第133話 進むわんちゃん
「う・・・うごご・・・ひどい目にあった・・・」
【阿呆なやり取りで頭を沸騰させて突っ込んで行ったお主の自業自得じゃろう?】
「・・・うっす。・・・すんませんっす」
変態転生者の卑劣な罠に俺の怒りは有頂天。その結果何も見ずにボス部屋に向けてバーニングハリ(ryをぶちかました結果大爆発、俺は吹き飛ばされてしまい思わずオィイイ!?と叫んでしまってさぁ変態・・・
いや、真面目に語ろうか。・・・まぁ真面目に語っても大して内容は変わらないのだが。
気を取り直して・・・、なんかプッツン来てしまった俺はボス部屋に向けて力任せに範囲攻撃を仕掛けたんだが、どうもそれがあまり宜しくなかったらしく、ボス部屋の中にいた爆発系のスキルを持つ敵が俺の攻撃で次々と誘爆していき、結果あの様な大爆発が起こったらしいのだ。
「攻撃しても爆発、防御しても爆発と厄介な敵になる筈だったんだろうけど・・・」
【うむ。卑劣な罠のせいで阿呆な行動に潰されたのじゃ。これもまた自業自得じゃな】
そう、本来ならば罠階層らしくイヤらしい感じのボスになる筈であっただろう9階層のボスだったのだが、怒りに狂った俺の馬鹿な行動のせいでそれは台無しになってしまった。
まぁ大爆発が起こったおかげで俺は吹き飛ばされて体を打ち付けてしまったので、ダメージを受けたという意味ではまんまとやられたとも言えるのだが・・・
「ま、結果を見ると俺のほぼほぼ無傷での勝利、そういう事でいいか」
【うむ。どうでもいい事は気にしていてもどうしようもないのじゃ。さっさと頭を切り替える方がよいのじゃ】
「だな。ってことで・・・」
これ以上先程の事を考えてもどうしようもないので思考を切り替え、俺は10階層へと続く道の方へと顔を向けた。
「先へ進みますかね。・・・いろんな意味で次の階層で終わりだといいんだがな」
ここから続く道を進めば辿り着く先は10階層。別に切りがいいから終わりだとも思えないが、これ以上難易度が上がってくると俺の手には負えなくなってくる。
なので次の階層で終わってくれるといいなと思い、ついついそんな事を呟いてしまったのだが、ニアがそれに反応したのか言葉を返してきた。
【一狼、念押しの為に一応言っておくのじゃ】
「ん?」
【確かにここを攻略すればよいと言ったのは妾じゃ。しかしそれでも妾は起こり得る事態に手を出す事はせぬ。それはお主が死にそうになってもじゃ】
「ああ」
【うむ。解っておればよいのじゃ】
ニアは常々『妾は見ているだけの観測者。妾の方から積極的に何かすることはないのじゃ』と言っていたので、俺は素直に頷いた。・・・まぁ意外とチョロイので色々ブレブレなのだが。
しかし・・・なぜ今それを言ってきたのだろうか?
(偶に思い出したかのように言うから勿論俺は理解しているし、その証拠にエルフの砦村でオークロードに出会った時も助けは求めなかった。なのに今それを再度言う理由・・・何時もの様にただ言っただけか・・・?いや・・・もしかしたら・・・)
俺は考えた末ある1つの仮説に思い至ったので口を開き、それをニアに言ってみた。
「なぁニア、もしかして10階層に強力な敵でもいるのか・・・?もしかしたら俺が勝てないような・・・」
【さぁのぉ。妾も神ではないので全てを正確に知ることは出来ぬので、居るとも居ないとも言えんのじゃ。まぁ妾はただ単に、このまま進むか戻るか、又はここを攻略するかしないか、それらを最終的に決めるのは一狼、全てお主次第と言いたいだけなのじゃ】
「そっか・・・」
なんだかんだ言ってはいるが、つまり『この先に強い敵が居るから逃げてもいい』と言ってくれているのだろう。
(何時も『妾は見ているだけ』と言っているくせに・・・ありがとうなニア)
そんなニアに心がジーンとして感動してしまうが、感動するばかりでもいられない。なんせニアがそんな事を警告してくる敵が居ると解ってしまったのだから・・・。
(俺より強い奴がいるかもと想定すると・・・一旦引き返した方がいいか?ごぶ助達に早く会いたいのは確かなんだが、ごぶ助達に危険があるから早く行かなきゃいけないという訳ではないんだよな。となると、多少は回り道をしても安全な道を行くのが正解だよな?)
