第167話 祝いのワンチャン

 唐突だが語らせてほしい。


 人生には『おめでとう!』と祝いたくなる瞬間が幾つもあると思うんだ。

 それは些細な事から大きい事、沢山あると思う。例えば誕生日だったり、希望していた事が叶ったりと色々だ。

 その中でも俺が特に祝いたいと思う事が1つあって・・・


 それは・・・


 ・

 ・

 ・


 その日、俺達はせかせかと動いていた。


「おーい、そこはもうちょっと明るい色の奴を置いてくれ!せっかくの目出度い席なんだ!」


「ごぶ?ならこっちごぶ?」


「イイね!」


「一狼様、こちらの配置はどうしましょう?」


「あー、それかぁ・・・」


 俺達はとあるダンジョンの一室で、あるお目出度い事の準備をしているのだ。


「ここはこれをあっちに、あそこには旦那様のお気に入りをおいてほしい」


「あ、エペシュ。来たのか」


「うん。だから」


「ああ、そうだな。折角のだもんな。自分の希望はいれたいよな」


 そう、お目出度い事とはエペシュの結婚式だ。


「ゴブ。ならエペシュ様、こちらは・・・・・・」


「そこは・・・・・・」


 俺は長老と相談し始めたエペシュの事をジッと見る。

 彼女は解りにくいがとてもウキウキしていて、その様子を見ていると俺はとても嬉しく思ってしまう。


「うっし、頑張るか!」


『エペシュがこれ程に待ち望んでいるのだ。絶対いい式にして見せる』そう意気込んだ俺はそれよりまでも精力的に動き始めた。

 招待客のテーブルの準備、会場の飾りつけ、当日の段取り等々様々な事を確認していく。


 その途中、俺は部屋の隅にジッと座っているニアを見つけたので近寄った。


「ニアは手伝ってくれないのか?折角の祝い事なんだぞ?」


「妾は手伝わんのじゃ」


「それくらいいいじゃないか・・・」


「・・・」


「はぁ・・・まぁいいや。俺は作業に戻るわ。気が変わったら手伝ってくれ」


「妾が今回の手伝いをする事はまずないのじゃ。目出度いとも思わんしの」


 俺は『嫉妬か?このツンデレ犬?』と思いつつニアから離れ会場の設営へと戻る。

 確かに『自分より年下の者が結婚して夫婦になり幸せな家庭を築く』は羨む事かも知れないが、ニアからしたらこの式の主役は敵でもないし知らない仲でもない。ならば少しくらい祝う気持ちで手伝ってくれてもいいじゃないかとは思うのだが・・・


(今までのスタンスもあるから素直に手伝うという事がしづらいのかな?ま、最後に一言おめでとうとでも言ってもらったら万々歳という事にしておくか)


 俺はこんな事を思いつつ心を込めて事をこなし、そして・・・


 ・

 ・

 ・


「それではただ今より、結婚式を始めたいと思いますゴブ」


 いよいよ結婚式が始まった。


 招待された者達は長老の司会が始まると、それまでガヤガヤしていた状態から静かになり主役の登場を待つ。

 誰もが静かに、そしてお目出度い空気の中で高揚した気分のままに長老の司会の声へと耳を傾けていた。


「本日の主役のお二方、ご入場ですゴブ」


 因みにだがこの結婚式はゴブリン式だのエルフ式だのこの世界式だの前世式だのが色々混ざっている。

 その為、新郎新婦共に奇怪な方法での入場が始まった。


『ゴゴゴ・・・』


 そんな音と共に式の会場である守護者の間とコアルームを繋ぐ扉が開かれたかと思うと、いきなりコアルームから木の枝が伸びて来た。


「新婦エペシュの入場ですゴブ。皆様祈りを捧げてくださいゴブ」


 招待者達は皆長老の言葉に従いそれぞれの方式で祈り出す。

 種族があればそれだけ祈る方式もあるという事で、ウルフ達なんて遠吠えをしていた。

 そんな中、コアルームから伸びた木の枝の上を花嫁衣裳を纏ったエペシュが歩いてきた。


(ふ・・・ふつくしい・・・)


