第135話 苦戦のわんちゃん

「っく・・・っそ・・・おらっ!」


 キメラドールとの戦いを初めて10分ほど経っただろうか。奴との戦いは・・・中々好転の兆しを見せなかった。


 それというのも・・・


「防御。反撃開始」


「うぉっ!?・・・ぐっ・・・むぁぁ!」


「攻撃続行」


「ぬっ・・・このぉっ!」


「防御」


 キメラドールは俺の行動に正確に反応を見せ、攻めは激しく受けは硬くと、攻守共に優れていたからだ。


「これならどうだっ!集え!暴風!燃えよ!爆炎!」


 魔法ならどうだと使ってみても・・・


「損傷を与えうる攻撃を確認しましタ。対処実行しまス。・・・炎と衝撃に強い外皮へと変更完了。反撃開始」


「なん・・・っく!?」


 呟いた後に体を変化させ、それに対処してのけるのだ。


「くそぉっ!反則だろぉ!?」


 最初はキメラドールという名に疑問を抱いたが、ここに来て漸く納得・・・いや、反則だろうと思ってしまった。


「・・・っく!」


 なのでここは一旦逃げて対策を・・・と考えたて入口をチラリと見たところで、俺は漸く入口前に鉄の塊が落ちて来た意味が解ってしまった。


(そうかっ!そういう事かっ!・・・っぐ、クソォッ!)


 ダンジョンの扉は条件付きであれば開かない様にすることが出来る。しかしそれをせずにちょっと頑張れば壊せる鉄の塊を入口前に落としたのは、俺の心を追い詰めるためなのだろう。・・・何故こんな事で俺の心が追いつめられるかって?


 それは『逃げられる筈なのに逃げられない』からだ。


 何もない状況であればあんな鉄の塊は直ぐ壊すか退かすか出来るだろう。

 しかし今の状況だと、俺がそれをしようと動くとキメラドールがその隙を見計らって攻撃をしてくるので、俺は『あのちょっと頑張れば壊せる鉄』を『壊す事ができない』という状況になり、それによって段々と焦りが積み重なり、その結果、追いつめられる・・・という訳だ。


(解ったものの、今の状況はそれにまんまと嵌っちまった状態だ!クソォッ!)


 俺は今の自分が逃げれなくて焦っているというのが解っていた。しかしそれは解ったからといって制御する事が今の俺にはできなかった。


 なので俺の動きは焦りにより段々精彩を欠き始め、五分五分くらいだった戦況が段々傾きだしてしまった。


「攻撃。・・・追撃」


「っく・・・あがっ!?」


「更に追撃をする為に偽装を解除。追撃開始しまス」


 そしてキメラドールはその戦況の流れを読んだのだろう、背中から蜘蛛の足みたいなものを生やし俺に追撃を仕掛けて来た。

 俺は蜘蛛脚の攻撃を避けきる事が出来ず、またかけていた『守護の壁』も易々と破られてしまった。


「がぁぁぁあ!?・・・う・・・ぐぉぉおお!吹き荒れろ暴風ぅぅ!」


「防御実行しまス」


 そのまま追撃されると不味いと感じ、咄嗟にキメラドールとの間に風を生み出し自分と奴との両方を吹き飛ばした。

 するとキメラドールは防御を優先したのか盾を構え、何とかそれで怒涛の追撃を切る事が出来た。


 しかしだ・・・


「っくっそ・・・足が・・・」


 その代償は大きく、足に大きな傷を負ってしまい、それまでの様な素早い動きが出来ると思えない様な状態になってしまった。


(不味い・・・ただでさえ実力が同じか負けているってのに、こんな状態じゃ一溜りもない!)