俺は立ち止まり頭の中で考え込んだ。
そしてこのまま進んだ際のリスクやリターン、逆に一旦引いた際の事を考え、その末に結果を出した。
「うし・・・進む!」
【ふむ】
俺は考え抜いた結果、進む事に決めた!・・・と言ってもだ、唯進むというわけではない。
「まぁ様子見てヤバそうなら即引き返す、って事にしようかなと。『鑑定』もあるしさ、もしステータスが見えない敵とかが出たなら即逃げればいいと思ってな。流石に予め逃げる体勢を整えておけばそれ位出来るだろうしな」
そう、俺は様子を見てから決めるという事にした。少々軟弱な考えかも知れないが、安全には変えられない。・・・まぁ安全を取るというのなら即引き返せと言われるかも知れないが、ごぶ助達と早く会いたいという心も本心なので、出来る事ならば攻略してしまいたいのだ。
そうして色々考えた結果、俺は進む事に決めたのだ。
「うし、そうと決まれば・・・一旦レモン空間に行こう」
【うむ。・・・うむ?】
・
・
・
「よしよし、後は身体強化を使いーの・・・『黒風』も足に纏わせてっと・・・おっけー!バッチリだ!」
一旦レモン空間へと入り、そして出て来た俺は自分に出来る限りのフル強化を施していた。
しかも予めレモン空間内でエペシュや長老に強化魔法をかけてもらっていたのでそれも合わさり、今の俺は『スーパーわんちゃん』といった感じになっていた。
「ふふ・・・これだけ強化していれば最悪逃げる事くらいは出来るだろう。ついでに軽く状況説明もしてきたし、後顧の憂いもないってやつか?」
俺はニアに警告された事により、取れるべき手段はとるべきだと判断した。
なので一旦レモン空間へと入り、エペシュ達に出来る限りの強化魔法を使ってもらう事にしたのだ。
「ニアからは若干呆れられたが・・・まぁやっといて損はないだろう。ってことであんまり怒らないでね・・・?」
俺は居る筈のニアに向けてそう言っておいたが・・・恐らく伝わっているだろう。
「しかし観測者に徹するからって別に喋る事を止めなくても・・・ってまぁいいか、それもニアのルールか」
ニアはレモン空間を出る際に、『これより妾は迷宮を出るまで念話を一切せずお主の観測に徹するのじゃ』と言って姿を消してしまった。恐らく近くには居るのだろうが、宣言通りにすると思うので返事は返してこないであろう。
「まぁ頑張るから見ていてくれ」
しかしそれでも俺はニアに向けてそう宣言しておく。
理由は色々あるのだが・・・
「なんだかんだニアには鍛えてもらったからな。その集大成を・・・見ていてくれ」
俺が勝手に思っているだけの師匠だが、そんなニアに自分の成長を見てほしいという思いがあったからだ。
「仮にこの先に強敵が居るとしよう、そいつが明らか様に強敵なら流石に逃げるが・・・同等位の敵なら俺は戦う。そしてそいつを見事に打ち倒し、勝利をニアに捧げる!まぁささやかだが恩返しってやつだな・・・」
ニアにはちょくちょく乗せるためにクサイ台詞を吐いているが、今言っている事は本心から言っている事だ。なので言っていて少し恥ずかしくなってきたが、まぁ偶にはいいだろう。
「なんだかんだ感謝はしているんだ・・・ニアが俺に付いて来ている目的はどうであれな。だから・・・」
俺が続けて言葉を繋げようとしていると、ふわりと俺の体に優しい感触が伝わって来た。
それは覚えのある優しい感触で・・・
「・・・はは、よし。行くかな」
その感触を受けた後、これ以上何か言うのも野暮かと思い俺は進む事にした。
「・・・ふはっ!」
10階層へと歩いている内に気付いたが、俺の心と体はかつてないほどにやる気が滾っていた。
(今なら各上の敵でも倒せそうだな・・・)
そうして歩いている内に・・・俺は周りの空気が変わったのを感じた。
「・・・着いたか」
強敵が居ると思わしき10階層へと辿り着いたのだ。
------------------------------------
作者より:読んでいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」「師弟愛、良いと思います。」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると 師弟愛が 禁断の愛へと変わります。
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます