第158話 科学応用罠とわんちゃん
俺は自分に『守護の壁』を使い、その緩やかな坂道へと歩き出した。
「一狼様、お待ちくださいゴブ」
・・・のだが、長老から待ったがかかった。
「ん?」
「ご自身が行かれる前に何か投げ入れてみたりしてはどうですゴブ?もしかしたらそれで仕掛けが作動するかもしれないですゴブ」
「あ・・・確かに」
どこぞのゴブリンみたいにウッカリしていたが、確かに自分が行く前に石でも投げ入れてみるのが先というモノだ。
そんなウッカリしていたのが恥ずかしくて、収納からこん棒でも出して投げ入れればよかったものを、俺は自分が一番信頼するスキルを使って解決しようと試みてしまった。
「あ・・・あはは・・・んじゃあ一発『黒風』を通路一杯に展開して放ってみるか!罠があっても根こそぎ壊してくれるだろう!」
・・・結果的にはこれが功を奏したのだが。
「頼んますぜ『黒風』先生!全てをぶち壊してくだせぇ!」
俺は魔力をぶち込んで通路一杯くらいの大きさの風の塊を作り出し、緩やかに下っている坂へと放った。
音や魔力の感じ的に見えていない向こう側まで到達したのが解り、それによって何も起こらなかったので罠は無いと判断できた。・・・と思っていたのだが、それから数秒後に変化が起こった。
『・・・ボッ!』
何故か消えていた筈の松明が付いたのだ。
「んん?」
「いきなりついた」
「もしや爆発でも起こるのではないですゴブ!?」
「有り得る・・・出ろ氷の壁!それと『守護の壁』!」
「土の壁よ・・・出るゴブ!」
俺は慌てて魔法とスキルを使い、そこに長老も加わって防御を固めた。恐らくこれで大分威力は減衰出来るだろうが心もとない。
なので俺はレモン空間を開き、何かあったならば耐えられないであろう自分以外の皆を避難させた。
「・・・ゴクリ・・・」
来るなら来い!そう思い俺は身構えた。
「・・・」
「何も起こらんのじゃ」
「ま・・・まだ安心する時間じゃない・・・」
しかし一向に何も起こらない。これは取り越し苦労だったか?と感じ、壁に小さく穴を開けて向こう側を覗き見た。
すると松明は点いていたのだが、唯燃えているだけで何も起こる気配はなかった。
「これは安心する時間じゃないかの?」
「・・・だな。ふぅ・・・ビビらせやがって。・・・ん?」
何も起こらない事が解ったので胸を撫で下ろしていると、俺が見ている先で何もしていないにもかかわらず急に松明が消えた。
「んん?なんだ?」
「ふむ?罠の起点になる訳でも無し、何の意味があったのじゃ?」
「ニアにも解らないのか?」
「さっぱりじゃの」
「ふーむ・・・」
消えていた松明が急に点いたのなら、普通はニアの言った通り罠の起点になる事を疑うものだ。・・・実際俺と長老はそれを疑い、防御を固めた訳だし。
しかし目の前の松明は唯点き、そして消えた。これは何の意味があるのだろうか?
