第190話 もう1つ決着をつけるわんちゃん

『やっぱり・・・マルオのダンジョンへリベンジへ向かうべきだろう』


 そう発言したのがつい先ほどの様に感じられる今日この頃、俺達はマルオが居たダンジョンの10階層にある扉の前、つまり『守護者の間』の真ん前に居た。


「驚くほどすんなりこれたね」


 俺の背に乗るエペシュが呟いた通りなのだが、10階層までは驚くほどスムーズに、具体的に言うと前回の半分程の時間だろうか?その位でここまで降りてくることが出来た。

 これは『2回目だから』『前回いなかったエペシュが手伝ってくれた』という理由もあるが、他にも『以前より長老達ゴブリン、そして長老達を乗せているウルフが育った』、『2回目だが途中のギミックが使い回しだった』と、そんな理由もあったりする。


「だな。まぁそれは・・・・・・」


 その事を俺がエペシュへと伝えると『成程』とだけ簡潔な答えが帰って来た。しかし同時に俺の毛をグイグイと引っ張ってるので微妙に照れては居るのだろう。


「ごぶぶ・・・その通りごぶ。ごぶ達は強くなったごぶ!」


「うん、そうね。強くなったね。ありがとう」


「ごぶ!」


 だがごぶ蔵の反応と比べると奥ゆかしさがグッド。そう感じました。


「それよりも一狼様、この守護者の間はどうするおつもりですゴブ?やはり単騎でいくおつもりですゴブ?それならばなるべく御止めになっていただきたいですゴブ」


 と、俺達の中の常識人長老が話しかけてきたので、俺も真面目モードへと戻り長老へと答えを返した。


「いや、今回は皆に手伝ってもらう。と言っても流石に能力値の差が激しいだろうから、近接戦は俺のみだけどな」


「じゃあゴブリン達はどうするの?」


「弓はまだ微妙って聞いてるけど、一応スリングも教えてそっちはまぁまぁって聞いてるから、長老やエペシュに補助魔法をかけてもらって石や特製薬草・キノコ爆弾でも投げてもらおうかと思っている」


「成程」


 少し前からゴブリン達はエペシュに弓を習っている。だが今回は間に合わなかったのでスリングショット・・・原始的な投石器だな、そちらで敵の気を引いてもらう役目だったりをしてもらおうかと俺は考えていた。


「だからあくまで主力は俺とエペシュ、そして長老になる筈だ。頼むぜ2人共」


「うん!」


「ゴブ!」


「残りの皆も主力ではないが、重要な役割だ。気を付けてくれ!」


「「「ごぶ!」」」


 この後作戦会議タイムに入ろうとしていたが丁度良かったので皆に役割を伝え、そのまま装備を支給する事にした。まぁ装備と言ってもスリング(紐)と弾(石。薬草・キノコ爆弾)だが。


「エペシュは俺から降りてもらって、遠くで皆のフォローをしつつ弓と魔法で援護を。長老も魔法で援護を頼む。予め細かく作戦を建てても敵は変形とかするからあんまり意味がないんだ。だから臨機応変に頼む」


 更に主力の2人へとも指示を伝え、戦闘準備を整える。


 そしてそれを終えると・・・俺は守護者の間への扉に前足を掛けた。


「いいな?」


 最後の確認だとばかりに皆へと振り向き尋ねる。


『『『コクリ』』』


 すると皆は頷き返してくれたので、俺は前へと顔を戻しそのまま手に力を入れて扉を押し開いた。


「前と変わらな・・・いや・・・あれは!?」


 守護者の間へと入ると、前回と同じ様に闘技場じみた場の中央にキメラドール・エリカが佇んでいたのだが・・・なんと・・・


 奴はメイド服ではなくバニーガールの衣装を纏っていた!


 ・・・


 だからどうしたと言う言葉は聞かなかったことにしよう、そうしよう。


「まぁうん。予定通り俺は近接戦を仕掛ける。頼むぞ皆」


「うん」


「「「ごぶ!」」」


 メイドさんだろうがバニーさんだろうが関係ない。という事で俺は早速予定通りキメラドールの近くへと歩いて行く。

 するとキメラドールは前回と同じくある程度近づくと奴は俺へと視線を合わせて来た。


「敵を確認しましタ。・・・以前に現れた個体と確認。以前の記憶を参照・・・脅威と判断。偽装を解除」


 だが対応は前回と違い、キメラドールは最初から戦闘形態?へと変わって見せた。

 その姿は前回見た時と同様、腕は力が強そうでオーガの腕と言わんばかりに、脚は獣の様なしなやかさと力強さを持ちワーウルフみたいになっていた。そしてその皮膚も変わっているのだろう、少し色が変わり妙な光沢が見えた。


