた方が無難だな。というか『鑑定』で調べるだけでも十分かもしれんな。ということでっと・・・)



 名前:

 種族:草原魔毬藻

 年齢:0

 レベル:1

 str:3

 vit:15

 agi:6

 dex:5

 int:1

 luk:13

 スキル:エーテル活性

 ユニークスキル: 

 称号:草原の再生屋



「ふむ?」


 俺達が近くにいるにも関わらずのんびりと佇むマリモ、その鑑定結果はスライム並に弱かった。

 なので鑑定結果を周りの皆へも知らせて警戒を緩め、もう少し近寄って様子を見る事にした。


「・・・」


 マリモは俺達が近寄っても我関せずといった具合で、こちらへと敵対する様子はなさそうだった。

 しかしだ、万が一という事も有り得るので、マリモが持っているスキルも鑑定しておく事にした。



『スキル:エーテル活性

 ・エーテルを活性化させ、弱ったエーテルを強化させる。既に満たされた状態のエーテルは強化不可』



「うむ、解らん。・・・けど危ない物でもなさそうだな」


「なにが?」


 スキルを鑑定したモノの、『エーテル』という謎キーワードが出て来てわけわかめだった。

 そしてその呟きを拾ったのかエペシュが訪ねてきたので、俺は謎スキルの事を話してみる。


 するとだ・・・何とエペシュさん、『エーテル』という謎キーワードの事を知っていらっしゃった。


「『エーテル』はね、存在の活力だよ」


 うむ!解らん!


「すまん、もっと優しく教えてくれ・・・イマイチ解らん・・・」


「ん~・・・簡単に言えば『元気』かな。私達はエーテル・・・つまり元気が満ちているから存分に動ける、みたいな?」


「ふむ・・・」


 エペシュが解りやすい様簡単に説明してくれた事を頭の中で整理してみたが、要するにエーテルとは、その存在の『電池』みたいなものではないだろうか。


(あれば存分に動けて、なければ動けない・・・又は動きづらくなる。そして『存在』の活力という位だから、動物や人、俺達魔物だけでなく植物や大地にも存在する?)


 自分の中で建てた仮説をエペシュへと言ってみると、『大体そんな感じ』という答えが返って来た。

 そんな風に大体自分の中で答えが固まり、いよいよこのマリモが危ない存在ではないと確信した時、俺達の様子を見ていたニアが口を開いた。


「その魔物は無害・・・どころか有益な魔物なのじゃ」


「へぇ?そうなのか?」


「うむ。この草原はの・・・・・・」


 そこからニアがこの草原の事を教えてくれたのだが、それによるとこの草原は少し変わった場所らしく、大地の力が『充足』『衰退』『活性中』と3つのエリアに分かれているらしい。

 大地の力とは何ぞやという話だが、これが所謂『エーテル』に関係して来るらしく、一見普通に見えるこの草原は『活性中』・・・『エーテル』が少ないらしく、普通に見える草や土に力がなく、草食動物がここら辺の草を食べても栄養にならないとの事だ。

 ちなみにこのエリアは名前の通り一定の周期でローテーションしていくので、この草原に暮らす者達はそれに合わせて生活するエリアもローテーションさせていくらしい。


「成程」


「それでその魔物が有益と言ったのは正にそのスキルによるモノじゃ」


 ここまで教えられて流石の俺もピンと来た。

 つまりだ、こいつらが『エーテル活性』スキルを使う事でこのエリアは『エーテル』が活性し、いずれこの力が無い大地が力満ち溢れる地になるのであろう。


「・・・ん?つまりこいつらはこの草原にとってメッチャ重要な魔物って事か?」


「うむ」


「・・・ってことは、こいつらに手を出すと不味い?」


「いや、そうでもないのじゃ。流石に妾クラスの者が本気を出して狩るのなら別じゃが、普通に減らしたところで大した影響はでない筈なのじゃ。こいつらは次から次に生まれて来る筈じゃからの」


 ニアは一応の補足として、大地を再生させるキモとなるこのマリモは『活性中』エリアに残る者の非常食ともなると教えてくれた。なので今ここでコイツを倒しても問題は無いらしい。


「ごぶ蔵、確か今って結構食料の保存状態やばかったよな?」


「ごぶ。ちょっと前の宴で食べきる勢いで使ったからやばいごぶ」


 レモン空間内でも食料の栽培はしているが、それだけでは心もとないと思った俺達は、そのマリモを狩っていく事に決めた。

 ニアに再度確認しても『見つけた先から狩っていっても問題ないじゃろう』と言っていたので、ごぶ蔵に頼んで遠慮なくしめてもらい、それが終わると残してきた者達の元へと帰る事にした。


 残してきた者達と合流し、あった事を話し終えると俺達は再び走り出した。


「ちょっと時間使っちゃったな・・・」


「でも食料確保大事だし、いいんじゃない?」


「まぁそれもそうだが・・・って、また反応があるな」


 この数日ピクリとも反応しなかった『索敵』だが、何故か今日になってまた反応を示した。

 しかも今回は、複数の反応を示していた。


「ん~・・・食料確保は大事だが、これ以上寄り道するのも・・・」


 食糧事情が心もとないのも事実ではあるが、今はごぶ助達の探索中である。しかも最悪ダンジョンの機能を使い食べ物を生成する事も不可能ではないため、一々マリモを狩る為に寄り道する事は躊躇われた。

 その様にどうしようかと躊躇していたのだが、俺はふと、何とも言えない感覚を覚えた。


 それは何と言っていいのか解らない感覚だったが、何故か俺はそこへ行かなければいけないと・・・強く感じた。


「・・・ちょいストップ」


 俺は一度皆を止め、先程と同じ様に数組のゴブリンとウルフをその場に残し、奇妙な感覚を覚えたその場所へ・・・その反応へと向かう事にした。


 残るゴブリン達に直ぐに戻ると言った後、俺達は走り出した。


「・・・」


「一狼、皆離れていってるよ?」


「あ・・・あぁ。すまん」


 魅かれるようなその反応に、俺は無意識にスピードを出し一刻も早くその場所へと向かおうとしていた。

 しかしエペシュに諭され、離れ気味になった仲間達を待ち合流し、その後は本能を抑え込み皆と速度を合わせる。


 そしてようやくその場所へと辿り着いた時、俺は何故そこまで魅かれていたのかを漸く理解した。



 何故ならそこには・・・



「・・・っ!?」


「・・・っ!?」



 ずっと会いたかった、あいつがいたからだ。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 ☆や♡をもらえると 一狼が ペロリます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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