第103話 戦闘に参加?するわんちゃん

 血煙と土煙が舞い上がる戦場へと俺は走る。あの子を探して。


「エペシュゥゥゥ!!」


 オークロードが武器を振った時、その範囲内ギリギリの位置にエペシュはいた。


 上手く避けてくれていればいいが、当たっていたら・・・


 俺の頭に嫌な想像が広がってしまうがなるべく考えない様にして、俺はエペシュの姿を探す。


「エペシュッ!無事かっ!?」


 最後にエペシュが居た辺りに向かって声をかけていると、そこから少しだけ離れた場所から反応があった。


「・・・い・・・ちろ・・・?」


「エペシュッ!」


 俺は慌てて声が聞こえた辺りへと移動して姿を探す。すると地面に倒れたエペシュの姿を見つけたので駆け寄って声をかける。


「無事か!?無事だな!?・・・よし、小さい傷はあるけど大丈夫そうだ!」


 一見見た感じだとひどい怪我は無く安心するが、ゆっくりしている暇はなさそうだ。


「エペシュ!奴はまだ近くで暴れている!今のうちに逃げるぞ!」


 近くではオークロードが行っているであろう破壊の音が聞こえていたので、いつこっちに来るかも解らない状況だった。


 だから逃げるように言ったのだが・・・


「うっ・・・っく・・・」


 エペシュはゆっくりと上半身を起こすと自分を回復させ、それが終わって自分の様子を確かめると俺に向かってぺこりと頭を下げた。


「一狼、来てくれてありがとう。でも見つかったら不味いし、もう出発した方がいいと思う。私も行くし・・・それじゃあね」


 エペシュはそう言った後、オークロードが暴れているであろう方向へと向かおうとした。


「っちょ!オークロードの方へ行くのか!?無理だ!逃げた方がいい!」


 俺は慌ててエペシュの前へと回り込み通せんぼをするのだが、エペシュは俺を避けて前へと進もうとする。

 勿論俺も避けた方向へと行くので2人はずんずんと横方向へと流れていく。


 やがてエペシュが立ち止まり、大きなため息を吐いてから口を開いた。


「はぁ・・・一狼、私は逃げない」


「はぁ!?何で!?」


「私が逃げたらあいつが暴れまわって被害が広がる。何とか私が食い止めないといけない」


「いや、無理だろ・・・。あいつ多分俺達の倍くらいは強いんだぞ?死ぬだけだ!」


「それでも行く。皆を守らないといけない。私エルダーだし」


「・・・っ!」


 普段エペシュは適当そうに見えるが、ゴブリン達を慈しむ心を持つ優しきエルフだ。勿論それは同族に対してもそうだろうし、更にエルダーという位のせいか一般のエルフ達を守らなければという使命感もあるようだった。


 だったら・・・俺は・・・



「だったら・・・手伝う・・・」



「え・・・?」


「死んでしまう確率が高いのに1人で行かるか!俺も手伝う!」


 俺はエペシュと一緒に戦場へ立つと決めた。


 仲良くなったエペシュを死なせなくなかったから・・・


「前に仲が良かったゴブリン達が死んだ時はすっごく悲しかった。あの時は間に合わなかったけど今は違う!だから今度こそは死なせない!」


 俺はこの時拾われたゴブリン村の事を思い出していた。あの時は守れなかったけど、今なら守れるかもしれないと・・・


「力不足かも知れないけどさ・・・それでも手伝うよ」


 以前の隊長格の騎士やヤバそうな気配の奴みたいに力の差はかなりある。だけどそれを理由にエペシュを置いて行く事は出来なかった。


「一狼・・・わかった、ありがとう」


 普段あまり表情が変わらないエペシュが俺に微笑みかける。その顔に俺は見とれて何も言えず固まってしまいそうになったが、直ぐに我を取り戻す。


「うぐっ・・・お・・・おう!あ、そうだ!」


 今更ながらある事に気付き、俺は周囲を見回す。

 すると上手い具合に未だ煙は晴れず、夜とも相まって視界は最悪の状態だった。これならば俺の事を目撃した者は極ごくわずかだろう。


「ならこうした方がいいもんな・・・『シェイプシフト』」


 レモン空間から皮を取り出すと頭の上へ乗せてスキルを発動、エルフの姿へと変身をする。


「周りのエルフ達に援護してもらうかもだし、間違って攻撃されても問題だからな」


 視界が悪く混戦状態の今ならば見知らぬエルフが紛れていても大丈夫だろうし、これは自分とエペシュを守る為でもあるのだ。


「うん、そうだね。あ、もしも誰だって言われたら、私の恋人とでも説明する事にしよ?他大陸からやって来て偶然出会ったみたいな感じで。無い事もないらしいから、多分通る筈・・・」


「あ・・・はい・・・」


 いきなり衝撃的な事を言われたので頭がフリーズしてしまったが・・・恋人設定だと!?俺は一向にかまわんっ!

