第76話 色とわんちゃん
ニアを外に残したまま先にレモン空間へと入っていた俺は、保管されているアイテムの確認をしていた。
「ふむふむ・・・、この分だと4,5日籠りっ放しでも余裕だな。でも流石に途中で外にでるかな・・・体はともかく精神をヤられるわ此処」
そう言って白色しかない空間を見回す。
相変わらずこのレモン空間には何もなく、長い時間滞在していると確実に精神をヤられそうだった。
「そういえば昔何かの漫画であったよな・・・一面白色で何もない空間で修行するってやつ。あれは時間も止まってるんだっけ・・・?」
俺が前世の漫画の事を思い出していると、ニアがレモン空間へと入って来た。
「待たせたのじゃ」
「全然大丈夫だが・・・言ってた細工とやらは出来たのか?」
「うむ。無事成功したのじゃ。確実に安全を確保できたので、集中して修行ができるのじゃ」
ニアがニッコリ笑いながら報告して来た。
ニアがそんな風に言うのならば、それはそれは安全なのだろうが、そこまで念を入れる必要があるのだろうか?
「まぁいいか・・・。よし、じゃあ早速始めようぜ!まずはいつも通り走りながら魔力制御か?」
「うむ、そうなのじゃ。とりあえず今日は走るだけで良いのじゃ」
「そうなのか?まぁわかった」
スパルタでガッツリ短期集中で修行!みたいなのを想像していたのだが、いつも通り走るだけと聞き少し肩透かしを食らった気分になった。
だがニアがそう言うのだ、大人しく従うとしよう。
俺はいつも通りに魔力の制御をし走り出す。
この時にニアの表情を見ていればマシになっただろうか・・・?いや、変わらなかっただろうな・・・。
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「ほれほれ、何をトロトロ走っておるのじゃ。足を動かすのじゃ、そして歩くのではなく走るのじゃ一狼」
「ひぃ~・・・ひぃ~・・・、きゅ・・・休憩をぉぉ・・・」
「駄目なのじゃ。妾が見た感じまだいける筈なのじゃ」
「も・・・もう体的にも精神的にも・・・無理ぃ・・・」
「何を言っておるのじゃ!いける!いけるのじゃ!もっと本気を出すのじゃ!太陽だってゴブリンだってコボルトだって頑張っておるのじゃ!じゃからもっと熱くなるのじゃ!」
ニアのどこかで聞いたようなセリフを聞きながら俺は走る、走らされる!
確かにゴブリンだってコボルトだって頑張っているだろう。だが俺も生死の境をさ迷うほどに頑張っている気がするんだ!
現在俺はノンストップで一日・・・いや12時間?いや、1時間かも知れないし2時間かも知れない、取りあえず延々と走っていた。勿論魔力の制御もしつつだ。
体力的にもクるし、魔力制御もしているので精神的にもクる。だが一番俺の精神を蝕むのは周りの環境だった。
行けども行けども周りの風景は変わらず白一色で時間の経過も全く分からない。
レモン空間にずっといると精神がやられると思っていたが、まさかこれ程までとは思わなかった。
「ひぃ・・・ひぃ・・・せめて・・・風景に変化がほしいぃ・・・」
「仕方がない奴なのじゃ。そんなに言うならば変化を起こしてやるのじゃ」
「はひぃ・・・?」
ニアがそう言ったとたん、俺の体内で変化が生じた。
それまでは曲がりなりにも魔力の制御はできていたのだが、ニアが何かをしたのか体内の魔力が制御できなくなり暴れ出した。
「うごっ・・・うげっ!」
その感覚はとても気持ち悪く、例えるならば、体内で虫が体をくねらせながら這いずり回っている、という感じだった。
「ほれほれ、何を寝転んでおるのじゃ。走るのじゃ」
「いやっ・・・こ・・・れで走るのはぁぁあ・・・・」
そう言われたが、とても走っていられるような状態ではなく床を転がりまわっていた俺に、ニアはニッコリと笑いかけて来た。
「変化がほしいと言ったではないか、言う通りにしてやったのじゃから走るのじゃ。ほれっ!」
またニアが何かしたのか、俺の体は強制的に立ち上がり足を動かし始めた。
「ちょぉぉ・・・そういう・・・変化・・・じゃぁぁ」
「ほれほれ、いっちにーいっちにー、あーんよが上手なのじゃ。おっと、魔力の制御も行わぬと体の中でドンドン動きは激しくなるのじゃ。がんばるのじゃぞ?」
「ひ・・・ひぃぃいいい!」
その後もニアのスパルタ訓練は続き、終了の合図が聞こえた瞬間に俺は意識を失った。
