第74話 やらかしのわんちゃん
『ウホ?』
ニアが龍脈を使い呼び出した半透明の板、そこに映っていたのはゴリラだった。
「(何でゴリラ・・・?)」
「ゴリラ?なんなのじゃそれは?」
ニアの言い方からするとゴリラじゃないらしいが・・・どう見てもゴリラにしか見えない。
そんな推定ゴリラの姿を見ながら首を捻っている俺を放って、ニアは板に映っているゴリラに向かって話しかけていた。
「久しぶりなのじゃラゴウ。まだ居て助かったのじゃ」
『はい、儂はずっとここにいると決めたので。それにしてもお久しぶりですな姫様』
「姫様はよすのじゃ。妾の事は・・・まぁニアと呼ぶのじゃ」
『そうですか、解りましたニア様。それで・・・儂に何か用ですかな?』
「うむ、ちとな・・・一狼、・・・一狼!」
「(・・・!ああ、何だ?)」
二人の会話を聞いて、姫様?ゴリラが喋ってる・・・等考えてボーっとしていた俺はニアに呼ばれて板の前に行き、ゴリラと対面した。
「ラゴウ、一つ頼みがあるのじゃ」
『なんですかな?出来る事なら聞きましょうぞ』
「助かるのじゃ。頼みと言うのはここにおる魔物・・・一狼と言うのじゃが、こ奴が住処にしておった迷宮がそっちへ飛んでしまったのじゃ。それを探して、ある程度の期間見守っておいてほしいのじゃ」
「(・・・!)」
俺はニアが喋った事が考えてもいなかった内容だったので、とても驚いて目を見開きニアを見つめてしまった。
そんな俺を、ラゴウと呼ばれた魔物は観察する様に見ていた。
それに気付いた俺は、これから世話になるかもしれないラゴウに向かって自己紹介を
する事にした。
「(あ、俺は一狼と言います。ニアの・・・弟子みたいなものです。よろしくお願いします)」
『ほう・・・、弟子ですか・・・』
「観察ついでに見てやっておるだけなのじゃ」
『ほうほう・・・』
先程は興味なさそうに見ていたラゴウだが、今度は何かを確かめる様にジロジロと俺を見て来た。
俺はドキドキしながら待った。もし気に入らないとかだったらダメとか言われるのだろうか・・・。
やがて満足したのか、腕を組んで頷いた。
『よいでしょう。で何という迷宮ですかな?』
どうやらラゴウのめがねに適ったのかダンジョン名を聞いてきた。俺は興奮しながら俺達のダンジョン名をラゴウへと伝える。
「(ぽ・・・ポンコです!『迷宮ポンコ』!)」
『ポンコですな?解りました、探しておきましょう』
俺が心の中でガッツポーズをしていると、ラゴウはニアへと話を振っていた。
『ニア様、どのくらいの期間保護すればよいですかな?』
「あくまで見守るだけでよい、全滅しそうな時だけ手を出すのじゃ。そして期間か・・・んーまあ40日ほ」
「(ニア様ぁぁ!俺はこの機会にもう少しお美しいニア様と二人で居たいので、80日!80日程で如何ですか!?)」
俺はニアが言いかけた言葉をインターセプトする。
ニアが言いかけた40日、これは修行しながら移動すると恐らくギリギリだと俺は計算した。流石にそれだと何かあった時に怖いので、何とか伸びないかと俺は必殺技を発動させたのだが・・・。
「ふむ・・・」
やはり駄目か!?
「仕方がない奴なのじゃ!ラゴウ80日程見守ってやってくれ!」
『はぁ・・・解りました』
決まった・・・!ラゴウの視線が少し痛いが見事に決まったぜ!
