第92話 女神とわんちゃん

 その女神は神々しいとか派手とか美の化身だとか、決してそういう感じではなかった。

 顔は可愛いが乏しい表情もあって並といった感じで、体形も悪く言えばチンチクリン、声も聴くだけで人を引き付ける天上の音ということもない。


 しかし・・・


「何故だ・・・何故こんなに惹かれるんだ・・・」


 何故か俺の体と心はその女神に、引かれ、惹かれ、魅かれていた。


 俺はボ~っとその女神を見ていたのだが、突然声を掛けられた。


「あ・・・あの・・・一狼・・・君?さん?これは?」


「え・・・?あっ!?」


 体を動かさずにボ~っと見ているつもりだったが、無意識に俺の後方に居た女神に尻尾を巻きつけていた様だった。

 慌てて放そうとしたのだが・・・俺の体は言う事を聞いてくれなかった。


「えっと・・・?」


 そんな俺の尻尾に捕まったままの女神は「どうしたの?」といった感じに首を傾げるのだが、その様子を見せられた俺の心は暴走を始めてしまった。


「す・・・すまん!」


 俺の心はこう叫んでいた。


『もう一度女神の匂いが嗅ぎたい!』と・・・


 俺は心の叫びに従い、尻尾で捕まえたままの女神の体に鼻先を押し付けて匂いを嗅ごうとしたのだが・・・


「う・・・うおおぉぉぉおおお!」


「な・・・なに!?」


 尻尾で捕まえたまま鼻先を押し付けようとしたものだから、偶にいる『自分の尻尾を追いかける犬』状態になってしまった。


「うおおぉぉぉおおお!」


「目・・・目が回る・・・」


 しかし今の俺は正常な思考が出来る状態ではなかった為、延々と自分の尻尾に捕まえている女神を追いかけ回った。


「おぉぉおお!もう一度!もう一度ぉぉぉおお!」


「あわわわ・・・わわ・・・」


 そんな風に完全に理性を飛ばして回っていたのだが、それは唐突に終わりを迎えた。


「何をやっとるのじゃ。静まり静寂を迎えよ、静なる帳」


 俺の奇行を見たニアが魔法を使ったのだ。

 恐らくそれは精神を安定させる様な魔法だったのだろう、俺の心は見る見るうちに落ち着きを取り戻し、漸く回る事を止められた。


「目が・・・まわ・・・」


「す・・・すまん・・・」


 俺が慌てて尻尾の拘束を解くと、女神・・・エペシュはバランスを崩し倒れかけた。


「おっと・・・すんすん」


 なので俺は素早く頭を突っ込み転倒を防止する。


「大丈夫か?すんすんすん」


「だ・・・だいじょぶ・・・」


 エペシュはまだフラフラしていたが、俺の顔に掴まりながら大丈夫だと言う。


 正直もう少しこのままでもいいのよ?すんすんすんすん・・・


 俺はエペシュが回復するまで存分に匂いを堪能した。


 ・

 ・

 ・


 少ししたらエペシュが回復したので、本来の目的である情報収集を始める事にした。


「俺達が大丈夫そうな魔物という事を解ってもらった所で、エペシュにちょっと聞きたいことがあるんだ。ってエペシュって呼んでも良かったよな?すんすん」


「いいよ。私も一狼って呼ぶね。貴女もニアって呼んでいい?」


「よいのじゃが・・・お主一狼が邪魔ではないのかや?」


「大丈夫だよ、もふもふ気持ちいいから」


 ニアはエペシュを包み込む様に丸くなっている俺にそんな事を言ってくる。すんすん


「すまん・・・何か解らんが離れられないんだ。すんすん」


 ニアの魔法によって心は落ち着き先程までの様にはならなくなったとはいえ、俺は未だにエペシュに惹かれていた。

 若干冷静になった今では、好きになった・・・愛してしまったとかではないと解ったのだが、それでも何故か妙に惹かれるのだ。


「いやまぁ可愛いからかもしれないけど・・・、なんでなんだろうなぁ。いや、やっぱり一目惚れだったのかも・・・?すんすん」


 エペシュの匂いを嗅いでいると、やっぱり愛してるんだわ・・・と言う気持ちが沸きあがり匂いを嗅ぐのだが、ニアがそれに対する答えを話してくれた。


「いや一狼、それは違うのじゃ」


「ん・・・?すんすん」


「そやつは魔物使いの才能を持っておるのじゃ。といっても大分幅が狭いのじゃが」


「魔物使い・・・?すんすん」


「私にそんな才能が?」


 魔物使いと言えば、某RPGゲームが思い浮かぶのだが・・・あんな感じ?すんすん


「つまり俺は、エペシュの仲間になりたがってる状態なのか?すんすん」


「うん?まぁ間違いではないのじゃ。もうちょっと解りやすく言うと、魅了されているといった感じなのじゃ」


 成程・・・確かにそうかもしれない・・・。

 何故だか解らないが好きという気持ちになったり、無性に匂いが嗅ぎたくなったり、はたまた触れたくなったり。これは正に魅了されているというのが正しいな。


「いや、一狼が助平というのもあるのじゃ」


 ニアが俺の心を読んだかの様な発言をするが、俺がすけべなせいもあるだと!?・・・なくはないかもしれないな?


「一狼は助平?なの?」


「チガウヨ」


「いや、助平なのじゃ。と、話が逸れてしまったが、魔物使いの才能を持つそこのエルフが偶々一狼を魅了したという感じなのじゃ。知っていれば対策等も出来るので、機会があったら教えてやるのじゃ」


「ああ、頼むよ。すんすん」


 今回は運よく何もなかった?が、場合によっては上手く行動を操られて不味い事になるかも知れない、なのでその対策とやらは知っておきたいところだ。すんすん


「取りあえず、ずっと続けている匂いを嗅ぐ行為の対策を妾がしてやるのじゃ」


「え・・・?」


 別にしなくてもいいのに!等と思っているとニアが何かしたのか、あれほど求めていた匂いに対して欲求が小さくなる。


「これでもう匂いを嗅ぎ続ける事も無くなったはずなのじゃ」


「ハイ」


 確かに欲求が小さくなったので嗅ぎ続ける事は無くなっただろう・・・。しかし、嗅ぎたいと思ったら嗅いでも良いのではなかろうか?


「ほれ、話がずっと脱線しておったが、そろそろ戻すがよいのじゃ。匂いを嗅ぐことも無くなったので、話は円滑に進むはずなのじゃ」


 だがそれはニアの一言で制される。

 いつかまた延々と嗅ぎ続ける事を胸に近い、俺は脱線していた話を戻すことにした。


「おほん・・・それでだエペシュ、聞きたいことがあるんだがいいか?」


「いいよ」


「ありがとう。それじゃあ・・・」



 俺はいよいよゴブリン達を救出する為の要、エルフ達の情報収集を始めた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。話が中々進まなくてもうしわけありません!

「面白い」「続きが気になる」「尻尾を追いかけるのは動物あるある」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 一狼の尻尾が、増えます。


 最近本作を書くことに詰まって来たので、気分転換に新作始めました。そちらも読んでくれれば嬉しいです。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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