第173話 エターナル

 ≪トキコ視点≫


 一狼とごぶ蔵の目の前で私はアウアウと唸る。


 普段ならそんな事はしないし、もししたとしても直ぐに止めるだろう。だけど今の私はそんな場合ではなかった。


(なに・・・なんなのこれ?)


 私の頭の中は今、前世を含め生きて来た人生の中・・・何なら死んだ時にさえ体験した事のない状態になっていた。


「xxx、xxxx」「xxxxxx?」「xx!xxxxxx!」「xxxxxxxxx」「xxx。xxxx。xxx」


 私の頭の中には解らない・・・いや、解るのだけれど解らない、そんな意味不明の記憶が再生されていた。

 それは『xxxxが連れて行かれるのを笑顔で見送ったり』、『xxxxが変な事をさせられているのを見て喜んでいたり』、『居もしない最愛のお兄ちゃんに甘えたり』、私なのに私じゃない人間が私の体で生きていた・・・そんな記憶だった。


『誰?』『何これは?』そんな事をぐらぐらと揺れる視界の中で考えようとするのだが、全然考えがまとまらずバラバラとこぼれていってしまう。

 しかしグチャグチャになっている世界の中で、ふとハッキリとこんな思いが浮かんだ。


『ダメ。チャントオモイダシテ』


 それは自分の考えの様で自分で考えている訳ではない不思議な思いだったけど、今の状態の私にはそれに従う事が絶対な気がして・・・


(思い出す・・・憶えている事・・・思い出・・・)


 私は自分で覚えている限りの事を思い出す事にした。


 ・

 ・

 ・


 そもそもだが私は未だ前世で生きて来た歳を足しても大人とは言えない年齢なので、私がハッキリと記憶しているのは学校に通い始めてからの数年位だ。

 だがそれでも私は、その10年にも満たない年月を思い出してみる。


 私は普通の女の子・・・いや、少し内気で『歳の割には賢い子だねぇ』なんて言われた事もあったけど、それでも何処にでもいる女の子だったと思う。

 名前は『卯野時子うのときこ』、生まれ変わってからは『トキコ』となった私は、公務員のお父さんと専業主婦のお母さんと一緒に暮らしていた。

 その生活も特に変わった事が無く、学校へ行って帰ってくると友達と遊んだり宿題をする。夜には時々お父さんが帰って来るのが遅い日以外は家族そろってご飯を食べ、寝る。学校が休みの日は偶に家族でお出かけしたり、お家でゴロゴロしたり、友達と遊んだりと・・・恐らく大多数の人と同じような、何ら変わった事もなく普通に暮らしていた。


 だけどそんな私にも・・・普通じゃない事が起こってしまった。


 それはお父さんがお休みの日、家族そろって遊園地に行こうとした日だった。

 その日は電車で遊園地へ向かい帰りにはレストランでご飯を食べる予定で、私は遊園地も楽しみだったが、あまり乗った事のない電車で何処かへ行くのも楽しみで大はしゃぎをしていた。

 確か『こらこら、そんなにはしゃいでいると遊園地に着く前に疲れちゃうぞ?』『大丈夫だよ!私今日はいっぱい寝て来たから!』なんて言っていたと思う。


 そんな時・・・突然は起こった。


 その直後神様が言っていたらしいのだが、『事故が起こり、君たちは転生する事となった』との事だが、あまりに突然で私は何が起こったのか解らず、事故中は唯々叫び、事故後の天国?ではキョトンとしていた。要するに、事態を受け入れられていなかったのだ。


 だがそんな状態になっていたからと世界は待ってはくれず、事態はドンドンと進んでいき、何時の間にかお父さんと逸れてしまった。後でお母さんに聞くと、『お父さんとは担当の神様が違う人になってしまったの・・・ごめんね』と言っていた。

 お母さんは何とか私と一緒のグループに成れたみたいで、神様に『お願いします!娘と同じ場所に生まれ変わらせて下さい!』とお願いしたら『親子で一緒の場所に?んー・・・ま、いいよ』と言ってくれたことにより一緒に生まれ変わる事が出来た。


 こうして生まれ変わる前の儀式?とでもいうべき異常事態は、唯々キョトンとしている内に終わりを告げた。

 そしてそれが終わりと告げると同時に、次は生まれ変わってからの日々になるのだが・・・私はハッキリ言ってお母さんに甘え過ぎていたと思う。


 生まれ変わった後お母さんは『任せてトキコ!お母さんお父さんの分も頑張って、一財産築いて見せるわ!』なんて笑いながら言って、見知らぬ世界だというのに積極的に探索したり、小さな虫くらいしか殺した事がない筈なのに魔物をドンドン倒していった。お母さんは自分も不安でたまらない筈だったのに、私と生き残るために何でもこなしていったのだ。

 そんなお母さんに私は泣いてすがり付くばかりで、本当にお荷物状態だった。


『そう、だからあんなことになったんだ・・・』


 生まれ変わって1年もした頃だと思う。

 その頃になるとお母さんは大分強くなり、私達は偶々手に入れた迷宮でのんびりした生活を行っていた。・・・私はというと、安全圏に籠るばかりであまり何もしていなかったのだが。

 兎に角、そんな風に穏やかな日々になって来ていた時の事だ。


 基本的にお母さんは毎晩私に日々起こった事を話してくれていた。これは恐らく、万が一何かがあった時の為だったのだと思う。

 ある時お母さんは『最近近くにあった迷宮が消えたの』と話し、『もしかしたら移動をするかもしれないわ』と言った。

 私は聞かされた所でお母さんにお任せ状態だったから『うん、解った』なんて答えたはずだ。

 だけどその翌朝、そんな予定は消えてしまった。



 私達の住む迷宮に・・・が現れたのだ。



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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

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