 まぁでも、数日前から俺がエペシュと一緒に歩いているところは目撃されてたわけだし、案外すんなり騙せそうな設定だ。


 と、最後にちょっとアレな事があったわけだが、急いで戦場に参戦しなければならない。


 何故なら・・・


『ぶるぁぁぁっぁぁぁあぅっ!!!』


『『『ぎゃぁぁぁっぁあああ!!!』』』


 オークロードが依然暴れ続けていて、エルフ達の悲鳴が多く聞こえるからだ。


「エペシュ!時間が無いから簡潔に言うぞ!俺が前に出るから後ろから魔法で援護を頼む!解ったか!?」


「解った!・・・死なないでね?」


「おうよ!いくぞっ!」


「うん!」


 役割だけ決めると、俺は先ず視界が最悪な状況をどうにかすべく『黒風』を戦場上空へ放ち空気を舞い上げる。

 すると、明かりもいくつか消えてしまったが、先程よりかはずっと戦場が見えやすくなり、暴威を振るうオークロードの姿も丸見えになった。


「行くぜっ!」


 俺はその姿を見るや否や走り出す。そしてそれと同時にエペシュが唱えていた補助魔術が俺に掛かり、俺の体は矢の様にオークロードへと突き進んだ。


「っしゃっ!」


「ぶるぅあっ!?」


 油断しているオークロードの後頭部へ速度が乗った飛び蹴りをかますのだが、受けたオークロードはたたらを踏んでぐらついただけだった。


「奇襲でクリーンヒットが入ったのに倒れないかっ!おわっっと!?」


「ぶるぁぁぁっぁぁぁあぅっ!」


 攻撃を受けて怒り心頭なのか、オークロードは雑に武器を振るってきた。

 見え見えの大振りで予備動作も大きかった為避けれたのだが、その攻撃から感じる圧は凄まじいものがあった。


 俺は一度距離を取り、完全にヘイトを俺に向ける為に解りやすい『火魔法』と『氷魔法』を使い攻撃を仕掛ける。


「おらおらぁぁぁ!焼き豚にしてやるぜっ!それとも冷凍肉がお好みかぁ!?」


「ぶるぁぁっ!ぶるぁぁぁっぁぁぁあぅっ!!!・・・ぶるぁっ?」


 奇襲後に魔法をバンバンと当てると完全にヘイトがこっちへ向いた気がしたのだが、次の瞬間いきなりオークロードの動きが止まった。

 俺はその不気味な挙動に驚き身構えるのだが、オークロードは俺を見たまま中々動かなかった。


 しかしその状態は直ぐに終わりを迎え、オークロードは動き出した・・・口が。


「ぶるぅ・・・おまえ、きにいった。おれの、めすに、する」


「ん・・・?」


「おまえ、おれのもの。かわいがる。ぶるっ・・・ぶるあぅっ!!!」


 オークロードは気持ち悪い笑顔を浮かべながら下半身を戦闘態勢に移した。

 俺はそれを見てしまい、背筋にやばいほどの悪寒と冷や汗が走り、思わず後ずさってしまう。


「な・・・なにいってるんだこの豚野郎!?」


「ぶるぅっ!おまえ、ふるいにおい、あたらしいにおい、まざってる。すばらしい。それに、いいからだ。きっと、おれのこ、よくうめる」


「ひっ・・・」


 オークロードは俺の変身したエルフのナイスボディをみてさらに高まってきていた戦闘態勢を、俺に見せつける様に向けて来る。


・・・ひ・・・ひえっ!?


【ちなみにそやつ『異種交配(極)』というスキルを持っておるのじゃ。そのスキル犬だろうが人間だろうが、はたまた雄だろうが雌だろうが交配を可能とするスキルなのじゃ。・・・捕まらんようにするのじゃぞ】


 ニアからそんなイラン情報が送られてきたが・・・マ?


「ぶるぅっ!はやく、ぶつけあい!たたかう!ぶるぁぁぁっぁぁぁあぅっ!!!」


「ひ・・・ひぃいいいい!?」



 絶対に負けられない戦いが・・・今始まる!



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ん?何か展開おかしくない?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 一狼が・・・アーーッ!


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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