第171話 殴るわんちゃん

 バーツの喋った言葉に俺は一瞬言葉を失う。


 そして・・・怒った。


「何が嫁2号ちゃんだゴルァ!お前にエペシュたんはヤッテねぇ!だからそいつが1号ちゃんじゃ!」


 なんせ『嫁2号ちゃん』だ。という事はエペシュたんが1号になるじゃないか!?そんなの許すわけがない!

 俺はバーツの頭をべしべしと叩いた。


「痛っ!だからっ・・・暴力っ・・・反対なんだなぁぁあ!」


「うるせぇぇぇ!」


「突っ込みどころはそこではないのではないかや?」


「あぁん!?」


 バーツの頭を叩いているとニアが何か言ってきたのだが、突っ込みどころがそこではないだって?

 その言葉に一旦バーツを殴る事を止め、俺は深く息を吐き気を静める。

 そうしてから改めてニアの言葉の意味を考え意味を悟ると、俺はバッとバーツを見て詰め寄った。


「ちょ!なんでお前の口から長谷川の名前が!?長谷川ってアレだよな!?ウォーワーウルフの転生者!」


 俺のいきなりの変わりようにバーツ以外の者も吃驚し、ついでに頭にハテナマークが見えたので俺は長谷川の事を軽く説明する。


「俺が元居たダンジョンに帰ろうとしていたのは知ってるだろ?んで、そのダンジョンを探す原因と言ったらいいのかな?それがその長谷川っていうウォーワーウルフの転生者のせいなんだよ」


「何かされたごぶ?」


「ああ、俺達のダンジョンを攻められたんだ。まぁその前にダンジョンを移動しようと思ったのはアレなんだが・・・」


「ん?妾を見てどうしたのじゃ?」


「いや、なんでもない。なにはともあれ、ド強いウォーワーウルフの転生者、それが長谷川だ」


 かなり適当な説明だが、実際長谷川の事はあんまり知らないのでこれ以上の説明のしようがなかった。

 なのでこんな説明になったのだが、長老が何となく疑問に思ったのか尋ねて来た。


「ゴブ・・・その長谷川とやらは強いとの事ですが、先程倒していたウォーワーウルフより強かったのですゴブ?」


「だと思う。俺も当時は今より弱かったから正確には解らんが、さっき見た奴らよりかは強かったと思う」


「うむ。ステータスだけなら今の一狼よりも強かったのじゃ」


「え?マジ?」


 強いとは思っていたが、そこまで強かったことに俺は吃驚する。それなのに生き残った俺は、本当に運が良かったのだろう。


「ゴブ!?よくご無事でしたなゴブ!」


「まぁ・・・俺にかかれば強くともチョチョイノチョイよ・・・」


 俺が当時の事を思い出し冷や汗をかいていると長老がそんな事を言ってきたので、俺はついホラを吹いてしまった。


「見栄を張りすぎではないかや?実際は運が良かっただけじゃろう?」


 まぁニアによって速攻バラされてしまったがな!


 と、ついついバーツの事を放置してしまっていたのだが、彼はなんだか先程から頭を捻って何かを考えていた。俺が長谷川を倒したのがそんなに不思議だったのだろうか?

 だがバーツが考えていたのはそんな事ではなく、ある人物?の事の様であった。


「うーん・・・何処かで聞いたことがある筈なんだな・・・んー・・・あっ!」


「どうしたんだバーツ?長谷川が倒されたって聞いて驚いたのか?」


「いや、それはなんとなく解っていたんだな。だって帰ってこなかったし。いや、僕ちんが言いたいのはそんな事じゃないんだな!」


「うん?」


「何か聞いたことがある声だと思っていたけど、そこにあの鬼ババ犬がいるんだな!?」


「鬼ババ犬?」


 俺はバーツの言葉に周囲にいる人物を見る。

 この場に居るのはゴブリン、ゴブリン、エルフ、犬、そして俺(犬)だ。その中で『鬼(鬼、もしくは怖い)ババ(女)犬(犬、もしくは4足歩行で犬っぽいの)』に当てはまるのは・・・


「うむ」


 チラリとその鬼ババ犬と思わしき人物の方を見ると、自分だと肯定するかの様に頷いた訳だが・・・知り合いなのだろうか?

