第94話 知りたくなかった真実とわんちゃん2

 あまりいい内容を話していないエペシュの話は続いていた。


「昔にその方法はどうなんだと言われた事もあったそうだけど、拒否反応が出た事件で『やはりゴブリンは堕落した種、我ら原初妖精種から出た恥さらし』という意見が強くなって、ゴブリン達を錬成して種にする事は進められた。因みにゴブリンを種にして繁殖するのは『神の力で浄化された種は尊い』とかで、一時期はゴブリンを種に錬成して繁殖するのが流行ったみたい」


 俺の頭が聞いた真実に混乱していても、エペシュは淡々と話を続けていた。


「エルフの中には『ゴブリン狩りはエルフとしての嗜み』『堕落した恥さらしは積極的に殺すべき』というモノもいる・・・。今回の長老達だって、特に手を出す必要がなかったはずなのに『見つけたから』という理由で手を出した。」


 エペシュは申し訳なさそうな顔をしながら長老達を見た。


 それはそれを見て、色々な感情を乗せて呟く。



「・・・そうか、成程な・・・」


「・・・うん。もしかしたらイーストウッドの世界樹近くにあるエルフの首・・・・・・・」



 ・

 ・

 ・


 と言うような事だが、どうした物か・・・


 エルフ達のゴブリンを楽しんで殺したりするのは論外なのだが、捕まえて繁殖の道具にする事は種としては必要な事なのだろう。

 だからといって、俺としてはゴブリン達が殺されるのは嫌な事で、ゴブリン達をエルフから助けたいと思うのだが、そうするとエルフ達が・・・。

 嫌でも長老達は見つけたから狩ったに過ぎない獲物なので別によいのでは・・・


 等と、延々とそんな事を考えているとエペシュが話しかけて来た。


「優しいね一狼は。ゴブリン寄りの一狼なら『エルフは皆殺しだ』とか言ってもおかしくないのに、そんなこと言わずに悩んでくれてる」


「いや、それを言うならエペシュもそうだ。ゴブリンを逃がす事は駄目だろうに、長老達を逃がして助けている」


「本当は私も解らないんだ・・・。痛めつけたりするのは駄目、殺したくもないと思う一方、繁殖の為には仕方がないと思わない事もない私もいるし、解らない・・・」


 難しい問題だった・・・。理性的な所では自然のサイクルだから仕方ないと思う一方、感情的な所では許せないと思う。


 どうした物かなぁ・・・とゴブリンの方をチラリと見る。



「ごーぶごーぶごぶ!」


「「「ごーぶごーぶごぶ!」」」


「ごぶっぶぶっぶ!」


「「「ごぶっぶぶっぶ!」」」



 ゴブリン達は・・・何故か踊っていた。


「な・・・なにしてるんだアイツラ・・・」


 人が真剣に考えているのに・・・と思っていると、エペシュが俺の傍にスッと来てゴブリン達を見つめた。


「す・・・すまんエペシュ。あいつらも悪気があるわけでは・・・」


「え・・・?大丈夫だよ。ゴブリン達がああだって事はよく知ってるし」


「そうか、いやそれでもすまん」


 能天気なゴブリン達に怒っているのかと思いきや流石女神、怒ることなくゴブリン達の行動を許した。

 流石俺の女神、格が違うわ・・・とか思っていたら・・・


「じゃあ私も踊ってくる」


「え・・・?」


「らーいららららー」


 エペシュはいきなり何かを言いながらゴブリン達の踊りに参加し始めた。



「ごーぶごーぶごぶ!」


「「「ごーぶごーぶごぶ!」」」


「らーいららららー」


「「「ごーぶごごごご!」」」



 ・・・ナニコレ?


 俺がポカーンと口を開けていると、今度はニアが俺の横にスッときた。


「元は同じ種族故か、意外とエルフもあんな感じな所があるのじゃ。ゴブリンよりはましなはずなのじゃが、あのエルフは結構ゴブリン寄りなのじゃ」


「え・・・えぇぇ・・・」


 俺の中のエルフ像と女神像がガラガラ音を立てて崩れ落ちるのを感じた。


 恐ろしすぎるぞ異世界・・・・・・でもエペシュたんだいちゅき。


 ・

 ・

 ・


 一通り踊って満足したのか、エペシュが此方へ戻って来た。


「ただいま」


「お帰り・・・」


 エペシュは若干息を荒げ、汗もかいたのかその顔にはきらりと光る滴が見えた。


「あ・・・汗かいてるじゃないか。し・・・仕方ないなぁ」


 そう言って俺は、エペシュから滴り落ちそうだった女神の聖水を舐めてふき取ってあげ・・・てはいない。直前でひよって腕の毛皮で汗をぬぐってあげた。・・・もしこれが直前に真面目な話をしていなかったら舐めていたというのは秘密である。


「ありがと、それでどうする?もう少し知りたいことがあれば、知っている事なら教えるよ?」


「聞きたいところだが・・・帰らなくて大丈夫なのか?俺も考えをまとめたいから後日でもいいぞ?」


 エペシュと会ったのは日が落ちてからで、そこからほどほどに時間が経った現在はレモン空間だと解りづらいが、恐らく日付が変わる少し前位だと思われる。


 その為エペシュに大丈夫か?と聞いたのだが、エペシュは「?」という顔をしていた。

 そして顔を色々な方向に向けてから「あれ?」という顔に変わった。


「そういえば何時の間に朝になってた?来たのって朝だったっけ?」


「気づいてなかったのか・・・。何も言わないから何となくわかっていたのかと思ってたわ」


「?」


 エペシュは小首をかしげて「何が?」と言うようなポーズをとるのだが・・・かわわ!

 じゃなくて、いや、可愛いんだが、どことなく確かにゴブリンみたいな天然臭が・・・いや、とてもいい香りだったのだが。


 俺は『対一狼最終兵器』みたいな存在のエペシュに翻弄されまくりだったので、これは本当にニアに対策方法を教えてもらわなければいけないかもしれない。・・・話が進まない故!


 俺は心を強く持ちながらこの場所の事を説明する。するとすんなり話を理解してくれたので、そこはゴブリンとは違ったな!と少し安心した。


「一旦帰った方が良さそうだから帰る。明日来たらいい?」


「ああ、来れるなら来てくれ。場所はあの木の隠れ家付近に来てくれたら声をかける」


「解った」


 そう言うとエペシュはどうやって出るの?と聞いてきたので外へ出してやる。するといきなり変わった景色にエペシュは驚いていた。


「明日はこの逆の光景になるんだね、楽しみ」


「そうか?」


「うん。あ、それじゃあ行くね、ばいばい。また明日」


「ああ、また明日」


 最後まで女神は可愛いな・・・っといかんいかん。


 エペシュの可愛さに気を取られたが、俺はエペシュの姿を頭から追い出しつつレモン空間へと入った。



 そしてレモン空間の中へと入ると長老達の所へ行き、これからどうするかを相談し始めた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「天然系エルフ!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると エペシュが、踊ります。


 最近本作を書くことに詰まって来たので、気分転換に新作始めました。そちらも読んでくれれば嬉しいです。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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