第87話 情報収集するわんちゃん

 長老はあまり当たってほしくなかった答え『ごぶ蔵の村の生き残りはエルフの村にいる』と教えてくれた後、更に良くない情報を話し出した。


「神様、エルフの村に捕まっていたのは我々の村の者だけではなかったゴブ。何処の者か解らないゴブリン達が何十人か居りましたゴブ」


「なっ・・・、そうか・・・」


 理由は解らないが、エルフの奴らはゴブリン達を捕まえているらしい。しかしごぶ蔵の村や長老達を見た通り、大事に保護という訳ではなさそうだ。

 エルフ達は一体何故弱小種族ゴブリン達を捕まえているのだろうか・・・?奴隷的な労働力を求めているのか?


 ゴブリンって労働力に向いているだろうか?等と考えながら、そういえば・・・と長老に聞いていなかった事を思い出す。


「そういえば、何で長老たちはあそこにいたんだ?」


 焦っていた為何も聞かずに長老達をレモン空間へと放り込んでしまったが、何故あんな場所に居たのかを聞いていなかったのだ。

 木にあんな仕掛けを作るのはゴブリンには無理そうだから、直前に見たエルフが関係あるのだろうか?


「儂等は1人のエルフに助けられてあそこにいたゴブ」


 やはりそうらしい。俺は長老に話を続けるように促す。


「といっても、儂等も特に何かを知っている訳ではないゴブ。ただ殺されそうなところを助けられた、としか解らないゴブ。何故、何の目的でとかは一切解らないゴブ。力至らずすいませんゴブ神様」


「そうか、いや、いいんだ。・・・って俺は神様じゃないからな?」


 先程から何回か神様と呼ばれていたが、話の内容に驚き突っ込むことを忘れていた。だがここで気づいたので突っ込んでみると、長老は他のゴブリン達と何やら相談を始めた。


 何を言っているのかは気になるが、もっと気になる事・・・エルフ達の事を考える事にする。


 エルフ・・・俺の前世にあるオタク知識からすると、美しい・知性的・排他的・長寿・肉を食わない・魔法と弓が得意・薄い本要因、とこんな感じだ。

 しかしニアから聞いた話だと狂暴だったりするので少し違うらしい。


「少し様子を探ってから動いた方がいいか?」


 ゴブリン達を助けるにも色々知ってから動く方が良さそうだ。とりあえず隠れてエルフ達の様子をみるか、もしくは長老達を助けてくれたと言うエルフに話を聞きたい所だ。

 そのエルフについてもう少し情報は無いか長老達に尋ねてみる。


「なぁ長老」


「なんですゴブかみ・・・ゴホン、一狼様何かありましたかゴブ?」


 また神様って言おうとしたな長老・・・。まぁ言い直したから良しとしておくか。


「ああ、長老達を助けてくれたと言うエルフなんだが、もう少し情報はないか?例えば名前とか、偶に来ているみたいだけど次はいつ来るとか」


「ゴブ・・・」


 長老は顎に手を当てて考え込んだ。


 ・・・長老は本当にゴブリンなのだろうか?ゴブリンにしては知的すぎない?


 俺が長老とゴブリンの不思議さについて考えていると、何かを思い出したのか長老が「そういえば」と話し出す。


「確実ではないのですが、儂等を助けてくれたエルフは大体2日に1回くらいのペースで現れるゴブ。その時にご飯なども持ってきてくれるゴブ」


「ナイス情報だ長老!」


 明後日まで待つ必要があるが、大分有力な情報だ。待っている間はこっそりエルフ達の様子を伺えばいいだけだし、そうやって時間を潰してあのエルフに接触してみる事にしよう。


「明後日まで待ってそのエルフに接触してみる事にするよ長老。それまでは・・・ここはレモン空間と言うんだが、長老達はレモン空間で過ごすか?安全は保障するぞ?」


 方針が決まったのでこの後長老達がどうするかを尋ねてみると、すでに決まっていたのか長老が直ぐに答えた。


「ぜひそうさせてもらいますゴブ。よろしくお願いしますゴブ」


「ああ、俺はこの後少し出かけるから、詳しい事は先住人のごぶ蔵に聞いてくれ。長老達を頼んだぞごぶ蔵」


「解りましたゴブ」


「まかせるごぶ!」


 スムーズに決定がなされ、それぞれ動きだす。・・・といっても、ゴブリン達はすぐ傍の森へ行くだけなのだが。


 俺はゴブリン達を見送ると、傍で話を聞いていたニアに話しかける。


「ってことになったけど、いいか?」


「一狼のやりたいようにすればいいのじゃ。妾は少し助言する事はあっても、一狼の行動に口出しはせんのじゃ」


「了解」


 最近は師匠モードやママモードだったニアだが、今回は本来の観察者モードでいくらしい。

 ・・・ってママモードってなんやねん!


