第67話 転生者とわんちゃん2
クソ野郎は機嫌がよくなっているのか、ペラペラと自分の下衆さを語り始めた。
「何人かは俺らと同じで迷宮を手に入れた奴でよぉ、そいつらの迷宮を攻めた時にトッ捕まえたんだよな。そいつらはよぉ、かわいいのもいれば化け物みたいなのもいてな?野郎やぶっさいくなのは能力を奪うために喰ったんだよね。あ、俺のユニークスキルは『捕食』つって能力奪えるのよ。んで捕まえたやつで比較的かわいい奴は俺の玩具にして遊んでやったぜ、まぁ十分楽しんだらそいつらも喰っちまったけどな!ぶははは!」
クソ野郎はその後も胸糞悪くなるような事をペラペラと喋っていた。
確かに俺は、こいつが転生者達を殺したことをとやかく言えないと言った。それは、俺もこの世界に転生した後、生きる為、そして強くなる為に様々な者達の命を奪ってきたからだ。
だがコイツの話を聞くに、こいつは生きる為というよりかは楽しむために殺している、そんな印象を受けた。
それならば話は別で、こいつはクソ野郎で批難されるべき奴だ。俺はこんな奴と同列に見られたくはないので、何か言ってやるべきだろう。
だが実際には、俺は未だに聞くに堪えない内容をペラペラ喋っているヴォルフの話を適当に聞くふりをしていた。何故なら、話を蒸し返して何か言ったところでどうしようもないし、コイツには響かないだろう。
だから心の中で、コイツに殺された転生者達に機会があったらヴォルフは殺すからなと誓っておいた。
そうやって、死んだ者達へ自分なりの誠意を見せたところで、ココからどうするかを考えることにした。
こいつはクソ野郎だが、さも自慢げに話していたユニークスキルのおかげか、ステータスは高くスキルも多いと予想される、その為今倒すのは無理かもしれない。
となると、逃げるという選択肢を取るのもいいかもしれない。ポンコダンジョンは既に移動してこの場にはないので、今無理に戦う必要もないのだ。
よし、逃げよう。戦略的撤退は恥じではない。
俺は逃げることに決めたので、早速準備をしだした。まずは逃げる確率を上げるために『ワンチャン』を発動させ、次にスキルの効果を高める為に『集中』『魔力操作』を使う。
後は・・・、あいつが俺から気をそらす様な事が起きれば・・・。
未だにペラペラと喋っているヴォルフを観察していると、チャンスが舞い降りた。
「・・・xx!xxxx。xxxxxxxx!」
「あん?まだ動けたのかこいつ」
姿が見えなかった人間の強者が、フラフラしながら現れた。ヴォルフの言動から察するに、魔物相手に暴れていたこの人間にヴォルフが攻撃をして、その結果今まで気を失っていたか倒れたかしていたのだろう。
何はともあれチャンスだ。ヴォルフがこの人間に構っている間に俺は逃げさせてもらおう。
「xxx!xx。xxxxxxxxxxxx!」
「あん?なーにいってんだ?人間の言葉はわかんねえっつーの!」
・・・今だっ!
俺は心の中で念じ、『黒風』を足に纏わせて走り出す。ヴォルフと人間はそんな俺に気付いた様子もなく対峙している。
これなら!と思いヴォルフと人間から音もなく離れていくと・・・いきなり目の前に黒い壁が出現した。
「(何っ!?くそっ!)」
『黒風』で黒い壁を壊そうとするも、黒い壁を破壊することはできなかった。
「(くそっ!なんだこれは・・・!)」
「俺のスキルだよ。逃げようとしてるのバレバレだったから、予め使っておいたんだよ」
「(っち・・・気づいていたのか・・・)」
俺は声がした方に目をやると、そこには片手に人間の首を持ったヴォルフが立っていた。
「当たり前だろ?魔力の動きでスキル使ってるのまるわかりだったぞ?恥ずかしいなぁわんちゃん?そんでわんちゃんは恥ずかしいけど、その黒い風はカッコいいじゃん。それもらってやるよ」
ヴォルフはそう言うと、片手に持っていた人間を其処ら辺にポイッと投げ捨て、俺に向かって歩いてくる。
「さぁ、喰ってやる」
「(そうやすやすと喰われるかよ!)」
しかしそれであきらめるわけにも行かず、こうなれば自力で何とかするしかないと構えをとる。
「んん?やる気?無駄なことするなあ?」
「(無駄かどうか味わってみなっ!)」
