第109話 たどり着くわんちゃん

「おい、あいつらエルフだってよ」「まじ?」「近寄ったら危険だな」「ぬるぽ」「ガッ!」「気を付けろよ?目を合わせたら襲ってくるぞ」「やべぇ・・」


「う・・・うーん・・・」


「どうしたの?」


「いや・・・うん・・・」


 遠巻きからひそひそと聞こえる声に俺の心はちょっとモヤモヤしていたのだが、同じく聞こえている筈のエペシュが気にしていないので、俺も気にしないことにした。


「まぁあれだ、金物も買えたし出発しようか」


 そして用事も済んだ事なので、さっさと山越えを進めて行こうかと思ったのだがエペシュから待ったがかかる。


「ちょっと待ってて」


「ん?ああ」


 エペシュも何かほしいものを見つけたらしく、フラフラ~っと人ごみの中へ消えていってしまったのだが、エペシュは直ぐに何かを持って戻って来た。


「お待たせ。これあげる」


「おかえり。ん?ありがとう・・・ってこれは・・・!」


「前に一回食べたことがあって、美味しかったから買って来た。クレープっていうんだって」


 エペシュが俺にくれたモノは、挟んである果物は見たことが無い物だったが、粉を焼いた生地にクリームが入った、まごう事なきクレープと呼べる代物だった。


「もぐもぐ・・・ちょっとクリームが独特の味だったり、果物が食べた事ない味だけど・・・うまいな!」


「うん、おいしい」


【異世界人が流行らせている物なのじゃな。昔おにぎり屋なるモノも見たことがあるのじゃ。時に一狼、妾も食べたいのじゃが?】


 ニアペディア曰く、偶に来る異世界人は新しい食べ物を度々広めるのだと言う。それはこのクレープもそうだという事だ。


【うむ。まぁまぁなのじゃ】


「あ、全部食われた・・・」


 ニアがクレープをくれというから、てっきり一口くれみたいな事かと思ったら全部食われた・・・。まぁいいんだが・・・。


「まぁいいや。エペシュ、それ食べながらでもいいから山道の方へ進もうか」


「わふぁっふぁ・・・もぐもぐ・・・」


 これで本当に用事が終了という事で、俺達は山へ入る事にした。


 山へとつながる道は街道同様に踏み固められていて道になっており、俺達は取りあえずその道を進んで行く事にした。

 進んでいる途中に情報の共有として、キャンプ地で集められた情報をぽつぽつと話しながら歩く。


「あのキャンプ地で聞き耳立てて情報を集めたんだが、一応山頂近くまでは道があるらしい。山頂を越えて山の裏側からはあまり人が立ち入らないから、どうなっているのかわからないらしい」


