第5章

第192話 到達したわんちゃん

 爽やかな風が吹く緑の草原。


 つい10分程前と違う光景に、誰しもが口を噤んで珍しそうに広大な草原を見渡していた。


「森から魔境地帯へ行く時にも草原は通ったけど、あれとは全然違うね」


「そうか?・・・そうかも?」


「儂等はこんな光景初めて見ますゴブ」


「「「ごぶごぶ!」」」


「長老達は大体レモン空間に入っていたもんな。・・・っと、そろそろ戦闘員以外はレモン空間へ戻ってくれ。流石に草原のど真ん中にゴブリンの一団がいつまでも屯ってちゃやばいわ」


 俺はそう言って戦闘員である長老やゴブリンA達以外の、『外が見たいごぶ!』と言って興味心半分開放感半分で付いて来た者達をレモン空間へと返した。


「いやしかし・・・やっと来た!って感じだわ・・・」


「ゴブ。無事に大陸移動が出来て何よりですゴブ」


「ああ」


 現在俺達が要る草原、ここは今まで俺達が居た魔境地帯がある大陸ではない。


 そう・・・ここはごぶ助達が居るであろう『東大陸』だ。


 ・

 ・

 ・


 転生者マルオが居たダンジョン、あそこからダンジョンコアをゲットしてからの事を簡単に語ろう。


 俺はレモン空間へと入ると直ぐにダンジョンコア『スラミー』へと他のダンジョンコアを融合させ、大分強化されたであろうスラミーへとダンジョン移動が使えるかと尋ねてみた。


 だが答えはまさかの『いいえ』。俺達が目標とする『東大陸』へ移動をしようと思うと、もうほんの少しだけ力がいるとの事だった。


 そこで俺はキメラドールを倒したばかりで疲れているのに申し訳ないと思ったが、急遽何時ものメンバーを招集し、会議を行った。

 そしてその結果、『それならば攻略途中だった鳥系魔物が出るダンジョンを攻略してみてはどうだろう?』との意見が出たので、それを採用する事にし、後日改めてあの攻略途中だったダンジョンへと向かった。


 そこでゴブリン&ウルフ達が進化なんていう嬉しい事もあったりする中で、無事皆が大きな怪我をする事もなく攻略は完了し、そのダンジョンのコアをスラミーへと吸収させたところ、無事『転移出来ます』との言葉が頂けた。

 俺は嬉しくなり、その夜に盛大な宴をしようと皆へと提案、すると『祝!一狼が旧友と再会できる記念!』と、なんともまぁ気の早い宴が行われる事となった。

 名目はともかくだ、祝いの宴という事なので、ダンジョン移動をする事の報告も兼ねて、俺はその宴にラゴウを招くことにした。


 後日、ラゴウの住むダンジョンへと俺は向かい、ラゴウへと『宴に来ないか?』とお誘いを掛けた。

 するとラゴウも暇していたらしく、二つ返事で宴へと参加する旨が告げられた。因みにだが彼のダンジョンは放って置いても難攻不落だとのことで、悠々自適に留守にしても問題はないらしいとの事なのだが・・・俺はそれを聞いてついでに1つお願いをする事にした。

 それは『彼のダンジョンのすぐ傍に俺のダンジョンの出入り口を設置させてほしい』、そんなお願いだった。正直な所、この西大陸にダンジョンの入口は残さなくても問題は無いのだが、あると便利だという事で設置できるならば設置しておきたい所だったのだ。

 それを説明すると、ラゴウは快く許可をくれ、それどころかこっそりと解らない様に設置した入口を見守ってくれるとも言ってくれた。恐らくだが、ここまでサービスが良いのはニアが現在俺達と行動を共にしているからだろう・・・ニア様様だ。


 そんな訳でお誘いと交渉が終わった後、俺はラゴウをレモン空間へと招待し、盛大な宴を行った。

 ラゴウは初めて入る魔訶不思議な空間に興奮したり、久方ぶりだというこの様な催しに感動したりと、存分に宴を堪能していた。

 それは勿論俺達も同様で、今まで溜めた食糧を食いきるぐらいに宴を堪能した。因みにだが、料理長であるごぶ蔵はそれを受け『皆が美味しそうに料理を食べてくれて感動ごぶ!でも食料のストックが無くなりかけごぶ!?』と嬉しみと悲しみの声を上げていた。


