第186話 作戦成功のわんちゃん
ダンジョンの入口が良く見える様作った狙撃ポイント、その場所で俺達はガッツポーズを取っていた。
「ゴブッ!」
「・・・ふぅ。ビンゴッ!だな」
俺達のマルオへの奇襲攻撃は見事に決まった。
「来ると解っている奴を待ち伏せし、弱点となりそうなモノで怯ませてから予め魔力を練り込んだ魔法をぶち込む。完璧に決まったぜ」
俺や長老、それにごぶ蔵達今回ダンジョン攻略をしていたメンバー、更にはダンジョン攻略に参加していなかったメンバーの力を結集させ、俺達はダンジョン前に陣地を構築した。
だがそんな陣地構築はあくまで保険とし、出来る事ならばこの奇襲攻撃でマルオを沈めるつもりだった。
「ま、仮に倒しきれなくとも第一の目標であるエペシュ奪還は成功したし、少しは気楽に戦えるな」
俺はすぐ傍に体を横たえるエペシュを見て呟く。
実は長老の魔法や俺の魔法を使いマルオ達を光で怯ませた後、俺が高速で移動しエペシュを奪還する事には成功していた。
なので最悪は撤退する事も可能ではあるのだが、マルオはどうせ倒さなくてはならない敵だ。
だから出来る事ならあいつとはここで決着をつけておきたい。
「けどそうそううまくはいかないだろうな・・・」
こんなにすんなり倒せるのなら、既にマルオという魔物は存在していない筈である。なので俺達は奴のユニークスキルを警戒し、構築しておいた陣地へと身を潜める事にした。
「っと、その前に・・・おい、エペシュ!大丈夫か!?」
「・・・」
出来る事ならばエペシュも戦力に復帰してもらおうかとも思い軽く体を揺する。しかし奴に何かされたのか、エペシュは静かに寝息をたてて目を覚ます気配がなかった。
それを見て直ぐに『この様子だと戦線復帰は不可だ』と判断した俺はレモン空間を開き、エペシュを中へと収納する。
「雑で済まんが今は時間が無い!許せエペシュ!長老、隠れるぞ!」
「ゴブっ!」
エペシュをレモン空間へとポイッとすると、俺はその場にいた長老とウルフリーダーに声を掛け狙撃ポイントから陣地の目隠し用として作った壁の裏へと移動した。
そして移動が終わるとレモン空間を開き、5組ほどゴブリン&ウルフを呼び出した。
「すまんが事前に話していた通り仮にA、B、C、D、Eと呼ばせてもらうぞ?」
「「「ごぶ!」」」
ここから先は呼び名が無いときついので、俺は呼び出したゴブリン達に予め仮名を振らせてもらっていた。
ゴブリン達は再度の確認に元気良く返事をしたので、俺は早速オーダーを伝える。
「すまんがA、ダンジョン前に魔法をブッコんだんだが、敵がどうなっているか確認してくれるか?」
「ごぶ!」
ゴブリンAは元気に返事をした後、壁からそろりと頭を出しダンジョン前の様子を報告してくれた。
「ごぶぶ・・・砂埃が舞ってるごぶ・・・これはやったんじゃないごぶ?」
「・・・いや、きっとやってないな、うん」
「ごぶ?」
いらん事を口走ってくれたのでやってないだろうと俺は確信してしまった。とまぁそれはともかく、『砂埃が晴れたらどうなっているか教えてくれ』と言っておく。
やがて砂埃が晴れたのか、ゴブリンは追加で報告して来た。
「ごぶ・・・あ、敵が見ごびゅっ!?」
報告して来たのだが、途中でゴブリンAはいきなりおかしな感じになった。・・・だがこれは想定通りだ、恐らくマルオのユニークスキルにやられたのだろう。
「ゴブリンA!もういい!もどれ!」
俺は魔物ボール・・・ではなくレモン空間へとゴブリンAを収納する。そして次の魔物、ゴブリンBに装備を持たせ指示を出した。
「いけ!ゴブリンB!・・・の前に、ゴブリンBこれに体を隠してくれ」
「ごぶ!ごぶごぶ・・・見にくいごぶな・・・あ、でっかい目玉とドール、パペット達がキョロキョロしてるごぶ。地面にはドロップアイテムっぽいのが散乱しているごぶ。」