『それでは儂はこれで・・・。一狼といったか、あまり姫様を虐めてくれるなよ?」
ラゴウが最後に俺に向かってくぎを刺すと、龍脈を操作したのか半透明の板が溶ける様に消えていった。
そして板が消えるとニアは一狼の方へと顔を向け、ニヤリと笑った。
「これで問題は解決したのじゃ」
「(ああ、そうだな。ありがとうニア)」
「うむ。まあ妾としても折角師事する気になったのじゃ。それを中途半端にはしたくなかったのじゃ」
「(それでもありがとうだ。あんたはイイ女だってのがよく解ったしな)」
「その言い方だと、妾の事をイイ雌だと思っていなかった聞こえるのじゃが?」
「(間違えました!やっぱりイイ女だって改めて思った、でした!)」
「うむ。常に雌を喜ばす言葉を言うのがイイ雄なのじゃ。忘れてはいかんのじゃ一狼」
「(マム!イエス!マム!)」
ちょっとふざけた感じにはなったが、俺がニアの事をイイ女だと思ったのは本当だ。理由はともあれ、俺の仲間達を助ける形になったのだから。
この出来事により俺の中のニアへの信頼度が高まったので、これ以降の修行にもより一層身が入るというものだ。
俺が早速ニアへと修行の再開を頼んむと、ニアはうんうんと頷きニコリと笑った。
「うむ、一狼の声音からやる気が見えるのじゃ。これは妾も気が入るというもの!むむむ・・・何か妾の中でやる気が渦巻いておるのじゃ。こんな事は初めてかもしれんのじゃ」
ニコリと笑っていたニアの表情は段々と口の端が吊り上がり、はっきり言って凶悪極まりない顔へと変わっていった。
そんなニアの顔を見て俺はこう思ったね。
おれ、なんかやっちゃいました?
・
・
・
「オレ モウ ネル」
「うむ!今日はこのままここで寝るのじゃ。これも修行なのじゃ」
「ワカッタ オレ シュギョウ ダイスキ」
オレ ヤラカシタ シュギョウ キツスギ
zzz zzz
「っは!?」
「うん?おはようなのじゃ」
「ああ・・・おはようニア」
俺は余りの事に思考がやられていたらしい。寝るまでの記憶が曖昧だ。
チラリとニアを見ると鼻歌を歌いながら何かをしている。
サッと視線を戻し、ニアの姿を視界に入れないようにする。
ニアを視界に入れていると昨日の事が思い出されてしまうからだ・・・。
そしてさっきチラリと見たせいで、昨日の記憶が頭の中で強制的に再生され始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「さて、時間的猶予が大分取れたので、今日はこのままここで修行をするのじゃ」
「(ここでか?)」
「うむ。先も見ていた通り、この場所だと妾でも龍脈を使う事ができるのじゃ。なので、折角だから龍脈を使った修行法をするのじゃ」
「(そんなものがあるのか!?)」
聞くからに凄そうな修行法を聞き驚いてしまった。ポンコからはそんな事聞いたことが無かったので、ニアが編み出した方法なのだろうか?
あ、あいつはポンコツだから知ってても言わないか。
自分所のポンコツさんの事を考えていたらニアが俺の方へ近寄って来て、俺の頭に手を乗せて来た。
「(ん?何だ?)」
「修業とはあまり関係ないのじゃが折角龍脈を使えるのでな、取りあえずその半端な喋りを直すのじゃ」
「(は?・・・うぴょぉぉぉおおおお!?!?)」
急に俺の頭の中に何かが入って来た。何かと言われても答えられないが、何かが入って来たのだ!
それは俺の頭の中で暴れまわる様に動きまわった。
「(ぴょおぉおおおおほおおおお!?)」
その何かが頭の中で動き回るせいで俺の世界は一変していた。
視界に映るのはキラキラした光や揺らめく波、耳から聞こえるのは楽器を奏でた様な不思議な音、鼻から入ってくるのは甘く酸っぱいまろやかで苦い匂い。
そして世界へ溶ける様に体の境界が曖昧になっていく・・・。
「(おほっ!おほぉぉぉおおおおおお?おお?」
しかし世界は急に元の形を取り戻した。
「うむ、無事終わったようなのじゃ」
「お・・・おい、一体何をしたんだ・・・?まだちょっと視界がぐらぐらするんだが・・・」
世界は元に戻ったものの、まだ少しおかしな感じがしていた。一体今のは何だったのか・・・?
