第183話 攫われた仲間と追うわんちゃん

『鳥系』ダンジョン6階層に『無生物系』の魔物と共に現れたは奇妙な魔物だった。


『ギョロギョロ・・・』


 体には手や足が無いどころか大きな目玉だった。


『ヌメヌメ・・・』


 そして手や足の代わりだろうか?大きな目玉には粘液と思わしき物でテラテラと光る触手が生えていた。


「随分敵が少ないと思ったら先客かぁ~。ま、楽だったし追いついたからいいんだけどねぇ~」


 あげくその触手の先端は口になっているみたいで、パクパクと触手の先端についた小さな口が言葉を発していた。


(間違いない、コイツは・・・)


 初めて見た筈のこの奇妙な魔物だが、俺には心当たりがあった。姿は以前ラゴウに教えられたし、声は直接で聞いたからだ。


 そう・・・こいつはごぶ助達を襲った者であり、キメラドールが居たダンジョンの主。


(俺を瀕死にまで追い込みダンジョンの餌にしようとした変態転生者・・・確かマルオ!)


 俺はキッとそいつを睨んだ。・・・睨むしか出来なかった。


(くっそ・・・ラゴウの言った通りだ・・・体が動かない・・・)


 以前ラゴウに教えてもらった情報だったがこの転生者は動きを止める系のユニークスキルを持っているみたいで、そのせいか体がピクリとも動かなくなってしまった。一応呼吸位は出来るみたいなのだがそれ以外は眼球を動かすのが精一杯で、喋ったり首を動かしたりする事は出来ないみたいだ。


(不味い・・・不味いぞ・・・)


 俺は何かできる事は無いかと思案した末スキルならばと思い、先ずは気づかれ無さそうな『鑑定』をマルオへと発動させてみる。

 だが結果は不発、『鑑定』は発動しなかった。


(っちぃ・・・なら攻撃魔法・・・も駄目なのか!?コイツのユニークスキルなんなんだ!体の動きを止めるだけじゃないのか!?)


 イマイチ解らないこの動きを止めて来るユニークスキルに心の中で悪態をついていると、マルオが近づいて来た。


「おいっすおまいらー、オラマルオ、ヨロシクナッ!っつっても、別によろしくしてくれなくてもいいんだけどさ」


 マルオは俺達を敵と認識すらしていないのか、軽い口調で話しかけて来た。まぁ俺とエペシュ以外は一見すると唯のゴブリン&ウルフの軍団だしそう思うのも仕方ないのかもしれないが。


「しかしゴブリンとウルフがよくこんなところまでこれたなー・・・って、おぉ?」


 なんて思っていると、マルオは唯のゴブリンやウルフでない変わった犬の俺とエルフのエペシュを見つけ目を輝かせた。


「え・・・え・・・え・・・エロフキタコレエエエエエエエエ!」


 いや、俺は眼中になかった様だ。


(・・・って、不味い!)


 俺は焦ってしまう。何故ならこんな変態にエペシュが見つかってしまったのだ。


(頼むから変な気は起こすんじゃないぞ!この変態野郎!)


 恐らく駄目だろうが俺は願った。


 が、やはりそれは叶わなかった。


「っしゃぁぁぁああ!しかも新品でまっさら!俺様大勝利!」


(あっ!てめぇっ!エペシュに触るんじゃねぇ!!!)


 マルオはガッツポーズらしきものを取った後、俺の上に居たエペシュに触手を巻き付け自分の元へと引き寄せてしまった。

 だが幸いにもこんな所で変な事をする気はなかったのか、エペシュを一通り見終わった後に後方にいたドール達にエペシュを引き渡した。・・・のだが、安心は出来ない。


 なんせ・・・


「っし!っし!そうとなればこんな所に潜ってる場合じゃねぇわ!帰るぞ!チョッパヤで帰るぞおおおおお!!」


(あっ!待て!何処に行く気だてめぇ!エペシュを置いていけ!エペシュを連れて行くな!エペシュを・・・エペシュゥゥ!)