「ギリギリのところで周りの奴がマルオを庇ったのか」
「でも目玉も怪我してるっぽいごぶ」
ゴブリンBは普通に報告して来た。どうやら装備の効果があったみたいだ。
因みにこの装備というのは大したものではなく、適当に草の汁を混ぜて色付きにした氷の盾だ。
「ふむ・・・B、そのまま体を出してくれる?」
「ごぶ?こうごぶ?」
『・・・・・こだ!』
「あ、見つかったっぽいごぶ!」
「ふむふむ・・・そのまま顔は隠して盾を上にずらしていってくれ」
「ごぶ。・・・ごびゅっ!」
「ゴブリンB!もういい!もどれ!そして移動するぞ!ついてこい!」
「「「ごぶ!」」」
俺はゴブリンBを収納した後直ぐに移動する事を伝え、塹壕みたいに掘ってある穴や目隠し用の壁を伝い移動をする。
そして先程と違う場所へと着いたら、その場にいる長老達へある事を伝えた。
「聞いてくれ。マルオ・・・でっかい目玉な、あいつのユニークスキルを食らったら動けなくなるんだが、恐らくさっきゴブリンBに渡した氷の盾、ああいう障害物越しならユニークスキルにはかからないみたいだ。だけどちょっとでも生身を見られたりするとスキルにかかるっぽい」
「「「・・・ごぶごぶ」」」
「ゴブ。やはりでしたかゴブ」
俺が伝えたある事とはマルオのユニークスキルについての仮説である。これは本当に仮説だが、俺の『鑑定』スキルも同じ発動条件なので少し信憑性はあるだろう。
「まぁそのせいで俺も奴のステータスを見る事が超絶ムズイんだが・・・まぁそれはさておきだ・・・」
一応の仮説を話したら、次は具体的な行動である。と言っても予め『こうなるかも』と予測を建てていたので、装備を配った後簡単に説明をする。
「それじゃあ始めるぞ!C、頼む」
「ごぶ!」
時間もないので直ぐにそれを終えると行動を開始する為、俺はゴブリンCに声を掛ける。
するとゴブリンCは氷の盾を構えつつ、ソロリソロリと見つからない様慎重に隠れている壁から顔を出し、敵の様子を確認した。
「敵、先程いた前方やや左の壁の所にいるごぶ。密集気味ごぶ」
「了解。C、3秒前からカウントな?長老、10秒後に発動」
「ゴブ」
「ごぶ」
ゴブリンCの報告を元に、俺と長老は魔法を使う準備をする。
そしてゴブリンCの『3,2,1、0ごぶ』の合図とともに魔法を発動させ、壁の裏から目的地点へと発射した。
「・・・着弾ごぶ。ドールとパペットに当たった様に見えたごぶ」
「了解!直ぐに移動だ!」
・
・
・
俺達の敵への攻撃作戦なのだが、簡単に言ってしまえば『適当に狙撃』もしくは『数うちゃ当たる』である。
適当過ぎると思うかもしれないが、『こちらの姿が見えた途端に行動不能に陥る』という枷がある為、どうしてもこういう戦法をとらなければならないのだ。
(だから初弾の奇襲攻撃で沈んでくれていれば楽だったんだがな。まぁ圧倒的な火力を持っていない俺達が悪いのかもしれないが)
俺もある程度火力はある方だが『圧倒的』と呼べるほどの火力ではない。いつかは他を圧倒するほどの最強火力を手に入れたいものである・・・なんて考えていると、ゴブリンJが着弾の報告と敵被害の報告と共に固まった。
「Jありがとうな・・・収納っと」
この適当に狙撃作戦だが、こちらも無傷で進められてはいない。といってもチラリと体の一部でも見えていたのか、ゴブリンJの様に敵のユニークスキルで固まってしまうだけだが。
「それでも10人目が脱落か」
「ゴブ。ですが目標は達成していますゴブ」
「だな」
目標達成とは何か?それは・・・
「チキショォォォオオメッ!手下はもういないんだ!かかってこいよっ!!」
本命のマルオ以外の排除成功、である。
「けどアレだな・・・予想以上に厄介だアイツ」
「ゴブ」
目標は達成したモノの、俺達はマルオを攻めあぐねていた。というのもだ、奴は完全エロ特化の魔物かと思いきやソコソコ戦闘もイケるみたいで、手下をやってから本気を出したのか『数うちゃ当たる』戦法では全く駄目だったのだ。
