第168話 祝わないわんちゃん

 唐突だが語らせてほしい。


 人生には『おめでとう!』と祝いたくなる瞬間が幾つもあると思うんだ。

 それは些細な事から大きい事、沢山あると思う。例えば誕生日だったり、希望していた事が叶ったりと色々だ。

 その中でも俺が特に祝いたいと思う事は『結婚式』である。

 なんせ結婚式と言えば他人が家族になる事を誓い、関係性がグッと変わる一大イベントだ。

 前世ではついぞ俺に縁はなかったが、知り合いの結婚式に出た時に見たあの幸せそうな姿を思い出すと、『ああ、いいな』と思えたものだ。


 だがしかし・・・


 ・

 ・

 ・


「それではただ今より、新郎バーツと新婦エペシュによる夫婦の誓いを交わして頂きますゴブ」


 祭壇の様なモノの前にいる長老の所へエペシュとバーツが揃った事により、この式のクライマックスでもある誓いの儀式がなされようとされていた。

 この儀式を前に・・・


「・・・」


 1人は神妙になり口をつぐみ・・・


「ぐふふ・・・ロリ嫁2号・・・いや、1号ゲットなんだな。ナコたんもそろそろだし、その内両手に華が完成するんだなぁ」


 1人はだらしない顔をしながら欲望を垂れ流し・・・


「「「目出度いごぶ。目出度いごぶ」」」


「「「がうがう!(めでたいめでたい!)」」」


 会場はお祝いムードに湧き上がっていた。


「ゴブ」


 そして会場の皆と同じようにこの式を祝う様な表情をしていた長老が顔を引き締め、神妙そうな顔を作ってから口を開いた。


「今から儂が夫婦の誓いを確認させていただきますゴブ。問題なく誓うと思ったのならキスをしていただき、それを持って成約とさせていただきますゴブ」


「解った」


「バッチコイなんだな!」


 長老は双方の了解を得た後、滔々と言葉を紡いだ。


「汝らは真摯な気持ちで相手を想い、訪れる苦難を手を取り合い乗り越えるゴブ?また、魂を繋げ、死した後もその繋がりを辿り巡り合う事を神に誓うゴブ?誓うのならば互いに祝福を送り合い、これを持って神に証明するゴブ」


「・・・」


「むふぅー・・・むふぅー・・・」


 この長老から紡がれた誓いに、2人は顔を近づけ誓いのキスをしようとした。


「・・・」


「むっふぅぅぅ・・・むっふぅぅぅ・・・むぅぅぅんんん・・・」



 2人の顔の距離は段々近づいて行き、大勢が見守る中・・・ついに2人の距離は・・・



 ・

 ・

 ・



「むぅぅぅんんん・・・いただきまぁすなんだなぁ・・・」


 遂に重なった。


「・・・あれぇ?ロリフたん?どこ行ったんだな?」


 ・・・そう思った時だった。何故か忽然とエペシュの姿が消えてしまったのだ。


「ロリフたーん?僕の嫁一号のロリフたーん?」


「なぁ・・・バーツさんよぉ・・・俺は語りたいことがあるんだよな。聞いてくれるか?」


「んぉっ!?何時の間にそんなところに居たんだな!?」


 キョロキョロとエペシュを探すバーツに俺が声を掛けると、彼・・・いや、こいつはなんだか驚いていた。

 だが俺はそれには取り合わず、聞いてくれるかどうかは解らないが勝手に語り出した。


「俺はよぉ・・・結婚式ってお目出度い事だと思うんだよな。それもとびっきり」


「んぉ?まぁそうなんだな?だから僕ちんとロリフたんを祝ってくれてるんだな?」


「だがよぉ・・・何事にも例外ってものがあると思うんだ。それは結婚式も然り」


「???」


 俺はここでレモン空間からエルフの皮を取り出し、シェイプシフトでエルフの姿へと変化する。

 それにバーツが吃驚して顎がパカーっと開いていたが俺は気にせず・・・右手で左目を覆い、左手は左腰へ、更に左足の踵を少し浮かせ腰を前へ突き出し、胸をぐっと反らしてポーズを取った。