「んー・・・唯の心理的罠とかか?点いて消えたら何かあるだろうから進むの止めよう的な。それとも唯点くだけに意味がある?」
このダンジョンに居る何者かは頭が切れる。なので何事にも疑うべきだと思っていたので俺は考える。
「んー・・・・・・ハッ!?ティンと来たっ!」
「む?」
「もう一度頼みます先生!『黒風』!」
考えていると俺の灰色の脳細胞にティーンと来たので、俺は疑惑を証明すべく再度通路に風を送った。
そしてその後レモン空間から普通の松明を取り出し火をつけ、それを坂の下へと放り投げた。
「ティンと来た考えが正しければ・・・」
俺は再び点いた備え付けの松明と自分が投げ入れた松明をじっと見つめた。
そうすると、暫くして再び松明の火が消えた。・・・両方とも。
「やっぱりか・・・っふ、ラノベを読み漁っていた俺に死角はなかったな」
「む?一体何が『やっぱり』なのじゃ?」
種明かしはニアだけでなく長老にも教えておいた方が良いと思ったのでレモン空間から皆を呼び出した後、長老を呼んで説明を始めた。
その説明を聞いて長老は『ふむ?』となり、ニアは『あー、そんな事を聞いた覚えもあるのじゃ』、呼んではいないが自動的に俺の背中へと戻ったエペシュは『死んだ空気の事?』と、それぞれが違う反応を見せた。
「つまりその二酸化炭素とかいう悪い空気は毒で、それがあそこにあるんですゴブ?」
「その通りだ。罠を仕掛けた奴は長老の罠発見魔法は知らなかったけど、偶々引っかからない罠を作った訳だな」
長老の魔法の原理は俺も知らないが、あれは多分ダンジョンそのものに仕掛けられている何かを感知するモノなのだろう。
だから今回の様にダンジョンの何かを使って発生させるものについては関知しなかった様だ。
「しかし松明を燃やして一酸化炭素中毒を引き起こさせる罠を作るとか・・・これ転生者確定だろ。しかもコイツ厄介だわぁ・・・」
転生者自体に会うのは長谷川とこの前の変態に続く3人目だが、前者2人は前世の知識を応用するなんてことはしてこなかったのに、このダンジョンにいる3人目はそれを取り入れた戦法をとってきた。
俺も攻撃の時に応用したりしているので解るのだが、正直前世の知識を応用した罠なんかを作られると危険度が高いのだ。
「進むんなら一層注意しなきゃなぁ・・・」
今回は偶々気付けたが、この先は更に気を引き締めて進まなければ一発全滅や軽く半壊等起こるかも知れないので、いっその事ここの攻略を取りやめるかとも考えたのだが・・・
「いい勉強になりそうですゴブ。さぁ、進みましょうゴブ」
ヤル気に満ち溢れた長老が先に進もうと促してきた。
俺はすかさず『ヤバイ場所は撤退。これもまた勉強!』とか言ってみたが聞き入れてもらえず、結局そのまま進むという事が決まってしまったので、一酸化炭素中毒トラップへと風を送り全員で通路を進んだ。
「さて・・・見えなかった向こう側はっと・・・普通の罠のみって感じか」
「ゴブ」
進んだ先もまた変な罠があるのかと思いきや、見えていたのは普通に長老の魔法で発見できる罠ばかりだった。
だがそちらの方が好都合だったので、俺達は再び見えている罠を避けながら進み始めた。
そうしてしばらく進んでいると、俺は再び妙な通路を発見したので号令をかけた。
「一旦ストップ!」
全員がその号令で止まって直ぐ、隊列の中央ぐらいに居た長老が先頭へとやって来た。
「また変な罠ですゴブ?」
「ああ。変な罠・・・というか道?まぁ罠の反応もあるから罠何だろうが・・・」
前方に見える通路はかなり妙で、通路の横幅は3メートルくらい、奥行きは見えているだけで100メートルくらいあるのだが、それが30センチ×30センチくらいの格子状にズラッと仕切られ、その中に足首が浸かる位の水が張ってあるのだ。
しかもだ・・・
「罠の反応は天井にあるとか・・・マジでなんだこりゃ?ケンケンパでもして、失敗したら天井から槍でも落ちて来るのか?」
肝心の罠の反応は格子状に分かれた通路ではなく何故か天上にあり、幾つかの床の真上に重なっていた。
という事は、特定の仕切られた床を踏んだら何かが起こると言う事なのだと思うのだが・・・
「何で水が張ってあるんかね?」
「ゴブ・・・何か意味があるとは思うのですが、儂にはさっぱり解りませんゴブ」
「いや、俺もさっぱり解らんから大丈夫だ」
「オシャレじゃない?」
「流石にダンジョンの罠にオシャレは求めないと思うよエペシュたん」
「そう?」
確かにオシャレには見えるのだが、流石にそんな理由でこうはしないだろうと思ったので、俺は再び何かを投げる作戦に出てみた。
「んー、この壊れかけのこん棒でいいか。エペシュ、これを罠の反応がある真下の床に投げてくれない?」
「解った」
コントロールが要求されるのでエペシュに投げてもらうと、こん棒は上手く狙い通りの場所へと落ちていった。
するとそのこん棒に次の瞬間、とてつもない事が起こった。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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☆や♡をもらえると 一狼が 現代知識で無双し始めます。
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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