第189話 決着・・・だよね?なわんちゃん

 魔力を練りに練った末放った『黒風』は、『ビュゴォォォ』と唸りを上げながら球状になっていた。

 恐らくあの風球の中は暴風が右に左にとランダムに吹き荒れ、中に取り込んだ存在をぐちゃぐちゃにすり潰しているだろう。


「・・・」


 しかし俺は油断せずその風球をジッと見つめていた。

 何故ならここで油断して勝ち誇っていると、『馬鹿め油断したな!俺は未だ死んでいない!』とか言ってマルオが逆転劇を仕掛けて来るかもしれない・・・。そんな恐怖心が俺の中にあったからだ。

 そんな風に暫くの間『残心』とでもいう様な状態を続けていると、風球が段々勢いを失い魔法が解けて来た。


「・・・ゴクリ」


 俺は万が一とレモン空間から氷の盾を取り出しそこへと隠れ、氷の盾越しに解けて来た風球を見守る。


 そして完全に風球が解けるとその場には・・・



『ビチャッ!』



 原型が解らない何かが落ちた。


「・・・ま・・・まさか」


 だが原型が解らずとも、完全にバラバラとはなっておらず塊を残した状態だった。つまり奴の体はあの攻撃に抵抗できたという事だ。


 ・・・ということは


「いや、流石にそやつはもう死んでおる。お前の勝ちなのじゃ一狼」


「・・・ひょぇっ!?」


『マルオはまだ生きているのか!?』と思いかけた時ニアが声を掛けて来たのだが、いきなりだったのと、しばらくぶりだった事もあり俺は吃驚して叫んでしまった。

 そんな俺の反応にニアは『心外じゃ』みたいな顔をしていたが・・・仕方ないだろう!?いきなり声を掛けられたらビビルって!


「心臓に悪いから、こんな時にいきなり声を掛けるのは・・・って、やったのか?」


「うむ」


「・・・ふぅ~~~~」


 ニアが言うなら間違いはないだろうと、そう思った俺は漸く体の力を抜き大きく息を吐き出し脱力した。


「ごぶ!やったごぶな!」


「やりましたなゴブ!」


 するとそれを見ていたのかごぶ蔵と長老が俺の方へと駆け寄って来たので、俺は軽く手を上げ応える。


「けど流石に疲れたわ・・・長老も魔力切れ気味だろう?」


「ゴブ。正直辛いですゴブ」


 長老が最後のタイマンの時に姿を見せなかったのは、それまでの攻防でほぼほぼ魔力を使い切り何も出来なくなっていたからだった。

 だがそれでも行く末は見守りたいとの事で、ひっそりと壁に作った隙間から見守っていたのだ。


「ごぶはまだまだいけるごぶ!」


 ちなみに天才さんはまだまだ元気らしい。


「ふむ・・・なら・・・」


「ごぶ?」


「レモン空間へと入ったらエペシュやゴブリンA~Jの様子を見てやってくれないか?俺と長老は結構限界気味でな・・・すまないが一足先に休憩させてもらいたいんだ」


 俺と長老はかなり疲労していたので直ぐにレモン空間へと入り、体力と魔力を回復させるために休憩を取りたい・・・のだが、最後見た時には寝ていたエペシュとマルオのユニークスキルで戦線離脱してしまったゴブリン軍団、彼ら彼女らの事が気がかりだった。なのでまだイケるらしいごぶ蔵に皆のフォローをしてくれるよう頼みごとをしてみた。


「任せてごぶ!」


「ありがとなごぶ蔵」


 するとごぶ蔵は胸を叩きながら快く俺の頼みを受け入れてくれ、早速レモン空間への入口を開き出した。・・・って、ごぶ蔵入口も開けたりするのか!?


