第112話 臭みとわんちゃん

 とある迷宮の一室にて、1匹のえらく濁った色をした巨大なスライムが笑い声をあげていた。


「ぐぼぼぼっ!掛かったな馬鹿めぇ!これぞ数多の侵入者を屠って来たトラップと俺の合わせ技だぁ!」


 何処から出しているのか解らないが、えらく流暢に声を出すスライムはご機嫌だった。


「こんな地に飛んできてしまった時は駄目かと思ったが、意外と通用するモノだなぁ。これならコツコツと手下を増やして、他の迷宮を侵略してもいいかもしれんなぁ」


 このスライムはこの迷宮の守護者で、他の迷宮同様この地に飛んできてしまい、移動が出来なくなっていたのを嘆いていた所だった。

 しかし今回侵入者達を自信があったトラップとの併用コンボで倒したことにより、『あれ、これいけるんじゃね?』と希望を抱いていた。


「ぐぼぼぼっ!いずれこの一帯を治めてしまえるかもしれんなぁ!そうすれば俺も進化して美しいスライムに・・・ごぼっ!?」


 調子に乗ったスライムが自身の輝かしい未来を思い描いていた時、急に自身の体に変化が起こった事を感じた。


 それは自分の体の中で何かが暴れまわっている様な・・・


「ぐぼっ!?ごぼぼぼっ!・・・ごぼっ・・・」


 何とかそれを治めようと体に力を入れ、自身の持つスキルも全開にする。すると何とか体の異変は・・・


「ごぼっ!!・・・ぐぼぉ・・・な・・・何だ一体、俺の体に何が・・・




                         グ ォ ボ ッ シ !」


 治まりを見せたかと思った瞬間、『ッパァーン』という音が迷宮の一室に響いた。



 ・

 ・

 ・



「くっ・・・くさいっ!鼻がぁぁああ!?」


「くちゃい・・・」


「汚いのぉお主ら・・・寄るでないのじゃ」


 エペシュが使ってくれた魔法の光に照らされた俺とエペシュは、まるでヘドロの海にダイブしたかのような様相になっていて、その体に着いたどろどろとした汚い液体は臭気を放ち俺達を苦しめていた。


「うごご・・・な・・・何でニアは無事なんだぁ・・・くっさぁ・・・」


「そんなモノ、転移罠が発動した瞬間に結界を張ったからなのじゃ。一狼の様に敵の体に入ってから防御スキルを使うような鈍くさい体はしとらんのじゃよ?」


「うごっ・・・うごごごっ!」


「くちゃい・・・」


 ・

 ・

 ・


 少し時を戻すが、あの時あった事を話すとだ・・・



「あ・・・やb


 ヤバイ、罠だ!と思った瞬間には視界が切り替わっており、何度か経験した事のある転移だという事に気が付いた。

『不味い!体勢を立て直さなくては!』と思うモノの視界は暗く、唯落下中とだけ体の感覚が教え、数秒後には・・・


『ドプンッ』


 と、何か粘度が高そうな液体の上に落ちたような感覚があった。

 その液体は少しピリピリとし、体に良くないモノだという事が解ったので、俺は咄嗟にスキルを使い自分とエペシュを保護する。


(不味いっ!エペシュに『守護の壁』!ついでに俺にもっ!ニアに・・・は大丈夫か)


 スキルで取りあえずの安全を確保した後は、何が起こっているかを確認する為に『索敵』と魔力を探る。

 すると『索敵』には自分の周りに反応が、魔力は周りの液体が生物だという事を知らせて来る。


(これは一体・・・?スライムダンジョン、粘度の高い液体、ピリピリする・・・っ!まさか!?)


 今の状況などを改めて整理すると俺の中に1つの可能性が浮かんだ。


 それは・・・


(スライムに取り込まれた!?)


 恐らく転移先に大きなスライム又は大量のスライムが居て、俺達は其処に落ちてスライムに取り込まれたのだろう。


(しかし運が良かったな・・・)


 普通だとこれ、そのまま溶かされて死んでいただろう。だがしかし幸運な事に、スライムとのレベル差があるようで未だ俺達は無事なのだ。

 けれど・・・けれどだ、このままいつまでも取り込まれたままでいると、窒息したり、防御を突き破って溶かされたりして死ぬかも知れない。


(だから早急にこの状況を打破するべしっ!先生!出番です!)


