第101話 作戦遂行中のわんちゃん
侵入した砦村の東側は戦場になっている西側よりかは静かだったが、それでも喧騒には包まれていた。
その喧噪の中俺は闇へと潜み、村の中を行くエルフ達から姿を隠して移動をする。
(騒がしい上に暗闇、俺にとってはこれってラッキーなのよね・・・っと)
移動してまず見えて来たのはエルダー達が住んでいると言っていた建物で、作戦的にもまとめ役のエルダーが居ない内に済ませておきたかった場所なので早速侵入する事にした。
(お邪魔しますよっと・・・)
慌てていたのか元からなのか施錠がされていなかった門の扉を開き、俺は敷地内へと侵入し、エペシュに教えてもらっていた見取り図を思い出しながら移動する。
まず俺が向かったのは敷地内の庭にひっそりと建つボロ小屋だった。
(エペシュによればこの家のゴブリン達は殆どがここにいる筈なんだが・・・)
『索敵』も複数の気配をとらえているし間違いはない筈なのだが、小屋からは殆ど物音がしてこなかった。
まさかこの状況で寝ている訳でもないので、何かここでも異常があったのかと心配しつつボロ小屋の扉をそっと開く。
すると・・・
(俺はゴブリンを甘く見ていた様だ・・・)
小屋にいたゴブリン達は・・・寝ていた。それはもうスヤスヤと気持ちよさそうに。
(こいつらまじか!?俺の居た村でもここまでじゃ・・・なかったとは言い切れないな?)
一瞬俺が最初にいたゴブリン村と比較をしてしまったが、意外と同レベルだったかもしれないと思い出してしまったのでこれ以上は考えないことにして作戦を続行する事にした。
(はいはい、寝ている内にしまっちゃおうねぇ~?)
どこぞの子供が考える怖い化け物の様な事を心の中で呟きつつ、俺はレモン空間へとゴブリン達を収納していく。
きっとゴブリン達はレモン空間内でもまだ寝ているので、起きたら物凄く驚く事だろう。
(よし、終わりっと。次は建物の中だな。居ないかもしれないけど、これはエペシュも見てみないと解らないと言ってたものな)
エペシュも確かにエルダーの地位にはいるのだが、この村での仕事はまとめ役のエルダーが仕切っている為全ては解らないのだと言う。
なので一応建物の中も調べなくてはならないのだ。
(と言っても、直前でゴブリン達の居場所が変わるのは此処くらいって言ってたけどな。他の処は偵察通りだっていうし)
この建物内ではゴブリンを錬成する事もある為動かす事もあるみたいなので、もしかしたらそこにもいるかもしれないとはエペシュ談である。
その為建物内へとこそっと入り『索敵』をかけて探すのだが・・・
(何だこれ・・・変な感じがして『索敵』が上手く機能しない!?)
何故か『索敵』が狂ったコンパスの様に正しい機能を発揮せず、消えたり出たりと気配が変動しまくりおかしな事になっていた。
【それは世界樹の端末のせいなのじゃ】
動揺しているのが解ったのかニアから念話でそう教えられ、あるとは聞いていたがこんな事になるのかと驚いてしまう。
【まぁ世界樹は亜神のくくりに入るほどじゃからの、末端でも有する力は凄まじいのじゃ】
(成程な・・・)
世界樹・・・ここにあるのはその端末で、特別な方法で株分けした小さな木らしいが、それはエルフに技を授けた神の使徒の様なモノらしい。
その為有する力は絶大で、ゴブリンを錬成する技も端末を通さないと使えないとの事。
なので大きな村には端末が存在し、この砦村ではこの建物内にあると聞いてはいたがこんな現象が起こるとは・・・。
(それならエペシュに教えてもらった見取り図だけを頼りに動くか・・・。エペシュが言うには、建物内でいるとしたらその世界樹の端末近くらしいし。っていうか近づいても大丈夫なのかね・・・)
自分の身で感じてしまった世界樹の凄まじさに近づく事をしり込みしてしまうが、ニアがそっと念話で教えてくれる。
【大丈夫なのじゃ。世界樹は確かに絶大な力をもってはおるが、その力を自発的に振るう事はないのじゃ。意思は持っておるが世界樹も木という事なのじゃ】
「・・・じゃから偶に読めん行動もする訳なのじゃが」
何故か最後に肉声で喋っていた気がしたが、小さすぎて俺の耳でも聞こえなかった。なので気のせいだと思い建物内を進んで行く事にした。
一応世界樹の端末がある場所までは肉眼で調べ、ゴブリン達が居ないかを確認していくのだがゴブリンの姿は見当たらず、しばらく進むと世界樹の端末があると言う中庭へと扉の前についた。
ゴクリと唾を飲みこみ緊張してしまうのだが、先程のニアの言葉を思い出して心を落ち着かせた後・・・そっと扉を開いた。
(し・・・失礼しまーす)
心の中で挨拶だけして中庭へと出ると、そこには確かに木が一本生えていた。
それは何とも不思議な気配を発する木で、ニアに依然感じた様な圧の様なモノを感じた。
しかしその木から発せられる圧は苦にならず、逆に引き寄せられるような感覚に陥るという不思議なモノだった。
(っと・・・ずっと観察している場合でもないな、ゴブリンはっと・・・)
無意識に視線が引き寄せられるので、意識的に視線を動かし中庭を見渡すがゴブリンの姿は見当たらなかったので、これでこの建物内での捜索は完了となった。
(よし、これでもうここには用がないから出るとするか)
まだまだ砦村内を回らなくてはいけないので、俺はサッサと建物を後にしようと中庭から出ようと考えていたのだが、何時の間にか俺は世界樹の方を見ていた。
(・・・何時の間に!?本当に不思議な木だな・・・これが所謂気になる木・・・ってか!?)