俺は地面から土を巻き上げるようにして『黒風』を使い、それをヴォルフ目掛けてぶつけた。そしてそれと同時に氷のドームでヴォルフを囲み、黒い壁が無い部分を探してそこに走った。
「(ついでにコイツもおまけだっ!)」
そして走りながら火魔法を氷のドームにぶつけると、氷のドームが爆散して水蒸気が辺りに広がり視界が悪くなった。
上手くいった!と思いそのまま走って逃げようとしたが・・・。
「やっぱり無駄じゃねぇかなぁ?」
「(なっ!)」
ヴォルフは俺の横を走っていた。俺は驚きながらも走ることはやめず、再びスキルを使う。
「(火で目くらましっ!からの・・・ウオオオオォォォオオオン)」
「うがっ!うっせぇぇええ!」
ヴォルフの目の前に火を出して目くらましにし、その隙に『雄たけび』を使う。
その姿からヴォルフの耳はかなりいいと思っていたが、その通りだったらしく、俺の叫びを至近距離で聞いてしまい耳を抑えていた。
ついでに言うと、『雄たけび』を使うときに氷でメガホンみたいなのを作って、それで声が拡散しないようにしたので効果はばつぐんだろう。
「(風よ運べっ!)」
ヴォルフが蹲って耳を抑えている隙に俺は助走をつけてジャンプし、そこに風で後押しを加える。すると、まるで飛ぶかの様に体が宙をぶっ飛んでいく。
一応ヴォルフの方には、障害となる様に風を球状にして囲んでおいた。恐らくすぐ抜け出すだろうが、少しでも時間が稼げればいい。
「(これでどうにか・・・)」
「無駄だつってんだろっ!」
どうにかなるか?と思っていた矢先、ヴォルフの声が真横から聞こえる。現在俺は無理矢理風に乗り、地面から約30メートル程離れた空中にいる。それなのに何故!?
そんな事を考えていると体に衝撃が走り、強制的に移動する方向を変えられた。
「(うごぼぉ!)」
俺はそんな声を出しながら、下方向へと移動させられ・・・。
『ドゴォォォンン』
「(ぐぁ・・・あぅ・・・)」
派手に地面に激突した。
体に纏っていた風と、頑丈になった体のおかげで骨が折れる等は大丈夫だったが、それでもダメージはかなりあった。俺がフラフラと立ち上がると、すぐ傍にヴォルフが着地して来た。
「くそがっ・・・まだ耳がキンキンしやがる!この野郎っ!」
「(うごっ!)」
ヴォルフはイラついた様子で俺に蹴りを放ってきた。フラフラだったのと、そもそもがかなり速い攻撃だったので、俺はそれをもろに受けて吹き飛ばされてしまう。
「(ぐっ・・・骨が・・・)」
吹き飛ばされた先で何とか立ち上がるが、蹴りを受けた部分の骨に罅でも入ったのか、ジンジンと痛みが襲ってきた。
「ああん!?骨が!どう!した!って!?」
ヴォルフはいつの間にか俺の横にいて、俺を罵りながら連続で蹴りを放ってくる。今度は俺が吹き飛ばない様に威力が調整され、その場で延々と蹴りを入れられる。
やがて満足したのか、俺を蹴るのを止めて笑い出す。
「ふぅ~・・・。っは、はははっ!ぶはははは!この雑魚が!大人しくやられとけってんだ!」
「(ぐぅ・・・ぅぅ・・・がふっ・・・)」
ヴォルフはわざと俺が死なない様に加減して蹴っていたのだろうが、蹴り続けられた俺の骨は何本か折れ、内臓も傷ついたのか血反吐を吐いてしまった。
流石にこの状態からは打つ手がなく、もうダメなのかと諦めかける。
すまない皆。
すまないごぶ助・・・。
俺の中に今世の思い出が蘇ってくる。
ふと、ゴブリン村で弟ゴブの遺体を抱きながら泣き叫んでいたごぶ助の事を思い出した。
「(ぐぅ・・・だめ・・だ・・・)」
その時のことを思い出したら死ねないという気持ちが強くなった。またごぶ助にあんな悲しい叫びを上げさせるわけにはいかない・・・。
でも、ココからどうすれば・・・。
「(うぐぐ・・・)」
「あぁん?どうしたぁ死にぞこない、また転生しそうな顔になってんぞ?」
ヴォルフが満身創痍の俺を見てそんな事を言ってきた。そしてヴォルフはそんな俺を見てまた機嫌が良くなったのかペラペラと喋り出した。
「おほん。冥土の土産に教えてやる。・・・ぶはは!一回言ってみたかったんだよな!まぁ教えてやるって言っちまったし何か話してやるか。そうだなぁ~、転生の時の話でもしてやろうか。お前は別口みたいだしな」