 動きに制限がかかってしまった俺は、もうこれしかないと魔法で攻める事にした。直ぐに対応はされてしまうだろうが、相手も決してノーダメージという訳ではないので畳みかけて倒すしかないと考えたのだ。


「風よっ!敵へ集いて檻となれっ!・・・よしっ!そんで敵が動きを制限されている間に・・・『守護の壁』っ!」


 のんびりしていたらキメラドールが此方へ突っ込んでくるかもしれないので、先ずは『黒風』を使い敵の動きを制限する事にした。

 これが火や氷だと無視したりぶち破って出て来るだろうが、相手はそこまで重量が無いのか多少なりとも動きを止めれている様だ。

 そして動きが制限されたその間に、普通は自分の守りに使う『守護の壁』を風の檻毎敵を包む様に発生させた。


「もっとだ・・・!集え・・・集え・・・荒れ狂え!閉ざされた風の檻へと集いて嵐となせっ!」


 更にそこへ、魔力を注ぎ込み発生させた黒い風を一か所だけ開けてあった場所から送り込み続け、バリア内の嵐を強めていく。

 結果、以前キラーアント・クイーンと戦った時に起こった雷光が発生し、バリア内は風と雷が暴れ狂う死の空間になった。

 しかしだ、ここで手を緩めるわけにはいかない。


「更にっ!恥ぜよ爆炎、絡みつき燃やしつくせ『ナパーム』!」


 俺は更なる追撃としてバリア内に『火魔法』を加えた。

 風と炎で炎の竜巻を作るのはこれまでにも何回か行っていたが、今回は周囲をバリアで固めて炎の竜巻が出来る場所を限定させたのでバリア内はより凄まじい、雷と炎が渦巻く空間になった。


「おまけだっ!水よ集いて収縮せよっ!・・・もっと・・・もっとだ!・・・よし!いけっ!」


 まだ足りないと火力を上げるべく、俺は雷と炎が渦巻く空間に圧縮させた水の塊を投げ入れた。狙い通り上手くいけば・・・


『・・・ドゥゥゥンンン!・・・ッドゥン!ッゴォン!ッボォォォォン!!』


 この作戦は狙い以上の効果を見せ、何度も水蒸気爆発が起こっていた。恐らく水を圧縮して投げ入れたのでおかしな作用をしたのだろう。


「ぐっ・・・後は・・・『守護の壁』に力をつぎ込み続けて・・・維持だ!そ・・・そうすれば・・・大分ダメージを与えられる筈だ・・・よな?」


 未だ続く死の空間、そんな中に居るのだから上手く凌げても俺と同等位のダメージ、凌げていないのだったら死の一歩手前くらいになっているだろう。


 そう考えていたのだが・・・


『・・・パャリィィィィン!!!』


「なっ・・・!?『守護の壁』のバリアがっ!?・・・っく、嵐も散っていった!」


 突然バリアが破れ、中で暴れ狂っていた嵐も霧散して行ってしまった。


 それを成したのは勿論・・・


「・・・」


 キメラドールだった。


 しかし、流石にキメラドールも無傷では無かった様で・・・


「・・・ぞんじょ・・・だぃ゛・・・ぎげん・・・」


 俺より酷い具合になっていた様で、所々骨も見えるほどの重症になっていた。服等も全て消失して、唯一残っていたのは盾のみだった。


「よ・・・よし、これなら魔力はさほど残ってないけど勝機はあるっ!畳みかけるんだっ!」


 なので今がチャンスだと思い敵に攻撃を仕掛けようとしたのだが、それより先に敵が動きを見せた。


「ぎん゛ぎゅ・・・ち・・・い゛じ・・・」


 キメラドールが何か呟くと同時に盾がバラバラになり、キメラドールは持っていた取っての端を自分の胸へと押し当てた。


 すると取っ手がキメラドールの体へとズブズブと沈み出し・・・


「・・・は?」


「緊急措置実行に成功しましタ。これより敵へと反撃を開始します」



 ボロボロだった筈のキメラドールの傷は癒え、最初の様な元気な状態に戻ってしまった。



 ------------------------------------

 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ボスが全回復は卑怯だと思います」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ蔵の衣装が 盾と靴下のみへと変わります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る