 その宴は一日経ったところで終了となり、俺達はラゴウに別れを告げた後、いよいよダンジョン移動を行う事となった。ニア以外の俺達にとってダンジョン移動等初めての体験で、皆の様子を見るとワクワク半分ビクビク半分といった感じだった。

『ここで俺がおっかな吃驚としていたら、それに釣られて皆が不安になるかも』そんな事を感じたので俺は胸を張り、頭の中を旧友と再会できるというプラスイメージで固めてテンションを上げまくった。

 その結果、見事俺の心の中の恐怖心は一切が消え去り、『早く行こう』という思いのみが浮かんでいた。


 そして・・・


 ・

 ・

 ・


(そして、ダンジョン移動を決行し、無事『東大陸』へとこれた・・・と)


 10分程レモン空間内に断続的に微振動が起こり、『やっぱこえぇ!』となったモノの無事それを乗り越え、俺達は『東大陸』へと降り立った。

 文字通り先程までは全員が降り立っていた訳だが、今は非戦闘員のレモン空間への退避も終わり、残っているのは俺や長老、ゴブリンAやウルフ達戦闘員のみである。


「さてと・・・来れたのは良いんだが・・・」


 俺は先程までの達成感や開放感、恐怖心などの色々な感情を一旦排し草原を見渡す。

 しかしあるのは草、草、草。何処までも広がる草原である。


「エペシュ、俺の背中に立って辺りを見回してみてくれないか?」


「うん」


 果てしなく続く草原に、何かごぶ助達に繋がる物は無いかと一番目が良さそうなエペシュに辺りを見回してもらう様頼んでみる。

 しかし結果は振るわず、『ず~っと草が見えるだけ』との事だった。


「まぁあれじゃ、ここは確か物凄く広いのじゃ。じゃからぼちぼちと探索をするほかないじゃろう」


 如何しようか途方に暮れているとニアが一言助言をくれたので、取りあえずそれに従う事に決めた俺は、長老達へとその事を伝えた。


 そして移動をしようかとした所で・・・長老から待ったがかかった。


「一狼様、はどうするおつもりですゴブ?」


「ん?あぁか」


 長老は背後にある少しこんもりと盛り上がった小さな土山・・・ダンジョンの入口をどうするのかと聞いて来た。


「不可抗力で出来ちまった訳だが・・・とりあえず残しておこうと思う」


 この度行ったダンジョン移動だが、『ダンジョン移動』というだけあってか、移動が終了するとダンジョン入口が自動的に生成されてしまった。

 しかし俺のレモン空間に繋がるダンジョンは特殊なダンジョンなので、この入り口が無くなっても何ら問題は無かったりする・・・だがしかしだ・・・


「今からこのだだっ広い草原の探索をするわけなんだが、このダンジョンの入口を目印にしようかと思ってな」


「ゴブ?」


「つまりだ、今から探索をするわけだが、仮にダンジョン入口が開いている方向に真っ直ぐ1日進むとする」


「ゴブ」


「んでそれで何も変化がなければ、ここへレモン空間を通じて戻って来る。そして次の日は違う方向へとまっすぐ進む」


「成程ですゴブ。それを繰り返して他方向へと探索をするんですゴブな」


「そういう事」


 俺は自分のダンジョンの特異性を使い、このだだっ広い草原の捜索を進めようと考えた。なんせこの草原はいかんせん何の目印も無いので、ただ闇雲に捜索すると効率が悪いかもと思ったのだ。まぁ俺のこの方法も効率がイイとは言えないのだが、何の策も無いよりかはましだろう。


「ま、そんな訳でだ、取りあえず今日はダンジョンの入口が開いている方向へと向かってみよう」


「了解ですゴブ」


「「「ごぶ!」」」


 取りあえずの方針を決めた俺達は、そんな感じで草原の捜索を開始する事となった。


 ・

 ・

 ・


 それから2日間経ったのだが・・・結果はというと成果は0。唯々草原を駆けまわっているだけという結果になってしまった。

 だが未だ2日、最低でも東西南北の4方向には捜索を広げたかったので俺はそのままの方針で捜索を続行する事とした。



 そして3日目のこの日、俺達は漸く第一村人・・・ではなく、第一生命体と邂逅を果たし、この草原に来てからの初めての成果をあげる事となった。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。これより5章となります。少し脳みそを働かせて続きを書いていこうと思うので、刺激となる様な意見をお待ちしております!ダメな点でも歓迎です!・・・マゾではありませんヨ?

「面白い」「続きが気になる」「ごぶ助まだー!?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ助が 向こうから会いにきます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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