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「う・・・うぅーん・・・塩の山と砂糖の山が降ってくるぅ・・・っは!?」
夢の中で白色に押しつぶされたと思った瞬間、俺は目覚めた。しかし起きても景色は一面真っ白で、俺はまだ夢の中かと思い再び目を瞑った。
「塩と砂糖の山は無くなったが、今度は豆腐の中に閉じ込められる夢か・・・。早く目覚めて白以外が見たい・・・」
「何を言っておるのじゃ?ほれ、飯を作っておいてやったのじゃ」
頭の上から声が掛かり、俺は現状を思い出した。
「あぁ・・・そうだ・・・ここはレモン空間か・・・」
「うむ、一狼は走り終わった瞬間寝てしまったのじゃ。やはりまだ童なのじゃ」
いや・・・あれは大人でもぶっ倒れるし、俺は子供じゃ・・・いや、一応子供か。
文句を言っても仕方ないと思ったので心の中で愚痴りつつ、寝ていた状態から起き上がった。
「ご飯作ってくれたのか・・・ありがとな」
「うむ、よいのじゃ。さぁ食うがよいのじゃ」
「ああ、いただぁぁっ・・!?」
ニアが出してくれた料理を食べようとそちらを向くと、そこにあったのはあのカラフルな料理だった。
「さぁ、妾が作ったこの特性料理・・・ふむ、名前でも付けるか。そうじゃの・・・」
「・・・」
「よし、名付けて『苦し良薬』なのじゃ!さぁこの苦し良薬を食べてバリバリ修行をするのじゃ!」
渾身のドヤ顔をしながら、俺に向けて苦し良薬を差し出してくる。
こんな状況でこんな料理って・・・それはあまりにも・・・
「ニ・・・ニア・・・この料理・・・この料理・・・」
「なんなのじゃ?」
あまりにも・・・・っ!
「色が鮮やかに着いてて美味しそうだなっ!!!」
俺は喜び勇んでカラフルな料理に飛びつく!
っひゃー!鮮やかな色だー!赤に青に緑に黄色!他にも一杯色がある!白じゃないぞぉぉぉ!!
俺はガツガツとカラフルな料理を口に入れていく。そんな俺の様子を見てニアは首を傾げる。
「ふむ・・・?美味くはないと思うのじゃが・・・。まぁよいのじゃ」
そう言ってニアは頷きながら自分用の肉を取り出し食べ始めたが、俺はそんなニアの料理には目もくれず、目の前のカラフルな色彩を口に入れまくる。
色があるってしゅごぃのぉ~~!!
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「何で俺はあんな料理を喜んで食べていたのだろう・・・?」
食事が終わり頭に栄養が回ったのか、俺は正気に戻った。
そして正気に戻った頭で考えると、どう考えてもあの料理は美味しくなかった。というか苦くて不味い。
「しかしあの色は素晴らし・・・っは!?」
俺の頭はまだ少しおかしい様だった。
俺が頭を抱えて唸っていると、自分の食事を終えたニアが声をかけて来た。
「何をしておるのじゃ?飯も食ったし、そろそろ修行を開始するのじゃ」
「お、おう!そうだな!始めよう!」
「うむ、やる気があって良い事なのじゃ」
考える事を止めたかった俺はニアの言葉に乗っかる事にした。
そんな俺の様子を見てニアはニッコリと笑うのだが、その笑顔を見ているとまたスパルタ訓練になるのかと不安になってくる。
「でででで・・・きょ、今日は何をすするんだだだ?」
「ででで?だだだ?まぁよいのじゃ。今日も走るのじゃ」
「昨日と同じく俺の魔力を乱すのか・・・?」
今日もあの不快感を感じながら走るのか?はっきりとは覚えていないが、昨日の倒れる直前には何とかマシにはなっていた気がするが・・・。
俺が魔力が暴れた際の不快感を思い出して苦い顔をしているのと対称的に、ニアの顔は楽しい事でもあるかのようにニコニコ・・・いやニタニタしていた。
「まぁ始まってからのお楽しみなのじゃ。さぁ走れ走れ」
嫌な予感はするが、鍛えてもらっているので嫌だとも言えず俺は走り出した。
まぁスパルタだが確かに身にはなってるからな・・・。
感謝と諦めを胸に暫く走っていると、体に異変が起こる。
「グッ・・・来たか・・・」
体内で魔力が暴れまわる。
しかし昨日のでコツを掴んだのか直ぐに魔力は治まりをみせ、制御する事に成功した。
「よ・・・よし。良い感じだ・・・このまま・・・」
「おお、良いのじゃ一狼。ならば早速行くのじゃ」
「え?」
「天よ星よ、彼の者を地に縛り付ける戒めを・・・重力付加」
「ぬごぉぉぉおおお!?」
急に体が重くなり走るスピードが鈍くなる。聞こえた呪文からして重力魔法!?
