第98話 シェイプシフトするわんちゃん
「・・・」
俺は心臓をバクバクさせながら歩いていた・・・2本の足で。
「大丈夫」
隣を歩くエペシュにそう言われたのだが、俺はぎこちなく頷くだけしかできなかった。
(そう・・・大丈夫だ大丈夫!長老達も全く分からないって言ってたし・・・大丈夫!)
心の中で落ち着けと自分に言い聞かせていると、早速俺を試す様な事態が起こる。
「あ、エルダー様、見回りですか?」
対面側からエルフが現れ話しかけて来たのだ。
「違う、散歩してるだけ」
「あ・・・あはは、そうですか」
そのエルフはエペシュに話しかけたのでエペシュは言葉を返していたのだが・・・返し方がやはり天然っぽかったのが可笑しくて、俺はつい笑いそうになってしまう。
それに気付いたのか、話しかけて来たエルフはこちらを見て来たのだが、直ぐに目をそらし、挨拶をして去っていった。
「ふぅ~・・・」
「大丈夫だったでしょ?」
「・・・だな」
ね?と、可愛く小首を傾けて尋ねて来るエペシュに小さな声で返し、俺達はエルフの砦村の散策を再開する事にした。
そうして歩き出した後直ぐに、ニアが念話で話しかけて来た。
【硬くなり過ぎなのじゃ。先程のエルフも様子がおかしいと思って見ておったのじゃ】
(え・・・、俺を見て来たのってそういう事だったのか・・・)
【うむ。そこのエルフの童も言っておったが大丈夫なのじゃ。妾が見ても、スキルで思いっきり解析せねば解らんかったのじゃぞ?安心するのじゃ】
(お・・・おう!)
ニアに太鼓判を押されたことで俺の心臓は段々と平静を取り戻し、漸く周りが見えて来た気がした。
(ふぅ・・・しかし凄いな・・・。本当に俺の事を誰も疑っていない)
【うむ。流石は神が与えたもうたスキルなのじゃ。・・・にしても、ちと反則気味のスキルなのじゃ。妾が見て来た中でもめったに居らんレベルなのじゃ】
(そうなのか?凄いな『シェイプシフト』。・・・使い方は少々あれだが)
俺は今の体・・・エルフの体を思い出しながら、スキルを取った時の事を思い出した。
・
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『スキル:シェイプシフト
・他者に変身できるスキル。
使用には条件がある事もあり、その条件は様々。 』
「1つしかないから選択肢はないから取ったけど・・・説明だけ見ると凄いスキルだな」
俺は取った進化特典のスキルの説明を見ていた。
このシェイプシフトというスキル、字面だけ見るならば変身できるというスゴ技スキルで、前世の映画等でも偶に聞いた事がある言葉だ。
「映画だと見ただけで他人になれたりしてたな。変身した後、能力は据え置きだったり、変身先の能力を使えたり色々だった気もするが・・・」
他にも確か・・・皮を被って変身とかもあったな、と思ったところでニアが俺の独り言に反応した。
「映画とは確か・・・創作の物語を機械とやらに記憶して鑑賞する娯楽だったかの?それで見たことがある能力なのかや?」
「ああ、と言っても作品毎にバラバラだったりするから何とも言えないんだけどな」
「ふむ・・・」
以前に転生者に聞いたのだろうか、映画の事も知っているとは流石だなとか思っていると、ニアが「成程・・・」と言っていきなり頷き始めた。
「ん?どうかしたのか?」
「いや、その能力を詳しく見てみたのじゃが、種族の名前はこういう事かと思ったのじゃ」
「種族の名前と能力・・・?」
俺は頭にハテナマークを浮かべながらニアの言った事を考える。
種族の名前と能力・・・人面犬とシェイプシフト、これで成程と納得・・・
少し考えた後、ちょっと嫌な予感がしつつも、まさかと思った考えをニアへと尋ねてみる。
「あの~・・・まさかと思うけどさ・・・、シェイプシフトの条件で・・・人の皮が必要だったりする?」
「うむ。変身したい者の面の皮が必要とあるのじゃ」
「・・・やっぱりぃぃぃ」
俺の嫌な予感は当たってしまった様だ・・・。
