第99話 着々と計画を進めるわんちゃん

 ニアから思わぬ認識の違いを聞かされて頭を悩ませた日から2日後、俺達は今日も偵察を終えてレモン空間へと帰って来ていた。


「ふぅ・・・変身解除っと・・・」


 俺はスキルを解除してエルフの体から犬の体へと戻り、頭の上に乗っていた物へと一礼しそれを収納した。


「ふむ・・・」


「何だニア?」


「いや、なんでもないのじゃ」


 ニアは1人納得した様子を見せながら森の方へと歩いて行ったが、あれはニアの趣味である観察でもしていたのだろう。


 俺は結局の所、エルフの皮を使って変身する事について『使わざるを得ないので使わせてもらう。そして変身前後は感謝の念を捧げる』と、悩んだ末にその結論を出した。

 ここでどこぞの主人公の如く、誰もが納得してしまう理論でも展開出来たらよかったかもしれないが・・・生憎と俺は平平凡凡の男。転生したという超絶ラッキーな事が起こったとはいえ、カッコいい信念も理想もなく、唯々自分の為に最強を目指すという考えしかないのである。


(そんな俺の事をニアはどう評価したのか・・・)


 少し気になる所ではあるが、『聞くのも少し怖いな』とこれまた平凡なチキンハートを持つ俺はニアに自分の評価を聞く事も出来ず、1つため息をついた後に森へと歩いて行きゴブリン達に挨拶をする。


「おーい、帰ったぞー」


「お帰りなさいゴブ」


「おかえりごぶ、ごはんのよういできてるごぶ」


「「「おかえりごぶ!」」」


 ゴブリン達の明るい返事に少し癒されつつ、俺は用意してくれていたご飯を頂きながら偵察内容を頭の中でまとめ始めた。

 偵察内容のまとめを終えると同時にご飯も食べ終えたので、ゴブリン達に挨拶をして俺は少し離れた場所に腰を下ろし早々に寝る体制に入った。


(この3日であの村の半分くらいまでは見れたから・・・後2,3日で偵察を終えて4日目に内容を長老に相談、5日目に救出を決行って感じかな。それで決めてた猶予が7日程余るから・・・)


 目を瞑りながらこの後の予定を練っていると眠気が強くなってきたので、俺はそのまま夢の中へと落ちていった。



 ・

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 順調に偵察は進み、シェイプシフトを使って砦村の中を偵察し始めて5日目、この日の偵察で終わるかなと思った日の事だ。


 俺は相変わらずエペシュに案内をしてもらいながら砦村の中を歩いていた。


「これで残るはあの区画のみって感じか?」


「うん」


 時刻は夕方に近くなってきていたが未だ陽は落ちておらず、残りはあの場所だけなので確認してしまおうとエペシュに言ったのだが・・・


「んー・・・」


 エペシュの反応は微妙な物だった。


「どうしたんだ?やっぱりあそこってデカいだけあって、何か重要施設なのか?」


 俺は砦村の中でも一際大きい建物をチラリと見て問いかける。


「うん。あそこは砦村のまとめ役が居る場所」


「まとめ役・・・村長みたいなものだよな?ん・・・まてよ・・・?」


 言ってから気付いたが、村長やまとめ役は大体力がある者が務める役だ。つまり・・・


「エペシュってまさかこの村の村長!?」


「違うよ?」


「違うのか?」


 エペシュはエルダー・・・エルフの中でも上の方の存在だと聞いた。なのでてっきり村長なのかと思ったのだが違うらしい。


「うん、あそこには住んでるけど私はまとめ役ではない。この村のまとめ役はもう1人いるエルダー」


「あー・・・そう言えばもう1人いるって言ってたか」


 進化騒ぎの前にそんな話があった事を思い出す。・・・進化のインパクトが凄すぎたんだ、忘れても仕方ないだろう?


「うん。あそこにはそのもう1人のエルダーが居る。見慣れないエルフの姿をしている一狼の事を突っ込まれると厄介だから、直接行くのはやめとこ?」


 確かに下位のエルフならばエペシュの連れを詳しく詮索する事もなかったが、同階位のエルフならば俺の事を詮索してくるかもしれない。

 まぁ詮索されたところで、あのニアでさえ凄いと言うのだから俺の変身を見破れないとは思うが、一応念の為作戦決行までは近づかず、中の様子はエペシュに尋ねる事にしよう。


 俺はエペシュの提案に頷き、今日は帰る事にして明日の事をエペシュへと相談する。

 明日は砦村に来ずにレモン空間で話を聞いてもいいかと尋ねると、「いいよ」と了承を貰ったので、待ち合わせる時間だけ決めて俺は森へと帰った。


 ・

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 翌朝、『朝からでも大丈夫だよ』との事だったので朝から合流し、俺達はレモン空間の中へと入っていた。


