第172話 エターナルとわんちゃん

 ガッチガチに拘束をしたバーツを引きづりながらコアルームへと入ると、このダンジョンのコアである『ヴォルフ』がバーツへと話しかけて来た。


【まだ生きている様ですね守護者バーツ】


「ピンピンなんだな」


【・・・】


 ヴォルフはダンジョンコアにしては自我が強いのか、呆れた様な感じを出していた。

 しかしダンジョンコアはダンジョンコア、潔いというかなんというか慌てた様な感じは無かった。


「ヴォルフ・・・でいいんだよな?」


【はい】


「解ってるとは思うが、お前の所の守護者は負けてお前は詰みの状態だ」


【はい】


 俺が言った『お前の負け』宣言にも淡々と返事をし、ヴォルフはあっさりと自分の終わりを認めた。


「あぁ~・・・僕ちんのダンジョンがなくなっちゃうんだなぁ・・・」


 未だ自分の終わりを解っていない者もいるが、きちんと解っていても生きるために足掻かないのはやはりダンジョンコアだった。まぁ俺にはヴォルフもバーツも敵だと言う認識があるので何も言わないが。


「さて・・・バーツ!」


「解ってるんだな・・・だから終わったら無事解放するんだな。約束は破ってはいけないんだな」


 約束した覚えなど1ミリもないが、それを言って面倒になってもアレなので黙って開けろと促す。


「ヘイコア、トキコたんの居る所への道を開けるんだな」


 バーツがヴォルフに伝えると、コアルームの壁の一部が変形し扉が現れた。鍵は掛かっていないとの事なので、軽く話し合い、結果俺とごぶ蔵の2人でその扉へと向かう事となった。


「先ずはそーっと様子を見て、奇襲を掛けられそうなら奇襲。無理そうなら俺がメインで戦う」


「ごぶ」


「あくまでお前は補助だ。何かあった時だけ動いてくれ。例えば俺がピンチになったらエペシュ達を呼ぶとかだ」


「まかせるごぶ」


「後、もしもの話だが、交戦の意思が無さそうなら会話を試みてみる。その際にはバーツのユニークスキルの効果を解除するのにごぶ蔵の力を使ってくれ」


「ごぶ」


 軽く作戦を建てながら扉へたどり着くと『隠密』を発動させ、扉を少しだけ開けて中の様子を覗き見る。


(よし・・・こっちにはまだ気づいて無さそうだ)


 部屋の中には一匹の魔物が此方に背を向けて座っており、その後ろ姿からはウサギ系の魔物の様に見えた。

 その魔物は何かをしている様だったのだが、どうやらおもちゃの様なモノで遊んでいるらしい。


「そぉ~っと・・・そぉ~っと・・・できた!」


 少しの間様子を伺っていたのだが、その様子はまるで・・・


(ん~・・・んん?)


 俺は思う所があり、一旦扉を閉めてからバーツの所へと向かい質問をしてみた。


「なぁバーツ、深く聞いてなかった俺もあれなんだが・・・トキコって子供?あ、今世の話じゃなく前世でだ」


「んぉ?そうなんだな」


 バーツが言うにはまだ2桁にギリギリ行く年齢だったとかどうとか・・・こいつ真正の変態である。

 俺が『ナイワー』と引いていると、バーツが頷き出した。


「うんうん。ロリフたんを愛でるイッヌなら惚れちゃうのも解るんだな。あ、でもトキコたんは僕ちんの嫁なんだな。キリッ!」


「お前と一緒にするんじゃねぇ!それにエペシュは年上のお姉さんだ!合法だ!」


 エペシュたんは年上綺麗系女神だ!異論は認め・・・るが、今は黙れ。


 俺はバーツをバシッと叩き、年上のお姉さんと言われ少し得意げになっているエペシュを撫でる。

 だが今はそういう時ではないと思い出してバーツへと向き直り、トキコとやらの気性を聞いてみる。すると大人しいとの事なので、奇襲で処理ではなく対話を試みてみる事にした。


 俺は再びトキコが居る扉へと向かうと、小さく扉を開いた後に爪で扉を叩き音を出した。


「・・・?」


「わんわん!こんにちはだわん!」


「・・・!?大きいわんちゃん?あ、こんにちは」


 トキコの気性は確かに大人しいモノで、声を掛けた俺に丁寧に挨拶を返してきた。


「僕は一狼だわん。君の名前は?」


「私はトキコ。一狼はバーツお兄ちゃんのお友達?」


「あぁ~・・・うん、そんなところだわん」


 子供故か、はたまたバーツのスキルの影響でか彼女は俺を警戒している様子はなく、にこやかに会話を返してくれる。

 この後の事を考えると少しでも仲良くなっておきたい所なので、俺はそのまま雑談を続けてコミュニケーションをとる事にした。


「トキコちゃん、実はもう1人友達を連れて来たわん」


「そうなんだ?どんな人?」


「人というかゴブリンなんだけど、ごぶ蔵っていうわん。ごぶ蔵、入って来るわん」


「わんって何ごぶ?」


 その途中でごぶ蔵も紹介し、和気あいあいとお喋りを続ける。


(『鑑定』っと・・・)


