第82話 ごぶ蔵とわんちゃん
目の前のゴブリンは俺が質問すると、うーんと頭を捻り出した。
「ん?どうしたんだ?」
「ごぶはおわれてたごぶ?」
ゴブリン・・・仮にごぶ蔵とするか、ごぶ蔵は自分が追われていたという意識すらない様だった。
これはもっと最初の方から話を聞いた方がいいのだろうか?
「とりあえずお前の事をごぶ蔵と呼ぶがいいか?」
「いいごぶ」
「ごぶ蔵はそもそもどこに住んでいたんだ?」
「・・・このへんごぶ?ごぶたちはさいきんこのもりにきたばかりでわからないごぶ」
「ふむ・・・因みにだが、何をしていて襲われたんだ?」
「むらでごはんのよういしてたごぶ。そしたらむらがおそわれてたごぶ」
成程・・・つまり好戦的なエルフが出現する森に来てしまったから襲われてしまったのか。
「そうか・・・それでごぶ蔵はこれからどうするつもりなんだ?」
「むらにもどるごぶ。それでのこったなかまとべつのばしょににげるごぶ」
まぁそれしかないよな・・・よし。
「なぁごぶ蔵、俺も村について行っていいか?」
「ごぶ?」
「うん?そやつの村へ行くのかや?」
「ああ、折角助けたんだしな」
俺はごぶ蔵の手助けをすることにした。
ごぶ蔵の村のゴブリン達とは関係ないが、俺も元はと言えばゴブリン達に助けられていたので、流石にここで「解ったじゃあな」と別れるのも少しあれかなと思ったのだ。
早くごぶ助達の所へ行きたいのではあるが、幸いな事に少しだけ猶予があるのでほんの少しだけ寄り道だ。
「まぁ一狼がそう決めたのなら妾は何も言わんのじゃ」
「あぁ、悪いな。それでごぶ蔵、村に行ってもいいか?」
「ごぶ?わかったごぶ」
ごぶ蔵は事態を飲み込めていないのか不思議そうな顔をしたが、とりあえず村に行けばいいと解ったらしい。・・・実にゴブリンらしい。
早速外へ出ようと思ったのだが、ニアが呼び止めて来る。
「うん?今から行くのかや?」
「あぁ、夜ならエルフも活動してないだろう?」
もしもエルフが夜も働く勤勉者だったらアウトだが、夜まで森の中を巡回はしないだろうとの予想をして、夜の内に様子を見てこようと思ったのだ。
「成程、こっそりと行くつもりなのじゃな」
「あぁ、流石に昼間堂々と行くのも危ないかもしれないしな」
ニア程の力があれば大体の事は何でもなるが、俺はそこまで力が無いのでこっそりとスニ―キングミッションをするのだ!
ニアも納得してくれたところで俺達はレモン空間から外に出たのだが、出た瞬間ごぶ蔵が驚いていた。
「いきなりくらくなったごぶ!やはりかみさまごぶ?」
また拝もうとしてきたので、違うと言い聞かせ村へと案内してもらう。近くと言っていただけあって、直ぐに村らしき物が見えて来たのだが・・・
「ごぶ・・・」
「これは・・・」
作りかけの家や食べ物が集められた場所等、元々は村だった場所は荒らされボロボロになり、ポツポツとゴブリンだったモノが倒れていた。
この惨状を見てごぶ蔵はすっかり項垂れてしまい、俺は近くへ行き肩を優しくたたいて励ます事しかできなかった。
暫くそんな風にしていたのだが、俺はある事に気が付きごぶ蔵に一つ質問をした。
「ごぶ蔵・・・つらいところ悪いんだが一つ聞いていいか?」
「ごぶ・・・」
「この村って・・・どれくらいの人数が居たんだ?」
俺が気づいたのは死体についてだ。村の中をすべて見た訳でもないし村の外で殺されたのかもしれないが、今見えている死体の数は本当に少数で、しかも大人ばかりに見える。
もし村にエルフが来てゴブリン達を虐殺したのなら、もう少し違った感じになる筈なのでは?
