第181話 指揮官対決と見守るわんちゃん

 ジリジリとコマンダーバードへの距離を詰めていると警戒範囲に入ったのか、奴は動きを見せた。


「ピュ・・・ピュゥ~ロ~ピリリッ!」


「「「ピョロロロロロロロロロ!!!!」」」


「・・・のっけからそう来るか」


 コマンダーバードが翼を動かしながら鳴いたかと思うと、奴が止まっている後ろの枝からホイッスルバードの鳴き声が聞こえた。やはりすぐ傍にいたらしい。


「「「ピョェェェエエ!」」」


「「「キョェェェエエ!」」」


「「「クゥアアアアア!」」」


 そしてその声を聴き付け、コマンダーバード達が居た樹から大勢の鳥型魔物が飛び立ち、四方の空からも大勢の敵が集まって来た。


「多いな・・・」


「ゴブ・・・」


 敵の数は元から樹に止まっている者が多かったのか、これまでで一番の数だった。

 俺含め余りの数に『うわぁ・・・』となっていたのだが、長老がハッとして直ぐに指示と魔法を飛ばし始める。


「空から粗方敵を落とすまでは敵が近くに落ちても飛び出さず防衛するゴブ!・・・具現し捕らえるゴブ!『マジカルネット』!」


「ヤバそうだからホイッスルバードは優先して落としていくね」


「助かりますゴブ!・・・具現し捕らえるゴブ!『マジカルネット』!」


 長老が魔法を使い始めるとエペシュも矢を放ち始め、次々にホイッスルバードやその他群がって来る敵を落としていく。

『このままなら数が多くなっただけで今までと変わらないな』なんて思っていると、そんな考えを見透かしたわけではないのだろうが・・・奴が動き出した。


「ピリッ!ピッピッ!ピュロリロ!ピッ!」


 コマンダーバードはまるで演奏の指揮みたく翼を動かし、同時に鳴いた。すると今までこちらへと愚直に突っ込んでくるだけだった敵の動きが変わり始める。


「ゴブッ!?一部を身代わりに!?」


「んっ!任せてっ!」


『上から降って来る長老の魔法の網を一部がわざと被り他をこちらへと送る』『真っ直ぐこちらへと向かってこず迂回し円を描きながら飛んでくる』『魔法の網に掛かっている者を編み毎掴みこちらへと突っ込んでくる』等々、敵は今まで見ない様な行動でこちらへと近づいて来ようとして来た。