 その中で俺は雑談ばかりでなくトキコのステータスを確認していたのだが、彼女のステータス自体は平平凡凡・・・というか、弱い部類であった。



 名前:トキコ

 種族:ファニーラビット

 年齢:2

 レベル:9

 str:67

 vit:59

 agi:105

 dex:52

 int:144

 luk:108

 スキル:聴力強化・小 脚力強化・小 逃げ足 

 ユニークスキル:時の神

 称号:転生者 ダンジョン1階層突破



 ステータスだけで見るならば長老と同等か弱いくらいだし、体格からしてもかなり弱いそうだ。

 因みに彼女の外見なのだが、大きさは3分の2ゴブリン程とかなり小柄で見た目はバニーガールだ。・・・うさ耳がついて足の膝から下がウサギ、手は毛が生えてモフモフなのでバニーガールで合っているだろう?

 まぁあれだ、薄い本でも出てきそうなケモ度がわりと低い感じのウサギ型の魔物、それがトキコという人物だ。


(ステータスは弱い、だが問題はユニークスキルか・・・)


 彼女のユニークスキルなのだが・・・



『ユニークスキル:時の神

 ・自身、又は自身の触れている対象の時を操れる。気軽に触れる無かレ。此は全ての時を操る神也』



 中二感があふれ出てカッコよすぎる問題だった。


(いや、小さな子供なら喜ばないか。しかしそれにしてもこのスキル・・・)


 このユニークスキルは文面だけで見るならば強いの一言に尽きるのだが、いかんせん本体であるトキコのステータスが貧弱なので、『触れている対称』という条件があるこのスキルはうまく活用できないのかもしれない。


(あ、でも自分には使えるわけで・・・バーツが炉理のコンだから・・・っは!?まさかアイツ!エターナルロリータを作り出す気だったのかっ!?)


 俺は驚愕の新事実に気付いてしまい・・・震えた。奴の業の深さは異常であろう。

 やっぱりアイツは滅するべきだと頭の中で考えていると、ごぶ蔵が俺をちょんちょんとつついて来た。


「ん?」


 なにやら話があるっぽいので念話で話を聞いてみると、ここからどうするのかという相談だったのだが、偶にはごぶ蔵も勢いだけでなく考えて動くのだと感心してしまった。


「ごぶ!?ごぶはいつも配慮し過ぎ問題ごぶよ!?」


「そうやな」


「何の話?」


 俺の態度にごぶ蔵がつい声に出して突っ込んでしまったので不思議がられてしまう。そろそろ大分フランクに話せるようになったので、話の流れを変えてもいいだろうと思い俺はごぶ蔵へと目配せをしてからトキコへと話しかけた。


「あ、いや。なんでもないんだ。それよりもさ、トキコは特技って何かある?」


「特技?ん~っと・・・あやとりとか?」


「そうそう」


 俺は特技は何かあるかとトキコへと尋ね、そこから話を広げていく。そしてその話の流れで、ごぶ蔵の特技が料理だという事を教えてやった。


「へぇ~。凄いんだねごぶ蔵」


「ごぶ。因みにこれがごぶの自慢の包丁と鍋ごぶ」


「わぁ~、ぴかぴかだね」


「ごぶ。包丁は危ないので見せれないけど、お鍋持ってみるごぶ?」


「いいの?」


 今回のごぶ蔵は妙に物分かりが良く、思わず『よくやった!』という具合に上手く話を進め始めた。

 そしてこれまた褒めたくなることに、ごぶ蔵はトキコが鍋を持って『ポヘェ~』っとしている所にスキルを素早く使った。


「ごぶっ!」


「・・・ッア!」


 ごぶ蔵が何かを切るようなしぐさをした後にトキコがビクッとし、ごぶ蔵の手には何か妙なモノが握られていたので恐らくバーツのスキルが解除出来たのであろう。


「・・・・あっ・・・アゥ・・・アァッ・・・・!」


 スキル解除の影響だろうか、トキコは目と口を見開き宙を見つめ唸っていた・・・のだが、何か様子がおかしい気がする。


「ごぶ蔵・・・、なんか変な物まで切ってないよな?」


「ごぶっ?ちゃんと長老やエペシュと同じ変なモノを切り取っただけごぶよ?」


「そうか・・・それならいいんだが・・・」


 ごぶ蔵がそう言うのであれば大丈夫なのであろう。なんせコイツはやる時にはやるゴブリン・・・な筈だ。


「もしかしたら長い事『チェンジリレイション』状態だったから、その所為か?」


「ごぶには解らないごぶ」


「まぁ、少し様子を見るか・・・」


 もしかしたらバーツのスキルに長くかかっていた副作用なのかもしれない、そう思い俺達は暫く様子を見る事にした。



 そして5分ほど経った頃だろうか・・・トキコの様子に変化が見えた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 ☆や♡をもらえると ニアが 若返ってきゃぴきゃぴ言います。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532


 お詫び:誤字修正 2022/8/18

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