「ごぶたちは・・・そこそこのかずごぶ・・・」
「あー・・・子供も勿論いたよな?」
「いたごぶ・・・」
数を聞いたもののゴブリンには解らなかったらしい・・・
しかし子供もいたとの事なので、そうなるとやはり少しおかしい。
「取りあえず、死んでしまった者達を弔ってやるか」
「ごぶ・・・」
俺はその事を調べるついでに、流石に死んだ者達もそのままにしておけないと思いゴブリン達を弔ってやることにした。
村の中はごぶ蔵に任せて、俺は森の中を探してみる事にしたのだが・・・。
「森の中で見つかったのは2人だけだな、村の中はこれだけか?」
「ごぶ・・・」
村の中で見つかったのは8人、合計は10人・・・
「なぁ、流石に村にはもうちょっと居たんだよな?」
「ごぶ・・・?いたごぶ・・・」
何とか聞き出してみると、50人は居たらしいので明らかに数が合わない。
という事は・・・
「もしかしたら残りの40人程は上手く逃げ出せたんじゃ・・・」
「ごぶ!?」
俺がぽつりと呟くと、それが聞こえたのかごぶ蔵が反応した。
「あ、いやでももしかしたらだから、本当に逃げ出せているかは解らないぞ?」
俺も憶測でいっただけなので、期待されても困るのだ。
「とりあえずそれは後にして・・・、先ずはこいつらを埋めてやろう」
「そうごぶな・・・」
先ずは死んでしまった者達を埋めてあげなければと穴を掘る事にしたのだが、ごぶ蔵の方法がそこら辺の木の棒で地面を掘り出すだったので、流石にそれでは埒が明かないと思い俺が1人で掘ることにした。
あっという間に穴を掘ると、そこに死体を入れてやり土を被せるのだが、土を被せるのはごぶ蔵でも簡単に出来る為任せることにした。
「できたごぶ・・・」
ごぶ蔵は一人一人に声をかけ丁寧に埋めていき、それが終わると片膝をつき、頭を下げて、手のひらを上にして両手を頭上へと上げた。
「あれは・・・」
それは一度見たことがある所作・・・ゴブリン流の祈りだった。
ごぶ助も皆の墓の前でしていたなと思い出し、俺も頭を下げて祈っておく。
数分程その体勢のままで祈りを続け、ごぶ蔵が顔を上げた所で俺も顔を上げる。
「もういいのか?」
「いいごぶ」
顔を上げたごぶ蔵の顔つきは、先程までと違い大分穏やかだった。祈りが済んだことにより気持ちが切り替えられたのだろうか・・・?
いや・・・それにしても切り替えが早いな・・・流石ゴブリン。
ごぶ蔵の気持ちの切り替えも終わったところで、行動も切り替える事にする。
「取りあえず今日は休もう」
「ごぶ」
「終わったのじゃ?」
「ああ、ニアも見守りご苦労さん」
俺が礼を言うと、「うむ」とだけ言ってレモン空間に入って行ったニアに感謝をする。
実はニアには今までごぶ蔵の傍で敵が来ないかを見守っていてもらっていた。
これは何故か・・・それはゴブリン達の埋葬は俺が勝手にやりたかった事なので、ニアに迷惑をかけるわけにはいかない思い「適当に待っていてくれ」と言ったら「ならそこのゴブリンを見守っていてやるのじゃ」と申し出てくれたからだ。
俺は森の中へ行こうとしていたので、これは渡りに船だった。
「ごぶ蔵もこっちへ。この中なら安全に休めるんだ」
「ご・・・ごぶ・・・」
ごぶ蔵もレモン空間に入ってもらおうと手招きすると、ごぶ蔵は何故か恐る恐ると近寄って来た。
「どうしたんだ?」
「またあそこへいくごぶ・・・?」
「あー・・・」
どうやらごぶ蔵はレモン空間を少し恐れているようだ・・・、気持ちは解る。
「だけどレモン空間は安全なんだよなぁ・・・あ、そうだこれ貸してやるよ」
俺はそう言ってある物を取り出しごぶ蔵に渡す。
「ごぶ・・・?」
「それを抱いて寝るとなんか安心するから貸してやろう」
俺が渡したのはキラーアント・クイーンのぬいぐるみだった。
ごぶ蔵は渡されたぬいぐるみを裏返したり叩いたりしていたが、気に入ったのか嬉しそうだった。
「なんかだいじょうぶなきがしてきたごぶ。はいるごぶ」
ごぶ蔵はそう言ってぬいぐるみを抱えてレモン空間へと入って行った。俺も続いて入ったのだが、ごぶ蔵はぬいぐるみの上に乗っかっていた。
「めっちゃ気に入ったみたいだな・・・。あ、腹減ってるだろ?これやるよ」
俺とニアはすでにご飯を食べていたが、ごぶ蔵は暫く何も食べていない事を思い出したので、キノコと肉を渡しておいた。
「おにくごぶ!」
ごぶ蔵もやはり肉が大好きだったのか、すごく喜んでかぶりついていた。
そして肉とキノコを食べ終えると直ぐに眠ってしまった。
「さて・・・俺も寝るか・・・」
「一狼よ・・・」
俺も寝るかと思ったところでニアに名前を呼ばれたので振り向くと、ニアは不思議な顔をしていた。
「ん?なんだ?」
「・・・いや、なんでもないのじゃ」
ニアは何でもないと言って丸くなり、寝てしまったのかそれっきり静かになった。
「んん?何だよ一体・・・?」
俺は釈然としない感情を覚えながら眠りについた。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」「ごぶ・・・」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると ごぶ蔵が、祈ります。
↓こちらも絶賛連載中です、よろしかったらどうでしょう。
『女の子になったと思ったら霊が見えるようになった話』 ※一応ホラーです。
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