第166話 嵐の前の静けさとわんちゃん
結論から言うと、ウォーワーウルフを倒した後は余裕だった。
というのも、新手のウォーワーウルフが出て来た時点で粗方敵は倒せていたので、奴らさえ倒せたならば少しだけ残った残党を狩るだけだったからだ。
「更に残党は弱かったしな」
「ゴブ?」
「ああ、いや、何でもない。唯、ウォーワーウルフはソコソコ強かったなってな」
「ゴブ・・・。儂等は足手まといでしたゴブ」
「でもあいつらが出るまでは助けてもらったじゃないか。それに、あいつ等にもいざとなったら魔法を放とうと構えてだろ?」
長老はウォーワーウルフに対して何もできなかったと言うが、実はこっそり魔法を放てるように構えていたのを見ていた。
結局は俺もエペシュもヤバくなる前に決着がついたので放てずじまいだったが、本当に不味い状況だったなら長老は援護として魔法を放っていただろう。
「だから問題ないさ。それに長老達って今は修行期間だからさ、ぼちぼち助けてくれるでいいと思う」
なので長老へとフォローを入れておき、次があったら助けてくれと言っておく。
「・・・しかしあれだな。タンク役でもいたらいいんだがな。そうしたら長老だと安心して魔法ブッパ出来るから最高なんだが・・・」
「タンクですゴブ?」
「あ、いや。まぁ忘れてくれ」
何気なく呟いてしまったが、パーティーのバランス的にはタンク(敵の引き付け役)が居たらいいなと思うのは本当だ。
今現在俺達の役割的に俺とゴブリン達が攻撃役、長老とエペシュが補助兼遠距離攻撃役となっているので、敵の攻撃を引き付けてくれるような仲間が居ると全体の攻撃能力が上がるのだが、残念ながらそんな仲間はいない。
(都合よくそんな奴を仲間にできたらいいだろうが、そんな訳にもいかないだろうからな。うぅん・・・どこかにメインタンク落ちていないだろうか)
黄金の鉄の塊で出来たモンクタイプのゴーレムでもいればな・・・なんて妄想しているとドロップアイテム等の回収も大体終わったとの報告がなされたので、次の行動を起こそうと俺は皆を集めて話しかけた。
「皆!ご苦労さん!皆のお陰で何とか乗り切れた!」
「「「ごぶごぶ!」」」
「「「グルル!」」」
「で、激しい戦いだったから次は休憩!・・・といきたい所だが、もう少し進もうと思う。といってもガッツリ進むわけではなく、5つの通路の先がどんな感じなのか探る程度にしようと思う」
怪我なんかはエペシュや長老の魔法、後は薬草とかで大体治ったのだが、体力と気力は消耗しているのでここから長く活動するのは酷だ。
だがこの階層がある程度どうなっているのかを知っておかないと怖いという思いもあったので、俺は通路の先がどうなっているかだけでも調べようと言った。
ゴブリンとウルフ達もそれ位なら大丈夫だと言ってくれたので、俺達は5つの通路の先を調べ始めた。
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翌日・・・でもないが、8時間程休憩した後、俺達はメイン戦場だった階段前の広場に居た。
「ダンジョンに居ると昼夜の感覚が解らないから困るな」
「それはレモン空間に居ても同じではないですゴブ?」
「それもそうか。っと、雑談はここまでにして進もうか」
「ゴブ。皆の者!出発ゴブ!」
長老の号令の後、俺達は中央にある前方の通路へと進み始めた。
この道へ進むと決めた理由は単純で、昨日調べた結果どの道を行っても同じくらいの難易度だろうという事が解ったからだ。
「さらっと調べた感じだが敵なし罠あり。これは最初のラッシュが追加されただけで、前階層と一緒みたいな感じなんかね」
「もしかしたら罠も一般的なしょぼい奴かもしれないよ?数もあんまりなさそうだし」
「確かに可能性はあるな。前階層の罠は作るのに少々手間がかかりそうだし?」
こんな風に背中に乗ったエペシュとこの階層について喋ったり、時々発見する罠を慎重に抜け迷宮を着々と進み・・・
敵が一切出ないまま2日が経った。
