第91話 鋭いエルフと鈍いゴブリンと普通のわんちゃん

「おぉ~!かっこいいうるふごぶ!」


 俺に近づいてきた方・・・ゴブリンは俺の体をわさわさと触りながら「かっこいいごぶかっこいいごぶ」と言っていた。


「だ・・・大丈夫なの?」


「いや、別に何もしないが?」


 後ろへ飛びのいた方・・・恐らくエルフ『エペシュ』何某なるものはゴブリンを心配していたが、その心配は無用というモノだ。


「さて、さっき言ったと思うけどもう一回言っておく。ここにいたゴブリン、長老達なら俺が保護したから大丈夫だ」


「え?」


 俺は軽く説明をして、その後自己紹介する事にした。


「・・・といった具合だ。あ、俺の名前は一狼だ、よろしく」


「・・・」


 しかしエルフはまだ信じられないのか、黙したままこちらを見つめるばかりだった。

 そんな中、空気を読まないのはやはりゴブリンだ。


「いがいとふわふわさらさらごぶ・・・もふもふごぶごぶ・・・」


 ゴブリンは未だに俺の体をわさわさと触り、毛並みを確かめていた。


「・・・なぁゴブリン君?取りあえず長老の所へ案内しようと思うんだがいいか?」


 取りあえず空気を読まないゴブリン君を長老に押し付けようと提案すると、ゴブリンは「いいごぶ」と了承してくれたのでレモン空間へと送ることにした。

 するとそれを聞いていたエルフが反応を示す。


「それ・・・私も連れてって」


 このゴブリンを心配するのと同時に、居なくなった長老達が本当に無事かどうか確かめるつもりなのだろうか、エルフは自分も連れて行けと言ってきた。

 別に断る理由もないので、俺は了承の返事を返す。


「別にいいぞ?ただ外に連れを待たせているから、一回外に出てからになるけど、いいよな?」


「も・・・問題ない」


「もんだいないごぶ!」


 俺に仲間がいると聞いて少しビビったエルフだったが、ゴブリンの能天気アンサーを聞いて少し和んだのか、少しだけ固まっていた体が柔らかくなったように見えた。

 何とかとゴブリンは使いようだな・・・と俺の中の辞書に刻み、取りあえず木の隠れ家の外へと出ることにした。


 再び狭い道を通り外へ出ると、開放感が俺を出迎えた。


「ふぃ~・・・、広い空間って最高だわ」


「うん?つまりはあの白い空間は最高という事なのじゃ?」


「それはちょっと違う・・・」


 外に出た俺を、ニアが微妙なコメントと共に出迎えてくれた。


「それで、成果はあったのかや?」


「あ~それは・・・」


 微妙なコメントなんのその、華麗に流して成果を聞いてきたので答えようとすると、俺の後ろに付いて来ていた2人が姿を現した。


「もうひとりかっこいいうるふがいるごぶ!」


 恐れ知らずのゴブリンはニアの姿を見て、また体を触ろうと思ったのか突進しようとした。

 しかし流石にそれは不味いと思いゴブリンの首根っこを加えて引き留める。


「ごぶぅ・・・」


 ゴブリンはしゅんとした感じで大人しくなったのでそっと下ろして声をかける。


「駄目だぞぉゴブリン君。それにあの人はウルフではない、よく見たまえ。あの流麗なフォルムにすらっとした手足、そして煌めくばかりの美しさ!そんな美の化身を捕まえて唯のウルフ如きと一緒にするのは失礼だよ君ぃ!」


「ふふ・・・よいのじゃ一狼。誰にでも間違いはあるのじゃ」


「あざっすニアさん!流石女神の化身っす!」


「ご・・・ごぶっす?」


 ふぅ・・・、まぁ仮にあのまま接触していたとしても大丈夫だったとは思うが、万が一があってもあれだしな・・・ニアは気分屋の気質もあるし。


 俺はふぃ~と息を吐き出しホッとしていたのだが、そう言えばエルフの方はどうした?と気になりそちらへ目をやると・・・


「・・・っ!!」


 俺を見た時と比に成らないほど驚いていた。


「おいおい・・・大丈夫か?」


 心配して声をかけたのだがそれが引き金になったのか、エルフが急に前のめりに倒れそうになった。


「え!?っちょ!?」


 俺は慌ててエルフの体の下に鼻先を突っ込み転倒を回避させたのだが、どうもエルフの反応がない。


「おーい!早く起きてくれ!」


「・・・」


「おーい!」


「・・・」


 呼びかけても反応してくれず、どうした物かなぁ~困っちゃうなぁ~と体勢を維持する。すると、その時ニアがエルフの様子に気付いた。


「一狼よ、その童気を失っておるのじゃ」


「そ・・・そうか」


 仕方がないからこのままレモン空間へと入る事にしたのだが・・・もう少しこのいい香りを堪能しては駄目だろうか?