 疑問に思い首を傾げていると、またもやバーツの口から衝撃の言葉が飛び出した。


「長谷川と一緒に消えたと思ったら何処へ行ってたんだな!早く助けるんだな!それが今までこのダンジョンに住んでいた対価なんだな!」


「え?」


「対価なぞ払う気はないのじゃ。そも、お主とてあの小物が何処かから拾ってきた末に『守護者』になったのじゃろ?払うとしても小物にであって、お主にではないのじゃないかや?」


「ええ?」


 その後、ピーチクパーチク喚くバーツと淡々と話すニアの話を聞くと、元々ここは長谷川が居たダンジョンだったのだが、長谷川がバーツを何処かから拾ってきたらしい。

 バーツによると、有る時森の中で出会い、その時長谷川に『チェンジリレイション』をかけたそうだが、関係を『親友』と設定した筈が何故か舎弟となってダンジョンへ連れ込まれ、気が付くとダンジョンの『守護者』にされていたそうだ。

 その際にニアと合ったらしいが、ニアには『チェンジリレイション』が効かなかった様で、ニアを使い長谷川を排除しよういう計画は潰れたそうだ。

 その後、仕方がないので従順に長谷川に従い、おこぼれを貰いつつ生活をしていたある時、長谷川が返ってこなくなったのでダンジョンを移動させてトンズラを扱いたらしい。まぁトンズラを扱いた先がこの様な場所で失敗だったらしいが。


「でも嫁2号ちゃんが居たので寂しくはなかったんだな」


「へぇ」


 正直この頃になるとバーツの話は愚痴やら自慢話やらどうでもいい話になって来ていたので飽きていた。

 なので適当に相槌を打っていたのだが、バーツが『嫁一号ちゃんも出来たし順風満帆だったのに』とか言い出したので、イラッと来たので殴って話を強制終了させた。


「やれやれ・・・で、結局バーツ、お前は長谷川と嫁2号ちゃん?の事くらいしかしらないわけ?」


「だな」


「この魔境地帯に居る奴の事は知らないんだな?」


「そんな奴いるんだな?僕ちん『守護者』だからこのダンジョンから出られないから、外がどうなってるかは知らないんだな。唯一知っているのは、ダンジョンが多いって事だけなんだな」


「そうか」


 長々と話を聞いていたが、実質得られた情報はここが元長谷川のダンジョンだったという事だけ。しかもそれは大して意味のある情報ではなかった。

 なのでこれ以上はもう話を聞いても仕方ないかなと思ったのだが、そういえば度々話に出て来る『嫁2号ちゃん』とやらの事を聞いていないのを思い出し聞いてみた。


「バーツ、お前が話す嫁2号ちゃんとやらも転生者なんだよな?」


「そうなんだな。あっ!まさか嫁2号ちゃんも僕ちんから取るつもりなんだな!?」


「いや、取りはしないが・・・まぁ敵対するなら倒す事にはなるんだが」


 相手が転生者となればユニークスキルを持っている筈だ。危険なので先手を取り、何かをしてくる前に対処しなければならない。

 俺がそんな事を考えている事が薄々解ったのか、バーツは慌てながら釈明をし始める。


「ト・・・トキコたんは危険な子じゃないんだな!敵対なんてしないんだな!」


「いや、お前にそんな風に言われても信じられんだろ・・・」


 バーツが何か言おうとも所詮コイツは敵、信じられる要素は0だ。

 なので何とかそのトキコとやらが居る場所だけを聞き出し、危険そうならば先手を取って処理する事にした。


「いや、そうだなバーツ。トキコちゃん?は危険じゃないかもしれないな」


「そ・・・そうなんだな!」


「そんでさ、そのトキコちゃんってさ・・・・・」


 俺はバーツをなだめすかし、何とかトキコの居場所を聞き出すことに成功した。しかしそこはバーツがダンジョンコアに言って開かせないと入れないとの事なので、俺達はバーツを引きずりコアルームへと移動する事にした。


「変な事をダンジョンコアに命令しようものなら即処分だからなバーツ」


「わ・・・解ってるんだな・・・」



 俺はこの時すっかり頭から抜け落ちていたことがあった。


 そしてこの後、その忘れていた事によって俺達は・・・とても複雑な事態に陥いってしまう。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

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