 セルフ突っ込みをしながらママ・・・違う!ニアに次の行動を伝える。


「じゃあ俺は外に出てエルフの村の様子を見て来る」


「解ったのじゃ」


 勿論の事ながらニアは付いて来る気で、俺と一緒にレモン空間から外へと出た。

 最大限『隠蔽』等を使い気配を隠しながら外へと出ると、そのままエルフ村の方へと進むのだが、長老達が居たのはさほど村から離れていない場所だったので、直ぐにエルフ村の住人と思わしき気配がとらえられた。


 気配をとらえたところで一度立ち止まり、念入りに気配を探っていく。


「・・・こっちかな」


 なるべく気配が薄そうな場所を選ぶと、そちらからエルフ村へと近づいて行く。どうやら上手く行ったようで、見つかることなくエルフ村を囲む柵の近くへと近づくことが出来た。


(成功っと・・・。でもこの柵、柵ってよりは壁だな)


 近づいて解ったのだが、エルフがいる場所を囲っているのは壁という感じで、ここは村と言うより砦と言った方がいいのかもしれない。


(うーん・・・、ここまでの物だとは思わなかった。精々木の柵があるくらいで、もっとセキュリティガバガバだと思ったんだが・・・)


【未開地の蛮族やゴブリンでもあるまいに、流石に馬鹿にし過ぎなのじゃ】


(なにっ!?コイツ頭に直接・・・!)


 俺が頭の中で考えていると、いきなり姿の見えないニアから突っ込みが入り驚いてしまう。


【一狼は顔にも考えが良く出るが、思念も結構駄々漏れなのじゃ。まぁ拾えるのは妾くらい感覚が長けてないと無理じゃから、大丈夫と言えば大丈夫なのじゃが】


(そ・・・そうか。それは良かった?)


【うむ】


 良いのだろうか?俺が考えていることがニアに筒抜けなのはそれはそれで不味い気が。

 気にしたら不味いような気がしたので、その事は考えない様にして目の前の壁の事を考える事にしよう。


 目の前にある壁は丸太を地面にぶっ刺したような物でとても頑丈そうであり、建築も上手なのか隙間なども見当たらなかった。これでは隙間から様子を見るなどが出来ないのでどうした物か。


 流石に村の中に潜入すると俺では見つかりそうだしな・・・。


 如何した物かと悩んでいると、何時の間にか横に姿を現したニアが居た。


【思念がごちゃごちゃしていて解らぬが、何を悩んでおるのじゃ?】


(いや、どうやって様子をみたらいいかなと)


【こうすればよいのじゃ】


 そういうとニアは壁の方へと向き、壁へと手を突き出した。


(んぇ!?)


【ほれ、こうやって穴を開けてそこから見ればよいのじゃ】


 ニアが手をどけた場所には小さく穴が空いていた。これは・・・


(え・・・?まさか爪で穴を開けたのか?そんなにあっさり?)


 どうやらニアは障子に指で穴を開けるが如く、太く硬そうな丸太の壁に穴を開けたらしい。


【何を言っておるのじゃ?一狼でも余裕なのじゃ】


 そんな事を言っているが、そんな訳がない。


 と思いつつも試してみると・・・


(あ、余裕で開いたわ)


 俺の伸ばした爪はあっさりと丸太に穴を開けた。

 どうやら人間だった時の固定概念がまだ抜けていないみたいで、こんなものに爪で穴が開くわけないと思い込んでいたらしいが・・・トンデモ生物な魔物だったらそりゃあ余裕だよな?


 この感覚もいつか直さなきゃ駄目かなぁ・・・と思いながら俺は開いた穴を覗き、エルフ村の様子を見る。


(!?)



 俺が見たエロフ村・・・そこは・・・。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。短くてすいません!

「面白い」「続きが気になる」「長老本当にゴブリンごぶ?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると 長老が、ゴブリン賢王☆長老ちゃんになります。


 最近本作を書くことに詰まって来たので、気分転換に新作始めました。そちらも読んでくれれば嬉しいです。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532


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