第162話 敵の猛攻とわんちゃん
見える範囲には敵、敵、敵。更にその物量で俺達を押し潰す為か、この階層は大きな通路が左、左前、前、右前、右と5本も存在した。
いきなりの事でこちらの体勢が整っていない。なので取りあえずの時間を稼ぐために、俺は5本の通路に『黒風』をぶっ放した。
「風よ!とにかく敵を吹き飛ばせぇぇぇええ!」
「「「グルガァァァアア!?」」」
「よし!」
敵を吹き飛ばした事で少しの間が空いたので、俺はゴブリン達の方を振り向いて叫んだ。
「皆!敵が多いから守り切れないかもしれない!だからレモン空間へと退避していてくれ!エペシュもだ!」
流石に先程の様な物量で来られると、俺も皆の様子を見ながら戦うという事が出来ないかもしれない。
こういう場合だと俺一人が暴れた方が被害が少なくできる筈、そう思ったのでこう言ったのだが・・・
「・・・?どうしたんだ?何で入らないんだ?」
ゴブリンやウルフ達は俺が開いたレモン空間への入口へと入って行かなかった。
早くしないと敵がまた押し寄せて来るのに・・・と俺が焦れていると、背中をドン!と叩かれた。
「一狼、今度何かあったら私達も手伝うって言ったよ?今がその時でしょ?」
「エペシュ・・・」
エペシュがそう言った後、今度はゴブリン達の中に居たごぶ蔵が叫んだ。
「そうごぶ!あの時一狼は反省したって言ったごぶ!大人しくごぶ達を頼るごぶ!」
「ごぶ蔵・・・だけどな、今は・・・」
『今は俺だけで戦った方が被害は少なくできるんだ』そう言おうとしていると、長老が前に出て来て首を振りながら言った。
「一狼様、儂等が居ない方が確かに被害は少ないゴブ。しかし、少ないだけで『一狼様だけに傷がつく』という被害がでるゴブ。儂等はそれが許せないゴブ」
「・・・」
「一狼様が死にかけた時に儂等は誓ったゴブ。次は儂等も命を懸けて一狼様を守ると、ゴブ!だから一狼様が『ダンジョン攻略を手伝ってくれ』と言った時に手伝うと言ったのですゴブ!」
「「「ごぶごぶ!」」」
「・・・儂等にも・・・一狼様を守らせてほしいゴブ」
「・・・」
確かに俺は最近死にかけた時『俺一人ではどうにもならないと解った。だから手伝ってもらうしかない』そう思った。
だが結局のところそう思い込んでいただけで、最近自分が強くなった事で知らない内に傲慢になっていた俺は、『弱いこいつらには任せておけない』と心のどこかで考え、長老達の事を信じていなかったのだろう。
「・・・すまない。そんで・・・ありがとう」
俺は今、漸くそれに気付けた気がして礼を言った。
そして・・・
「じゃあ皆・・・一緒に戦ってもらえるか?」
信じ、託すことにした。
・
・
・
そうなってからは話が早かった。
「ゴブ!皆の者!右と右前の通路は魔法で一時的に塞ぐゴブ!だから前方、左前、左の3本の通路に均等につくゴブ!ごぶ蔵はレモン空間へと行き予備のメンバーを呼んでくるゴブ!」
「「「ごぶ!」」」
「了解ごぶ!開くごぶ!」
長老は即座に全員へと指示を飛ばし、皆はそれを受けて動き出す。
「一狼様!頼みますゴブ!」
そしてそれは俺もだった。
「阻めっ!氷の壁よ!」
「ゴブ!では残りの通路も作戦通り今から魔法をかけますゴブ!」
「了解だっ!」
・・・いや、別に信じて託すから指揮も丸投げって訳ではないんだよ?ただこの後俺はする事があるので最初から長老に指揮をお願いしただけだ。
「じゃあ言った通り左の通路へ行って敵を殲滅して来る!」
俺がする事、それは通路へと入り敵の殲滅をする事だ。・・・結局はそれなのかと思うかもしれないが、今の状況だと俺が単身通路に入って順次殲滅していくしか手が無いのだ。
「・・・ゴブ。結局は任せることになって申し訳ないですゴブ」
「大丈夫だ。それに前だけ見てればいいからな、楽なもんよ」
「ゴブ。何としてもそちらには通さない様にするので任せてくださいゴブ」
「ああ。エペシュも長老達のサポート頼んだぜ?」
「任せて!寧ろ私が全部倒しちゃう!」
因みにエペシュは長老達の元に残り戦闘のサポートをするので俺からは一時的に降りている。