 しかし大体の敵は長老とエペシュが見事に落とし、こちらに辿り着いた敵は一割~二割といった所だった。


 まぁ元の数が数なので・・・


「頑張って防御するごぶ!そっち!右から来てるごぶ!」


「まずいごぶ!めーでー!めーでーごぶ!」


「今行くごぶ!」


 一割~二割でも十分多く、ゴブリン達は四苦八苦しながら防衛していた。

 流石に不味いかなと思う時も何回かあったので、その時は『黒風』をちょいと使いヘルプを行っていく。


「ゴブッ!その調子ゴブ!そのまま暫く耐えるゴブ!」


「ピュロロッ!ピッ!ピリリピッピュ!ピュ~ロロ~!」


「ゴブっ!?」


 そうしていい感じに敵の攻撃を凌ぎ『このままなら・・・』なんて思っていた時、中々思うように事が運ばなかったコマンダーバードが大きく動きを変えた。


「・・・引いた?いや、もしかして前後左右と上、五方向から大軍で一斉攻撃するつもりか!?」


 俺達の対空戦力が長老とエペシュだけという事を見破ったのだろう、五方向から一気に攻撃を仕掛ける事で迎撃を間に合わなくさせる事にしたらしい。


「ピリリリリリッ!ピィィィィッ!」


 それは正しい戦法だろう。・・・だが長老も負けてはいない。


「ゴブブッ・・・ゴブッ!・・・土よ・・・固く硬い土の箱を作るゴブ!『土の防壁』!」


 長老は魔法を使い前方のみ開いた土の壁を作り上げた。基本的に鳥系魔物は体が小さく軽い、なので土の壁を破れないと踏んだのだろう。


「ピッ・・・ピリリッピッ!」


 そしてその目論見はあっていたみたいで、前方以外から攻めていた筈の敵は土の壁を破ってくるという事は無かった。


「皆!前方だけに集中ゴブ!」


「「「ごぶ!」」」


 こうなると現在の敵の戦力だけではどうにもならないみたいで、チョコチョコとした戦法で攻めて来たモノの決定的な打開策にはならず、敵はドンドンと数を減らしていった。

 そしてホイッスルバードも随時仕留め、残りの敵が50程かつ増援無しと見込んだところで長老は勝負に出た。


「5名ほど儂を護衛して少し前へ出るゴブ。敵のボスへと魔法を掛けるゴブ」


「「「ごぶ!」」」


「エペシュ様はそのままそこで仕掛け矢をお願いしますゴブ」


「わかった!」


 長老は5名のゴブリン達に護衛されながら少し前方へと出て敵のボスであるコマンダーバードを見据える。

 そして目線・射線が通ったところでコマンダーバードへと魔法を放った。


「具現し捕らえるゴブ!『マジカルネット』!」


「ピョッ!!」


 コマンダーバードは疲弊していたのか、一瞬逃げようとしたみたいだが見事魔法の網に引っ掛かった。

 しかしコマンダーバードは木の枝に止まっていたので、動きが阻害されることはあっても墜落して瀕死になる事は無かった。


「岩の槍よ、敵を貫くゴブ!『ストーンランス』!」


 だがそんな事長老は百も承知の様で、続けて攻撃魔法を放ちもがいていたコマンダーバードを攻撃する。

 ここが踏ん張りどころだと思ったのだろう、長老は連続で攻撃魔法を放ち続けた。


「・・・ゴブ!一旦下がるゴブ!」


 十分だと思ったのか、長老はある程度で魔法を止め岩の防壁に囲まれた安全地帯へと下がって来た。


「んー・・・飛んでるのはこれで最後かな?」


 そしてその頃になると空に残っていた敵もエペシュが全部落としきっていたので、戦場は一気に静かになった。


「ゴブブ・・・これでボスを倒していたら後は残党狩りですが・・・」


「ふむ・・・」


『どうだ?』とコマンダーバードが居た枝の辺りとその下を見ると姿は見えない。だがそれだけでは死んでいるか解らないので、ドロップアイテムでも落ちていないかなと見ていると・・・あった。


「うん。魔石っぽいのと羽かな?何か落ちてるな。倒したんじゃないか?」


「ゴブ・・・」


 慎重派の長老は俺がそう言っても直ぐ動かず、再び護衛をつけて少し前へ移動したりウロウロしたりと挑発的行動をとる。そしてそれで何も起こらなかったので、今度は慎重にボスのドロップと思わしき物の所へと近づいて行った。


「ゴブ」


 流石にそれで確信できたのだろう。長老は土の防壁の所へと帰ってくると1つ頷き、残党狩りをゴブリン&ウルフ達へと命じた。


「倒してたか」


「ゴブ。この魔石の大きさからするにそうかと」


 長老は持って帰って来たドロップアイテムを渡して来たが、鑑定をすると確かにボスのドロップ品ぽい事が書いてあった。

 今は特に使い道が無いのでそれを雑に収納し、長老へと賛辞を贈る。


「いやぁ・・・流石に手を5方向からの攻撃の時には手を出さないとなんて思ったけど、余裕で乗り切ったな長老!すごいな!」


「いえ・・・まだ小細工に頼らねば勝てないですゴブ。未熟ですゴブ」


 見事戦略でボスを倒したにも関わらず謙遜する長老をもっと褒めたい所だったが、まだ残党狩りをしている事を思い出した俺は周囲を見回る事にした。


 ・

 ・

 ・


 あの後は特にハプニングもなく残党狩りは終わり、俺達はコマンダーバードが居た大きな樹の元へとやって来ていた。


「お、あったな。6階層への階段」


「だね」


「でもあれだな・・・」


 樹をぐるりと確認すると樹に扉の様なモノがあり、それを開くと次の階層へと続く階段を見つけたのだが・・・


「流石に休もうか。皆疲れただろ?」


 今日は朝から探索を始め、恐らく夜の現在はボスまで倒した。なので俺は皆へと休む事を提案する。

 すると皆は一様に『うんうん』と頷いたので、今日の探索はここまでとする事にした。


「明日からもまた探索だしな。無理は出来ないからさっさと休もうか『レモンの入れもん』。あ、ごぶ蔵、中に入ったらまた疲労回復するような美味いご飯を頼む」


「まかせるごぶ!」


 皆疲れた顔をしていたが美味いご飯と聞くと顔を輝かせ始め、その後ごぶ蔵を胴上げでもするかのように担ぎ上げ、皆で運んでいった。

 まぁ気持ちは解らなくもない。なんせごぶ蔵のご飯はダンジョン探索中の癒しだからな。


「さ、俺達も中へ入ろう」


「うん」


「ゴブ」


「ガル」


「ついでだから食堂まで明日の事を軽く話しながらいくか」



 残っていた俺とエペシュ、長老とウルフリーダーはまた明日から始まる探索の事を話しつつ、のんびりと食堂へと歩いて行った。



 ------------------------------------

 作者より:読んでいただきありがとうございます。少し短めで申し訳ありません。

「面白い」「続きが気になる」「さす長老」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 長老が コマンダーゴブリンになります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る