 奴はそのままエペシュを攫い、何処か・・・恐らく自分のダンジョンへと戻って行ってしまったからだ。


 体も口も動かせない俺達は唯々それを見送る事しか出来ず、怒りを口に出せたのは奴が去って行ってから暫くしてからだった。



「行くぞ・・・仲間を奪還しに・・・」



 ・

 ・

 ・



 それから俺達は直ぐに行動を開始した。


「迅速に行動するぞ!『レモンの入れもん』!さぁ!早く入ってくれ!」


 俺はレモン空間への入口を開き全員を収納、後にマルオ達の後を追うべく走り出し・・・はせずにそのままレモン空間へと入る。


「ごぶ蔵!長老から話は聞いたか!?」


「ごぶ!」


「よし!予め必要なモノはピックアップしといたからそれを使ってくれ!収納機能を開いたら解る筈だ!」


「ごぶ!任せるごぶ!」


「長老!着いたら呼びにくる!それまではごぶ蔵の手伝いを!」


「解りましたゴブ!」


「じゃあ直ぐに呼びに来るから待っててくれ!行って来る!」


 俺が作戦を考える、又は何も考えずに行動した場合はマルオをそのまま追いかけて攻撃を仕掛けただろう。しかしだ、長老の考えた作戦は違った。


「ヨシ外だ!『鳥系』ダンジョンへ急げ!急げ!全力だ!」


 長老の考えた作戦はこうだった。


『一旦レモン空間の機能を使い作ったダンジョンへ転移、後にそこから『鳥系』ダンジョンへと移動し再び再侵入。そして『鳥系』ダンジョン1階層にて罠・陣地を作成しマルオを待ち受ける』


 この作戦を聞かされた時、何故こんな事をするのかも聞かされたのだがそれは納得する理由だった。


「『無策で突っ込むと再びあのスキルを使われて詰むから』か」


 マルオが使ったスキルで解っているのは『動けなくなる』『スキルも使えなくなる』くらいで、残りの効果や射程その他諸々は不明のままで、確かに長老の言う通りそのまま攻撃を仕掛けていたら詰んだかもしれない。

 なので長老もエペシュの事は心配ではあるが、全滅を避けて救助を行うためにこの様な作戦にしたのだとか。


「俺は頭に血が上って何も考えられなかったって言うのに、よくこんな事を冷静に考えられるもんだ」


 本当に長老が居てくれてよかった・・・なんて改めて長老へと感謝の念を捧げていると、全速力でぶっ飛ばした甲斐あってあっという間に『鳥系』ダンジョンの入口へと辿り着いた。

 ここからどう罠や陣地を敷くのかは長老のみぞ知るだったので、俺は取りあえずレモン空間の出入り口を開き長老をダンジョン入口へと呼び出した。


「長老、一応入口で呼んだわけだが、ここからどうするんだ?」


「ゴブ。流石にこの後は展開が読み切れないので入口から2階層へと続く場所まで陣地を構築していきますゴブ」


 俺は長老の言う事に頷き、頷いた後で『ん?』となったので一応聞いてみた。


「長老、一応聞いておくんだけどさ、ダンジョン内で魔法を使って壁とか作るのは良いんだが、距離が離れたりして制御が外れるとダンジョンの主が弄ってきたりするんだが・・・それも考えているのか?」


「か・・・考えていませんでしたゴブ・・・」


「・・・長老も冷静になり切れていなかったって事か」


「面目ないですゴブ・・・」


 長老もエペシュが攫われた事に動揺やかなりの怒りを感じ何処か冷静になり切れていなかったみたいで、ダンジョンのルールを忘れていたみたいだ。

 だが事前に発見できた事により長老はダンジョンの外に陣地を構築する様にプランを修正した様で、『少しだけ待って下さい』と言ってブツブツ何かを呟き始めた。


「俺もまだ大分頭に血が上っているだろうから、落ち着く為に深呼吸やストレッチでもするか・・・」


 冷静そうに見えた長老ですらアレなので、俺もこのままだとポカをやらかしそうだ。なので俺は心を落ち着かせるために大きく深呼吸をたり、ストレッチをして体をリラックスさせたりし始めた。


「ふぅ~・・・待ってろよエペシュ・・・絶対助けてやるからな・・・」



 俺は体を伸ばしながら、エペシュが居るであろうダンジョンの奥を見つめ呟いた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 ☆や♡をもらえると エペシュが 無事戻ってきます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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