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この日も『敵、やっぱり出ないな』『次の階層まで出ないんじゃない?』『ワンチャン最近仕事しないな』『え?一狼働かないの?』『ち・・・ちがっ!』なんて喋りながら迷宮を進んでいると、前方に罠を発見した。
「全員ストップ!罠だ!」
「今回も見た感じ、変な仕掛けはなさそうだね」
「だな。でも一応っと・・・っそい!・・・よし皆!罠の場所だけ気を付けて進んでくれ!」
この階層の罠は調べるために棒や石を投げても全てこんな感じで、前階層みたいな変な反応が一切無かった。
なのでついつい・・・
「凄く平和な階層だね」
「だな」
こんな事を呟いていた。
しかもだ、魔物もリポップしていないのか全然出てこないので、緊張の糸が緩んできていた。
「このままいければ最高なんだがな」
「また油断しておるのじゃ。お主の油断癖は直らんのぉ一狼」
「油断じゃないし!唯の願望だし!その証拠に敵の気配を捕らえて警戒してるし!」
ちょっぴり『楽勝ウェーイ』なんて思っていたところにそんな事を言われて焦ったが、丁度敵の反応を捕らえたので俺は集中すると言って黙る事にした。
そして集中した結果、かなりの反応を捕らえたので一度全員へ止まる様に指示をした。
「多いな。皆ちょっとストップ!」
皆を止めると長老の所へと行き、かなりの反応を捕らえたと報告し、相談の結果ここから迎撃の為の隊列を組み、ゆっくり進む事になった。
そうしてじりじりと進み、俺達は慎重に慎重に敵の反応が多い場所へと辿り着いたのだが・・・
「ん?これって・・・ボス部屋?」
そこにはボス部屋と思わしき扉があり、敵の反応はその向こうにあるようだった。俺はこれを見て、『最初のラッシュもあったし、ここのボスは数の暴力タイプかもしれない』と思い皆へとそれを伝えた。
するとすかさず頭脳労働担当の長老が反応を示してくれた。
「成程ですゴブ。可能性は十分にありますゴブな」
「ああ。つってもボス部屋のサイズからしてこっちの方が最初のラッシュより楽勝そうなんだよな。強そうな反応も1つだけしかないし」
「その強い反応が一狼様並に強いという可能性もありますゴブ?」
「んん・・・勘だが、俺とウォーワーウルフの中間くらいじゃないかと思う。『索敵』ってそこら辺が曖昧なんだよな」
「成程ですゴブ」
頭脳労働担当はそのまま中に入った後の作戦を提示して来てくれた。
その作戦とは、俺が強い奴を抑えている間に他の皆で雑魚を削り、雑魚を削り終え次第エペシュと長老が魔法で俺を援護するというモノだった。
シンプルだが非常に良い作戦だと思いそれを了承し、扉を開ける前に支援系の魔法をかけてもらう事にする。
「余裕があるし、どうせなら盛り盛りでかける」
「なら儂もそうしますゴブ」
エペシュと長老は『ネトゲのボス前かな?』と言わんばかりにバフを盛りに盛ってくれたので、俺の脳内には『これは勝つる』との考えしか浮かばなかった。
「っふ・・・これだけ支援貰っちゃああれだわ・・・長老!」
「ゴブ?」
「時間稼ぎとか言っていたが・・・倒してしまっても構わんのだろう?」
「イイですゴブ」
「「「か・・・かっこいいポーズごぶ!」」」
余りにも余裕だと思ったので、『これは勝ち確ですわ』と俺は勇ましくポーズを取りながら言ってやった。何かニアが『また慢心しておるのじゃ』とか言っていたので直ぐに気を引き締めたが、この時の俺は負けるビジョンが浮かばなかったのだ。
「うっし!んじゃあ行くぞ!」
「「「ごぶ!」」」
「「「グルッ!」」」
「おー!」
だが・・・
「ぐふふ!ようこそ来たんだなぁ!侵入者どもぉ!」
それは甘い考えだった。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」「いよいよか」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると 次回の展開が ・・・
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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