「じゃあ頼んだ!行って来る!」
「ゴブ!」
「気を付けて!」
大体の迎撃準備が整い、更に吹き飛ばした敵も戻ってき始めたので、俺は行動を開始する事にした。
「っしゃぁ!」
俺は一発気合を入れるために吼えた後、風を纏いながら左の通路へと走った。
そして走っている最中に風へと氷魔法を混ぜ、そのまま高速で敵の間をスルスルと掛ける。
「「「ぐぉぉおおあがが!!!」」」
(音や匂いから察するに目論見通り・・・いや、それ以上の効果っぽいな)
このスキルの組み合わせの効果をその目では見ていないが、察した感じでは敵はバラバラになっている様だ。恐らくだが凍ってバラバラ、風に裂かれてバラバラ、風に乗った氷片に切り裂かれて重傷、こんな感じになっているのだろう。
俺はそのままとにかく何も考えず敵が続く通路をずっと走り続け、ようやく敵が見えなくなったなという所で足を止めて振り返った。
「おぅおぅ・・・バラバラのぐちゃぐちゃだわ・・・」
敵がコボルトやウルフの比較的弱い魔物だったと言うのもあるだろうが、俺の通って来た通路は酷い有り様になっていた。
しかし討ち漏らしも沢山いるみたいで、そいつらは俺に向かって咆えたり攻撃して来たりして来る。
「「「グルァァアアア!!」」」
「時間が無いから全力で行かせてもらう!」
普段だと余裕を持ってパンチや咬みつき何かで倒していくのだろうが、今は時間がない。という事で俺は再びスキルへと魔力を回し死の風を吹かせる。
「殲滅再開!」
通路を進んで来たので次は帰る番だ。俺は行きに対して比較的緩やかに走り敵の残りを殲滅して行く。
そして行きの2倍程の時間・・・といっても10分程度、をかけ長老達も元へと辿り着いた。
「戻った!状況は!?」
「よくぞ御無事でゴブ!・・・とと、状況はまずまずですゴブ!左前と前方の通路は少しづつ通しているので今の所は問題ないですゴブ!ですが塞いだ右の壁に罅が入っていますゴブ!」
「了解!なら今俺が出て来た左を塞いで右を開けよう!」
「ゴブ!」
怪我人は出ているモノの、エペシュが大活躍しているからか本隊には今の所問題はなさそうだった。
なので今度は少し不味そうな右の通路へと向かう事に決める。
「うし、封鎖完了!次は解放だ!」
「先に儂の魔法を解きますゴブ!」
「了解!」
迅速に先程攻めた左の通路を塞いで右の通路を解放したのだが、壁が崩れかかるという事はそれだけ敵が殺到しているという事で・・・
「・・・っつぁ!?」
長老がかけていた魔法を解いた次の瞬間、まだ残っていた俺の氷の壁を突き破り敵があふれ出て来た。
「このっ・・・うぉぉぉおおおお!!」
突然で驚いたが、直ぐに俺は体に纏い続けている『黒風』へと魔力を回し、あふれ出た魔物達へと風を叩きつける。
「どんなもんじゃぁぁあ!続けていくぞゴラァァァア!」
そんな魔力マシマシの死の風を受けた魔物は勿論の事爆発四散で消え失せ、俺はその勢いのまま右の通路へと突っ込んで行った。
「オラオラァ!裂けろ!氷つけ!兎に角イネェェェエエエエエ!」
本格戦闘で脳内麻薬でも出ているのだろうか、俺は最っ高にハイになり叫んでしまい、それによって更にハイになるというループに陥ってしまった。
「フハッ!フハハハッ!バラバラ祭りジャァァアア!フゥ~ワッハッハッハァッ!」
後にゴブリン達から『アイツ、血を浴びると興奮する変態ごぶ』とか噂されてしまうのだが、この時の俺は知る由もなく・・・
「ヒィィィィッハァァァァア!」
ハイになった俺は、奇声を発しながら通路の奥へと走っていった。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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☆や♡をもらえると 一狼が 傲慢犬に進化します。
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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