 俺はその姿を見て昇天しそうになってしまう。なんせもう、美しいの次元を超えて『美』という概念が現れたかと思ったからだ。

 まぁそんな事を思っているのは俺だけらしく、他の者は祈りの後に『おめかしばっちりごぶなー』『ヒラヒラで動きにくそうごぶ』なんて事を言っていたが。


「ご静粛にゴブ。・・・それでは続きまして、新郎のご入場ですゴブ」


 少しザワザワとしていたので長老がたしなめ、同時に本日のもう1人の主役であるの名を呼んだ。


「ま・・・任せたって言ったけどカオスなんだな・・・」


 そんな声と共に、コアルームからピッチリとした衣装を身に纏った2足歩行の蝙蝠に似た魔物である我らが友バーツが踊りながら現れた。

 するとゴブリン達のボルテージはマックスになったのか、あまり激しくはないがその場で踊り出す。聞いてはいたが、これがゴブリン式の作法らしい。


 バーツは軽快な踊りをしたままエペシュの隣まで進み、2人そろったところで主役席へと着席する。


「ゴブ。踊っている者はそろそろ止まるゴブ。止まったら次へまいりますゴブ」


 その後直ぐに全員が踊るのを止めて座った所で、式の進行が続けられた。

 だがこの式、バーツがカオスと言っていたがそれは俺も感じていて、俺達からすれば普通の馴れ初め話なんかもあったのだが、その合間合間に踊りが挟まったり余興としてマジック?なんかがはじまったりと凄い状況だった。

 俺はそれらを見つつも偶にエペシュの方を見やり、ぼんやりと考えに耽っていた。


(はぁ・・・エペシュたんもついに結婚かぁ・・・。出会った時は運命の人だと思っていたけど、結局はこんな結末かぁ。まぁバーツとは出会った時から良い感じだったし、仕方ないといえば仕方ないんだろうけどなぁ・・・)


 俺はため息をつきながらエペシュとバーツの出会いを思い出す。


(俺の時と違って、ちゃんとあっちは2人が運命を感じちゃうような出会いだったもんなぁ。たしかエペシュがオークロードとの戦いでピンチの時にバーツが・・・いや、違うな。バーツは俺と最初から一緒にいて、それで・・・。んん?違う違う、このダンジョンに俺達が攻めて来て、出会ったんだ。んでその時に・・・)


『俺まだ0歳だけど、もうぼけた?』なんて思いながら思い出に浸っていると、何時の間にかテーブルの上に料理が並んでいた。


「小腹も空いてきた事とお思いですので、ここでお食事タイムですゴブ。どうぞ食べながら聞いてくださいゴブ」


「マジでカオスなんだな・・・」


「バー君食べないの?美味しいよ?ほら、あーん」


「うっひょぅ!カオスでもなんでもいいんだな!ロリっ子エルフ新妻のアーンとか最高なんだな!」


 主役たちも楽しんで食事をしているので、俺も食べようと思いエペシュ達から目の前の食事へと目線を映した。

 すると何時の間に居たのか、ごぶ蔵が俺の横に座りフォークに肉を刺して俺の目の前に持って来ていた。


「あーん、ごぶ」


「何時の間に・・・もぐもぐ・・・」


 差し出されていた肉を食べると、ごぶ蔵は『料理が終わったから戻って来たごぶ』と言ってまた肉を差し出してきた。


「あーん、ごぶ」


「ありがとう・・・もぐもぐ・・・」


「旦那の世話を焼くのが女房ごぶ」


「お・・・おぅ。そうだな?」


 照れているごぶ蔵に俺はちょっと混乱しながら答えたが・・・そうだった。


(エペシュがバーツと良い仲だって知って落ち込んでいた俺はごぶ蔵と・・・)


