第95話 まさかの・・・!わんちゃん

 翌日、エペシュがいつ来れるか解らないので朝から待機していたのだが、意外にもエペシュは朝から現れた。

 エペシュは俺を探しているのかキョロキョロとしていたのだが、急に俺の居る方へと視線を固定して来た。


「来たよ」


「あ・・・ああ」


 そのまま声をかけてきたので出ていったのだが・・・『隠蔽』が見破られた?魔力操作も行っていたはずなのだが・・・。


「良く俺がいるところが解ったな・・・?」


「最初は解らなかったよ?集中したら見えた」


 エペシュがこれなら他のエルフもガッツリ集中すれば不味いかもしれない、そう考えて焦ったのだが、ニアから解説が入った。


「一狼よ、そのエルフが一狼の『隠蔽』を見破ったのは仕方がないのじゃ。そのエルフはエルダー、しかも割と濃い奴なのじゃ」


「エルダー?あぁ、確かエペシュの名前がそんなのだったな。何か意味があったのか?」


「うむ。確かエルフは名前の中に階級が入ってくるはずなのじゃが、エルダーは確か上から2番目、つまり大分血の濃いエルフのトップ階級の奴なのじゃ」


「え゛?」


「うん。私はイーストウッドに10人くらいしかいないエルダーの1人。因みにトップのエンシェントの位は世界樹の巫女様だけしかいない」


「まぁそういうことなのじゃ。まぁ双方ともにまだ童じゃから、実力は一緒ぐらいなのじゃがな」


 俺は目の前の可憐な天使の正体を知って、口をあんぐりと開けて呆けていた。

 エペシュはそんな俺の顎の下に手をやり上げたり下げたりしていたのだが、何度目かの上下の衝撃で俺は正気を取り戻した。


「っと・・・やめなさい」


「はい」


 俺の顎で遊ぶエペシュに注意すると、そのままエペシュをジッと見るのだが・・・この可愛い生き物が俺と同じくらい強いのか?


「世界は不思議だなぁ・・・」


 ぽつりと呟くと、エペシュが「あ!」と言った。


「早く昨日の不思議な所へ行こう?」


「不思議な所?あぁレモン空間か」


 エペシュは俺の不思議な所と言う言葉でレモン空間の事を思い出したみたいだった。俺としてもいつまでも此処にいるのもあれなので、エペシュの要望通りにレモン空間へと入る事にした。


