第136話 転生者とワンチャン

「っく・・・魔力ももう少ないし・・・足も・・・駄目だ・・・」


 闘技場の様になった場所にてボロボロになった俺。


「装備消失。素手による格闘術を使用しまス。格闘術に適した形態へ変更・・・完了しましタ」


 そしてその俺に対するは、このダンジョンの守護者であるキメラドール。


「ど・・・どうしたらいいんだ・・・クソオッ!」


 俺は今・・・追いつめられていた。


 ・

 ・

 ・


 そもそもだ、俺がこのダンジョンに来たのは・・・


『一狼よ、そんな不埒な奴やってしまうのじゃ』


 とニアに言われた・・・いや、違うな。


『・・・・・・不埒者の持つ育った迷宮核も手に入るし・・・・』


 この様な言葉を聞いた時に


(俺でも倒せそうな奴が迷宮を持っているのか。ごぶ助達の元へ行きたいから、そいつの迷宮の核を奪ってくるか。ごぶ助達を襲ったやつだし、別にいいよな?俺もまだそいつに若干イライラしてるし)


 と、軽く考えていたからだ。


 もし今の俺がその瞬間へ戻れるのならこう言ってやりたい。


『お前は弱いんだ。だからごぶ助の村は壊滅させられたし、お前は、理不尽に襲われても大事な物を奪われない為に最強になりたい!なんて誓ったんだろう?・・・お前はまだあの時のままだし、ともすればその誓いですら忘れかけている・・・最弱だ』と。


 そうすれば10階層へ降りてくる前にニアが『引き返してもいい』と言ってきた時に『そうだな。まだまだ実力不足だし、焦らずやるよ。様子見?何があるか解らないのに危ないからそんな事はしない』と言えたかもしれない。



 ・・・いや、最近物事が上手くいっていて調子に乗っていたし、今更だ・・・そう・・・



「侵入者の無力化に成功しましタ」


「・・・ぁ・・・が・・・」



 完膚なきまでに負け、後は殺されるのみとなった今では・・・今更だ・・・。



 ・

 ・

 ・



「報告。緊急措置実行後、侵入者の四肢と体の骨に損傷を多数与えましタ。魔力も使い切った様子なので、完全に無力化成功でス」


 ボロボロになった状態の俺は淡々と話すキメラドールに絶望感を感じていたが、体を動かす事も出来なかったので、震える事も叫ぶ事も命乞いをする事も出来ずに横たわっていた。


(俺は・・・ここで終わるのか?ごぶ助・・・すまん・・・ニコパパ・・・すまん・・・・・・)


 なのでたった1つだけ出来る、皆への別れの謝罪を心の中でしていた。



 すると、静まり返っていたボス部屋に色々な音が生まれ始めた。



『ゴゴゴッ・・・ガチャッ・・・ツゥ~~~・・・ペタペタ・・・』



 それは何か重いものが動く音だったり、何かが開く音だったり色々だった。恐らくだが、侵入者である俺が倒された事で色々な仕掛けが元に戻ったり作動したりしているのだろう。


(ははっ・・・なら入口も今ならフリー状態だろうな。・・・けど今更そうなったところでもう動けないや・・・)