 そんな俺の邪な心を見抜いてはいないだろうが、ニアがこれからの行動を如何するのかと尋ねて来たので、レモン空間へ入る事になった。

 レモン空間へと入ると、名残惜しいがエルフの体からそっと頭を抜き、エルフを床へと横たえた。


「ふぅ・・・さて・・・おーい、長老ぉ~!」


 若干賢者になりつつ、俺は長老を呼ぶ。すると直ぐに杖を突いた長老とゴブリン達が姿を現した。


「おかえりなさいゴブ・・・ゴブ?」


「ちょうろうごぶ!」


 その長老達の姿を見て、俺達の傍にいたゴブリンが長老達の元へと走り出した。


「おぉ!元気そうゴブ!」


「おれはげんきごぶ!」


「「「ごぶごぶ!」」」


 ゴブリン達は再開を喜び、わちゃわちゃとし出した。

 俺はそれを見てウンウンと頷き、良かった良かったと心が温かくなった。


 そんな風に騒ぐゴブリンを見守っていると、気を失っていたエルフが意識を取り戻した。


「ぅ・・・ぅぅん・・・っは!?」


「お・・・だいじょう・・・ぶか・・・ってどうした?」


「あわわ・・・」


 意識を取り戻したエルフは周りを見渡すなり、いきなり俺の後ろへと隠れ始めたのだがこれは一体何なのだろうか?


 エルフはアワアワ言うばかりで何も喋ってくれなかったのだが、目線の先を追うと何となくこんな状態になった理由が解った。


「ニア、何というか・・・威圧?を止めてやってくれないか?それでコイツがビビってるみたいなんだ」


 原因は恐らくニアだろう。外であった時もそうだったのだが、恐らくニアから発せられる圧によりこの様な状態になっていると、俺はそう推察した。・・・ゴブリンはあれな生き物だからそんなモノ感じなかったんだろう。


 ともかく、俺はエルフがビビっている原因のニアへと頼んでみたのだが・・・


「そんなモノしておらんのじゃ。ただ単にその童の察知能力が高く、何となくで妾の強さが解ったのじゃろう」


 俺はチラリとごぶごぶ言っているゴブリン達を見る。


「成程・・・ゴブリンが鈍いだけじゃなかったか」


 すまんな長老達・・・お前達を見くびっていた様だ。許せ!



「いや、ゴブリン達は鈍いと思うのじゃ」



 すまんな長老達・・・お前達を見くびってはいなかった様だ。俺の謝罪を返せ!


 ニアにも鈍いと言われたゴブリン達の事を見ていたのだが、今はエルフの事だ!と思い出し、後ろに隠れているエルフを説得に掛かる。

 暫く根気よく説得を続け、漸くニアが強いが優しい魔物だと解ってもらえた。


「解ってもらえた所で、一応紹介しておくとニアだ。さっきも言った通り、強さは世界最強レベルだが、優しさと美しさ・・・いや、全てが世界最強レベルのお方だ。失礼が無いように頼む」


「うむ、ニアなのじゃ」


 一応だがニアへ失礼が無いように注意しておく。実際の所、他はともかく強さは本当に世界最強レベルなので、ぜひ気を付けてほしい所だ。


「んで木の隠れ家でも言ったと思うけど俺は一狼な。んで・・・君は?一応長老から『エペシュ』とは聞いているが、合ってるのか?」


 俺は未だにフードを被って姿を隠しているエルフに話しかけ、自己紹介を促してみる。


 エルフはそれに乗ってくれたのか頷き、フードを取った。



「・・・」



 その瞬間、俺の視線はその子へと惹かれた。



「そう、私はエペシュ。ウッドエルフのエペシュ・エルダー・イーストウッド」



 俺の瞳に映る女神はそう言って、綺麗にお辞儀をした。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。短めですいません!

「面白い」「続きが気になる」「その時一狼の心に電撃が走る!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 一狼の心が、走り出します。


 最近本作を書くことに詰まって来たので、気分転換に新作始めました。そちらも読んでくれれば嬉しいです。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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