第170話 雄たけびのわんちゃん

「・・・なっ!?いったいな「グ ル ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ ン ン ン ! ! ! ! 」


『僕 ち ん 大 勝 利 !』と気を抜いていたバーツの真後ろで俺は力の限り咆えた。


(どうだっ!?)


 相手は顔の割合に対して耳が大きいので聴力がいい蝙蝠と見受けられる。ならばこれで下手な事をさせない様に出来る筈だ。


(追撃頼むぞエペシュ!)


 作戦ではそのままエペシュが矢を放ち追撃を入れ、そこから更にトドメの全力攻撃の予定だったのだが・・・


『ビュンッ!』


「うぉっ!?あぶねえ!」


 バーツへと打ち込む筈の矢が俺の顔の真横を通り過ぎた。


「なっ!?まさかバーツのスキルが!?」


『チェンジリレイション』が発動する前に片を付けようと思っていたし、発動されても魔法での補助や掛ける回数によりかからなくなったと思っていたのだが、そんな考えは甘かったらしい。


(チクショウ!よりによってエペシュと敵対させて来るとか!許さねぇこのクソ蝙蝠が!)


 バーツ自体はフラフラしているので戦力にならないだろうが、寄りによって『強い・かわいい・かわいい』と定評のあるエペシュが敵になって来るとは・・・

 しかし戦わなければこちらが危険になる為、どうにかしてあまり傷つけずに無力化しなくてはいけない。



 ・・・とか考えていたんだが。



「きゅぅ・・・」


「・・・え?」


 エペシュの方へと視線を向けると、彼女は大の字になって倒れていた。何が起こったんだと思っていると、バーツも同じ様に倒れてしまった。


「これは一体・・・?」


 バーツと操られたエペシュを無力化出来たのは良いのだが、何が起こっているのか解らないので俺は混乱してしまった。

 なのでバーツへとトドメも刺さずにアワアワとしていると、長老が近づいて来て落ち着く様に声をかけて来た。

 俺はその言葉を受けて何とか頷き、深呼吸して冷静さを取り戻すように務めていると何とか落ち着いてきたので長老へと話しかけた。


「・・・ふぅ。長老、レモン空間へと長老とエペシュを送るから、何とかごぶ蔵の目を覚まさせてエペシュにかかったスキルを解除させてくれないか?」


 このままエペシュを放置すると目が覚めた時に敵対される。そうなると厄介なので、気を失っている内に処置をしてほしいと長老へ頼んだ。


「ゴブ?エペシュ様は再びスキルにかかったのですゴブ?」


「多分。俺に向かって矢を撃って来たし」


「・・・ゴブ。それならば問題ないですゴブ」


 だが長老はその頼みを聞いてくれる事無く『問題ない』と言い出した。問題しかないと思うのだが?


「エペシュ様が矢を撃った・・・というか撃ってしまったのは、一狼様の咆哮で気を失ったから指の力が抜けて標準もブレてしまった為ですゴブ。再び敵のスキルに掛かった訳ではないですゴブ」


「えぇ・・・?」


 長老の言葉に『んなアホな』と思ったのだが、言われてみるとエルフも五感が鋭い種族で、しかもエペシュはユニークスキルに『超感覚』なるスキルを持っていた。

 ならばバーツ同様、至近距離で俺の全力咆哮を受けたら気絶するのも仕方のないことなのかもしれない。


「そうか・・・でももしかしたらもあるかも知れないから、一応拘束してから起こすか」


「念のためにそうするのはアリですゴブ」


 万が一を考え、起こすのは拘束してからにしようと決めたので、エペシュには拘束を施す。

 そしてそれを終えると、次はもう1人の気を失っている人物?であるバーツの処分だ。


「こいつは怯んでいる内に全力攻撃で殺しきる予定だったんだけど、このままサックリやっちまうべきか?」


「取るべき情報等が無いのならそれもありですゴブ。情報等を取るのならば、手と視界さえ封じてしまえばスキルは防げそうなので何とななるかも知れませんゴブ」


「ふむ・・・」


 長老の言う通り『チェンジリレイション』なるチートスキルはバーツの自白により手をかざさなければ使えない事が解っていたし、それにプラスして目を塞いでおけば『チェンジリレイション』は確かに防げそうだ。


「ステータス的にも俺の半分くらいだし、気をつけなきゃいけないスキルも『超音波』『風魔法』くらいか。どうにでもなりそうだな・・・うーん・・・」


 コイツから聞くべき情報なんてあるかなと俺は考える。

 ダンジョンの事を聞くにもここはダンジョンコアを抜き去る予定なので意味がないし、コイツの事もあまり興味が無い・・・というよりエペシュに手を出そうとしたので殺意しか無いので、何かを聞くとしたら他の転生者の情報くらいだろうか?


