第108話 調理器具とわんちゃん

「決めた、人間達が通るっていう道を行こう」


「ふむ。そうかや」


 目の前にそびえ立つ巨大な山、それを超える方法に『人間達が作った道を通る』を俺は選んだ。

 正直今の実力では真っ直ぐ山を行ったとて、余計に時間が掛かりそうだったからだ。


「ああ、変身していけば見つかっても大丈夫だろうしな」


 そう、俺は今や変身スキル持ち。

 魔物の姿のままでなく人型に変身して道を進めば、たとえ見つかったとしても、『魔物だ殺せ!』とはならないだろう。


「よし、じゃあ早速行くか」


「うん」


「うむ」


 進むべき道を決めたので、俺達はニアに方向を教えてもらいそちらへと進む。


 暫く進んでいると『探索』に魔物とは違う気配をとらえたので一旦止まり、俺は『シェイプシフト』を使ってエルフの姿へと変身した。


「あー、あー、よし。変身完了っと」


「あ、まって」


 一応問題ないかを確かめ、さて進もうと言う時に、エペシュから呼び止められた。


「ん?どうしたんだ?」


「一狼、これ被って」


「ローブ?これを被ればいいのか?」


「うん、フードもちゃんとしてね?」


 俺を呼び止めたエペシュは、腰に付けたポーチ型のアイテムボックスの魔道具からずるりと2つのローブを取り出して、1つを俺に渡してきた。

 別に変身して毛が無くなったからって寒くはないんだが?


「エルフはちょっかいかけられやすいから、一応被って」


「あー、成程」


 エルフは基本的に美人の女性しかいない種族、その為他種族の男からナンパされやすいのだろう。ファンタジーあるあるだ。


 俺は元オタク力を発揮してすんなりと納得し、エペシュに渡されたローブを被る。

 そしてエペシュも同じ様に被ったのを確認すると、気配を感じた方へと進んだ。


「お、街道だな」


「うん。歩きやすいね」


「だな。行こうか」


 少し歩くと踏み固められた街道に出たので、俺達はその街道を山方向に向けて歩き出す。

 人通りはそこまで無く、今見える範囲でも2人だけしかいなかった。


「全然人が通らないんだな」


「あるのが山だから、誰も用がないんじゃない?」


 そんな雑談を交わしながら歩いていると、開けた広場みたいな場所へと辿り着いた。どうやら山に入る前のキャンプ地みたいだ。

 このキャンプ地だが、テントが張ってある一角や食べ物や道具を売ったりしている一角があって、小さな村みたいになっていて随分賑やかな場所だった。


「へぇ・・・全然人が居ないかと思っていたのに、意外といるんだな」


「武器持っている人が多いし、山で狩りとか採取してるのかも?」


「あー、だから道とかあるのかもか」


【うむ、山の中にもチラホラ人間の気配があるので、多分そうなのじゃ】


 エペシュの推測は当たっていたらしく、姿を消しているニアが念話で正解と褒めて来た。

 エペシュの雰囲気が嬉しそうだったので、恐らくニアの念話はエペシュにも聞こえていたのだろう。


「大正解が出たところで、俺達も山へ行くか。買い物するにもお金もないしな」


 何時までもだらだら喋りながらキャンプ地を見ている訳にもいかないので、俺はエペシュを促して山へと行こうとするのだが、再びエペシュが待ったをかける。


「待って。お金ならあるから、何か買いたかったら買うよ?」


「む・・・」


 どうやらエペシュはお金を持っていたらしく、俺の言葉を聞いて何か買いたいのかと尋ねて来た。

 ここで俺は『女の子にお金を出させるという、ヒモみたいな真似をしていいのか?』と考えたのだが、チラリと見た店の商品が俺の心を誘惑して来た。


「ぬ・・・ぐぐっ・・・た・・・頼んでもいいか?」


「いいよ」


 結局俺は誘惑に負けてしまった・・・


(弱い俺の心を許してくれ女神エペシュよ・・・)


