第75話 目と目があうわんちゃん

「ヴァァ・・・ヴォォ・・・」


「さて、龍脈を使った修行法はあまり連続で行うと色々良くないのじゃ。なので今日からは再び走りながら魔力運用を鍛えていくのじゃ」


「ヴァァ・・・ア゛ァァ・・・」


「やる事は覚えておるかや?」


「オォォ・・・ア゛ァァ・・・」


「これ!シャキッとするのじゃ!」


 ニアはそういうと俺に向けて軽く頭を振って来た。


「アババババッ!・・・ハッ!?」


 突然雷にでも打たれたかのようなシビレが体に走り、俺は正気を取り戻した。


「なんじゃ寝ぼけておったのかや?仕方のない子なのじゃ。おっと、まだ童だったのじゃ」


 ニアはそんな風に言ってくるのだが、どう考えても原因は・・・。


「い・・・いや、原因はきっとあのカラフルなご飯だと思うんだが・・・」


「うん?あれらは不味いが体には害はないのじゃ。それとも何か?妾が一狼の為を思って出した飯が美味しくなかったから、ケチをつけておるのかや?」


「あ、いえ。やっぱり寝ぼけてたんだと思います」


 ニアにそんな風に言われたら何とも言えなくなる俺は、大人しく流しておいた。


 ・・・っく!こんな理不尽に意見が言える様に強くなりてぇ!・・・あれ?強くなりたい理由のスケールがみみっちくなった気がする。


「まぁ・・・うん。修行頑張ります」


「うむ」


 これ以上考えると悲しくなりそうだったので、修行を初めて忘れよう!


 という事で、今日からまた魔力の運用の修行との事なので俺は走り出した。


 この修行なのだが、ニアに無理を言ってダンジョンを見守る期間に余裕を持たせてもらい安心して修行が出来るようになった。だからしっかりと時間をかけてでもモノにしたいと思う。


「という訳で、ご指導ご鞭撻よろしくお願いしますよ!美人教官のニアさん!」


「うむ、何のことか解らぬのじゃが任せるのじゃ。そして早速駄目なのじゃ」


 いきなりダメ出しをされてしまったが、俺は順調に修行を進めながら魔境地帯へと歩を進めた。


 ・

 ・

 ・


 龍脈使用から1日目、この日は何の問題もなく走り、魔の森南と東の境まで戻って来た。


 龍脈使用から2日目、この日も問題なく走り一日を終えた。しかし内容的にはまだまだで、ニアから度々指摘を受けていた。


 龍脈使用から3日目、この日は朝にあのカラフルご飯が出て来た。ニアが言うには偶に出すとの事・・・。俺は震えながら一日走り、この日は散々な結果だった。


 龍脈使用から4日目、昨日の散々な修行を取り戻すかのように、この日はイイ感じに進めた。ニアからの指摘も少なくなり、修行の成果が出ている。・・・決してあのカラフルご飯のお陰とは思いたくない。


 龍脈使用から5日目、何事もなく走り一日を終えた。そして少し気になったので、今ニアにどのへんかと聞くと、まだ東側の3分の1辺りだと言う。最初のニアの想定からも少し遅れているので、もう少し気合を入れて頑張ろうかと思った。


 龍脈使用から6日目、この日問題が発生した。


 ・

 ・

 ・


「うし!ちょっと遅れ気味っぽいから頑張るぞー!バシバシ頼むぜニア!」


「うむ、妾はやると決めた事で手を抜くのは好きではないのじゃ。なので言われなくとも厳しくいくのじゃ」


 6日目の朝、俺とニアは軽く会話を交わしてから進み出した。


 昼くらいまでは何事もなく進み、ご飯を食べようと一旦止まった時の事だった。


「・・・」


「ん?どうしたニア・・・ってこれは?」


「ようやく気づいたのじゃ」


 どうやらあまりに俺が気づかなかったのでヒントを出してくれたらしい。


 然しこれは・・・?