 思い出した事実に『俺、早まったんじゃね?』と思ったが、料理の美味さに舌鼓をうっていると『いや!正解だな!』という考えの方が大きくなってきた。

 そのままもぐもぐとひたすらに食べていたのだが、ごぶ蔵がエペシュ達の方を見ながら呟いた言葉に俺の口は動きを止めてしまった。


「この後は誓いのキス、後に夫婦だけの時間になるごぶな」


 俺はこの言葉を聞いて妄想してしまい、何故か激しいショックを受けた。


(女神がキス・・・バーツと激しく大人の仲良しタイム・・・うぅっ・・・いや・・・あんないい奴のバーツとするんだ・・・エペシュも幸せ・・・ううぅ・・・)


 俺は唸りつつも心を落ち着かせ、冷静になるように努める。


(そうだ・・・そうじゃないか。人生を変える重大なイベントなんだ。『おめでとう!』って言って祝ってあげなきゃ!)


 いくらかつての思い人のモノであるといっても、今行っているのは俺的目出度い祝い事ナンバーワンである結婚式だ。この後何があっても『おめでとう!』と言って祝福して上げなければ駄目であろう。

 俺が1人で葛藤していると、そんな俺の様子が気になったのかごぶ蔵がジッと俺を見て来た。そして何かを考えたかと思うと、ニッコリと笑って頷き出した。


「解ってるごぶ。未だエペシュに思うところがあるごぶな?大丈夫ごぶ!ごぶがその思いを文字通り切ってあげるごぶ!」


 そう言うとごぶ蔵は包丁を取り出し構えた。


「ごぶは今なら見えないモノも料理出来る気がしているごぶ!だから一狼の苦悩を料理するごぶ」


「え・・・?あ・・・あぁ・・・」


 いきなり妙な事を言い出したが、エペシュとバーツを祝う気持ちやそれに反する気持ちでいっぱいになっていた俺は生返事を返す。

 だがそれをごぶ蔵は了承と受け取ったのか、やる気満々で包丁を構えた。


「ごぶ!ならまずは一狼の感情を刺激するごぶ!刺激と言ったらこれごぶ!・・・ごぶっちゅー」


「もがぁっ!」


『ズキュゥゥゥゥン!』・・・そんな音が聞こえた後、ごぶ蔵が自分の唇をペロリと舐めながら包丁を振るった。


 ・

 ・

 ・


 ・・・と、会場の一席でそんな事が行われているとは露知らず、長老はそろそろかと場を動かし始めた。


「ゴブ。それではそろそろお腹もいい感じになったと思いますので、夫婦の誓いを行いたいと思いますゴブ」


 長老がそう言うと、デレデレニヤニヤしながらご飯を食べていたバーツがハッとした感じになった。


「もぐもぐ・・・や・・・やっとなんだな!」


「・・・?ご飯美味しくなかったの?」


「いやっ!美味かったし最高だったんだな!でもこの後の事の方がもっと楽しみなんだな!」


「この後?日の前で全員で踊るやつ?」


「そ・・・そんなのもあるんだな?いやいや、そうじゃなく・・・ぐふふ・・・2人でやるアレの事なんだな!僕ちんの転生してえぐくなったドリルで天元突破させてやるんだな!」


「・・・?」


 バーツが鼻息を荒くしてエペシュの事を舐め回すように見ていると、長老が2人へと呼びかける。


「エペシュ様、バーツ様、こちらへどうぞですゴブ」


「うん」


「あっ・・・ちょ・・・ちょっとだけ待つんだな!今は戦闘形態なんだな!流石に今それを全員に見せるとあれだから防御形態になるまで待つんだな!」


「「?」」


 バーツは何事かを長老達に言うといきなり目を瞑り、その後少ししてから立ち上がりエペシュの傍へと歩いて行く。

 長老はそれを確認し、咳払いをした後に神妙になり口を開いた。


「それではただ今より、新郎バーツと新婦エペシュによる夫婦の誓いを交わして頂きますゴブ」



 賑やかなる祝いのイベントは・・・いよいよクライマックスへと突入する。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「突然の展開過ぎる!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ蔵が 2時間耐久で『ズキュゥゥゥゥン!』してくれます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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