 なので俺は自分の中で最も頼れる、安心と信頼の『黒風』を発動させる。


(・・・ぬ・・・ぐ・・・。空気がないからか発動しずらい!)


 何時もの如く発動させると迅速に問題解決してくれるかと思いきや、以外にもここで『黒風』の弱点が露呈してしまった・・・。

 しかし俺は・・・いや、『黒風』先生は負けないのだ。


(う・・・うぉぉおおお・・・うっほぉぉぉおおお!!!)


 頑張れと力むあまりゴリラの様な叫びを心の中で響かせるが、その甲斐あってか『黒風』先生は力を発揮してくれた。

 周りの液体を押しのけ、徐々に俺達の体の周りに液体との空間が出来て来た。


(うっほぉぉぉおおお!!・・・うほ?・・・んほぉぉぉおおお!?くっさぁぁぁいいい!)


 すると何故か突然、俺の鼻を突きさす様な痛み・・・いや、臭みが襲った。


(んほぉぉぉおおお!!!くしゃいのぉぉぉおおお!?!?)


 そしてその臭みが引き金になったのか、より一層『黒風』に力が入り・・・



『ッパァーン』



 という音が響いた。


 ・

 ・

 ・


 その後は知っての通り、体に着いた臭い液体により俺達は悶絶していた。


「くささ!くささ!くささぁぁあ!」


「くちゃい・・・」


「くっささー!マジでなんじゃこりゃぁ!?」


「どうやら『ヘドロスライム』というらしいのじゃ。その名の通りヘドロみたいな体をしておるそうなのじゃ」


「くっさ!成程くっさぁ!」


 臭さに喘ぐ俺達の横で、1人スキルでも使っているのか余裕そうなニアが臭みの正体を教えてくれるが、臭みのせいでまともに話せない。


「うごご・・・ちょっと一旦レモン空間へ・・・体洗いてぇ・・・」


「賛成・・・くちゃい・・・」


「それが良いのじゃ。妾臭いは遮断できておるのじゃが、見ていて汚いのが嫌なのじゃ」


『索敵』を使った所敵ももういないようなので、俺達は一度レモン空間へと入り体を洗い流す事にした・・・のだが・・・


「おかえりごぶ。・・・ごぶっ!?おかえれごぶ!おかえれごぶ!」


「何を言っておるゴブごぶ蔵。お帰りなさいゴブ・・・ゴ・・・ゴブ、個性的な臭いですゴブな?」


 入った瞬間出迎えてくれたごぶ蔵に帰れと言われてしまったし、その後出て来た長老にはフォローになっていないフォローをされた。


「こっちだって臭くなりたくて臭くなってるんじゃねぇ!と、それよりも今は体を洗うんじゃ!くささぁ・・・」


 俺は心無いゴブリン達の言葉に怒鳴り、体を洗いに行こうとする。

 するとごぶ蔵があまりの臭さに耐えかねたのか・・・


「くささごぶ!においおかえれごぶ!・・・ごぶ?においがおかえったごぶ」


 新技『アイテムを出し入れする黒い穴に臭いをボッシュート』を披露してきた。・・・完璧偶然やった使い方だと思うが。


 何はともあれ、一時的に臭いを遮断する術を見つけた俺はそれを使い臭いを遮断、その後水魔法を使って何とか体を綺麗にする事に成功した。


 ・・・因みに、エペシュも体を綺麗にしたけど俺は紳士だから別々に体は洗ったよ。ほんとだよ?


 ・

 ・

 ・


 とまぁ、最後にアクシデントはあったが・・・


「あった・・・」


 レモン空間から出た俺達は、遂に目的であった・・・


【守護者を倒した侵入者と断定。打破する手立て無し。状況は詰みと断定】


「ダンジョンコアだ」



 ダンジョンコアを見つけた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「名前も出てこなかった守護者さん・・・」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 名前が 何時か解ります。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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