「言ったであろう?半端な喋りを直したのじゃ。一狼は念話と共にワンワンと口から声が出て五月蠅かったのじゃ」
「え・・・?あ、そういえば何か普通に喋れてる・・・?って俺犬なのに何で普通に喋れるんだ?」
「逆に何で喋れないと思っていたのじゃ?一狼の所のコボルト達も喋っておったじゃろ?」
そういえば何で何だろう?いや待てよ、コボルト達も最初は言葉が通じなかったような・・・。
俺はその事をニアに言ってみた、するとニアの回答はシンプルだった。
「知らんのじゃ」
「はぁ・・・?」
何とも身も蓋もない回答だった。
なんだかなー・・・と思っていると、ニアは軽くため息をついた。
「解るかもしれんが特に気にすることではないのじゃ。まぁ一応軽く言っておくと、コボルト達が喋っていたのは迷宮言語と呼ばれる物なのじゃ。これは普通魔物ならば本能的にすぐ覚えれるのじゃ」
「なるほど?でもそれだと俺も覚えれるんじゃ・・・?」
「うむ、まあ転生者特有の・・・と言いたいが、そんな奴は今まで居らんだのじゃ。なので知らんのじゃ。まぁ一狼だからとでも思っておけばよいのじゃ」
一狼だから仕方ナイネ?
俺は某兄貴じゃねぇ!・・・と、まあよく解らんが気にしない方が良さそうか。下手に理由を知ろうとすると、俺が異常者認定の悲しい奴になってしまうかもしれないからな。
「まあ、解った。気にしないことにしておこう。それで・・・龍脈を使った修行ってこれだけじゃないよな?」
流石にこれだけだと拍子抜けなのでニアに聞いて見ると、ニアはまたニコニコしだした。
「勿論そんなわけないのじゃ。修行はここからなのじゃ」
ココからの俺の記憶は少し曖昧だった。
確か再び頭に手を乗せられて、龍脈に接続するから耐えよとか言われた様な・・・。
そして自分の中に流れて来た膨大な・・・力?それを制御せよとか・・・。
はたまた魔力をごっそり抜かれて龍脈から魔素を取り込み変換しろだの・・・。
トテモ タノシイ シュギョウ ダッタ ヨ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ぱぅあっ!?」
「どうしたのじゃ一体?ほれ、飯ができたのじゃ。妾特性なのじゃ」
俺が記憶の再生で軽くトラウマっていたら、ニアがしていたことが終わったらしい。どうやらご飯を作ってくれていたみたいなのだが・・・。
「なあニア・・・?何か凄い色してるんだが?」
ニアが出してくれたご飯は何やら凄いカラフルな色をしていた。
もしかして飯マズ系ヒロインなのか?なんだか属性もりもりだなニア。
「まあ色々薬草とか混ぜ込んだからそんな色をしておるのじゃ。まずいとは思うが、良薬口にチャックなのじゃ」
「口に苦し、だと思うが・・・」
ニアが出してくれたご飯は口にチャックをしたくなるような感じだったから、あながち間違いではなさそうだ。
「おお、良薬口に苦し、それなのじゃ。さぁ食うが良いのじゃ!まずいが体には良いのじゃ」
「わ・・・わかっ・・・ぐぬぅ・・・」
これも修行かと思い食べようとしたが、カラフルな薬草ご飯は臭いもすごく中々口へと運ぶことが出来なかった。
そうしてまごまごしていると、焦れたニアが動いた。
「仕方がないのじゃ。妾が食べさせてやるのじゃ。ほれ、あーん」
「も・・・もがっ!」
もぐもぐ・・・。
ごくん。
うま・・・
かゆ・・・
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作者より:読んでいただきありがとうございます。なんか不思議な感じになってしまいました。すいません。
「面白い」「続きが気になる」「俺、なんかやっちゃいました?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
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↓こちらも絶賛連載中です、よろしかったらどうでしょう。
『女の子になったと思ったら霊が見えるようになった話』 ※一応ホラーです。
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