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シェイプシフトを取った後はこんな感じだった。
更にこの後、変身する様にとニアがエルフの死体を自分のアイテムボックスから取り出して提供してくれたり、エペシュが変身工程にそれほど拒否感を覚えずホッとしたりしたのだが、まぁそれはイイだろう。
ともかくだ、進化した日から翌日の今日、俺はエペシュの案内でエルフの砦村を一緒に歩いているのだが・・・
「しかし偵察した時も見たが、道端ではゴブリンの姿を見かけないな」
「うん。皆ゴブリン達の姿はあんまり見たがらないから。だから大体は人目に付かない雑用とかをさせられてる」
周りに人影は見えないが、一応用心して俺が小声でひそひそとエペシュに話しかけると、同じくエペシュもひそひそと小さめの声でそんな答えが返って来た。
「成程な。でもそれはそれで好都合だな」
「そうなの?」
「ああ、だってその方が居なくなってても発覚しずらいだろ?」
「あ、確かにそうだね」
成程と頷きながら歩くエペシュにゴブリンが働いていそうなところを案内してもらうと、確かに人のこなさそうな場所で巻き割りをしたり、汚れている場所の掃除等をしていたりした。
しかしその場所は多く、今日1日出回るのは到底無理そうだったので、日が沈みかけたところで俺はエペシュに声をかけた。
「エペシュ、今日はここまでにしよう」
「解った。また明日の朝にあの場所へ行けばいい?」
「そうだな、大丈夫そうならそれで頼む」
エペシュについて行って、エペシュの部屋の片隅に間借りさせてもらう事も出来なくはないが、流石にそれはリスキーなので一旦森へと引き上げる事にする。
エペシュに別れの挨拶を交わし別れると、俺はこそこそと『隠蔽』を掛けつつ森の方へと進み、例の木の隠れ家辺りでレモン空間へと入った。
「ふぅ・・・『シェイプシフト』解除っと・・・うおっ!」
レモン空間へと入ったので一度変身を解いたのだが、変身を解いた時に現れた物を見て俺は驚いてしまう。
「昨日も見たがビビるな・・・見た感じは顔パックみたいなんだがなぁ・・・」
俺はそう言ってエルフの顔の皮を一拝みしてから丁寧に回収するのだが、それをいつの間にか見ていたニアに不思議がられる。
「何をしておるのじゃ?」
「いや・・・一応粗末に扱うのは駄目だなと思ってるんだが・・・おかしいか?」
「妾からすればおかしいのじゃ。所詮は死体の皮じゃろう?」
「まぁ・・・うーん・・・」
ここら辺は純粋な魔物と元人間の価値観の違いだろうが、大分話が合わない気がする。
俺としてはちょっと忌避感があり、必要じゃなければ行わないような事なんだが・・・
「人間だって皮を剥ぎ服に仕立てて着ておるのじゃ。それと一緒ではないかや?」
「うっ・・・うーん・・・」
ニアに言われてみて気づいたが、確かにそうかもしれない。俺も前世で革ジャンとか持っていたが、あれも確かに元は生物だったな・・・。
俺はその後、眠りにつくまでずっと唸りながら頭を悩ませていた。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」「人面犬こわっ・・・」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると 一狼が、貴方の皮を剥ぎにきま・・・せん。
お知らせ:皆様のおかげで累計PV1万に到達いたしました。ありがとうございます。特にこの文章を読んでいる方は、ここまでずっと読んでくれている方達なので、拙作を支えてくれている人だとも言えます。本当に感謝しております。
長くなりましたがこの辺で・・・、これからも応援よろしくお願いいたします。
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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