 逃げる余力を隠し持っていたならばよかったのだろうが、キメラドールとの戦いでそんな余力を残しておく余裕が俺にはなかった。

 なので近くても決して手が届く事がないその扉を、俺は見る事しかできなかった。


「あーあー・・・見てはいたけど随分ボロボロだなぁ・・・」


「エリカに損傷はありませン、マルオ様」


「いやいや・・・部屋もボロボロだし服とか全ロスじゃん?マッパじゃーん!?・・・それはそれでいいな・・・ぐふふ・・・」


 俺が入口の扉を見ながら心の中で皆に謝っていると、何処からか男の声が聞こえて来た。

 その声はキメラドールと随分気安く喋っていたので恐らく・・・


「さぁて・・・動けないんだよなこのワンコ」


「無力化は成功していますので、動けたとしても微々たるモノでス」


「意識は?」


「解りませン」


「ふぅん?まぁいいかー。オッス、オラマルオ!この世界に降り立った異界のメッッッドゥサイエンティッストだっ!よろしくなっ!あ、後ダンジョンの主ぽ」


 侵入者に対して随分気安い挨拶だったが、やはりこの声の主は転生者だったようだ。


 転生者・・・マルオの姿は俺の背中側にいるのか姿は見えなかったのだが、何かをしているのか、ヌチュヌチュといった音が聞こえて来た。


「あぁ~やっぱエリカたんは最高!いや至高!可愛いし柔っけぇしマジマーベラス!・・・もよおしてきた・・・コアルームにレッツラゴー!」


 どうやらマルオは真の変態らしく、俺はこんな奴に負けたのかと絶望感よりも悔しさが強くなってきた。

 しかし力を出し切りボロボロになった俺は何もできず、唯々心の中で呪詛を垂れ流す事しか出来なかった。


「あっっと・・・でもコイツの処遇を決めてかなきゃな・・・どれどれ・・・」


「・・・ッァ!?」


「・・・ん?声くらいは上げられたのか。ってかうん、声からも解ったけど付いてるな・・・」


 変態野郎が俺の足を掴んで宙に持ち上げた事により、俺はそいつの姿を近くで見てしまったのだが・・・そいつはラゴウが絵で描いてくれた通りの姿をしていた。・・・というか、実物は勿論の事だが絵よりも生々しさが凄かったので、俺が元気な状態だったならば思わず『うおっ!きもっ!』とでも言っていただろう姿をしていた。


「ん~・・・なら素材にするのもあれだし、お楽しみにも使えないなぁ」


(こ・・・こいつ!)


 マルオはラゴウに聞いていたがやはり変態の様だ・・・。

 しかしこの変態は男にはそれほど興味が無いらしく、俺の体をプランプランとさせながら大きな目をギョロギョロさせていた。


「・・・ミンチにしてあいつらの飯にでもするか?」


(・・・いよいよ俺の最後か)


 マルオは俺の使い道を呟いたが俺には何も出来ないので、心の中で皆への謝罪を続け・・・


(出来る事なら痛みが無いように殺してほしいな・・・くそっ!本当に終わりなのか!?クソッ!クソッ!死にたくない!・・・俺はまだっ・・・!)


「・・・キュゥゥ・・・ン・・・」


「ぬはっ!玩具みたい!」


 最後に浮かんできたのは、やはり死にたくないという思いだった。


(うぅ・・・うぅぅ・・・ごぶずげぇ・・・ちゃ・・・まぁ・・・・・)


「・・・キュゥ・・・クゥゥ・・・」


「ぬはっ!ぬははっ!叩き付けたらもっと鳴くか!?」


 マルオはどうやら変態が極まっている様で、俺を地面に叩きつけて遊ぼうとした様だ。


 だが・・・


「ぬはっ!ぬははぁぁっ!・・・ぬはっ!?」


「姿勢制御を失敗?マルオ様へ謝罪しまス」


「イェスラッキースケベ!プリンプリンは正義っ!だが許さんのでお仕置きタイムだ!さぁいざゆかん魅惑のコアルームへっ!」


「了解しましタ」


「こいつはぽーいっと」


「・・・ギャンッ!」


「まぁほっといたらダンジョンのいい養分になるっしょー。ささ、行こうぜーぃ」


「了解しましタ」


 キメラドールがふらっと倒れそうになった時にマルオにもたれかかったのだろう、マルオは思い出したかのように発情しだした。

 そしてそれにより急速に興味が失ったのか俺を放り捨て、キメラドールと共にコアルームへと去って行った。


 ・・・しかしだ


(ぁ・・・ぅ・・・)


 放り投げられた俺はそれがトドメになったのか、急に意識が遠のいてきた。


(しにたく・・・な・・・)



 こうして俺の意識は闇へと沈み、また・・・



『ずずっ・・・ずぶっ・・・』



 体もダンジョンへと沈んでいった。



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