「何回来ても不思議・・・」


「まぁ俺ですら不思議に思う空間だからなぁ・・・」


「妾も不思議とは思っておるのじゃぞ?」


 この空間を見ても大してリアクションを取っていなかったニアも、実はそう思っていたらしい。

 と、そんな事は置いておき、俺は未だポケーと口を半開きにしながら辺りを見回しているエペシュを鼻先で押して森の方へと進む。・・・密かに匂いを嗅いでいたのは秘密である。


 森の中へと入ると長老を呼び、俺・エペシュ・長老の3人+聞くだけのニアで話し合いを始める事にした。


「すまんね長老、エペシュに話を聞いたらそのまま相談がしたくてさ」


「問題ありませんゴブ。そもそも儂等の仲間を救ってもらう為ですしゴブ」


 長老も快く話に加わってくれる事になった所で、早速エペシュに話を聞くことにした。


「取りあえずエペシュ、まとめ役が居るっていう建物がどうなっているか図を書いてもらってもいいか?」


「うん」


「取りあえずこれを使ってくれ」


 俺はエペシュに、木の燃えた炭と草を混ぜて固めた鉛筆モドキとなるべく薄く大きい木の板を渡した。

 因みに鉛筆モドキはゴブリン達に作ってもらった物である。


 エペシュは俺からそれらを受け取ると自分の記憶を思い出しつつなのか、途中で「うーん・・・」と唸りつつも建物の見取り図を描いてくれた。


「出来た。多分これであってると思う」


「どれどれ・・・」


 俺は時々エペシュに補足をしてもらいながら書いてくれた図を確認していく。

 大体解ったところで、いよいよ一番の障害となりそうなエルダーの事を聞いて見る事にした。


「大体解った、ありがとなエペシュ」


「うん」


「それでだ、まとめ役のエルダーはこの部屋からはあんまり出ないのか?」


「んー、仕事中は大体ここにいるけど、それ以外だと建物の中を動いたり外へ行ったりするから、あんまり安心しない方がいいかも」


 ゲームみたく、ボスはここにいるけど近寄らなければ大丈夫、とはいかないみたいだ。・・・まぁそりゃ当然なんだが!


「成程な・・・因みに何だが・・・まとめ役のエルダーってどんな奴?強さとか性格とか・・・」


「んー・・・そうだね・・・」


 エペシュはまとめ役のエルダーについて語る。

 時々挟まる不思議な擬音語や無駄話を省いてまとめると・・・


 名前はエメラダ・エルダー・イーストウッド、歳は220くらいとエルダーとしてはエペシュに次ぐ若手らしい。

 実力は歳相応に高いらしく、エペシュ曰く「私の倍くらいには強い」らしい。

 性格は俺の聞く限りTHEエルフって感じ?プライド高くやや傲慢、他種族を下に見るという、これで貧乳碧眼金髪とかだったら完璧なんだが・・・普乳碧眼金髪らしく惜しいっ!とつい叫んでしまった。

 それはともかく、夜は割かし早く寝て熟睡するらしいので、寝ている間ならば建物の中に入り込んでも気づかないかも?との事らしい。


 俺は長老と共に頷き、作戦決行は夜中だと決めてから他の事を長老と話し合う事にした。作戦の実行経路や救出してからの動き等を話したのだが、正直ここまで長老の頭が回るとは思わず、俺はますます『長老実はゴブリンじゃない説』を考え出してしまったが・・・まぁ余談である。


 俺達は作戦決行を明日の夜とし、そこからも綿密な計画を相談し合った。



 ・

 ・

 ・



 そしていざ決行の日、夜の帳がおり静まり返った深夜の事・・・




『敵襲ぅぅ~~~!!』



「あるぅえ?」



 あっさりとばれたのか、エルフの砦村は喧騒に包まれた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「エメラダさんツンデレもあります?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 長老が、ツンデレになります。

 

 お知らせ:皆様のおかげで累計PV1万に到達いたしました。ありがとうございます。特にこの文章を読んでいる方は、ここまでずっと読んでくれている方達なので、拙作を支えてくれている人だとも言えます。本当に感謝しております。

 長くなりましたがこの辺で・・・、これからも応援よろしくお願いいたします。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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