「転生者達から聞いたのじゃ。修行は重しを着けてするのじゃろ?」
漫画ではよくあるしぃいい、ウェイトを着けてトレーニングは確かにあるがぁぁああ!
「お・・・重すぎィィィ」
「まぁ少し修行を進めようと思ったのじゃ。という事で、体内の魔力を使う事を許可するのじゃ」
どうやら修行は一歩進んだみたいなのだが、魔力を使うという事は魔法を使うという事だろうか?
「ああ、魔法を使うという事ではないのじゃ。あくまで体内で魔力を動かす事のみ許可するのじゃ」
「い・・・一体それは・・・どういう・・・?」
俺は足をプルプルさせながら質問した。魔力は魔法として使わないと意味がないのでは!?
「うむ、魔力を外に漏らさず、体内に均等に振り分け満たすのじゃ」
体内に均等に振り分け満たす!?・・・こうか?
俺がイメージしたのは、体と一緒の形を魔力で作り、それを体に重ねるという感じだ。
何とかうまくいったのか、体に掛かる負担が少しマシになる。
「できたようじゃな。転生者風に言うと身体強化という奴なのじゃ」
補助魔法等とは違い、純粋に魔力のみで体を強化するやり方らしいので、魔力の制御に長けてないと出来ない方法らしい。
「しかしこのやり方は極めれば非常に強力なのじゃ。今はまだまだじゃが、魔力の密度を上げる事でいくらでも出力を上げられるのじゃ」
「おお・・・すごいんだな・・・」
一般的には知られていないらしいし、裏技的な方法なのだろうか?とても良い事を聞いた気がする。
「まあ魔力が多くないと微妙な物にしかならんので、使い手を選ぶ技なのじゃ」
「あぁ・・・なるほど・・・」
この身体強化は魔力密度も関係してくるので、いくら強くても魔力が無いと意味がないという事だな。
「まぁ練習しといて損はないだろうし・・・これも魔力制御の一環なんだろ?」
「うむ、昨日一日で予想以上に仕上がったので段階を上げたのじゃ。明日か明後日くらいに魔の森を進むのに有用なスキルを覚えだす予定だったので、それまでこれで鍛えるのじゃ」
昨日の頑張りは無駄ではなかった様だ。だが余裕があると言うならば・・・。
「なあニア、かなり余裕が出来たんなら、少しだけ外に出て休まないか?いや、勿論修行の合間の休憩とかでいいから!」
俺はこんな提案をニアに申し出た。
修行をするのは良いのだが、流石にそろそろ白以外の風景が見たかったからだ。
「出ないのじゃ」
「今日もノンストップか・・・。それなら、今日は外で休むことにしよう。いいだろ?」
外で休むのはリスクがあるが、流石にこれ以上この空間にいるとどうにかなりそうだしな・・・。
「出ないのじゃ」
「えぇ・・・駄目なのか?」
「というか出れないのじゃ」
は?
「は?」
「昨日入ってくる前に細工をしたと言ったのを覚えておるかや?その施した細工とは、時を操る魔法を使い一狼の出した入れ物の時を歪めたのじゃ。なので時が来るまで入れ物への干渉は不可能なのじゃ」
はぁ?
「いやぁ妾も時を操るのは厳しくての、あの小さな入れ物の経過時間を半分にするので精一杯だったのじゃ。やはり時は神の領分なのじゃ、妾にはこれ以上手を加えれないのじゃ」
はぁっ?
「今からかけた魔法をどうする事もできぬし、まあ修行期間が延びて幸運なのじゃな?」
はぁぁぁぁぁああああっ!?
ここからが、肉体の修行と同時に、強制的に精神の修行が始まった瞬間である。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。怒られたら修正します。
「面白い」「続きが気になる」「カラフルって素晴らしい!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると 一狼が、七色になります。
※カクヨムコンテストに応募中です。ぜひ応援をよろしくお願いします。
↓こちらも絶賛連載中です、よろしかったらどうでしょう。
『女の子になったと思ったら霊が見えるようになった話』 ※一応ホラーです。
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