 俺は『レモンの入れもん』と念じてレモン型の入れ物を呼び出す。


「許可っと・・・、これでその入れ物に触って入りたいって思うと中に入れる様になったぞ」


 エペシュはそれを聞くなり、「へー」と言いつつ入れ物をタッチして姿を消した。

 先日ゴブリン寄りと聞いたが、本当にゴブリン並みの警戒心のなさであった。


「まぁ・・・俺達も入るか」


「そうするのじゃ」


 あの子はあれで大丈夫なのかと思いつつレモン空間へと入ると、エペシュはポケェ~っと口を開けながら立っていた。

 どうしたのか気になって声をかけるも反応が無く、仕方がないので背中を突っついてみた所、漸く反応があった。


「凄い・・・」


「ん?」


「改めてみたけど凄いねここ。本当に果てがないみたい・・・面白い」


 昨日も説明したのだが、今日になってようやく実感したと言う感じでエペシュは言う。

 そういえば昨日は森からこの真っ白空間に変わるのを見る事が楽しみと言っていたが、どうやら楽しめた様だ。


「はは、・・・でもなエペシュ、最初はここって本当に白色しかなくてやばかったんだぜ?頭がどうにかなりそうって感じでさ。今も昼夜の感覚が無いからあれだしな」


 俺がレモン空間に対して愚痴を言うと、「へぇ・・・」と生返事が返って来た。

 どうやらまだこの不思議な空間に心を奪われている様だ。


 しかしこのままずーっと果てのない空間を見ていられると話が進まないので、俺はエペシュを鼻先で押し強引に森の中へと連れて行き長老達と合流する。

 そしてそこから、再び話し合いが始まった・・・。


 ・

 ・

 ・


「・・・って感じで。・・・ふぅ、ようやく終わった」


「お疲れ様ですゴブ」


「お疲れ」


「「「おつかれごぶ」」」


「いや・・・疲れたのは主にお前らの・・・まぁいいや、うん、おつかれ」


 エペシュを交えた2回目の話し合いが終わったわけなんだが・・・これが疲れる疲れる。

 それもこれもゴブリンの特性と言うか・・・話が逸れまくるのだ。


「昨日は未だましだったんだがなぁ・・・」


 俺は昨日の様子を思い出すが、まだ今日よりはましだった筈なんだが・・・まさか飽きた?・・・ありうるな。

 まぁゴブリンだから仕方がない、その魔法の言葉を唱えつつ、今日話し合った事を頭の中で再整理してみる。


 先ずは基本方針だが、ゴブリン達は助けることにした。

 これは完璧俺の私情が入りまくったのだが、エペシュもゴブリン達も同意はしてくれた。やはり皆、掴まっているゴブリン達を助けたいとは思っていたみたいだ。


 そして後話し合ったのは、エルフの戦力とゴブリン達の居場所、それに助け方だ。

 前2つは最後の助け方に掛かってくるので先に聞いたのだが、中々に厄介だった。


 エルフの戦力としては、総数500程で全員が戦闘可能、さらに厄介なのはエペシュと同じエルダーの階級が1人いるとの事だった。

 しかし残りは有象無象らしく、エペシュ1人でも50人位ならば一度に戦えるらしい。・・・エペシュたん強すぎん?


 それはさておき、ゴブリン達の居場所、これも中々に厄介だった。

 ゴブリン達はかなりバラバラにいるらしく、エペシュも全部が何処にいて何人くらいいるかもわからないらしい。


 そして最後に助け方、エルフの戦力とゴブリン達の居場所を考えた結果・・・


「何日かかけてスニーキングでゴブリンの居場所を確認して、判明したら一気にレモン空間へと収納して離脱、これが今の所現実的かなぁ・・・」


 流石にエルフ全部を敵に回してゴブリン達を助けるのは無理なのでこうなったのだが・・・これも中々に骨が折れそうだった。

 主にそれはスニーキングの難しさが問題だった。


「流石に昼間に村の中を行くと見つかりそうだからな・・・かと言って夜のみの行動となると、エペシュの援護が期待しずらくなるんだよな」


 時間が無制限にあるならいいのだが、生憎今は時間制限がある。なので村の中を知っているエペシュに力を貸してほしいのだが、夜にエペシュが動き回っているとそれはそれで不審になるという・・・


「如何した物かなぁ・・・」


 俺がため息を吐きながらミッションの難しさを嘆いていると、ニアが話しかけて来た。


「困っている様なのじゃな」


「ニアか・・・ああ、困りものだ」


 俺は困ってため息を再び吐くが、ココでニアに助けてもらうという選択肢は期待できないし、しない。

 ニアはあくまで観察者という立場を取っているので手出しはしないだろうし、俺もそれを解っているので助けてくれとは言わない。

 だが愚痴位ならいいかなと思い、弱音は遠慮なく吐くことにしているのだ。


「如何した物か・・・」


 色々と呟き、何度目かのため息とともに「如何した物か」と呟いた時、ニアの声質が少し柔らかくなった。


「一狼よ」


「ん?」


「妾は手助けはしないのじゃ」


「うん」


「しかしじゃ、まぁ助言・・・というかお知らせ?はしてやるのじゃ。まぁこれが助けになるかは妾も解らんのじゃが・・・」


「うん?」


 大体何でも知ってるニアが珍しい言い方をするなと思っていると、確かに神様くらいにしか結果が解らない事をニアは教えてくれた。



「お主、進化が出来るのじゃ」



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ゴブリン系エルフ?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると エペシュの語尾が、ごぶになります。


 最近本作を書くことに詰まって来たので、気分転換に新作始めました。そちらも読んでくれれば嬉しいです。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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