「成程、因みに出てくる魔物とかは情報あったの?」


「んー、聞いた限りだと蛇とか熊、蜘蛛にウサギと色々っぽいな。薬草とか、食べられる木の実も結構あるらしいぞ」


「へぇ・・・じゃあちょっと道を逸れて取りながら行かない?」


「それもありかもな。もうちょっと進んだらそうしよう」


 エペシュに情報を教えたら興味を持ったらしく、採取しながら進む事を提案されたので俺はそれを承諾した。

 だが未だ山に入ったばかりなので、今から取り始めてもあまり取れないだろうと思い、もう少し進んでから採取を始めようと俺は提案した。

 エペシュも確かにと思ったのか頷き、俺達はそのまま山を登り続けた。


 歩き続けていると少しづつ暗くなってきたので道を逸れ、薪になりそうなものを拾いながら歩いた。

 そうしているとやがて日が落ちきったので、俺達はレモン空間へと入って休むことにした。


「おーい、ごぶ蔵ー」


 俺はレモン空間へと入ると、先ずごぶ蔵を探した。

 ごぶ蔵を探すのは簡単で、いい匂いがする方へ行くと直ぐに見つかった。流石ごぶ蔵と思いながら、俺はキャンプ地で買った調理道具の事を話す。


「ごぶ!?ごぶぶぶ・・・!ごぶ!おぉ・・・鉄の包丁に鍋ごぶ・・・」


 するとごぶ蔵は直ぐにアイテムリストを呼び出して確認し、取り出した。


「ありがとごぶ!つぎからもっとおいしくごはんつくるごぶ!」


「ああ、頼んだ!で、取りあえず今日のご飯もらえるか?いい匂い嗅いでいたらお腹が減って来たわ・・・」


「ごぶ!おあがりごぶ!」


 ごぶ蔵は調理器具に感動し、ますます料理に精を出しそうな感じだった。


 明日からが楽しみだと思いつつ、俺は今日の分のご飯を受け取るとエペシュ達と食べ始めた。


 ・

 ・

 ・


 そこから5日程かけ、俺達は山頂にまで到達した。

 この5日はソコソコのペースで上っていたものの、食料や薬草等も取っていたため総合のスピードとしてはわりとゆっくりとしたものだった。

 だがその甲斐あってか食料も大分ストックできたし、薬草として使える草等も大量にゲットすることが出来た。


「ふぅ、暗くなってきたし今日はここまでっと」


「うん。けど吃驚したね。あれがここら辺で一番強い奴かな?」


「かもだな。厄介そうだったから撒いたけど、まぁ実際に戦ってたらギリギリ勝てそうだとは思ったがなぁ」


 5日目の夕方に、俺達はデカいトカゲ型の魔物と出会っていた。

 ニアからこの山では鑑定を使わず、視覚や魔力を使って相手の強さを測れと言われていたのでステータスは解らなかったが、恐らく出会った魔物は各上で、俺とエペシュが2人で戦ってもギリギリ勝てたであろうと俺は考えていた。

 しかし長期戦にもなりそうだったので、俺達は逃げる事を選択したのだ。


「まぁ時には逃げる判断もよしなのじゃ。最終的に生きていたら勝ちというものじゃ」


「おう!いつかリベンジだ!」


 その内リベンジしてやると心に刻み、俺達はレモン空間へと入って行った。


 ・

 ・

 ・


 翌朝からは道もなく人もあまりいない山の裏側なので、俺は変身を解いて進む事にした。

 そしてこれまでと同じように食料や薬草等を採取はするが、それはほどほどにして道を進む事を優先した。というのも、山の裏側は人が立ち入っていないせいか資源が豊富に残っており、さほど熱心に採取にいそしまなくても量がとれるからだった。


「っぱねぇな・・・」


「ぱないね?」


「犬も歩けば小判に当たる状態なのじゃ」


「棒に当たるんだよ・・・」


 まぁある意味では小判(お金になるモノ)に当たっているのだが・・・


 それはともかく、俺達はわさわさととれる資源をそこそこに回収しつつ山を下っていくのだが、途中で面倒になったのでスキルを使い敵を避けて進む事にした。

 しかしずっと魔物を無視して行くと、これからの物資が不安になるかも?と指摘を受けたので半日採取をしながら進み、半日隠れながら進むという事になった。


 そしてそれを3日程続けると・・・



「おぉ、平地になったな!という事は山は終わりか!」


「っぽいね」



 遂に山を超す事が出来た!


「っし!・・・って、ニア、ここからもう魔境地帯ってことなのか?」


「いや、一狼の足で半日ほど行くとなのじゃ。多分入ると何となく解る筈なのじゃ」


「ふむ?」


 事前に聞いていた話では山を越えると魔境地帯と聞いていたが、どうやらもうちょっと行くらしい。

 まぁでも半日なら誤差かと思いそのまま走り続ける事にした。


 山を下りたのが昼過ぎだったのでとりあえずそのまま暗くなるまで進み、翌朝起きて少し進むと・・・


「ん・・・?」


「なんか感じたね?」


「だな?ニア、これが言ってたやつか?」


「うむ」



「おぉ・・・って事はここが・・・」



 俺はついに辿り着いたのだ・・・



「長かった・・・けどもうちょっとだ!まってろよっ!皆!」



 ごぶ助達が待つ、魔境地帯へ。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。次から4章となります。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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