 俺は誘惑に負けた事とお金を出させる事の2つに心の中で謝罪をしながら、物を売っているエリアへと足を運んだ。

 そのエリアへと着くと、エペシュが何を買いたいのか聞いてきたので俺はキョロキョロと辺りを見回し、目当ての店を指さして言った。


「あれだ。あの店を見たい!」


「金物?」


「ああ、正確には調理器具だ。俺は鍋や包丁がほしいんだ!」


 エペシュは俺のほしいものを聞いて『何でそんな物?』みたいな感じをしているのだが、これは重要な事なのだ。

 現在俺達の食事はごぶ蔵達・・・ゴブリンに作ってもらっているのだが、彼らの調理器具は大体が石製だ。

 最初の村でも大体の家は石製で、これはゴブリン達が人間と交易等をしていないため仕方ないとも言えるのだが、鉄製のモノを手に入れられるのならそちらの方が便利なので、この機会にぜひ手に入れたいのだ。

 それをエペシュに伝えると、最近のゴブ蔵たちの調理風景を思い出したのか納得してくれた。


「そういえばそうだね。お金は結構あるから一杯買おうか?」


「出来る事なら頼む・・・。今でも人数は一杯いるんだが、魔境地帯へ着いたらもうちょっと人数が増えるし」


「解った。じゃあ買うモノ選ぼ?」


「ああ、ありがとうなエペシュ」


「気にしないで。仲間の為だもの」


 流石は女神エペシュといった所で、仲間の為ならばお金くらい・・・という感じだった。

 俺はそれに感謝をして包丁やフライパン、鍋等を選ぶ。因みにだが、皿やフォーク等の食器類に関しては木製でも十分だった為買う事はしなかった。


「少々多いが、これくらいか?」


「解った。おじさんいくら?」


「毎度!そうだな・・・大量に買ってくれたから、ちょいとまけて13万ジュルでいいぜ?」


「13万ジュル・・・これでもいい?」


「ん?見慣れない硬貨だな・・・ちょいとまてよ?両替表両替表・・・」


 商品を選びエペシュがお金を出したのだが、どうやらエペシュが使った通貨はここらであまり使われていないらしく、店主は持っていた通貨の両替表を確認しだした。


「あったあった・・・えぇっとこれは・・・げぇぇえ!?こいつぁエルフの硬貨!?ってこたぁあんたら・・・!?」


 店主が大きな声で叫んだので周りにいた者達にも聞こえたのか、『バッ』と視線が俺達に集まった。


(やばっ!エルフだってばれた!)


 叫んだ店主を怒鳴りつけたいところだが、そうすると余計に目立ってしまう為何も言えないでいると、エペシュが冷静に店主に尋ねた。


「何か問題あった?」


(ク・・・クールだ・・・いかすぜ・・・じゃなくて!何でそんなに冷静に!?)


 俺はアワアワとしてしまうが、何故か店主もアワアワとし始め・・・


「いえっ!問題ありません!お値段も大特価!10万ジュルにいたします!あ、という事でこれだけもらえたら結構ですので・・・へへっ・・・」


 何故か店主はいきなり怯えた表情をしてペコペコしだし、値引きするとまで言い出した。

 一体何が・・・と困惑していると、周りにいた人達の会話が聞こえてしまった。


「お・・・おい、エルフだってよ・・・」


「まじか?あのバーサーカー種族かよ・・・」


「前に俺の知り合いが突然攻撃しかけられたって言ってたぜ・・・?」


「こっわ!ファン止めるわ」


「俺も俺も」


(あぁ・・・なるほど・・・)


 そう言えば、この世界ではエルフは好戦的な戦闘民族的扱いだとニアが言っていた事を思い出す。

 という事は・・・


「なぁエペシュ、さっき言ってたちょっかいかけられるって・・・」


「うん?偶に、俺は強い的な奴が偶に攻撃を仕掛けて来る、ってことだけど?さっき成程って理解してなかった?」



 この星のエルフ・・・色々俺を驚かせてくれるぜ。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「料理しちゃうぞ」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると エルフが 包丁持って追いかけてきます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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