「さぁ入るごぶ!」


「ん・・・んん。まぁうん・・・ありがとう」


 ちょっと吃驚したがレモン空間内でも自在に扱っているし今更かなんて思い、俺はそれを気にしない事にしてレモン空間へと入り、中へ入ると長老と共に寝床へと向かった。


 ・

 ・

 ・


「・・・ふぅぁ~。・・・ダイブスッキリしたな」


 あの後宣言通り俺と長老は直ぐに休ませてもらったのだが、この感じだと泥の様に眠っていたので大分時間も経っているだろう。

 俺は体をほぐす様に一度大きくのびると、寝床を出て食堂へと向かった。


「あ、一狼。ごぶ蔵!一狼が起きて来た!」


「ごぶご~ぶ!」


「おはよ一狼」


「おはようエペシュ、それに長老」


「おはようございますゴブ」


 食堂へと着くとエペシュやごぶ蔵、それに先に起きていた長老に出迎えられ、ごぶ蔵がご飯を持って来てくれたのでそれを頂くことにした。

 それをもぐもぐと食べつつ、俺はごぶ蔵やエペシュから話を聞くことにした。


「先ずはエペシュ、体に異常とかはないか?」


「うん。大丈夫」


「そうか・・・すまなかったな。俺らが不甲斐ないばかりに・・・」


「私も簡単に捕まっちゃったし一緒だよ?ごめんね」


 エペシュは存外平気そうにしていた。この様子だとあの変態に変な事をされたり、本当に怪我等はしていないのだろう。

 エペシュが無事だと解ったので次はごぶ蔵だ。といっても聞きたいのはごぶ蔵の調子などではなく、ごぶ蔵に様子を見るように頼んだゴブリンA~Jの事だが。


「ごぶ蔵、ゴブリンA~Jの様子はどうだった?」


「見に行ったらスキルの効果が切れていたのかピンピンしてたごぶ。特に異常も無さそうだったから普通にご飯を食べて今は・・・多分休憩してるごぶ?」


「そっか、了解だ。頼み事引き受けてくれてありがとな」


「ごぶ。全然いいごぶ」


 ゴブリンA~Jも問題ないそうで、今は休憩しているという。まぁやる事はやったしお疲れだろうから存分に休憩してくれという感じだな。


 さて、聞きたい事も聞けたしご飯に集中しよう・・・と思ったら、何時の間にか皿の上には何も残っていなかった。何時の間にかぺろりと平らげていた様だ。


「うむ。ごぶ蔵よ、お代わりなのじゃ」


 いや、どうも横からぺろりと食べられていた様だ。


「あ、すまんごぶ蔵、俺もお代わり」


「了解ごぶ~」


 何となくもう少し食べたかったので俺もお代わりを注文し、それが届くとニアと一緒にパクパクと無言で食べる。


「・・・ぷふぅ。満足だ。ご馳走様ごぶ蔵」


「ご馳走様じゃ。やはりごぶ蔵の料理は絶品なのじゃ」


「ご・・・ごぶ!褒めてもデザートくらいしか出ないごぶよ!・・・はい!デザートの『果物シャーベット』ごぶ!エペシュと長老にもあげるごぶ!」


 食べ終わり礼を言うとデザートまで出してくれた。ごぶ蔵さん最高では?

 俺達は出されたデザートをゆっくりと食べ・・・様としたが美味しすぎて速攻食べてしまった。


「もうなくなっちまった・・・ペロペロ・・・」


 犬の本能か、無くなってしまった皿をついつい舐めてしまう。


「これ一狼」


「ペロペロ・・・んぉ?」


「行儀が悪いのじゃ。やめい」


「はい・・・すいませんマm・・・いや、うん、ごめんなさい」


 だがそれを本能よりも理性が強い優美な犬ニアにたしなめられてしまい、その際のママみについ『ママン』と言いそうになってしまった。

 厄介そうな敵も倒し、お腹も満腹になって気が緩みまくりの俺はついつい馬鹿な事を考えてしまう。


(マ・・・ママじゃねぇ!お姉ちゃんだ!いや、それも違う・・・じゃあやっぱりママか?)


「それよりもじゃ・・・これからどうするのじゃ?」


「んぁ!?」


『ニアとは一体!?』という宇宙の真理を考えていると、そのニアからいきなり質問を投げかけられてしまったので俺は焦った。・・・いや、焦る必要なんてないな?

 俺は心を落ち着かせ、考えをまとめてから口を開いた。



「そうだな・・・やっぱり・・・」



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ニアとは概念」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ニアが 安らぎの概念になります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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