【80点】
(意外と高い・・・)
日本だと10点とか言われそうなものだがどうやら異世界ではまだまだ通用するみたいだった。
(っと、こんなことしてる場合じゃない。次へ行こう・・・それじゃ失礼しやした~)
念の為に三下ムーブをかましつつ俺はまとめ役が住む建物から脱出し、他の場所を回っていく。
先ずは東側の建物を順番に回っていき、予め確認していたゴブリン達を回収していく。
大体は最初の建物と同じくすこし離れた場所に小屋があり、そこにまとめてゴブリン達が詰められていたので、俺は寝ているゴブリン達を次々とレモン空間へと収納していった。
中には少数でエルフ達の住む建物の中に捕らわれた者達もいたのだが、現在は迎撃の為に出払っている場所が多かったのでスムーズに事が進んで行った。
東側が終わると次は南西方向から北西方向へと見ていく。
これは、現在襲撃が激しくなっているので、南西にいるまとめ役のエルダーが忙しくしている内に南西を見ていき、落ち着いてきたころにエペシュが居る北西へと抜けようという作戦だ。
その読みは見事に当たったのか、北西にいたゴブリン達の回収している間は危うい場面もなく、無事に回収が終了した。
(よし、後は北西だけだな。オークの進化種が出て来るとしたらそろそろかもしれないし、ついでに見守れるな!)
オーク対エルフの戦況は大分進み、そろそろオークの進化種が撤退かそのまま交戦かを選ぶかな?と俺は考えていた。
となると少々急がなくてはいけないなと、ゴブリン達の回収作業を急ぎ足で進めることにして、予め考えて来た作戦マップを頭の中に思い浮かべながら回収を続ける。
北西でも他の場所と同じく、ボロ小屋でまとめられていた寝ているゴブリン達や少数でエルフの建物内にいた寝ているゴブリン達を回収・・・
(ってマジでゴブリン達この状況で寝続けるとかすごいな!?)
やっぱりゴブリンパナイワーと思ったところで、俺はついに作戦を完了させた。
ゴブリン達を全員救出したのだ!
(うっしゃぁぁあ!無事ミッションコンプリィィィトォォオ!)
【うむ、ミッションがパッシブなのじゃな】
(常に指令とか社畜かな?っとエペシュは大丈夫かな・・・)
度々あるニアの間違った引用に突っ込みを入れ、喜ぶのもつかの間に『索敵』に集中して戦況を読むことにしたのだが・・・戦況は動いていた。
(これは・・・交戦を決めたのか)
オークの進化種と思われる気配は引く事もなく戦場に近づき、いくつかは既に戦っていると思われる位置に居た。
というか・・・
(オークの進化種の気配が増えて・・・いや、俺が読み切れていなかっただけか!?)
俺が作戦を決行する前に探知出来ていた進化種の気配は3体程だったのだが、今は解っているだけでも13体程にまでなっていた。
幸いにもほとんどが南西の方に行ってはいるのだが・・・
(それでも4体ぐらいはエペシュの方へと来そうだな・・・。それくらいなら何とかなりそうだが、一応様子を見ておこう)
本来ならこのまま離脱して魔境地帯へと旅だつ予定だったのだが、俺はそれを取りやめ、エペシュのいる戦場へと向かった。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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