「キメラドールが居た所のダンジョン、あそこの転生者の事知ってるかもって可能性はあるか・・・。ならそれだけは聞きたいかもだな。よし!拘束だ!」


「ゴブ」


 いずれ戦うであろうキメラドールのダンジョンにいる転生者の事が聞きたいのもあり、俺はバーツを取りあえず拘束する事に決めた。

 俺と長老は2人であーだこーだいいながら相談し、バーツが下手な事を出来ない様に拘束していく。


「出来たな」


「ゴブ」


 最終的にはヤ○ザ映画で見る様な首から下は固めた状態になり、それにプラスして視界を防ぐために目隠しをつけ、更に『超音波』を防ぐために口周りにも細工を施す形になった。

 ここまでしたら大丈夫だろうという事で、一先ずはチートスキルを打ち破るチートスキル持ちのごぶ蔵を正気に戻す事にした。


「で、レモン空間からごぶ蔵を出してみた訳なんだが・・・」


「見事にボォ~っとしておりますゴブ」


「おーい!ごぶ蔵~?起きろぉ~?しっかりしろ~?ご飯だぞ~?」


「・・・」


「駄目な様ですゴブ」


 一瞬『最強か?』と思われたごぶ蔵だが、『チェンジリレイション』が中途半端にかかった状態からはどうしようも出来ないらしく唯々ボォ~っと突っ立ったままで、声を掛けたり突っついた程度ではピクリとも反応を示さなかった。


「魔法でもかけてみますゴブ?」


「目が覚める魔法的な?」


「ゴブ。若しくはショックを与えるという事で電撃魔法・・・を使えたらよかったのですが、まだ使えないのですゴブ」


「まぁ目が覚める魔法から試してみよう」


「ゴブ」


 その後長老と共に四苦八苦しながらごぶ蔵を正気に戻そうと思ったのだが何ともできず、結局はニアが『戦闘も終わっとるし、ごぶ蔵の飯が食えんくなってもアレじゃしの』と言ってなにがしかの魔法を使ってくれた事によりごぶ蔵は正気を取り戻した。


「ごぶ?どうなったごぶ?」


 正気を取り戻したのは良いが、ごぶ蔵からしたら時間が飛んだ感じになってしまったので、俺はごぶ蔵が意識が無かった間の事を説明してやった。

 ごぶ蔵は少し申し訳なさそうな感じになったのだが、元はと言えばごぶ蔵が居なかったら詰んでいた状態なのだ。だから気にするなとフォローを入れておいた。


「うし、チートゴブリンが正気に戻ったからエペシュも起こすか」


「ゴブ」


 ごぶ蔵が正気になったので次にエペシュを起こす事にしたのだが、彼女の場合は長老が回復魔法を使うと直ぐに目が覚めた。

 目が覚めると動けない事に『???』となっていたので、『チェンジリレイション』が掛かっているかも知れないと説明をし、2,3質問をしてみる。すると正常だったことが解ったので拘束を解いてあげた。


「気絶しちゃったんだ・・・ごめんなさい」


「あ、いや、俺が武器を構えておいてくれって言ってなきゃよかったんで・・・俺の方こそごめんなさいだわ」


 エペシュは拘束から解かれると謝って来たのだが、これは俺の考えが甘かったせいだ。次からは気を付ける事にしよう。


「・・・う・・・う~ん・・・耳がキーンってするんだなぁ・・・」


 と、そうこうしている内にバーツが自力で目を覚ましてしまった。流石は魔物、回復力が凄まじいらしい。

 俺達は万が一に備えバーツを四方から取り囲み、それから声をかけた。


「おい、ロリコン野郎。観念しろ。お前は包囲されている」


「んぉ?・・・っは!?お巡りさん!僕ちんじゃないんだな!悪いのは僕ちんの中に居る悪い僕ちんなんだな!だからタイーホは勘弁なんだな!」


「いや別に警察じゃないが」


 このロリコン野郎、前世でもやばい奴だったのだろうか?っと、そんな情報はどうでもいいので話を続ける。


「・・・おほん、お前、今の状況がわかるか?」


「状況なんだな?・・・あ、そうなんだな、嫁一号といよいよ合体って所だったんだな!」


「そんな事実はない。お前の状況は動けず、スキルも使えず、詰みって状況だよ」


「だな!?・・・え?本当に動けないんだな?」


 漸くバーツは今の状況が解ったのか、首をうごうごと動かしだした。スキルも使おうと思ったようだったが、上手く発動できないようだった。・・・狙い通りだ。


「理解できたか?」


「・・・べ・・・弁護士を呼んでほしいんだな」


「この世界には弁護士なんていない」


「んん・・・?何で弁護士を知ってるんだな?・・・さてはお前転生者なんだな!?」


「そうだがお前に質問する権利はない」


「あだっ!暴力反対なんだな!」


 状況が解っている筈なのにふてぶてしいバーツを俺は軽く小突く。だが尚も生意気な態度を崩さないのでちょっと齧ってやると漸く大人しくなった。


「お前がまだ生きているのは情報源として価値があると思ったからだ。もしいい情報を話すのならば、この後も情状酌量の余地があるという事を覚えておくように」


 実際はそんな余地はないし、ダンジョンコアを取るつもりなので『守護者』となっていたこいつは恐らく終わりを迎えるだろうが、情報を喋らせるために今は黙っておく。

 するとバーツは上手く騙されたのかブンブンと首を上下に振り「何でも話すんだな!」と言い出した。


「よしよし。じゃあ質問だ。お前、他の転生者の事を知っているか?」


 俺はキメラドールのダンジョンに居る奴の事を喋ってくれると思っていた。


 だが、バーツは予想外の答えを喋った。



「一杯知ってるんだな!あ、でも殆ど死んだんだな。だから知っているのは何処か行った長谷川とコアルームの隠し部屋に居る嫁2号ちゃんだけなんだな」



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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