「仕方ないのじゃ、初回特典というやつにしといてやるのじゃ」


 俺は察知した気配を探っていたのだが、ニアが何か魔法を使ったらしく透明な膜みたいなものが俺達を覆った。


「ニアこれは・・・?」


「姿を隠す魔法なのじゃ。ほれ、くるのじゃ」


 何が、と言おうとしたところで少し離れた木の上から次々に何かが降りて来た。


 そいつらは人に良く似た姿をしていたが、細部が少し違っていた。

 特徴的なのは耳で、人に比べて横に長く伸びていた。他にもすらっとした体と美しい顔立ちをしていて、見た感じで男か女か解らなかった。


「あれは・・・エルフか?」


「そうなのじゃ。運が良いのか悪いのか、出会った様なのじゃ」


 エルフたちは弓を構えながら辺りをキョロキョロと見回していた。バラバラに分かれ辺り一帯を探る様に注意深く見ている様で、俺達の方にも一人近づいてきた。

 そのエルフはニアが張った透明の幕のすぐ前まで来て、キョロキョロとこちらの方を見ていた。

 俺は一瞬そのエルフと目があった気がしたが、ニアの姿隠しの魔法を見破れなかったのか何処かへ行ってしまった。


「折角なので姿隠しは使ったまま飯にするのじゃ。途中で邪魔されたら鬱陶しいのじゃ」


「あ・・・あぁ・・・」


 俺は少し動揺したままご飯の用意をする。・・・といっても肉を焼いてキノコなどと一緒に出すだけだが。


 それを俺とニアの二人分用意できたところで食べ始める。


「一狼よ、言ったと思うが今回は初回特典と言う奴なのじゃ。次からは自分で何とかするのじゃぞ?」


「初回特典・・・まぁ初回特典なのか・・・?・・・とりあえず解った」


 嬉しいと言えば嬉しい初回特典をニアにもらった俺は先のエルフの事を思い出す。


 奴らが現れる少し前まで俺は気づけなかったわけだが・・・あのままだったら少し危なかったかもしれない。

 なんせ俺は奴らの数も正確に分かっていなかったし、奴らは弓を持っていた。初手で矢を打たれまくっていたらスキルを使う前にやられていたかもしれない。

 更にニアが前言っていたが魔法も使ってくると言うし・・・これは・・・。


 俺がエルフについて考え唸っていると、全てお見通しなのかニアがこんな提案をしてきた。


「一狼よ、4,5日レモン空間の中で修行すると言う手もあるのじゃ」


「うん?何でだ?流石に4,5日も進まないのは不味いと思うんだが・・・」


 遅くとも進むのならいいのだが、流石に止まって修行するのはなぁ・・・と俺は思っていたのだが・・・


「時間的にはラゴウに大分余裕を持って言っていたであろう?それに今のままで進むよりかは、4,5日でスキルを覚えてから進んだ方が結果的には速いかもしれないのじゃ」


「な・・・なるほど」


 確かにニアの言う事にも一理あるし、大分アレな方法で日数的余裕を稼いだので、俺は強く否定できなかった。


「けどさ、4,5日でスキルって覚えれるモノなのか・・・?難しい気もするんだが・・・」


「為せば成る、為さねば成らぬホトトギス、なのじゃ」


「なんか違わなくね・・・?まぁ言いたいことは解るんだが・・・」


 ニアが言いたかったのは『為せば成る、為さねば成らぬ何事も』だと思うのだが、まぁ確かにそうだとは思う。

 やらない内から無理だと決めつけるのはどうかと思うし、俺の場合転生者特典で成長に補正が掛かっているのでスキルも覚えやすい筈だしな。


「昨日今日の感じだといけるとは思うのじゃ。まぁ全ては一狼の頑張り次第ではあるのじゃが」


 俺が迷っていたらニアはそんな事を言ってくる。そうだな・・・


「決めた、レモン空間に入って修行する!」


 俺は結局4,5日ここで立ち止まって修行する事にした。


 今頑張れば後が楽になるのは確かだし、ごぶ助達もラゴウと言う保険がある。それに何より今はニアと言う最高の先生がいるのだ、この降ってわいたようなラッキータイムに修行をしない手はない。


「うむ、良いのじゃ。立派な雄になるには頑張りが必要なのじゃ。多少手伝ってやるので大いに頑張るのじゃ」


 先生もやる気だ。ようし・・・がんばるゾイ!


 俺は早速『レモンの入れもん』を発動させレモン空間へと飛ぼうとする。しかしその前にニアが声をかけて来た。


「一狼よ、先に入っておるのじゃ。妾は少し細工をしてから行くのじゃ。・・・まぁ上手く行くかは解らぬのじゃが」


「うん?細工?」


「まあ一応この入れ物の保護をするのじゃ。後は・・・できたら教えるのじゃ」


 大体なんでもできるニアにしては歯切れの悪い言い方だった。俺は不思議に思ったが、大分ニアに対しては好感情を持ってきていたので、信用して先にレモン空間へと入ることにした。



 しかし先に何をする気なのか聞いておけばよかったと、後々に後悔をした。



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