別口・・・?何を言っているんだコイツは・・・?まぁいい、話をしている間は何かしてくることはないだろう。そのうちに何かを考えるんだ・・・。
「あ~、電車事故で死んだ俺達なんだが、気づくと雲の上にある神殿みたいなところにいたんだよな」
そもそも体はどれくらい動く・・・。
「そこでよぉ、俺達は適当に担当の神に振り分けられたんだよなぁ・・・。クソッ!なんで俺の担当があのボインボインの女神じゃなかったんだ!クソッ!」
「(げふっ・・・!)」
くそ・・・また蹴りやがって・・・。だがこれで微かに動けるという事はわかったか・・・。
「あー、でもあれか。担当によって転生後が変わるみたいな話しだったから、あの女神の所だったら俺も女になってたかもしれないか・・・。じゃああの犬で正解だったか?」
魔力は・・・。まだそこそこ残っているな。だがこいつは魔力の動きを見て来る。迂闊には使えない。
「んでよぉ、まぁ俺の担当は犬だったわけなんだがよ?最初はそいつ居なくてな?犬が担当になった俺達は焦ったわけよ。あれ、担当居ないって俺達このままだと地獄?ってな」
何かないか・・・もしかしてレベルが上がって何か使えるスキルが増えているかもしれない。
「まぁ結局遅れて現れたんだがよ。その時その犬よっぽど慌ててたのか凄まじい勢いで現れてな?そのせいか雷纏ってたんだよな。バリバリーって。あの時はびっくりしたなぁー。んでよぉ、今思うと俺はあの犬、あれじゃないかって思うんだよな」
駄目だ・・・、レベルは上がっているがスキルは何も増えていない。
「なんだっけか、あのよく映画とかにもなる神様・・・。あの雷の・・・。る・・る・・る・・・。・・・・モール?」
くっ・・・何か・・・。・・・ん?何だ?スキルが点滅している・・・。
このスキルは・・・『神突っ込み』?何だ?使用許可・・・?・・・奴の隙になるかもしれない・・・。・・・YESだ。
『それじゃあモグラやないかーい!それにモールじゃなくてトールやっ!』
「ポピィ・・・ッ!」
「(・・・ふぁ?)」
『うーん、やっぱり地球のお笑い芸人みたいには突っ込めないかぁ。彼らってすごいねぇ?』
スキルの使用許可をYESにした途端、わんこ様が出た。いや、神様がでた。
神様はいきなり現れて、ヴォルフにそのぷにっとしてそうな肉球で上から突っ込みを入れたんだが・・・。
「(あの・・・神様・・・何か・・・肉片みた・・・なのが・・・飛んで・・・き・・ですが・・・?)」
『あぁ、長谷川君ミンチになっちゃったからね。おっと・・・』
神様はさらっとそんな事を言って、何もない宙に向けて咬みつきニヤリと笑った。そんな神様に俺はまったくついていけず、唯々聞き返す事しかできなかった。
「(え・・・?)」
『まぁ、こういう事も起きるスキルって事さ。あ、もうじか・・・』
「(きぇ・・・)」
消えた・・・。
何が起きたのか未だに理解できないが・・・どうにかなったって事なのか・・・?
俺はミンチになったと聞いたヴォルフ・・・いや長谷川の方を見た。体があまり動かないのでよくは見えないが、確かに血だまりが見える。
俺はそれを確認すると・・・段々目の前が暗くなってきた。
流石に限界のようだ・・・。
・
・
・
「・・・」
一狼と長谷川の戦いを遠くからずっと見ていた者がいた。
その者は二人の戦いに決着が付くと、二人の元へと近づいて行って二人を見比べる。
一人は地面でミンチに、一人は生き残ったが虫の息。
その者は今にも死にそうになっている一狼の方をジッと見た。
そして一狼の方にゆっくりと近づき・・・口を開け・・・。
一狼の首へと咬みついた。
「(あぐっ・・・)」
一狼は一言そう呻くと、体から力が抜けていき・・・。
遂には体を弛緩させた。
「・・・」
未だ一狼の首に咬みついているその者の頭には、角がきらりと光っていた。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
これで一応2章終了です。少しの間、更新頻度を2日に1回くらいに下げるかもしれません。ご容赦ください。
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