第174話 フォースブリザード

 ≪トキコ視点≫


 ある朝、私達親子は迷宮核からの『侵入者が現れました』との知らせで飛び起きた。

 だけどこんな事態は今までにも数回あった為、またどこかの野良魔物でも忍び込んで来たのだと軽く考えていました。


 ・・・ですがそれは大きな勘違いだったのです。


 今いる迷宮の持ち主であるお母さんは侵入者へと対応する為、迷宮核へと『その侵入者の様子を見せてくれる?』と言い様子を確認し始めました。

 私も気になったのでそぉ~っと後ろから覗き込むと、そこにはズンズンとお母さんが配置した罠や魔物を蹴散らして進んでくる一匹の魔物が居ました。

 そいつは人間みたいに足で立つ犬みたいな魔物で、画面越しだと何を喋っているのかは聞こえませんがとても気持ち悪い表情をしていました。


 その後画面を見ていたのですが狼人間は止まる事無く迷宮を進み、3日経った頃にはついに私達がいる部屋の隣、守護者の間へと辿り着きそうになっていました。

 そうなるとお母さんは覚悟を決めたのか、『トキコ、お母さんラビーちゃんと一緒に戦って来るからここで待っていなさい』と言って守護者の間へといってしまいました。

 私は『守護者』であるラビーちゃんとお母さんが強い事を知っていたので一安心していたのですが・・・結果は私の考えていた者と正反対になってしまいました。


 ラビーちゃんは死に・・・お母さんもボロボロにされてしまったのです・・・。


 最初は順調だったんです。

 お母さんとラビーちゃんは現れた狼人間に対し、二人で上手く攻撃と防御を入れ替えたりして一方的に攻撃を与えていました。

 しかしいつからか段々とお母さんとラビーちゃんのリズムが崩れ、気づいた時には2人共防戦一方に。

 そしてついには・・・


 私は信じたくなくて、咄嗟に隣の部屋へと駆け込みました。

 ですが私の目に映ったのは先程の画面と同じで、ドンドンと消えていっているラビーちゃんと狼人間に捕まれてぐったりとしているお母さんがいました。

 狼人間はいきなり現れた私に『お、もう一匹いたんだ。ラッキー』なんて言い殴りつけてきました。

 私はその時気絶したのでしょう、気が付いたら知らない迷宮の中にいたんです。


 そして・・・そう・・・ここからが解るのだけれど解らない、そんな意味不明の記憶が始まる場所でした。


 ・

 ・

 ・


(そう・・・ここから・・・。確か最初はバーツお兄ちゃんに何かされて・・・)


 昔・・・生まれ変わる前からの記憶を振り返っていた私はここで違和感に気付きました。


(私の家族はお父さんとお母さんだけ、なのに何故お兄ちゃんがいるの?)


 そんな疑問に気付いた瞬間、パッと頭の中で何かが弾ける感覚がし・・・そして全てを理解します。


「あ・・・あぁぁぁあああああっ!!」


「・・・なんだ!?」


「ごぶっ!?」


 いきなり私が叫んだことに一狼とごぶ蔵が吃驚していましたが、今の私はそれどころではありませんでした。

 なぜならそう・・・すべて理解してしまったからです。


「あぅぅぅ・・・あぁぁぁあああああ!!」


 理解してしまった私の頭の中はぐちゃぐちゃでした。

 狼人間がお母さんにした事や同じように捕まっていた人達にした事を理解し、蝙蝠人間が狼人間と同じようにお母さんや他の人、私にしたことを理解し、更に私がお母さんや他の人、蝙蝠人間に対して取っていた態度を理解し・・・