「何かどこかで見たことある独特な立ち方なんだな・・・」


「それはよぉ・・・無理矢理結婚させられたり・・・最初からだます目的で結婚したりとか色々あるんだがよぉ・・・その中でも一番最悪なのがよぉ・・・」


 ここで俺は息を大きく吸い溜め・・・そして一気に解き放った。


「それはよぉ!催眠的な奴で心を操る!エロ漫画的なNTR展開の結婚式だっ!!!」


『ズギャァァン!』と俺は言ってやった。そして今だ『???』とバーツが混乱している間にシェイプシフトを解除して犬形態に戻り、長老をレモン空間へと強制収容した。


「な・・・なんなんだな!?あれっ!?何時の間にか誰も居ないんだな!?」


 バーツは今更気づいて叫んだがそれはそうだ。なんせ皆は先程俺が全てレモン空間へと放り込んだからな。


「またお前に変な事されちゃ敵わんからな。その『チェンジリレイション』とやらでな」



 名前:バーツ

 種族:デビルバット

 年齢:2

 レベル:3

 str:344+150

 vit:317+150

 agi:348+150

 dex:582+150

 int:603+150

 luk:541+150

 スキル:超音波 聴力上昇・中 絶倫 毒爪 風魔法 罠知識

 ユニークスキル:チェンジリレイション

 称号:転生者 ダンジョン1階層突破 迷宮『ヴォルフ』の守護者 舎弟 叡智(笑)


『ユニークスキル:チェンジリレイション

 ・偽りの関係へと変えられる。自分と他人の能力、掛ける回数によって成功率が変わる。昨日は他人、今日は敵、明日は味方、手のひらを反すアナタは蝙蝠。』



 このバーツと言う転生者が持つユニークスキルの『チェンジリレイション』、食らってみて解ったがとても恐ろしいスキルだ。

 なんせ俺は先程までコイツの事を敵ではなく『昔からの親友』だと思いこみ、親しみを感じていたのだから・・・


「流石ユニークスキルってところか」


 転生特典?だけあって『ユニークスキル』と付くスキルはどれもぶっ壊れスキルだなと戦々恐々としていると、バーツが俺の呟いた言葉に反応した。


「なっ・・・お前、何で分かったんだな!?」


「なんでってそりゃ・・・あ~・・・」


 何で分かったって『鑑定』だろ?と思ったが、そう言えばコイツのスキルには『鑑定』が無かった。だがその割に『絶倫』とか持っていたので、もしかしたらこいつはスキル選択が出来る時に『鑑定』を取らず『絶倫』を取ったのかもしれない。・・・気持ちは解らんでもない、うん。


 とりあえずだ、その事をすんなり教える必要もないのですっとぼけてみる事にした。


「お前が自分で言ってたんじゃないか?そのスキルが掛かったと思ってべらべらベラベラとさ」


「ぐぬぬ・・・しまったんだなぁ・・・」


 口から出まかせだったのだが、どうやら信じた様である。

 下衆の癖にピュアなのかな?なんて思っていると、下衆ピュアさんが話しかけてきたので、俺は時間を稼ぐためにお喋りに付き合う事にした。


「けどどうやって僕ちんのスキルを解除したんだな!?気づいても解除できるようなものではないんだな!」


「それはお前・・・あれだわ・・・。あの・・・その・・・愛!愛だろ!」


「愛なんだな?」


「そうだ!俺が俺の女神エペシュたんを思う気持ちが俺を目覚めさせたんだよ!」


「な・・・なんだってぇぇぇええ!?なんだな!?」


 そう、俺のエペシュたんへの愛はユニークスキルを打ち破るのだ。・・・まぁ今回はごぶ蔵の力を借りたのだが、実質愛の力だと思っているのでそういう事なのだ。


(しかしごぶ蔵のユニークスキルであんなことが出来るとは・・・マジヤバイな『料理魔法』)


 何時か本当に頭がイカレてサイコシェフごぶ蔵にならないだろうなと身震いをしていると、いきなり顔の横に包丁がヌッと出て来た。


「うぉっ!?」


「呼んだごぶ?」


「呼んではいない!待ってはいたけど!」


 包丁の主はサイコシェフごぶ蔵であった。・・・そんな登場のしかたスンナし!

 だがそんな思いは伝わる筈もなく、ごぶ蔵はいつも通りのテンションで報告をしてきた。


「ごぶ。取りあえず言われた通り、長老とエペシュだけ処置して来たごぶ」


「うん。なんだかスッキリ」


「ゴブ。不思議な気分ですゴブ。あ、言われた通り超特急でこなしましたゴブ」


「さんきゅ!」


「なぬぅ・・・そいつらもスキルが解けたんだな!?」


 俺と同じようにスキルを解除されたエペシュと長老が姿を現したのだが、一見すると本当に解除されているのか全く分からない。やはり奴のユニークスキルはかなり凶悪なスキルの様だ。

 そしてそれは奴も知っているのか、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべた後、ユニークスキルを発動させた。


「ならもう一度かければいいだけなんだな!ゲットアゲイン!ロリフのお嫁さん!なんだな!」


 前回は気づいたらスキルにかかっていたのだが、どうやらこのスキル・・・特に面倒な前準備等もいらないらしく、手をかざしただけで使える様だった。



「「「・・・っ!!」」」



 そんなチートスキル『チェンジリレイション』を再度かけられた俺達は・・・



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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