となればだ、いくつか考えていたウチの戦法の1つ、少し賭けになるモノを使うしかないのかもしれない。
「長老・・・」
「ゴブ・・・」
ここで引くと言う考えもあるかも知れないが、いずれにせよ倒さなければならない相手をここまで追いつめているのだ、引くと言う考えは採りたくない。なので俺は長老へと目配せをし、それの準備をし始める。
「チクショウが!・・・おい、隠れている奴!聞いているんだろう!?」
するとその時、自棄になったのかマルオが叫び始めた。
「俺は手下をやられた!ユニークスキルももう使えねぇ!だからよ!魔法なんか捨ててかかって来いよっ!」
「奴はもうユニークスキルが使えないだと?」
俺はマルオの叫びを聞いて眉を顰め考える。何故ならそれはあり得ない話では無いからだ。
「使用制限があるスキルですゴブ?」
「かもしれないな。まぁあのチートっぷりから考えるに十分あり得る」
ユニークスキルといってもピンからキリまであり、長老やエペシュが持っているモノは使用制限なんかない常時発動だろうし、逆に俺が持っているモノなんかは明確に使用回数があったりする。恐らくチート臭いスキル(ユニークスキルというだけでチート臭いが)程制限はある筈なので、マルオのユニークスキルは後者の使用回数があるものなのだろう。
「けど敵の言う事を易々と信じる程俺は馬鹿じゃない」
「ゴブゴブ」
長老も頷いているが、流石に易々とそんな言葉を信じはしない。なので進めていた作戦の準備を再開したのだが、なおも叫び続けマルオの言葉に聞き逃せない内容が聞こえた。
「聞け!お前は・・・お前達はあれだろう!?あのエルフの仲間だった奴だろう!?」
「ん?」
「あの時殺してこなかったのは失敗だったわまじで!っとそんな事はいいか・・・へへ・・・あのエルフ・・・いやエロフたん・・・なかなか通好みの体をしてたなぁおいィ?」
「は?」
「ちょっとよぉ・・・味見程度に色んなところを舐めてみたんだが・・・最高だったぜ!」
奴は・・・あの変態は何と、エペシュにいかがわしい事をしたと言うではないか!流石にその内容を聞き逃せなかった俺達はカチンと来て準備を一旦ストップさせる。
「・・・何言ってんだマジで・・・続けろ・・・」
「ぐふ・・・ぐふふふ・・・そんなこと聞いて怒っちゃっただろ?楽に殺しちゃつまらんと思っただろう?牙や爪を突き立て、俺が苦しみもがいて、死んでいく様を見たくなっただろう!?」
くだらない挑発だとは解りつつ、俺はマルオの言葉から耳が離せなくなっていた。
「さぁ、魔法を捨てて出てこいよ、一対一だ。楽しみをふいにしたくないだろう!?」
「・・・」
「こいよクソ野郎!怖いのか!?」
くだらない・・・本当にくだらない挑発だ。
だが俺は・・・このくだらない挑発に乗ってやることにした。
「ッハ!このクソ目玉がっ!良いだろう!魔法なんてもう必要ねぇ・・・仲間もだ・・・俺はな・・・てめぇなんか・・・てめぇなんか怖かねぇ!だから一対一でやってやるよ!かかって来いよ!この野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!」
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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☆や♡をもらえると マルオが ○マンドーになります。
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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