「・・・・・・っ!!!」


 私の中にはありとあらゆる負の感情が渦巻いていました。


「・・・かっ・・・・あぁっ・・・!・・・あっ!?」


 ぐちゃぐちゃになった頭の中、負の感情が渦巻く心の中、そんな中が私に語り掛けてきました。


「・・・そ゛う゛た゛。そ゛う゛た゛ね゛」


 私はその語りかけて来たに賛同し、の語った事を実行する為にゆらりと扉へ進み出します。

 そんな私の様子に何か感じたのでしょうか、一狼とごぶ蔵が立ちはだかり声を掛けてきました。


「トキコ?どうした?」


「お腹でも痛いごぶ?」


『立ちはだかるモノは唯の障害物』、そんなはっきりとした思考をする余裕も今の私にはありませんでしたが、直感が邪魔だと感じたのでしょう。


「・・・」


「え?」


「ごぶ?」


 私は2人に触れ、2人の時間を停止させました。

 そしてそのまま2人をそこに残し、私は隣の部屋へと進みます。


「・・・?」


「ゴブ?」


「ふむ・・・」


 隣の部屋、迷宮核がある部屋へと入ると知らない人が3人いてこっちを見てきましたがあの人達に用はありません。

 用があるのは・・・


「何かあったんだな?」


 あの蝙蝠男です。


「窮屈なんだなぁ・・・そろそろ出してほしいんだなぁ・・・」


 何やら変な恰好をしていますが、あの話し方に独特の気持ち悪い感じ・・・間違いないでしょう。

 私は蝙蝠男の方へと近づきます。


「どうしたの?」


「・・・ゴブっ!エペシュ様!あの子は恐らく」


 蝙蝠男へと近づくと女の人とゴブリンさんが私に声を掛けてきましたが、私は一狼とごぶ蔵同様に2人の時を止めるために触れようとします。

 しかし何かに感づいたのか、私から離れるそぶりを見せましたが・・・


「・・・」


 私は自身の時を操り、一瞬で2人の近くへ移動し2人の時も止めます。


「だな?」


 そうすると残るはあの蝙蝠男とわんちゃんのみ。


「・・・」


 ですがわんちゃんの方は遠くから私の方を見るだけで、動こうとはしません。なので私はわんちゃんを無視し、蝙蝠男の方へと近づきます。


「ね゛え゛」


「だな!?その声はトキコたん・・・だな?何か随分声の調子がおかしいんだな。まぁいいんだな!トキコたん助けてほしいんだな!僕ちんはご覧の通り・・・・・・」


 近づいて声を掛けると蝙蝠男は何やら喋り出しましたが、私は語りかけて来たの言ってきた事を実行する為、心の中で渦巻く感情で最も強い『憎しみ』を吐き出しながら・・・


「お゛ま゛え゛も゛お゛か゛あ゛さ゛ん゛を゛い゛し゛め゛た゛。た゛か゛ら゛し゛ね゛」


 蝙蝠男に触れました。

 この時私は単純に蝙蝠男の時を止めるのではなく、奴の中に流れる血や魔力といったモノの時だけを止めました。

 私には医学の知識なんてありませんが、が『そうするといい』と言っていたのでそれを実行したのですが、効果は抜群でした。


「だな?・・・・・・・がっ・・・うがっ・・・・だだだだだなななななな」


 始めは何ともありませんでしたが、直ぐに奴の体に異変が起こりました。何やらいきなり苦しそうになった後、がくがくと体を痙攣させ始めたのです。


「だだだだだだだなななんあな・・・・だなっぷっ!」


 そして暫く痙攣が続いたかと思うと・・・何やら小さく破裂した様な音が聞こえ、それっきり蝙蝠男は動かなくなりました。


「ふむ・・・魔力が動かぬのに生成され爆発したのかの?」


 なにやら残ったわんちゃんがそんな事を言っていましたが、私にはさして興味が無いので次の行動へと移ります。

 私は動かなくなった蝙蝠男から離れ、次は迷宮核へと近づきます。


「ね゛え゛」


【はい】


 私は迷宮核へと問いかけます。『お母さんを虐めていた狼男は何処に居るのか?』と。


 すると迷宮核は答えました。『何処にもいません。もう死にましたと』


 その瞬間、私の中にあった『憎しみ』の矛先は行き場を失い・・・


「な゛ら゛も゛う゛い゛い゛や゛。せ゛ん゛ふ゛と゛ま゛っ゛ち゛ゃ゛え゛」



 私は・・・



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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