「更に偽装解除。・・・敵性体を複数確認。更に偽装解除」


 キメラドールは続けて体を変化させていき、背中から蜘蛛の脚の様なモノが生やした。

 ここまでなら前回と同じだったのだが、奴は敵が俺単体でないと見て更に体を変化させた。

 その変化とは顔に蜘蛛の様に眼がいくつか現れ、鱗が生えた長く太い尻尾が生えるモノだった。恐らく対複数用に視覚と手数の確保のためだろう。


「戦闘形態へと移行完了しましタ。戦闘開始しまス」


 キメラドールが律儀に変形完了と申し出てきたので俺も構える。というか、変形最中の少しの隙をついて攻撃するべきだったかもしれない。


「ミスったな・・・まぁいい!いくぞおらぁっ!!」


「脅威個体の戦闘意欲向上を確認。メインターゲットに設定」


 長老達の方へと行くと困るので挑発する意味で叫ぶと、どうやらそれが功を奏したらしく、キメラドールは俺を目標と定めた様だった。

 俺はヨシと心の中で叫び、口からは『雄たけび』を叫んでキメラドールへと襲い掛かった。


「ウォォォオオオン!!」


「敵スキルレジスト・攻撃防御を成功。反・・・防御しまス」


 キメラドールは俺の『雄たけび』と、同時に繰り出した爪攻撃を防御し反撃するつもりだった様だが、そこにエペシュの弓と長老の魔法が飛んできたので反撃を止め防御姿勢を取った。

 俺はそれをチャンスととらえ、キメラドールの側面へと回り攻撃を繰り出す。


「防御続行。成功。別個体からの攻撃を感知。防御・・・不可」


 勿論キメラドールはそれも防御するわけだが、俺はそれでもよかった。何故なら俺が延々と攻撃を繰り返せば、その分俺以外からの攻撃に対処できなくなると踏んだからだ。

 それは見事に当たり、キメラドールは何とか剣や背中の蜘蛛脚で対処をしていたがそれらは防御用のモノではない。なので体に少しずつ被弾したり、蜘蛛脚がボロボロになっていっていた。


「複数からの攻撃を防ぐことが困難と判断・・・即対処可能と思われる個体へと目標変更」


 キメラドールはこのままでは不味いと思ったのか、第一目標を俺から変える事にした様だ。


 しかしだ、そんな事を俺が許すはずもない。


「目標を変更だ?そんな余裕があるのかよっ!渦巻き俺の力となれ!『黒風』!」


 キメラドールが目標変更の為に生じさせた一瞬の隙を使い、俺は魔力を練り上げ自分の体へと強めの『黒風』を纏わせ、それによって強化された動きと攻撃力でキメラドールを責め立てた。

 するとキメラドールも目標を変えるに変えれず、俺からの攻撃への防御に専念することになってしまった。


「今ゴブ!各自投石・若しくは薬草・キノコ爆弾で攻撃ゴブ!」


「「「ごぶ!」」」


「風よ!我が矢に宿りて敵を打ち貫け!」


 だがそうなると俺以外からの攻撃には耐えれなくなってくる。


 そうした俺達の一方的な攻撃が続き、キメラドールは一方的に攻撃され続けた。


 しかしだ、敵も俺を一度は下した強者。そう易々とは倒れない。


「持久戦へと設定変更。リソースを防御及び再生スキルへとまわしまス」


 キメラドールは自分の力を防御と再生へと回し始め、俺達の攻撃を受けても即回復、そんな状態になってしまい、戦いは膠着状態へとなった。


 ・・・かに思われた


「そうはならないんだよなっと!そろそろ限界だろうがっ!おらぁっ!」


「盾が破損。剣での対応に切り替・・・剣も破損。緊急措置として椀部を変化させまス」


 確かにキメラドールの戦法が上手くハマればそのまま持久戦へとなだれ込み勝敗も怪しくなるだろうが、そこまで奴が持つ装備が持つはずもない。仮に『伝説級に凄い装備』だったら別だろうが、前回戦った時にも装備は壊れていたので、奴が持つのは『ちょっと強い装備』くらいだろう。


「腕を変形させたところでっ・・・!!」


「体への被弾増大。・・・対処不可。現状のまま防御実行」


 そして防御の要である盾が無くなったのならば必然的に体への被弾は増え、ドンドン奴の体は傷ついていく。それも直ぐに再生はしているのだが、ダメージの蓄積量は先程までと段違いだろう。


「持久戦をお好みなんだろう!やってやるよっ!おらおらおらぁっ!」


 キメラドールの再生能力や耐久能力がどのくらいかは解らない。だがいつまでも持つとは考えづらいので、何時かは終わりが来る筈。


 俺はそれを信じ、仲間達と一緒に延々と攻撃を繰り出し続ける。


 ・

 ・

 ・


 そうして1時間程そんな攻防を続けた時だった。


「防御。再生。防御。再生。防御。再生。・・・再生不可。耐久力の限界でス。マルオ様、これ以上は持ちませン。回収を要請しまス」


 遂に限界を迎えたのだろう。俺が千切った腕が再生されず、キメラドールは自身の主へと助けを求めた。


 しかしだ、マルオは既に俺達が倒したのでもう居ない。つまりキメラドールがいくら助けを呼んだところで何も起こらないのだ。


「終わりの様だな・・・トドメだっ!」


『長く続いた戦いの終わり』。そんなチャンスを逃すはずもなく、俺はキメラドールへとトドメを差すべく一度後ろへと飛びのき、エペシュと長老へ叫んだ。


「エペシュ!長老!合わせてくれ!」


「解った!」


「ゴブ!」


 敵を逃がさない為素早く、だが出来うる限り多く。矛盾した考えだったが、俺達は出来うる限りの魔力を練った。


「行くぞっ!敵を切り裂け!『黒風』!」


「流れに逆巻き敵を切り裂け!逆巻く風刃!」


「硬く鋭き刃よ、風に乗りて敵を滅すゴブ!石刃!」



 そしてそれを・・・キメラドールへと一斉に放った。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「バニーガール!?いいと思います。」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ蔵の衣装が バニーガールになります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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